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2


 私は須藤くんに半ば担がれるようにして本殿への階段を上がり、背中を押されて一歩踏み込むと背後で須藤くんの謝罪の言葉と共に扉が閉じられる。


「ちょっと! 開けてよ!」


 扉は押しても引いても微動だにしない。

 何か不可思議な力で封じられている。

 畏れ多いけど足でも思いきり蹴ってみる。


 そして思い出した。

 竜神の荒魂から目覚めたあの朝。

 襖の向こうの南天さんが玉彦が起きないと部屋からは出られないって言っていた。

 アイツ、いつもはこんなことしないからすっかり忘れていた。


 眼で視ると扉は蒼白い揺らめく炎に包まれていた。

 白蛇を払った時に玉彦が纏っていた蒼白い炎。

 あれ以来見かけることがなかったけど、この蒼白い炎は玉彦がお役目の時にかなり集中している時にのみ発されるものなんじゃないだろうか。

 それか護る対象が多いとき。

 でもそれっておかしい。

 清藤の粛清はお役目ではないと言い切っていたのに。

 もしかしたら……?


 扉に両手の拳を押し当てて考えていると、背後にそっと現れた気配が私の肩に手を置く。


「乙女。奥に土産物があるぞ。揚げではないがあやつの心遣いを頂こうぞ」


「何を呑気な。一人で食べてなさいよ」


 マイペースの御倉神は肩を竦め、浮きながら本殿の中ほどでふわりと腰を落とす。

 視線を祭壇の方に投げかけて菓子箱を呼び寄せ、空中でくるくると回して包装を剥がす。

 蓋が開き、両手に受け取っている。


 傍から見ていると学生服の男の子が超能力を使っている様にみえるけど、歴とした神様だ。


「早う来い。乙女ではなく神守としての願いなら聞かぬこともない。まずは持成せ」


 手招きする御倉神が妙なことを言うので、ふらふらと近寄りぺたんと座る。


 乙女ではなく神守って。

 私はいつも普通に接していたから御倉神の中では乙女だった?

 でも一つの目的の為に御倉神を持成せばそれは神守ってこと?

 偉そうに香本さんに告げた言葉が私に返ってくる。

 巫女としての在り方。

 神守としての在り方。

 神守の眼の師匠は九条さんだけど、神守としての守役の師匠はいない。

 どうすれば良いのかは自分で模索するか過去の資料を読み漁るしかないけど、私は眼の力ばかり求めて本当の神守の強みを生かし切れていなかったんじゃないだろうか。


 いつの間にか祭壇に供えられていたお神酒と盃が御倉神の前に移動している。

 私は盃を御倉神に両手で渡して、真っ白い徳利を傾けた。

 清酒ではなく薄く白濁したお酒が盃を満たす。


「馳走になる。神守」


 いつもとは違う雰囲気の御倉神が盃に口を付けると、その姿が歪んで水干姿へと変わっていく。

 わっ、わかりやすい。

 神様としての御倉神はこの白い水干姿なんだ。

 心なしか以前よりも大人になっている。

 てゆうか、学生から私くらいの年齢まで成長している。

 もしかすると私がお婆ちゃんになれば、御倉神もそれなりの姿になるのだろうか。


「美味い。久方ぶりに潤う。ようやくこうして向き合えたな、神守よ」


「はい……」


 しかもとぼけた感じの話し方じゃなくなって、金山彦神のように神様っぽい。

 いや、元々神様なんだけど。


「まさかあのがこうして酌をするとは思いもよらなんだ」


「そうですね……」


「しかももう細君とはひとの世の過ぎ去るのは早いことよ」


「はい……」


「私の妻にと望んだのに、つれない」


「すみません」


 そう望んだのは、正武家の縛りから抜け出したかったからじゃないのと喉元まで出かかったけど黙る。

 本気じゃなかったくせに。

 もし本気で御倉神が望めば、私は今ここにはいない。


「まぁ仕方あるまい。正武家次代の唾を付けられていたからの。無理を通せば叱られる」


 唾って……。

 神様の御倉神は誰に叱られるというのだろうか。

 疑問が疑問を呼ぶ。


 普段とは違うやり取りに恐縮する私を見つめた御倉神は、僅かに口角を上げる。


「お主が神守として初めて持成す者と為れたこと、誠に嬉しい。このさき、他の者の前に座すことに嫉妬すら覚える。故に私の願いを叶えてはくれぬだろうか。このさき私だけの神守になると。さすれば私はお主の為に全身全霊で願いに応えると誓う」


 真摯な眼差しに頷きかけたけど、止まる。


 これは、玉彦が危惧していたことだ……。

 いつか御倉神が私を神守として欲すると。

 献上するつもりはない。私の気持ち次第。

 阻止はするが、正武家と言えども人間で勝敗は明らか。


 そう、玉彦は言っていた。


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