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3


 それからオレは自己紹介をする前に御門森に車に戻され、山道を登り、玉様の実家だという家の門の前で下ろされた。

 そこにはお出迎えしてくれた婆さんが二人いて、オレは小さく悲鳴を上げた。


 瓜二つの婆さんが門の両脇に揃って立ってるんだぞ?

 笑顔で出迎えてくれるならまだマシも、しかめっ面をして何をしに来たと不機嫌丸出しだ。

 まったく歓迎されていないオレを残して、御門森は婆さんに頭を下げて車に乗って立ち去ってしまった。

 アイツ、時々面倒になりそうな時、するりとどこかへ気配無く消えて行くんだよな。悪い癖だ。


「こちらへ」


 青白い手がオレを中へと誘い、カバンを前に抱きしめてオレは恐る恐る一歩踏み出した。


「あれ? お客さん?」


 門を通り玄関の前でバカでかい屋敷に戸惑っていると、イカしたスーツの男が軽い足取りで靴ベラを使ってブラウンの革靴を履き爪先をトントンさせた。


 なんだ、コイツ。玉様の兄ちゃんか。

 それにしてはちょっと年を喰ってるし、父ちゃんにしては若い気がする。

 しかもタレ目であんま似てないぞ。


「玉彦様のご学友で御座います」


「え? アイツの? 友達いたんだ? うはは。まぁゆっくりしていきたまえ」


 チラッとオレを見たそいつは、何故か数回肩を叩いて高笑いしながら駐車場に停めてあったシルバーの高級車に乗って急発進で消えて行った。

 この村では肩を叩くというのが挨拶代わりなんだろうな。

 どいつもこいつも肩を叩く。

 玉様は頭を叩くが親密具合で変わってくるんだろう。


 さてさてそんな感じでオレは玉様の実家に乗り込んだ訳だが、とにかく広い。

 玄関から今夜のオレの寝床まで婆さんの歩調に合わせたことも差し置いても十分は掛かった。

 途中博物館並みの屋敷の内装に足を止めて撮影しようとしたら、鬼の形相が二つ並んでオレを睨み付けたので諦めた。


 格好の面白ネタなのに。

 通山に帰ったらみんなにも見せびらかしたかったのに。

 とにかくこの婆さんズの監視が無くなったら実行してやるぞ。


 でもって声が掛かるまでここに居ろと言われた和室は畳の良い匂いがして、オレは荷物を降ろした。

 部屋の中は小さい机と座布団だけ。テレビとかはない。

 まぁそりゃそうだよな。旅館じゃないしな。部屋数も相当なものだから、全部の部屋にテレビとか あるわけないよな。


 それにしても玉様の実家は何をやっている家なんだ?

 御門森の話だと村の名士とかって言ってたけど、何の仕事をしてるのか煙に巻かれたままだ。

 だが儲けているのは確かだ。

 だってそうじゃなけりゃいくら一人息子だからって一軒家建てたり新車をポンッと初心者マークのやつにあげたりするもんか。

 どこのお坊ちゃまかっつーの。


 ……ここか。ここのお坊ちゃまか。


 オレはゆらりと立ち上がり探検に出ることにした。

 なぁに一応お客様だ。

 見つかったとしても怒られることは無いだろう。

 なんてったってお坊ちゃまのご学友だぞ。

 鈴木和夫だぞ。


 意気込んで襖を開けると鬼の形相が腰に手を当て仁王立ちしていた。


「お手洗ですか」


「あ、いえ。スミマセン……」


 絶対に恋ではない胸の高鳴りを隠して、オレは襖を閉めた。  




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