5話
そんな不毛で他愛もない話をしていると、開けた場所に到着する。圧迫感のある階段とは打って変わって、開放感のある草原が広がっていた。
現実とは何かが違う風景が、ここが異世界だと教えてくれる。そしてなにより、風の匂いの心地よさが二人の緊張をほぐした。
「あー空気が美味しいっ!」
六条は両手を上げ、伸びをする。その姿を横目に卜部はスマホを確認。異世界でも二人がいる入口付近ではスマホの電波は届くようだ。しかし、先に進むほど圏外となる。
「先輩はどれくらい先?」
「確認してみる」
六条はウエストバックから単語帳を取り出す。片手でペラペラとめくり、そこから1ページ分を破り一言。
「エンプロイ……」
破れた紙片が輝きを放ちながら空を舞う。すると紙片だったものは小さな妖精の姿に変わっていた。妖精はビー玉くらいの大きさで不思議な光を放っていた。形は光で見えない。
「ロロちゃん、頑張って!」
六条の手のひらに居たロロちゃんと呼ばれた妖精は勢いよく上空へ飛び立った。
二人は妖精を見上げながら会話をする。
「先輩の場所ってある程度目星がついてなかったっけ?」
「ざっくりとした場所だけだから、細かいところはロロちゃんに調べてもらって案内してもらうつもり」
「異世界内だと、ほんと先輩はパワフルだな」
「同じ女子だけど、ついていけない時あるよ」
「そこが先輩の良い所だからな」
卜部は遠い目をしながらどこかを見つめる。
しばらくして、妖精が探索から帰ってきた。
「ありがとうロロちゃん」
六条が水をすくうように手のひらを上にする。そこに妖精が着地した。
手のひらの妖精が破った単語帳の切れ端に戻った。その切れ端には文字が書かれている。六条はそれを読む。
「ふむふむ……」
「先輩の居場所が分かった?」
「分かったわ!」
「おぉっ!」
六条が卜部の顔を見る。
「水先案内人が近くにいるみたい!」
「異世界のことを聞くならともかく、なぜ水先案内人なんだろう?」
水先案内人は、異世界の情報を売ってくれる人たちである。もちろん、案内もしてくれる。しかし、人探しまではしていない。人が良いので、手伝ってはくれるぞ! ちなみに、定住していないのでなかなか会うことのない割とレアな存在だ。
「ロロちゃんは優秀なんです!きっと理由があるんです!!」
2人は再度紙きれを確認するが、そこにはデカデカと「この先、水先」としか書かれていない。
「……」
「……」
六条の脳内は目まぐるしい速度で回転する。彼女のスーパーインテリジェンスブレインは一つの回答を導き出した。
「ロロちゃん、信じてたのに……」
「精霊は頑張った」
「……」
「……」
「ロロちゃん、信じてたのに……」
何の成果も得られなかった調査。途方に暮れる二人。頑張った一妖精。
六条は自分の顔を両手でパンと叩く。
「この場所だと妖精の力が弱まったのかもしれない。別の場所でもう一度妖精に頑張ってもらお……ん?」
卜部は六条が手に持っている紙きれを見つめる。
「六条」
「なんですか?」
「裏面」
疑問符を浮かべながら六条は手に持った紙きれの裏面を見る。そこには「が知ってるよ」と可愛く描かれていた。
「やっぱロロちゃんしか勝たん!」