3話「盗みの女神編④」
翌日から、何かにつけて下っ端作業をしている俺を呼んでは殴ったり、暴言を吐いたりとどうやら俺はこの中で最下級という称号のような感じになり下がったらしい。
その割りに全く体に傷がつかないため、自傷をするという妙な体験をしては夜中にこそっと妹さんに手当をしてもらうという生活が続いていた。
だが、ここに来て――とうとう俺のアジトがバレたらしく両方の派閥が仲良く現れた。
頭領のほうは、妹さんがずっと兄貴を止めていたが。
なんだかんだ言って、彼女はずっと俺側にいてくれたのかもしれない。
「……いつの間にこんな場所を」
頭領の兄貴はそう言う。
「入ってからなんで、もう1年は経つなぁ」
特に気負いなく俺は答えた。
「お前、なんだその態度――」
「え? ああ、すいません。どうでもいい連中なんで――」
ここで副頭領のほうがいきなり笑い出した。
それはそれは臭そうな大きな口を開けて、だ。
「散々、俺様の子分の可愛がりが効いたんだろうぜ。狂ってやがるだが……おい」
そう言っていきなり俺や頭領とその妹へと武器を向けて、何かを喚いていた。
「ハッハッハ、いいか、その女のガキだけは生かしとけ! そいつは、俺が楽しむために生かしてるんだからな!」
それに構わず俺は、叫ぶようにその場にいる全員に告げる。
「選べっ!」
その叫びに、俺の周囲は沈黙が訪れたが副頭領のほうが笑って何を選べと言いやがる気だクソガキがと言うのをほっといて、俺は言い放つ。
「俺の下に下り、この俺が作った小屋と畑と池を受け継いでここに村を作ってもう盗賊から足を洗うか、それとも――」
そして、指を一本立ててそれを自分の首に当てて掻っ切るように示した。
「俺に"全部"を奪われるかを」
その言葉に、妹は即座に反応した。
それは兄貴を強引にこちら側に引っ張ってあんたに従う!と言う言葉と共に。
「おまえ! 一体何を考えてやがる!? それよりもあの副頭領の奴が――」
「兄貴! だめだ、あいつだけはダメなんだよ! いいからこっちにきなよ!」
「ガッハッハッハ!! 最後の言葉がそんなものでいいのか? 面白いことを――」
「ピピー! はい、受付終了しましたー! ということで、こっちにいる2人はセーフであとはアウトってことで……いいな?」
「~~~~~~~♪」
その後は奴らにとっては、地獄だっただろう。
なんせあの盗みの女神が嬉しそうに自分の体を抱きしめて、身悶えしているわけだから。
まずは一番近い子分の両手両足が削れた。
その近くにいる奴も、そのまた近くにいる奴も。
あえて副頭領には何もしない。
その上で、そこにいる奴らの手足をもいで動かなくさせた。
「ひぇぇぇ! た、助け――」
「さっきいっただろ? アウトだって」
そうして1人ずつ、念入りに"ありとあらゆるものを奪い"取ってから殺していった。
やがて、全てが終わった時のこと。
「な、ん、で……」
「え? なんでこんなことをしたのか? なんせ今は盗みの女神様に盗り憑かれてるからな。ここまでしないと満足しないかなって……」
そう言うと兄貴の恐怖をさらに押し上げたようで、そのまま後ろに倒れ気絶した。
まぁ今目の前に広がってるのは、どう見ても地獄絵図だ。
だが、元々こいつらもそういう覚悟を持って命を奪ってまで全てを盗んだんだからいいだろう。
3割派も、ここに来て選択しなかった自分たちが悪い。
そんな感じで頭領2人以外の命を含めて色々と盗んだ――いや、奪い取った。
「あ、あんた……一体何者なんだ?」
妹さんのほうは気丈にまだ気絶せずに、何かに気づいたかのように問いかけてきた。
「その話をする前に、なんで俺に付いたんだ?」
「……」
その問いかけに唾をのんだかのようにして、答えてきた。
「あんたの傷だよ……明らかにおかしいし、何より――」
「何より?」
「女のほう! 明らかにあたしらと"存在"が違うじゃないか!」
その言葉に俺は、え? と。
スティラは、へぇ~という答えを返した。
「あたしに気づくなんて……あんたには祝福を与えないといけないだろうね」
そう言うと投げキッスをするかのように、手にキスをしてそれを妹さんのほうに振りまいた。
祝福……そんなのでいいんだ。
「……え? こ、これは」
「盗みの女神スティラ様の祝福だよ、ありがたく受け取りな!」
そう言ってこっちに振り向き、そしてじっと熱い目で俺を見つめてきた。
「いや、本当にあたしの負けだよ……まいったね、ここまで盗まれるなんてね」
その時だった。
「――見つけましたよ、スティラ神」
「当たり前さね、あたしが場所を晒したんだからさ……ああ、はいはい」
そう言って降参とでも言うように目の前にいる創造の女神・アブソリューナ様へ向かって両手をあげた。
「申し開きは?」
「ないよ、あたしは満足だ。ああ、とても……とても満足したよ」
「そうですか。あなたはこれより園のリョウタロウ共愛違反の罪で投獄となります」
「……」
お、俺の共愛違反……ってなに?
その宣言に、何も言わずにそういえばと呟いたかと思った瞬間――
「むちゅ~♪」
いきなり舌が口内に入ってきてびっくりしたが、どうやら俺は口づけをされたらしい。
その絶妙な舌使いは、蕩けてしまうほどだったのだが一緒にきた他の女神の悲鳴によって気を取り直して、口元を拭って言い放った。
「ごちそうさまです!」
あ、間違えた。
「ふふ」
俺の言葉に笑ったのか、他の女神の目を盗んでキスができて嬉しかったのかスティラは控えめの笑みをこちらに向けて一瞬で消え去った。
はぁ~……。
最後まで、盗みの女神らしかったなと思った俺は、パーフリィの心配な顔を久々に見ながら思うのだった。