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2



 徐々にお役目に参加させて貰っていた私は経験を積んで、自分でどうにかできるもの、玉彦じゃないと無理なものの見分けをつけられるようになっていた。

 時々間違うこともあったけど、今後ろにいるヤツはどこからどう見ても私には無理な代物である。


 チラッと確認したときに、棘が腕であることを視た。

 しかも何十本と生えている。

 白蛇の時の様に幾人も犠牲になっているということは、アレの中に神守の眼で入ってしまうと悪意に飲み込まれてしまうのだ。

 それにしたってなんだってあんなモノがこの五村に入り込んだのか。

 きっと澄彦さんも玉彦も関知はしているはずで動いているとは思うけど、まさか私が追いかけられているとは思っていないだろうな。


 とか考えつつ全力疾走。


 思っていたよりも追いかけてくるスピードが遅く、前方に石段が見えてきたことで私は安堵した。


 その瞬間。

 背後からシャツを引っ張られて引き倒された。

 驚いて振り向くと、棘だった手が伸びてる……。

 やっぱり私は何かに捕まる運命なのか……。

 てゆーかそんな芸当出来るならどうして最初からしなかったんだ、アイツ……。

 そして横倒しのまま引き摺られ出した私の上空を黒い影が走った。


「黒駒!」


 多門の式神として澄彦さんに息を吹き込まれた黒駒が果敢に向かっていく。

 これで助かった! と思う反面、私の身体はまだズルズルと引き摺られている。

 這い蹲って抵抗をしていれば、今度は豹馬くんと須藤くんが錫杖を手にして駆けてくる。

 須藤くんは私を素通りして、私を掴む腕に錫杖を突き立てそれ以上引かれない様にした豹馬くんが呆れてこちらを見下ろした。


「上守……。やっぱりお前ってトラブルメーカーな……」


「……不可抗力だもん」


 視線を逸らすと今度は玉彦がゆっくりと石段を降りてきて、稀人と式神が動きを止めていた禍の前に立つ。

 もちろん私を冷たく一瞥した後でだ。

 道路に座って玉彦の背中を眺める。

 右手で口元を隠し宣呪言を詠えば、黒い毬栗は白い煙に包まれて霧散していった。

 そして振り返った玉彦はいつも通り眉間に皺を寄せていた。


「どうして比和子は……」


 豹馬くんと同じことを言おうとした玉彦の言葉を遮り、不可抗力だもんと答えると何とも言えない残念な表情を作る。

 私だってわざわざ不可思議なものを探して歩いている訳ではないのだ。

 たまたま出会ってしまうのだ。


「……まぁ良い。比和子は『ある』と蘇芳も言っていたようだし、そうなのだろう。だから私がお前の伴侶に選ばれたのだろうしな……」


 差し伸べられた手を掴んで立ち、意味深なことを言った玉彦を見つめる。

 確かに以前澄彦さんに蘇芳さんは『ある』と答えていた。

 どういう意味かと尋ねてもその時は教えてもらえず、天気の話に変わってしまった。

 天気がどうあろうと関係の無い仕事の癖にと思ったのは秘密だ。


「私には何が『ある』の?」


「さぁ、何だろうな?」


 私の手を引いて歩き出した玉彦は解り易くとぼけて教えてくれない。

 食い下がる私をのらりくらりと躱した玉彦と石段へ到着すると、そこには澄彦さんと南天さんが待っていた。

 何故か勝ち誇った笑顔の澄彦さんに、玉彦は苦虫を噛み潰したようになる。


「ほらな、言った通りだったろ? 賭けは父の勝ちだぞ、息子よ」


 誇らしげに踏ん反り返った澄彦さんは声もなく笑う。

 彼が声もなく笑うということは、何か良からぬ悪さを企んだときだ。


「何を賭けたの?」


 隣の玉彦を肘でつつくと眉をハの字にした。


「本日の役目の禍を比和子が呼び寄せるかどうか」


「なっ!」


 通りで私が出掛ける時に鈴は持ったかとしつこく聞いてきた訳だ。

 あんまりな賭けの内容に、私は開いた口が塞がらなかった。

 これまで玉彦は私が危険な目に遭わない様に口を酸っぱくしていた。

 正武家の過保護っぷりを如何なく発揮していたのに、よくもそんな賭けに乗ったわね!

 確かに最近お役目にも参加して経験も積んだけど、流石に今日のは危険すぎるでしょうよ!


 無言で非難する私の視線に、玉彦は増々困り顔になる。


「これは仕方なかったのだ」


「私を不必要に危険に晒して何が仕方ないのよ!」


 大体お役目の事案を賭けの対象にするって、正武家はどうなってんのよ。

 二人纏めて天罰が下ると良い。本気で思った。

 私の恐怖を返せと。


「父上に長期休暇を願い出たのだ。これは私だけではなく比和子の為でもあったのだ」


 気まずそうに答えた玉彦は、あの時の約束を守ろうとしたんだと解って私は嬉しかったけど溜息が出た。

 旅行へ行くと約束をした。

 行き先なんて全然決まってないけど、二人でだったらどこだって良いから。

 そんな大切な約束を賭けに乗せた玉彦に腹を立てつつ、私は澄彦さんを睨む。


「玉彦。そういう時はね、私に任せなさいよ。世間知らずで悪知恵が回らないボンボンのあんたに澄彦さんの相手はつとまらないわ!」


「おい」


「おっ、比和子ちゃん。強気だねぇ」


 玉彦の前に進み出た私を澄彦さんはニヤリとした顔で迎えた。

 絶対に、長期休暇を、旅行を勝ち取る!


「澄彦さん。私前に言いましたよね。これからはそうはいかないって」


「うん。言ってたね。家出してきたとき」


 ニヤニヤとする澄彦さんは楽し気に私を見つめた。


 あの水彦が澄彦さんの悪知恵は一級品だったと言ってたけど、絶対に負けないって思ってるところに勝機がある。

 悪いけど、弱い私に油断はない。



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