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さて、ゲームスタートです!

「ただいまー……」

「おかえりなさい、護さん!」


 魂を抜かれたような顔で玄関をくぐった俺。そして俺を待ち構えていたのは女神、ではなく観手ますよ!


「おいお前!」

「あら護、おかえり。こんなに可愛い彼女が出来たなら、紹介してくれてよかったのに」


 観手の頭をむんずと掴んだところで、母親が手を拭きながら俺を迎えてくれた。今日初めて会ったのに安心してしまうのは、御竿護の中にある思い出からなのか。

 いや、ゲームの仕様だな、これは。


「母さん、こいつは彼女じゃなくて」

「あら、ごめんなさいね。まだそうじゃなかったのね。お母さん、早とちりしちゃった!」

「え、だから違う……」


 掴んだ手をそのままにしていると、観手がチャンスとばかりにその手を両手で掴み、


「お母さま。護さんと二人でお話したいので、護さんのお部屋に行ってもよろしいでしょうか?」


とにっこり笑った。いやいや、俺の部屋狭いんだって! 密室にも近いんだって!


「まぁ! いいわよ! こんなに可愛くて礼儀正しい子なら、お母さん大賛成だわ!」

「何に賛成すんの!?」

「ありがとうございます、お母さま!」


 早く早くと案内をせがむ観手をジト目で見るが、なんのダメージも受けていなさそうだ。まぁ、俺も聞きたいことは山ほどあるし。


「じゃ、こっちだ」


 観手を先導するように歩き出せば、


「護!」

「何、母さん」

「お母さん、孫は男の子でも女の子でもいいからね」

「なんの心配してんだ!」




「で。なんでお前がうちにいるんだ」


 流石に地べたに座らせるわけにもいかず、少し早いが布団を敷いて、足元のほうへ座らせる。一人分の布団の上で正座させて向かい合わせるなど、一体いつの時代の花嫁だとツッコみたい。


「さて! これで全員が出揃ったわけですが、御竿さんの推しは」

「ねぇよ」


 最後まで言わせまいと、間髪入れずに口を挟んだ。信じられないと言わんばかりに、観手が大きく目を開いた。


「え? 推しが、ない……? どうしてですか! こんなにも色んな属性が揃ってるんですよ!?」

「男の時点でねぇんだよ!」

「もしかして御竿さん……、女性しか駄目なタイプだったんですか!?」

「俺はそうだよ! お前の嗜好に巻き込むんじゃねぇ!」


 少し声を荒げれば、観手は一瞬ぽかんとした後、さめざめと泣き出した。胡座に腕組みしていた俺も、その予想外の行動に「な、なぁ……」と立膝で構える。


「酷いです酷いです。乱暴に私を扱って、用のある時だけ都合よく使おうだなんて。私、御竿さんに何か酷いことしましたか?」


 前言撤回だ。俺は観手の頭を殴った。


「いたっ」

「よしわかった、酷いという言葉を辞書で引いてこい」

「そんな! 私は御竿さんのお願いをちゃんと聞いて、叶えたじゃないですか。なのにそんな言い草……」


 話が全く進まない。俺は再び胡座をかいてから、うんざりした目つきで観手を見る。


「なぁ。お前さ、プロフィールとかわかる? よくある、攻略対象の誕生日とか好きなもんとかわかるやつ」

「あぁ! もちろんです! 誰ですか、誰を知りたいんですか!?」

「全員」

「……え?」


 意味が伝わっていない様子の観手に、俺はもう一度「だから全員」と念を押すように繰り返し、


「今日はもう遅いし、明日までにノートにまとめて持ってこい。わかったな?」


と部屋の扉を開けた。


「……母さん、何、やってんの」


 お茶をふたつお盆に乗せたままの母親に、なんとなく嫌な予感と共に伺い見れば。


「護! ちゃんと送ってあげなさーい!」

「あ、そっち!? そっちの心配かー!」


 どこかで鳴いている犬の声は、とても虚しそうに聞こえた。


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