表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

114/190

球技大会は保健室で! その5

 戻りたくない。

 当たり前だ、こんな姿を全校生徒が集まっているであろう体育館に晒すなんて。なのになぜ下獄は、こうも上機嫌に戻っているのだろうか。


「なぁ下獄」

「なんですか、護先輩!」


 少し先を歩く下獄が立ち止まった。明るい人懐っこそうな笑顔に押されて、俺は「いや、その……」と口籠ってしまう。いや、ここで負けてどうする。


「あー、その、そうだ。一緒にサボろうぜ、球技大会」

「え? でも護先輩、球技大会戻りたいんじゃ……」

「ほら、折角下獄が可愛くしてくれたんだし? このまま戻るのも勿体ないだろ?」


 もちろんだが、そんなことはこれっぽっちも思っていない。可愛いのは女子だけで結構だし、それこそゆるコットで事足りている。

 しかし下獄は納得してくれたのか、大袈裟なほどに頷くと、俺の両手を握って上下に力いっぱい振りやがった。


「護先輩からそう言ってくれるなんて! いいですよ! 中庭に行きましょう!」

「いで、いででで! 強い強い、強いって!」


 肩の関節が外れる! この馬鹿力が!


「ふふふ。憧れの先輩と歩けるなんて、夢みたいです!」

「夢ねぇ……」


 腕を組まれながら中庭へ歩いていく。普段から思っていたが、下獄は女になった俺よりも小さい。男からの人気があって当然か。その辺のモブより可愛い。


「それで? なんで下獄は俺を可愛くしたいと思ったんだよ」

「顔が良かったからです!」

「即答かよ、ざけんな」


 こういう時は普通、性格とか素行を褒めないか? いや顔も嬉しいけどさ(イケメンになりたいって言ったし)。

 呆れる俺を他所に、下獄は腕に巻き付いたまま話を続けていく。


「ウチ、小さい時から可愛いものが大好きだったんですけど……。でもこんなナリじゃないですか」

「うんごめん、それはどっちのナリのこと?」

「そうやって悩んでいた時に、教えて頂いたんです。自分が可愛くなれないなら、誰かを可愛くして愛せばいいって」

「お前もなかなか歪んでんなぁ……」


 BLゲームなんぞやったことないが、何? 設定こんなんばっかなの?

 中庭に着いた俺たちは、隅にある適当なベンチに座る。小川の落ち葉(すく)いをするシルバーの方々から「アツいねぇ」と冷やかされた。つか中庭に小川って。


「ん? 教えてもらったって……誰に?」


 さっきはするりと流してしまったが、誰だよ下獄に変なことを教えたのは。


「会長です! といっても、ウチが中二の時なので、会長は覚えていないかもしれないですけど」

「やっぱりあいつか! あの変人変態野郎めが!」


 このゲーム、全ての元凶はあの会長をなんじゃないか? あいつを倒せば、俺は平和な日常を取り戻せる気がする(断じてそういうゲームではない)。


「ウチが悩んでいた時、会長が言ってくれたんです。“ヒトに限らず、生物にはすべからく性が付きまとう。自らその性を望むか望まないかは別だがな。そしてその性には分かり合えない部分も多い。だがそこを補い生きていけるのが、ヒトだ。だから下獄嬢、貴様が自身に足りないと思うのならば、補えばいい”って」

「相変わらず意味わかんねぇな、あの人……」


 会長が仁王立ちして言っているのが簡単に想像出来る。そしてそれに感銘を受ける下獄の図も。

 頭を抱え深くため息をつく。そしてそんな俺を慰めるように、いや、下獄を称賛するように、落ち葉掬いをしていたシルバーの方々が、皆一斉に立ち上がり拍手をしだした。中には涙ぐんでるシルバーの人もいる。


「え? 何?」


 思わず俺も立ち上がって、どうしたものかと狼狽える。


「流石は壱坊ちゃん。当時中等部だった後輩様にまでお声がけされていたとは……」

「儂ら全員、坊ちゃんについていきます……!」


 おんおんと泣き出したシルバー、いや爺さんたち。えぇ何この空気。もしかして、もしかしなくてもさ。


「あの、爺さん、じゃなくてシルバーの皆さんってもしかして」

「はい。儂らは皆、元はホームレスだったのですじゃ。そこを坊ちゃんに“ゴミ拾いしか出来ん? ふはは、いい、気に入った。世の中にはゴミすら拾えん奴もいる、そんな奴らより断然使えるではないか。貴様らまとめてオレの元に来い!”と、雇用して頂いたのですじゃ」

「そーいう……はは」


 やっぱりあの会長は、この世界のラスボス的存在なのだと、俺の中で確信に変わった瞬間だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ