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4


 翌日。


 私の護りに付く蘇芳さんと多門の一派は午後に到着するということで、私は午前中に稀人たちと彼らが使用することになる部屋の最終確認をしていた。

 多門は次代付の稀人となったので、玉彦側の母屋で過ごすこととなる。

 そして彼の付き人たちもそうなる。

 なので自動的にこちらの母屋は一気に人数が増加する。

 それでも空きがある部屋数に、昔はどれほどの使用人がいたのかと驚く。

 現在は稀人が雑用も担っているけれど、そうではない時代には稀人は正武家の人間と同様にお役目以外の仕事にはノータッチだったのだろうと思われる。


 最終確認を終えて休憩の為に台所に寄ると、竜輝くんがお茶を入れて待っていた。

 竜輝くんはもう中学生になっていて、私と同じくらいの身長になっている。

 彼は稀人見習いとして正武家に度々来ては、父親の南天さんに色々と伝授されていた。

 そして私はつい最近まで竜輝くんは私たちの子供の稀人になるのだと思い込んでいたのだけど、壮大な勘違いだった。

 竜輝くんは御門森の直系の長男なので、玉彦の稀人なのだそうだ。

 南天さんは澄彦さんの稀人だし、言われてみればそうなのだけど。

 南天さんの弟である豹馬くんのような次男なのに稀人というのは珍しいことらしく、それもまぁ五村の地の意志なのだろうと思う。


「お疲れ様でした」


 竜輝くんが私の前に冷たい麦茶を出してくれる。

 よくよく周りを見ると、私と須藤くんには麦茶で、豹馬くんには温かいお茶だった。

 何でだろうと竜輝くんを見れば、豹馬くんは叔父である豹馬くんを冷たく一瞥する。


「豹馬さんはお疲れではないようなので、温かいものを。お二方は動かれて暑いでしょうから冷たいものをご用意いたしました」


 ばっさりと切り捨てた竜輝くんに、豹馬くんは白目をむいた。

 確かに最終確認は須藤くんが室内を見回って、足りないものがあれば私がメモを取っていた。

 豹馬くんは後ろを付いて回って、襖の開け閉めだけしていた。


「オレはな、昨夜お役目で朝に帰ったんだぞ。疲れてんだよ」


「でも玉彦様は御休みになられず、朝餉のあと直ぐに惣領の間でお役目されています。玉彦様の方が御疲れのはずなのに、稀人の豹馬さんが疲れたというのは片腹が痛いです」


「なっ、生意気な……」


 竜輝くんに言い負かされた豹馬くんは大人しく湯呑みに息を吹きかけた。

 竜輝くんの師匠は南天さんだけど、家に居た時には曾祖父である九条さんに稀人とは何ぞやと教え込まれていたので、ある意味宗祐さん並みに厳しい面を持っている。

 ついでに九条さんの皮肉気な言い回しも伝授されているようだった。

 頼もしい限りである。


「今夜のお役目は僕だし豹馬はゆっくり休みなよ」


 二人のやり取りに笑っていた須藤くんは、一息に飲んだ麦茶のグラスをテーブルにコトリと置く。

 玉彦が四月から本腰を入れたお役目には、毎回豹馬くんか須藤くんが付くことになっている。

 南天さんは澄彦さんに付くことが多くなり、来年には引退する宗祐さんは竜輝くんを鍛えていた。

 とりあえず来年の三月まで南天さんはこちら側の母屋にいてくれるけれど、彼がいないと正直不安ではある。

 なにせ私が初めてこのお屋敷を訪れた時に、初めて遭遇した人が南天さんだったわけで。

 それ以来、正武家には必ず南天さんが居てくれて当たり前だったのだ。

 これからは澄彦さんの所にいるといっても、寂しい。


「そうする。てか、今夜お役目あったか?」


 須藤くんはちょっと考えてから、言い直した。


「夜の鈴白行脚だよ。ここ数か月昼間ばっかりだったから夜に出向くんだって」


「あー、夜の行脚か……。夜はなぁ……」


 二人は顔を見合わせて、同じことを考えているのか頷き合っている。

 私は昼の行脚に連れて行ってもらったことはあったけれど、夜の行脚は初めて聞いた。

 もしかしたらお役目だと言って夜に出て行った玉彦は、夜の行脚へ行っていたことがあるのかもしれない。

 澄彦さんは日中が最強だって自分でも言ってたくらいだから、夜は玉彦の出番なのかも。

 それにしてもどうして今まで私に夜の鈴白行脚があるって教えてくれなかったんだろ。



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