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ツンデレ後輩女子はチャラ先輩男子を策略に嵌め……られなかった。

掲載日:2021/11/04


「好きな人が振り向いてくれないって、どゆことや?」

「そのまんまの意味ですよ、馬鹿なんですか先輩」


 チャイムが鳴り、校舎は生徒たちの声によって喧騒に包まれた。

 しかしながら、緑豊かな中庭は例外であった。

 葉擦れの音や話し声は聞こえるものの、全て穏やかな木漏れ日と同調している。


 あるベンチには昼食を食べ終わり、雑談を講じる男女。

 正反対の雰囲気の彼らには穏やかな空気が流れていた。

 

「んな相談する前に告白すればええのに。焦れったいことするなぁ」

「ホントバカですねぇ先輩は。私にあなたみたいな度胸あるわけじゃないですか」


 実直な雰囲気の玲香は、眉をひそめて愛斗を睨み付ける。

 氷の女王のような雰囲気に、愛斗は何故か相好を崩した。


「褒めてくれてさんきゅーな!」

「褒めてないです」


 天然なのか、それとも意図的なのか。

 暖かい満面の笑みに玲香はペースを崩されかけるが、すぐ何事も無かったかのように冷静に返事をする。

 愛斗はその様子を見て、悪戯っ子のように言葉を畳み掛けた。


「毒舌やなぁ。別に照れんでええのに」

「……茶化さないでください」

「おっと真剣な相談やったな。ゴメンな」


 玲香は自らを落ち着かせるためか、濡羽色の髪を耳にかけて溜息をつく。

 全く悪びれる気配の無い愛斗に何か思うところでもあるようだ。

 そして、間を空けて息を整えると、小さく唇を動かす。


「その、好きな人はですね、皆に優しいんですよ」


 雰囲気は打って変わり、ふわりと甘やかな笑顔になる。

 しかし甘いだけではない、どこかほろ苦さを感じる吐息混じりの声。

 そこに愛斗が励ますためか、無遠慮に口を開く。


「ふーむ。つまり玲香ちゃんはその他大勢と思われてるって感じやな?」

「うるさいです。遮らないでください」

「ごめごめ! 玲香ちゃんが面白くてつい、な?」


 無遠慮な発言にイラついた玲香は、今度は隙のない強い言葉を返す。

 愛斗は窘めるように謝るも、態度はさらに緩くなっいた。

 あざとさを前面に押し出し、子供のように振舞って許しを乞っている。

 そう受けとった玲香は本気で呆れ返りながらも、心の片隅に生じた気持ちにそっと蓋をする。


 気を取り直した玲香は話を続ける。

 目線を下に向け、愛斗と視線を合わせないように。

 そして、唇は滑らかに動き出す。


「……その人はですね、面倒事を押し付けられても笑顔で答える、お人好しなバカなんですよ」

「おー、俺はそいつとは仲良くなれそうやな。同じバカやし!」


 流暢に好きな人への罵倒を始める玲香。

 しかしながら、好きな人というだけあり舌に毒は一切乗せられていなかった。

 愛斗は純粋に感想を喋りながらも、玲香の好きな人への興味を持ち始める。

 玲香が自分と同じように罵倒する。面白そうな人へ。

 

「まぁ、そうでしょうね」


 玲香は微妙に言葉を濁した。

 何か隠し事でもあるような、その事が見つかりそうになった時のような。

 焦って何とか隠したような、詰まった返事。

 

 愛斗は詰まり気味の返事に違和感を感じたものの、そういうこともあるだろうとスルーした。

 そしていつも通りの軽いテンポで言葉を投げ返す。


「酷いなぁ玲香ちゃんは」

「ほんっとにバカなんですよ。こっちがアピールしてるのに気付かない鈍感な野郎でですね」


 投げ返された言葉を放棄し、玲香は腕が震えるほど拳を固く握り締め、語り始めた。

 熱くて、暖かくて、寂しさを感じる罵倒の嵐。甘さなどない苦味全開の罵倒。

 毒を吐き出し、俯いた玲香の眼には涙が滲んでいた。


 いつもの軽口で言う罵倒ではない、感情剥き出しの罵倒を見て愛斗は驚く。

 事の重大さに気づいた愛斗は、玲香を安心させようと肩を抱き寄せた。

 玲香を不安がらせないよう優しく、それでいて普段通りの軽さを意識して話し出す。


「気の毒やなぁ。玲香ちゃんは具体的にどんなアピールしたん?」

「……毎日声掛けたり、お昼ご飯誘ったりしてます」


 止まらない涙を愛斗の肩で拭い、スカートを握り締める。

 悔しさの滲んだ表情を隠すように、さらに玲香は愛斗との距離を縮める。

 そして、嗚咽によって枯れた喉から諦観の声色に僅かな期待を乗せ、質問に答えた。


「そんだけなんか? ボディタッチとかせえへんの?」


 傷付けないように優しくしよう。

 そんな気遣いをしながらも、どうしても内容はいつも通りの無遠慮な軽口になる。

 愛斗は申し訳なさを感じながらも、必死に慰めようと頭を回す。


 玲香はそんな愛斗の心情を薄々察しながらも、心を落ち着かせられなかった。

 彼の軽口は大抵本音であり、言い方を工夫するなどは有り得ない。

 玲香は愛斗が本当の関心を向けているとは思えなかった。

 そして玲香は軽口として、たっぷり皮肉を込めた言葉を放つ。


「……あなたみたいに軽薄じゃないんで」


 玲香は思う。

 女に慣れていなければ、肩を抱き寄せるなんて簡単にできない。

 上辺だけの機嫌を取ることに長けていても、解決は苦手。

 その優しさは、私を傷付けるのに最適で最悪の凶器だ。 

 

「いやいや、これは俺がどうとか関係ないで? 好きな相手にはボディタッチせえへんと!」

「そう、ですか。」


 苦手なりにも相談を解決しようとする、可愛げのあるところ。

 おそらく、皆にも同じように振舞ってきたのだろう。

 玲香は愛斗の言葉を、そんなことが出来たら苦労しない、と思いながらも朧気な返事しか返さなかった。


「折角可愛いんやから自信持ちーや! せや、今日の帰り誘って手を繋ぐとかええんやない?」


 愛斗の言葉は本音であり、絶対に忖度はしない。

 玲香はそんな彼の本性を思い出し、淡い期待を持ち始めた。

 諦観気味だった玲香は、愛斗の純粋で真っ直ぐな瞳を見つめ、顔を綻ばせる。


「ん? どした?」

「いや……アドバイスありがとうございました。頑張ってみます」


 謎の挙動を取った玲香に、愛斗は混乱に陥る。

 玲香の常に氷のように動かなかった表情に、笑顔が咲いた理由に皆目見当もつかなかったからだ。

 晴れやかな顔をした玲香は、愛斗の戸惑う姿を見てクスッと笑う。


 校舎の喧騒も大きくなり、バタバタと走る音があちらこちらから聞こえてくる。

 そろそろチャイムが鳴る頃なのだろう。

 二人は同時にベンチから立ち上がり、校舎へ向かって歩き出す。


「良かった良かった。俺みたいに適当でええんやで?」

「……じゃあ、また後で」


 混乱をなんとか受け止めた愛斗は、安心感からか玲香に声を掛ける。

 微笑みを隠せなくなった玲香は、先を歩いて顔を見られなくする。

 素っ気ない声色で誤魔化すことも忘れずに。


「おう! この俺がいつでも相談乗ってやっからな!」


 本当に頼もしくて、優しい。

 玲香は安心し一息ついたところで、愛斗の声であることに気が付いた。

 人気の無い廊下に立ち止まり、後ろにいる愛斗を待つ。


 忘れていた。

 一つまだやることがあったんだった。


「愛斗先輩」

「うん? なんや?」


 戸惑うような声に、思わず笑みが零れる。

 いけない。いつも通りに返さないと。

 私はまだ、バカみたいな優しさに甘えたいから。後恥ずかしいし。

 そう、あくまで素っ気なく。


「放課後、ケーキ奢って下さいよ。私を泣かせたお詫びに」


 振り返って無表情を保とうとするが、崩れてしまう。

 無理だ、この喜びは抑えきれない。声色と表情が合ってなくてちょっとおかしいな。

 笑って上目遣いするなんて、初めてな気がする。 


「……まぁ、そんぐらいええよ」


 私が勝手に泣いたのに、無茶なお願いなのにね。

 本当に、お人好しなバカだ。先輩は。








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― 新着の感想 ―
[良い点] 一つ一つの描写が丁寧で、二人とも不器用な様子がすごく伝わってきました。 物語の終わり方も絶妙だったと思います。 ここで終わるかー!? とも思いましたが、 いい余韻が残り、ここで終わって丁度…
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