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3話

 不毛な言い争いの結果、夢見先輩に丸投げするという落し所で二人は合意する。


 責任転嫁で友情を育んだ二人は、気分転換の様に異世界へとつながる場所に足を運んだ。


 2人は『いせたん』の部室とは別棟にある場所へ到着した。


「六条、ここで合ってる?」


 卜部は保健室の室名札に目線を向ける。


「そうよ、ここから先輩がいる異世界に行くわ」


 そう言いながら六条が保健室のドアを開けた。


 ドアの向こうに何の変哲もない保健室が広がっている。


「あ!ろくじょー!!」


 そこには二人の男女がいた。背丈の短い女子生徒と背丈の長い男子生徒が何かを行っていた。


 背丈の短い女子生徒が六条を睨む。


「あ!灯乃下ヒノモト先輩!?」


 たじろぐ六条。威圧する灯乃下。耳をふさぐ卜部。そして、ノーリアクションの男性生徒。


「アンタがここにいるってことは、また小遣い稼ぎね!」


 灯乃下と呼ばれた女子生徒が六条にピンと指をさす。


「私が守銭奴で業突張りな女性だって聞こえるようなフレーズ止めてもらえます!!」


「えっ!違うの?」 首を傾げる灯乃下。


「違います!ねえ先輩!!」


 卜部は両耳にあった手をそっと目元まで動かし、世間のしがらみを遮断した。


「なんでー!?」


 援軍が来ないことを察した六条は、自分の行動が正しいと感じる未来を想像しながら、己の心にバフをかけた。


「そんなこと言ってますけどね。灯乃下先輩だって、紅茶のティーパック何回も使うタイプですよね!!」


「なー!?そっちだって、購買のおばちゃん相手に肩たたき券でパンを買収しようとしてたじゃない!!」


「はーはーはー、あれは、ただただおばちゃんの日々の労働を労ってただけだし!別にちょろいとか、全然そんなこと思ってないですし!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


 戦いが始まる。おそらく、いやとっても不毛な争いが。


「やっぱり、おばちゃんをたぶらかしてたんだ!まったく、これだからろくじょーは」


 精神的有利に立った灯乃下が笑みを浮かべる。


「灯乃下先輩もケチった挙句、自分で前髪カットして失敗してたじゃん!」


 灯乃下が真っ赤に染め上がる。それから、二人の争いは加速する。


「あにゃにゃぁ!?」

「うにゃにゃーぁ!?」


 人は苛烈を極めると、原始の声を発すると言う。




 けして譲れない戦いを諫めるように六条を卜部が、灯乃下を背丈の長い男子生徒が羽交い締めで二人を引き離す。


「灯乃下先輩……」


 呟く男性生徒。


「ヤダ」


 男子生徒が灯乃下を見る。


「ヤダヤダヤダ」


「小枝でいい?」


「……」


「クレープもつけるよ、アイスが美味いヤツ」


「……ぃく」


 灯乃下は涙を拭き、生まれたての小鹿の様に立ち上がる。


 一方その頃、六条と卜部は一連のやり取りを見ていた。


 六条は卜部を見つめる。


「やだやだフラペチーノがいい」


 卜部は六条を地面に叩きつけた。


「ちょっ!痛い!」


「それで奢る飲み物はない!」


「なんでぇ!?なんで私だけ不条理なのぉ!?」


「先輩が!異世界で!!」


 今回の教訓を経て、六条は心に誓った。形だけ真似ても幸せにはなれないということを。


 何か特別な感情を浮かべた表情の男子生徒は、六条に声をかける。


「六条、よかったら君も食べる?」


「え?いいの!?」


 男子生徒が頷く。


「ありがとう!いやーホント夜見ヨルミ君は友達思い!私感動した!」


 一服の清涼剤のように六条の干からびた心が潤っていく。


 ポンポンとスカートをはたきながら六条が立ち上がる。


「六条……」


 灯乃下が六条を呼ぶ。


「……何?」


 そこそこの間の後に灯乃下が呟く。


「引き分け……」


「先輩……」


二人は熱い抱擁を交わす。彼女たちの冷え切った関係と心が溶けていくのが分かった。そして、六条は満面の笑みで夜見を見つめる。


「私たちバニラで十分よ!」


 六条はニッコリと答える。それと同時に夜見は自身の財布を見る。すると、少しの間の後で彼は申し訳なさそうな表情を浮かべた。


「ごめん、一人分しかなかった」


 平和とは次の戦争への準備期間に過ぎなかった。人類は哀しみの連鎖の中に埋もれていった。

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