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6


 午前中のお役目は、いつもよりもスピーディーに終わったと満足そうに澄彦さんは食後のお茶を啜る。

 対する私は不慣れな仕事に気疲れをしている。


 正武家ではなく他へ行けと言うのは簡単だけど、私たちを見捨てるのかと縋られたのには参ってしまった。

 その先の蘇芳さんが何とかしてくれるとは判っているけど、何とも言えない気分になる。


「眼が痛むかい?」


「いえ、そうではなく。本当にこのやり方で良いのかと思いまして」


「あぁ、それなんだけどさ。ちょっと変更するよ。控の間で振り分けてさ、正武家の事案以外はその場で松さんと梅さんに捌いてもらおうと思う。で、比和子ちゃん。神守の巫女様は当主の間で共にってどうかな?」


「私は澄彦さんの考えに従いますけど、それで訪問客は納得しますかね」


「しなけりゃ帰れば良い。正武家は別に来てくださいって招いている訳じゃないんだ。会いたいっていうから予定を組んでるだけで、別に会わないといけない訳ではない。あーそうか。だったら今週は全部断ってしまおうか」


 澄彦さんは自分で言ったことに勝手に頷きだした。

 さすがに全部断ったら駄目だと思います。

 半目で見ていると澄彦さんは苦笑いをして冗談だと言うけれど、半分本気だったと思う。

 とりあえず澄彦さん行う変更は、私にとって歓迎すべきものだ。

 何となく洋服屋さんで近寄ってきた店員さんにお断りを入れるような気まずさだった惣領の間のアレが無くなるなら、気疲れしなくて済む。


 安堵して無意識に帯留に触れる。

 私が単独で動くより、澄彦さんがいてくれるなら玉彦も少しは安心してくれるかもしれない。


「さてさて。お役目に行きますか。次代には悪いが、こうして娘と共にお役目出来ると思えば張り合いが出るよ」


 先に立ち上がり襖を開けて肩を揺らした澄彦さんを見て、私は背中を突いた。


「あの、控の間で私は必要でしょうけど、当主の間には必要ないのでは……?」


「あっ、気付いちゃった? でもねこれが本来の神守だから」


「どういうことですか」


 離れへと歩きながら、澄彦さんに並ぶと外廊下で立ち止まって空を見上げた。

 遠い遠いところを見て目を細める。


「神守は正武家と共に在ったのは知っているね? でもその力が弱まってしまって正武家から去った。でも以前はね、当主次代神守が揃って、御門森清藤がそれを支えた。本殿の巫女が座る場所は本来なら神守がいたはずなんだ。そして今日のような役割でお役目を担っていた。蘇芳に振り分けたものは神守が始末していた。だからさ、比和子ちゃんがいるのは当たり前のことだから必要ないとかそんなんじゃないんだよ」


「でも……」


「時々考えるんだ。光一朗が神守として僕の隣にいてくれたらってさ。きっとどんなことだって馬鹿騒ぎしながら乗り越えたと思うよ。だからさほんとしょうもないお願いだけど、少しの間だけ比和子ちゃんを隣に置いておきたいんだ。息子は怒り狂うだろうけど。ぷぷ」


 澄彦さんはそう言って私の先を歩いていく。

 その隣に何となく頭を小突くお父さんが一緒にいるように見えた。

 きっと澄彦さんは違うことも思ったはずで。

 自分の隣にいれば絶対に護れたのにって。

 そしてその役割は息子の玉彦が私を護ることにより引き継がれたけど、彼が不在の今だけ果たせなかったものを全うしたいんだと思った。


「あと二日と半日ですけど、よろしくお願いします」


「正武家澄彦、心得た!」


 振り向いて胸を叩いた澄彦さんは、初めてみたお父さんのアルバムの中にいた時と同じ笑顔だった。







 真夜中零時。


 私は座卓に置いたスマホと睨めっこをしていた。

 午後のお役目も問題なく終わり、夕餉を頂いて明日の予定を確認して。

 もう寝るだけなのだけど、その前に目の前にある問題が一つ。


 玉彦への連絡。


 午前に一度だけ着信があってから、メールもなく沈黙をしていた。

 再び電化製品が壊れる病なのか、怒り過ぎて呆れて連絡すら取りたくないのか。

 玉彦と同行しているのが南天さんならばそちらへ探りを入れてみるけど、流石に宗祐さんにそれは出来ない。

 お願いすれば教えてくれるだろうけど、何となく聞きづらい。

 それはこれが痴話喧嘩に近いものだからだ。


 もう寝ているのか。

 夜の方が動きやすくて活動しているのか。


 とりあえずどんな場合でも迷惑にはならないであろうメールを送ることにしよう。

 そしてお疲れ様と帯留ありがとうとおやすみなさいと送信した。

 もちろんもう少し話題もあったけどお役目に関しては一切触れなかった。

 しばらく待っても返事は来なかったので、冷たいお布団に入って眠りにつく。


 明日も明後日も忙しくなる。

 玉彦ではないけれど眠って消耗した分を回復させないと。


 そして翌朝目覚めても返事はなく。

 朝餉の席で澄彦さんから二人が西入りしたと知らされたのだった。



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