2話
六条は今いた部室から隣の部屋に移動する。ガラガラと音を立てながらドアが開くと、一人の男子生徒がスマホをさわっていた。
「たまたま仕方がないかなって思って!ちょっと思っただけで「要件を言え」緊急の事態がって、最後まで聞いてください!」
話を途中で遮られ気持ちは完全に過呼吸な六条は、赤面しながら言い放つ。
「……す、助っ人に来てください」
その後、とてもか弱い声で「お値段据え置きだと嬉しいな……」
人には様々な悩みがある。解決できる問題、そうでない問題。様々な思考を巡らせた男子生徒は一言つぶやく。
「3倍」
六条は悶絶する。この3倍とは『いせたん』における1ヶ月の部費そのものだ。そんな大金をノータイムで支払うと確約する行為は、彼女の胃に致命的なダメージを与えるだろう。ちなみに彼女のお小遣いとは比較するのもおこがましい金額である。
「は?そんなの無理に決まってるじゃん!」
「夢見先輩が行くような場所に行こうなんて奴、誰もいないだろ」
「うっ」
正論だった。夢見先輩が連れて行く異世界は六条にとって何かが色々と変だと感じていた。彼女が受けた学校の授業では、もうすこしこちらとあちらは地続きだった。
「先輩の金遣いの荒さ、知ってるでしょ。部員も少ないし、あーだこーだで色々とやりくりしてるんだから」
「俺知ってるよ。3日前に部活動の予算貰ってウキウキ顔の先輩と六条を」
冷静さを取り戻しかけた六条の顔がタコになった。
「ちょっ「後払いでいいからさっさと先輩連れ戻しに行こう」
後払いという単語で頭を冷やした六条は会話を続ける。
「そ、そうね。その代わり条件があるの」
「どういった条件?」
「別件の探索も並行して進めるわ」
何故か六条はドヤ顔だった。
「時間がないのに大丈夫なのか?」
「先輩がいる地域はまだマッピングが出来てないの。だから、それをする間に別件も進めておきたいの」
学校に登録されていない異世界は地図がない。そういった場所はマッピングするためにある程度の時間、その場で待機しなければならない。六条はそのタイミングで別の作業をしようと画策していた。
「小遣い稼ぎはまた今度にしてくれ」
「心配しないで。マッピング中にちょっとだけ私を守ってくれればいいから」
「4倍って響きいいよね」 刹那、六条の顔の作風が変わる。
「卜部隊長。私が丹精込めて書いた肩叩き券プレゼントします!」
卜部と呼ばれた男子生徒は確信した。この部活は潰れてもいいと。