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次代不在


 十一月。


 年内には清藤の粛清が終わると思われていたけど、どうやら怪しい雲行きになってきていた。

 亜由美ちゃんのお家が被害に遭ってからというもの、亜門残党の動きがぱったりと治まってしまったのだ。

 正武家としては待ちの姿勢なので、敢えて動かずを貫いている。


 そうなると一番の皺寄せは自然と私にきていた。

 お屋敷内は自由に行動できるけれど、一歩外に出ようとすれば必ず稀人が付く。

 そしてその稀人には清藤から正武家へと呼び戻され残った三人の内、誰かが付く。

 ちょっとお祖父ちゃんの家まで、とか、ちょっと山向こうのスーパーへと気軽には行けない。

 夕方お役目が終わった玉彦とのお散歩が唯一気軽に出掛けられる。


 この状況は四年前の蔵人の時と一緒だった。

 違うのは私に危害を加えるか加えないかだけ。

 多門は数日宗祐さんとお屋敷を空けることがあったので、水面下では何かが動いているのは確かだったけど、澄彦さんも玉彦も私には語らなかった。

 確実な事案になってから教えてくれるものだと信じるしかない。


 出雲に行っていたはずの御倉神は何故か十月からずっと正武家に入り浸っていて、二日に一度の揚げの日には顔を出す様になっていた。

 一応空気を読んで、玉彦がお役目で不在の時にである。


 で、私は思うわけよ。


 御倉神が正武家のお屋敷に入り浸っているから、亜門たちは仕掛けられないんじゃないかって。

 そうこうしているうちに旧暦で神無月に突入しても御倉神は流石神様というべきか、出雲から鈴白を幾度となく往復をしている。

 もしかしたらテレポーテーションみたいな感じの移動の仕方なのかもしれない。


 そんなある日の昼間。


 私と御倉神は縁側で二人揃って寝転がり、雲を見ては桃だの鴉だのと言い合っていた。

 玉彦に注意をされた通り、無意識に神守の眼で御倉神に接しないように気を付けて。


「暇じゃのー」


「出雲に行ってお仕事してきなさいよ」


「それはそれで良いが、今はここが良いのー」


 あれだけ狗臭いと文句を言っていたくせに、御倉神はもう気にしていないようである。


「比和子様、ちょっと良い?」


 庭から声が聞こえて起き上がると、そこには本殿の巫女見習いになっている香本さんが美憂を従えて立っていた。

 美憂は結局正武家に残っている。

 訓練も何も受けていなかった彼女は付き人としてここに残ることが出来ず、西を出て行く当てがないと多門に相談された私は松梅コンビに預けることにした。

 本殿の巫女の竹婆が代替わりをするなら、松梅コンビもまた跡継ぎが必要だと考えたのだ。

 ただし、松梅コンビが担っていた出納関係は本来の松梅コンビの跡継ぎに任せることにしている。

 その本来の跡継ぎに指名されたのは玉彦も私も良く知る人物で、どうして彼女がと思った私はこっそりと香本さんに聞いてみた。

 するとその彼女は松婆の遠縁にあたるそうで、正武家から打診があった際に快諾をしてくれたらしい。

 案外私の知らないところで、遠い親戚がこの五村にも居るのかもしれない。


「どうしたの? ちょっと御倉神。二人とお話するから、そこ退けてよ」


 そう言ってよだれを垂らす勢いで眠りこけていた御倉神を押しやった。


「比和子様……。私たち、あっちに座るから神様にその扱いはちょっと……」


 私が触れたことにより御倉神の姿を見た二人は慄きながら、反対側に腰掛けた。

 並んだ二人を覗き込むと珍しく香本さんは困った顔をして、その向こうの美憂は俯いてしまった。


「何かあったの? 私でも役に立てること?」


「こんなの比和子様にお願いするのも次代に怒られそうな気がするんだけどさ」


「玉彦が何かしたの?」


「そうじゃなくって。ちっさい事だからお前たちで何とかしろとか言われそうで」


「玉彦にとって小さい事でも、何か問題があるんだったら解決しないと」


 私がそう言って笑えば、ようやく香本さんに笑顔が戻る。

 けれどその向こうの美憂は唇を噛み締めて俯いたままだ。

 私は玉彦の寵愛をと願った彼女に対して、何も思わなかった訳ではないけど今では割り切って水に流したつもり。

 それは付き人にはなれない彼女が考え抜いた結果だったから。

 自分の身を捧げることで居場所を確保するというとんでもない考えだったけどさ。


「そういってもらえると助かる。実はさ、やっぱりこの子と反りが合わなくて離れが大混乱なのよ……」


「あぁ……」


「どうしたら良いと思う?」


「私から話してみる? 仲良くしなさいって」


「お願いできる?」


「うん。大丈夫。あっちってまだお役目中なの?」


「どうだろ。さっき次代は外廊下歩いてたけど」


 ということは今頃お風呂に入っているな。


「乙女。帰る」


 三人で向かい合っていると、背後から御倉神が抱き付いてきたので肩に乗せられた頭を撫でると満足そうに浮かんで消えて行く。

 私たちを見ていた香本さんは不服気に頬を膨らませる。


「本殿の巫女がここにいるっていうのに声も掛けてくれないってどういうこと!?」


「うーん……わかんない」


 きっとまだ御倉神の中では竹婆が巫女なんだと思う。

 以前本殿の離れに御倉神が訪れた時には、竹婆と普通にやり取りしていた。

 巫女として修業中の香本さんには悪いけど、まだ何かが足りないんじゃないかなぁ。

 私はたまたまお祖父ちゃんが御倉神を祀神としている神社の縁者というのと惚稀人として守護をいただいてるから、また別口だし。


 三人で消えた御倉神の行方を見上げていたら、背後で空気が揺れて振り向く。

 そこにはお役目を終えた玉彦がいつもの作務衣姿で襖に手を掛けていた。

 私たちを見て何も言わず、座椅子に座り足を伸ばして目を閉じる。



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