7 お寺へ
「なるほど、傘覚のやつが」
狭い祠の中に三人は正座していた。稲光の話を聞き終えたばかりだ。部屋の隅に隼人の風呂敷包みがあるだけの板間だ。三人の膝が触れあおうとするほど狭い。
「左様。どうか力を貸しておくれ」
「それは是非もないことです。早速丸葉津に向かいますか?」
「いや、他の犬士見つけねばならん。おぬしらは、不思議な玉を持っているのであろう? すべて揃えるとなんでも願いが叶うとか?」
「それは違う玉ですな」
「そうなのか」
「それに、それは親父たちが持っているので」
「そうであったか。しかし、仲間は多い方がよかろう。他の仲間はどこにおる?」
「はっきりわかる者はひとりしかおりませんが、町中にいくらか心当たりが。日菜子はどうだ?」
「わたしはないなあ。あまり町中には行かなかったし」
「然れば、隼人の案内を頼むほかないの。すぐに出かけよう」
「ははっ」
隼人は頭を下げた。
稲光と日菜子は外に出たが、隼人は残った。準備をするのだ。
「あっ、焼き魚! いただき!」
日菜子が地面に刺したままだった焼き魚を取り上げた。片面は焼けすぎているが尻尾から骨ごと噛みつく。
「おい! 勝手に食べるな!」
祠の中から隼人の声がする。
「ほう。それは骨ごと食べられるのか」
稲光は焼き魚をひとつ取り上げた。
「稲光さま、なりません。そんなことができるのは日菜子だけです」
隼人が祠から出てきた。小袖をやや上等なものに着替え、たっつけ袴に大小を差している。笠はなく、ほかに荷物は風呂敷包みだけだ。
「よく噛めば大丈夫だよ」
「稲光さまの喉に骨が引っかかったらどうする!」
「そ、そうか! 稲光さま、骨は危険です」
そんなこんなで、ひとり一匹焼き魚を食して町に向かった。
「ここより先は馬に乗っていると目立ちます。稲光さま、歩いてもらっても構いませんか?」
「うん」
稲光は馬から降りた。
町に入る手前の道であった。怪しいやつに狙われたとあれば、町中で馬に乗るわけにはいかない。
「マモルが寺にいるので、そこに馬を預けましょう。そこを拠点にして方々を探すのがよいかと存じます」
「おお、犬石坂守が。利発な犬士だったのう」
「まあ、俺ほどじゃありませんがね」
「あはは」
と笑ったのは日菜子だった。
隼人が馬を引いて三人はマモルのいる士格寺へ向かった。