2話「盗みの女神編③」
その後、持ってきた台車を冒険者ギルトの裏口にあるという獲物置き場へと回るように言われたのでそこまで台車を回した。
そしてお金をある程度受け取ると、それを元手に――ああ、はいはい。
「これください」
そう言ってもうすでに果実に手をつけていたスティラの物を俺が買う。
当人的にはこれでも盗みになってるようで満足そうにおいしそうに食べてる。
ちなみに俺は一食も頂いていない。
「……欲しいならあたしから盗むんだね」
と言って、食いさしのほうを向けてくるこの女神はズルいと思います。
さてと、気を取り直して畑に蒔く種を買おう。
するっと盗んでは言い訳をして支払いを繰り返しながら無事に種だけはギリギリ買えた。
戻って、さて畑を耕そうとする俺に声をかけてくる人がいた。
「あんた、なにやってるんだい」
そう声をかけてきた人物は、あの頭領の片割れの1人の妹のほうだった。
「……えと、畑を作ろうと思ってます」
「畑? あたしらは、農民じゃないよ!」
そう言って近寄ってくるとまだ女の子の面影を残していてなんか懐かしい感じがした。パーフリィがこんな感じだからだろうか。
まぁ、あの女神様は引っ込み思案なんだけど。
「……何黙ってるんだ?」
「あ、ああ~……すいません。まぁ、俺としては頭領さんにも副頭領にもつく気はないし盗賊なんて稼業よりもこうやって畑を耕した方がらしいんで……」
「舐めてるのか?」
え、いいの?
とは言わずとんでもないと言って距離を取る。
「なんだ?」
いや、なんていうか……恰好が薄着なので色々と見えちゃうとかは言えない。
まぁ男所帯で暮らしてたっていうのもあるんだろうけど、もうちょっと恥じらいを持ってくれると俺の好みなんだけど……。
「……フン、まぁいい。兄貴には黙ってておいてやる! だけど、できるもんならやってみな!」
そう言ってアジトのほうへと去っていった。
「あの子、生娘だったよ? 盗まないのかい?」
「……こしょばゆいから耳元でささやくな、あと変なこと言うな」
全くこの女神様は……。
そんなことを思いながらも、俺は手でもって畑を耕して種を植えて水を蒔くという農業ライフを開始した。
もちろん、下っ端作業をしながらだが。
頭領の妹のほうはたまに来ては、フンと言って去っていく。
どうしたんだろう?
ちなみに兄貴のほうは一度もこないし、副頭領側は鼻にもかけない様子で子分さえ全く姿さえ現さなかった。
そんなことをしていると季節は巡っていく。
数週間で回収できる野菜やら数か月で回収できる野菜や果物やら色々買ったし、なぜか失敗もなく全て豊作という感じでできてしまう自分の才能が恐ろしい――とは思わなかった。
きっと、某かの祝福が掛かってるんだろうと。
「……さすがに祝福までは同格だと盗めないからね~」
「え?」
「なんでもないよ~」
そう言って畑から出来立ての野菜を盗んで食べるのをやめてほしいんだけど。
スティラとそんなやり取りをしていると、ガヤガヤとしているのが聞こえた。
何やらアジトのほうで揉めているらしい。
「言ったはずだ! 全殺しは、俺らのルール違反だと!!」
「へっへっへ……、申し訳ねぇ頭ぁ。仕方ないんで、奴らの抵抗があったもんで」
「……」
頭領の兄貴も妹も、それに全く信用性の欠片も見せない様子で押し黙った。
とりあえず俺には関係ない感じなので、そっと気配を――
「てめぇ! 今までどこにいた!?」
その場凌ぎか、副頭領の子分らしき男が俺へと目を向けて指を差して言い放った。
「いや、別に」
「ああ? なんだその答えは!!!」
俺の言い方に腹が立ったのだろうか、子分が俺に手をあげてきた。
俺は殴られるままにその攻撃を受け続けた。
気分が削がれたのか頭領の兄貴が止めるまで、俺は殴られ続けた。
嫌らしいことにこいつは、よく効くところばかり狙ってきたネットリした奴だった。まぁ全く効いてないからあれだけど。
一応顔とか体には傷は残っている。
「おい、いくぞ。それじゃ頭、わしらは失礼しやす」
そう言って最後に妹のほうにねっとりとした視線をチラっと送った副頭領は、去っていく。
すると、妹さんが駆け寄って大丈夫かと声をかけてくれたので、大丈夫ですと言って立ち上がった。
「……おい、行くぞ。ラナ」
「あ、うん!」
そう言って兄貴のほうは俺に視線を向けるでもなく、さっさと妹を連れて去っていった。
周囲の盗賊たちも、にやにやしながら立ち去っていくばかりで残されたのは俺となぜか傍にいるのに誰にも気づかれもしなかったスティラだった。
「……ふふん、どうだい? あの女神たちが作った常識外れのその体は」
「ああ、びっくりするくらい効かなかったからあえて傷作るので大変だった」
そう。
どう考えても、あの子分の攻撃では傷ができないので本気をちょっと出しつつ自分を攻撃していったのだ。
もちろんバレないようにだったので、そこが大変だった。
だが色々な意味で手加減を覚えられたので、あの子分の人には感謝したい。
さてと、そんなやり取りを終わらせた俺はさっさと外に出て自分のアジトへと戻って眠った。
夜中のこと。
……気配は感じたが、あえて気づかないふりをした。
俺の顔の傷とか、一生懸命手当しようとしてくれている妹さんに気づかれると逃げちゃうと思ったし、こういうのもいいという男の本能からだったのは言うまでもない。