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5


 赤駒に付けられた玉彦の頬の傷から血が流れるのを見て、呼吸が乱れる。


 ヒカルと同じだ……。

 やっぱり赤駒が……。


 悔しくて悲しくて溢れ出た涙に動揺して、私は俯く。

 玉彦まで死んでしまったらどうしよう……。

 

「比和子様! 飛んでくるよ!」


「えっ?」


 香本さんの大声に前を向くと例の強風に吹き飛ばされた三人が私の前へと転がってくる。

 何故か南天さんも巻き込まれてしまったようで、体勢を整えて顔を歪めていた。


「入って!」


 でも、南天さんがいるからここで纏めて動きを止めてしまうと彼まで動けなくなってしまう。

 やっぱり中へと入るしかない!

 人を殺す覚悟は出来てないけど、やるしかない。


「私の身体をよろしく!」


 そう叫んで私は四人纏めて、中へと引きずり込んだのだった。




 以前、隠の敷石で雪之丞たちをまとめて視た時の世界はパステルカラーの幾何学模様で頭痛すらしそうな世界だった。

 今回は五人で入ったけれど、世界は真っ白いままで私の世界が広がっている。

 きっと五人の中で私の影響が一番強いからだ。


「比和子さん!」


 少し離れたところで私を見つけた南天さんが駆け寄ってきたので、私は思わず飛びついた。

 怪我の功名とはこの事である。

 南天さんは御門森で視える眼を持っていたし、この世界で自我を持って自由に動くことが出来る。

 中で三人を相手にしなくてはならない私にとって、これ以上ない味方だった。


 この五村は正武家がそう在る様に、そう為る様になっている。

 だから私が有利になる様にそうなった。

 一応正武家の人間の端くれだし。


「これはいったい、どうして」


「香本さんが中で何とかしろって」


 飛びついた私を南天さんはゆっくりと抱えて降ろす。

 そして眉をハの字にしてしまった。


「何か問題でもあったでしょうか」


「あのですね……。清藤の付き人は……多少は視ることが出来るようなのです。ですので」


 苦笑いした南天さんに、私は血の気が引いた。

 もしかしたら彼らもこの中で自我を持って動けているんじゃ……。


「さて困りましたね。ここでの傷はあちらで致命傷になります。どうしましょうかねぇ……」


 顎に手を当てて考え込んだ南天さんは困ったと言いつつどこか楽し気なのが気になる。


「と、とにかく何か武器でも出します!」


「あぁそれはいけません。物を出せるのは比和子さんだけですから奪われたら面倒です。でしたら素手の方が楽です」


「そうですか……」


 中に入ったは良いものの、あまりにも無策で私は役立たずだ。

 出来ることは三人を上か下かへ送ることのみだ。


「比和子さんを護りながら三対一。何とかなりますが平行線ですね」


「何とかなるんですか!?」


「まぁここではなります。素手ですから。あとは経験と身体能力の勝負ですので。比和子さんは走って逃げ回って頂ければと思います」


「頑張ります……」


「この世界で気絶は有り得るのでしょうか?」


「どうでしょう……。ここで気絶すると精神が何処へ行くのか想像が出来ません」


「試してみなくてはなりませんね」


 それにしても二人で話をしている間、共に入ったはずの三人の気配が近くに無い。

 見渡す限り真っ白い世界で、色があるのは私たちだけだ。

 南天さんもそれを不思議に感じていたようで、首を捻る。


「南天さん、どうなっているんでしょうか……」


「この世界は無限大のようですから、もしかすると考えられないほど距離が離れてしまったのかもしれません」


 ここは私の虚構の通山市を、そこから五村へと続く土地を、五村を全て再現出来ていた。

 それだけでもかなりの範囲である。

 足で探していては時間が足りない。

 そんなことをしている間に現実で私や南天さんの身体が危険に晒され続ける。


「世界を収縮させてみます。出来るかどうかわかんないけど、やってみます」


「……それでいきましょう。大丈夫、成功します。そうなる流れがあるようです」


 南天さんは九条さんと同様に、私の眼がまだ視えない四の世界まで視えている。

 だから彼がそう言うなら、そうなるんだ。


 私は深呼吸をして、意識を集中させた。


 想像する。

 この白い世界に果てがあるとして。

 その果てが徐々に私と南天さんを中心に狭まる。

 膨らんだ風船が小さくなるように、ゆっくりと。

 一気に萎んでしまうと取り残された三人が消えてしまうから、走って逃げるスピードで。


 それは数分の出来事。


「比和子さん」


 南天さんのに肩を叩かれて瞼を上げると、体育館程の広さになった世界の片隅に三人がいた。

 明らかにこちらを認識していて三人で頷き合うとこちらへと駆けて来る。

 明確な害意を持って。


「ここからが本番ですね」


「……頑張って逃げ回ります」


 とりあえず一人。

 気絶させることが出来るのかどうか、それを確かめなくてはならない。

 もし無理なら他の方法を考えながら逃げないと。

 正直三人を囲う檻を作り出せば早いけど、三人纏めて閉じ込めたところで根本的な解決にはならない。

 目覚めたとき、この三人がもう動けなくならなければならないのだ。

 きっと香本さんのことだから、今のこの状態で既に現実の三人の身体を縛り上げているだろうけど確証はない。

 現実では玉彦と亜門、そして御倉神と大国主が暴れている状態なのだ。

 万が一玉彦に何かがあって、もし三人に構っている場合じゃなかったら期待は出来ない。

 それに彼女は中で何とかしろと言っていた。


 だからこちらがそうすることが前提で動いているはずだった。




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