2話「戸惑いの女神たち編③」
どうする?
そんなことを思いながら、先ほど買った俺の夕飯を食べながら考えていた。
その様子をパーフリィはおろかラナでさえ心配そうになるほどに見ているのを感じる。視線は別にとげとげしたモノではないのだが、なぜか刺さる感じがした。
これはきっと俺の中の心境だろう。
ただ黙っているわけもいかないと、何か粗はないかと思い手早く食べるともう寝ると話し、その場を後にした。
その後にすることはパーフリィの時と同じだ。
嗅ぎたくもない匂いは覚えていたので、それを追うだけだった。
流れも同じように忍び込み、そして粗探しをするという流れだ。
「……やっぱりか」
その証拠は見つけられた。
だが、念の入れようでその証拠を突きつけるにも貴族のそのまた貴族までとなっていてさすがにそこまでの時間はない。
何より――
『あの人の子を治してほしいという願いであればできませんよ~』
そんな言葉で断れた手前、今は女神様たちに祈る気もなかった。
ともかく俺はそれを盗みだし、その場所を去った。
▽
「なぜ、彼は私を呼ばないのでしょう」
その言葉に、アブソリューナたちも沈黙で答えた。
「も、もしかして私のせいでしょうか~」
キヨメ神の言葉にも、様々な女神は黙ったままだ。
なぜ転移の女神を、それから複写の女神を呼ばない。
女神の園は、そのことで戸惑うことになるのだった。
△
戻ってきた孤児院で、あの子が気になりそっと部屋を覗くそこには――
「うっ……ぐすっ……し、死にたくない……死にたくないよ……」
見るべきじゃなかった。
きっと、見ないほうが良かった。
俺はそんなことを思いながらそっとその部屋を後にした。
だが、ある決意もともに自分の中で燃え上がるのも覚悟した。
翌日――
約束通りというか、こういう時は時間を守りそうな相手は多数の子分を連れてやってきた。
その場にいるのは、俺1人でパーフリィたちには黙ってシスターにナイフを突きつけて立てこもるように指示をしておいた。
今も建物の外でシスターにナイフをラナが突きつけていた。
パーフリィは子供たちの守りを任せる。
まぁ……俺は本気で相手をするから必要はない。
「おい、どういうつもりだ? そのシスターのそれはよぉ」
子分がそう言って近寄ってきたので、俺は石を指で弾き相手の耳を潰す。
「あがあああああああ!! 耳が、お、俺の耳がぁぁぁぁ!」
「こういうことだ。ここに近寄るモノはみんなこうなる」
俺の表情からそれが本気だと分かったのだろう。だが、取り立て屋の顔は変わらず余裕そうな表情で言い放つ。
「気が狂ったのかい? いいか、こんな立てこもりまがいのことをして――」
また俺はその石を指ではじく行為を行い、悪辣なその顔の横に飛ばした。
「……黙れ、次は外さない」
その言葉に黙って誰も喋らないままにいたので、俺は言い放つ。
「俺はここに立てこもる! 解放の条件は、医者を連れてこい! また治しの魔法とかが使える奴を連れてこい! それだけだ!!」
そして俺は枝を拾い、横一線に線を引くように枝を振るった。
ズババっという音とともにそこには境界線が出来る様に亀裂が走ったのを確認すると、再び言い放つ。
「ここから一歩でも入った瞬間、死を覚悟しろ! 用件はそれだけだ。兵でも、軍でも好きに呼べばいい!」
それはある意味、ここを統治する国を相手にもするという宣言と俺なりの覚悟だった。
「き、貴様……。おい、衛兵を!」
その後は衛兵に取り囲まれる状態になり、俺は威力偵察に現れた奴らに自分の戦力を満足な武器を持たないでもできるぞと石や枝を使って暴れて見せた。
……その影響で、周辺住宅の屋根などが吹っ飛んだりしていたが、気配は無事な様子なのでそこは安心した。
さすがに俺のわがままで、何にも罪のない人の命を奪うのもあれだし。
「一体何を考えている! お前――」
「俺の求めるのは一つだけ、子供の病気を治せる人を連れてくればそれだけでいい! それ以外に興味はないから説得は無駄だ!」
そう言い放って、手頃な石を予備動作なしに拾って男へ向けた。
すると、さっきの威力で十分思い知ったのだろう口を開くことなく、ズズっと後ずさり黙った。
それから何時間か経っただろう。
だが、俺はまだずっと石を片手に弄びながら、枝を手に佇んでた。
おそらく相手は疲労を狙っているのだろうが、女神様たちのおかげで俺は別に寝なくてもいいし体力もあれくらいではまだまだ有り余っているほどだ。
弱点と言えば、あの病気の子供が俺の要求を飲むのを待つまでに持つかだが……。
▽
女神の園は、あらゆるところでパニックになっていた。
なぜ自分たちに祈らない。
そうすれば、彼の願いであれば叶えるというのに。
そんな想いをしていたのだが、アブソリューナでさえリョウタロウの様子を見続けるのみで誰もが戸惑いでいた中で――
「あっはっは~さすがはリョウタロウだ! 面白い、面白いよ!」
「……悪戯の女神・ファーニー! 何がそんなに……それよりもあなた、魂を完全に洗われてない件について詳しく――」
「ああ、それはアタシさ! アタシが司ってるのは悪戯だよ? あの子に悪戯でもってアピールする、それがアタシなりの共愛さ!」
「……」
その言葉に押し黙る女神。
それを遮るように、現れたのは――
「残念ですが、彼の罪は明確です」
そう言って冷静な目で彼の様子を見つめているのは、懲罰の女神だった。
「ライヴァ~相変わらず固いことで! ま、アタシはアタシなりの……あんたはあんたなりの共愛を示すってだけだね~♪」
そう言ってゲラゲラ笑いながら、彼の様子を見始めたファーニーに対してライヴァは何も語らずに同じように彼の様子を伺い始めた。
女神の園は、大多数の困惑、多数の中立的、少数のファーニー神のような楽し気な様子でそれぞれの立場で彼を見守っていたのだった。