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だってお前はそんなんじゃ……! その1

 無事(?)修学旅行も終わり、俺は土曜日の貴重な休みを有意義に過ごしていた。有意義といっても、溜めていたアニメを見たりゲームをしたりと、あまりいつもと変わらんが。


「あー。一人っていいなぁ」


 誰に言うでもなく呟いた。

 ここ最近、いや修学旅行中だったのもあり、一人の時間どころか、誰といてもどこにいても心休まる時なんてなかった。特に観手に関しては、変な期待の籠もった視線を向けてくるし。


「護ー! ご飯よー」

「今行く」


 平屋なのだし、そんなに大声を出さずとも聞こえるんだけど。まぁいいか。

 それにしてもやけにいい匂いがする。海鮮かな? だとすれば、今日の夕飯は少し豪華そうだ。


「母さん、いい匂いすんね」


 台所に入れば、さらに濃厚な海鮮の匂いが充満していた。奥では鍋がグツグツと煮えている。海鮮鍋かな?


「そうなのよ、いいお出汁が手に入ってね。さぁ、早く座って。あ、お父さんはお風呂入ってるから、先に食べちゃいなさい」

「うん」


 いつもより嬉しそうな母さん。その表情に俺も嬉しくなって、はにかみながら椅子に座ると。


「やぁ」

「……」


 なんだこの牡蠣は。なぜ机にあの牡蠣がいるんだ。しかもご丁寧に、座布団代わりのミニタオルを敷いてある。


「……母さん、これは?」

「あぁ、その子はねぇ」


 母さんは、小さく切った大根と白菜を小皿に乗せて「はい、どうぞ」と牡蠣の前に置いた。


「ママさんありがと! お風呂も最高だったよ!」

「あらあらよかったわ、毎日入っていいのよ」


 パカパカと話す牡蠣、それに餌(いや夕飯か?)を与える母さん。真ん中に置かれたカセットコンロに、母さんが「よいしょ」と鍋を乗せた。


「母さん、あのさ……」

「ん?」

「いや、えっと」


 カチカチとカセットコンロにも火をつける。そんな母さんを見ていると、俺の疑問は聞かないほうがいいのかもと思えてきた。


「こ、この牡蠣、どうしたの……」


 そう。実はこいつ、修学旅行から帰ってすぐ太刀根に渡したのだ。こんな喋る牡蠣なんて気持ち悪いし、何より食べる気にならないし。

 母さんは「それはね」とエプロンで手を拭いてから、ご飯をよそってくれた。


「今日のお昼、お父さんとお出掛けしたら、道端に倒れていたこの子を拾ったのよ」

「倒れ……いや、うん続けて」

「お父さんも賛成してくれたから、今日からうちで飼うことにしたの」

「動物じゃないよ!? いた場所に返してこようよ!? つか父さん、賛成しちゃ駄目だろ!」


 本当にうちの父親は母親に甘い。いや、逆かもしれんが。頭を抱えながらため息をつけば、大根にかぶりついていた牡蠣が、


「マモル、ワイっちだって素敵な宇宙船“地球号”の一員なんだよ」


と貝の中に汁を溜めながら話してきた。


「やかましい」


 手で押さえて開けられないようにしてやれば、中からくぐもった声で「開けてぇ、暗いの怖いよぉ」となんとも情けない台詞が聞こえてきた。仕方がないので手をどけてやる。


「お前、牡蠣のくせに暗いの無理なのか」

「マモル、このご時世にモラハラはいけない」

「そう、なんだけど……え、俺牡蠣に説教されたの?」


 確かにそうだが、それは牡蠣にも通じるのか? 何ぶん牡蠣と話したことなどないため、こいつ以外の牡蠣がどう思ってるかなんてわからない。それでも。


「そういうことだから、よろしくな、マモル!」

「……おう」


 牡蠣との共同生活は避けて通れないようだ。

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