1話
「廃部です」
腕章をつけた女子高生から衝撃の一言が告げられた。
「早くないですか、まだ冒頭ですよ」
栗毛のボブカット女子生徒は緊張した面持ちで狼狽していた。部室にはたった二人しかいない。
ため息を混じらせながら、腕章女子が話を元に戻した。
「これでもかなり融通したつもりです。夢見先輩にはお世話になった手前心苦しいのですが、これ以上私にはどうすることもできません」
恐れていた日が来てしまった。考えたくもない現実を突きつけられ、ボブカット女子の頭の中は考える人になった。
「あと3日、いや2日……」 腕章女子は笑顔で舌打ちをする。
「1日!?いやいや如月副会長閣下の下校時間までには、必ず!必ず夢見部長を連れて行きます」
心も体も土下座状態のボブカット女子は、この問題が解決したらスタバの有料カスタマイズを夢見先輩の財布が空になるまで奢ってもらおうと心の中で誓った。
如月副会長はやれやれと言った表情を見せる。
「……分かりました。私の下校時間は17、いえ19時です。この時間を過ぎたら、たとえ六条さんが土下座しても駄目です」
そう言って如月副会長は踵を返した。
「ありがとうございます!この恩は絶対に夢見部長に支払わせます!スタバで‼!」
今日一のキメ顔をしながら如月副会長がドアの方へ消えていった。
副会長の姿が見えなくなってから、自分の顔を両手でパンと叩く。気持ちを切り替えた六条は本棚から年季の入った厚めのバインダーを取り出す。バインダーの中から、これまた年季の入った紙を取り出す。
「サーチ……」
六条がそう呟くと紙の表面に光り輝く円状の魔法陣が現れた。
神秘的な光を放つ魔法陣がみるみる形を変え、地図のような姿に変わる。
「先輩め、だいぶ深いところまで進んでる」
六条は思索する。この学校は古くから異世界に繋がっており、不定期で開いたり閉じたりする。六条が所属する『異世界探索部』略して『いせたん』は文字通りこの異世界を探索し調べることが目的とした部だ。
「あんまり高いスクロールは使いたくない」
声を出すことで冷静さを保とうとする彼女の頭に、さらに悪いニュースが飛び込む。
スクロールに表示された地図には、禍々しい光を放つ箇所があった。
部室に置かれた時計の秒針がチクタクと彼女を急かす。
「これは助っ人を頼むしかないわね」
断腸の思いで助っ人を呼ぶ決断をした六条であった。