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 大人五人で昼の準備をし、キャンプさながらの本格的なバーベキューが始まり、腹が一杯になった子供たちは再び遊びへと駆け出していく。

 そしてオレたちは余りものの肉をツマミに酒盛りを始める。

 と言っても呑んでるのはオレと亜由美ちゃんと那奈ちゃんだけで、御門森は運転があるし、比和子ちゃんは玉様から酒を呑んではいけないと言われているらしかった。

 玉様が居ないから呑んでもバレないと缶ビールを勧めても頑として受け取らず、しつこくしていたら横から御門森の腕が伸びて来て缶ビールを掴むと川へと遠投してしまった。


「あっ! 勿体無い!」


「しつこいんだよ。上守は呑まないって言うんだから引き下がれ、馬鹿」


 余計なひと言と遠慮のない肩パンチがオレを襲った。


「痛い……。暴力反対」


「アホか」


 御門森が投げ捨ててしまった缶ビールを亜由美ちゃんが拾いに行く後ろを比和子ちゃんが追っていく。

 それを横目に見ていた那奈ちゃんは口先を尖らせてビールに口を付ける。

 彼女の足元には既に空き缶が数缶転がっていた。


「玉様が男友達連れて来たって言うから来たのに。こんなんだったら須藤が帰って来た方が良かったのにぃ」


 比和子ちゃんといい、那奈ちゃんといい、本人を目の前にしていかがなものかと思うのはオレだけじゃないはずだ。

 それにオレだって玉様や須藤ほどでは無いにしろ、そこそこイケてるはずなんだ。

 御門森は雰囲気イケメンだって言うけれど。


「那奈ちゃんは彼氏いるの?」


 気を取り直してあえて雰囲気を読まない質問をすれば、彼女はオレを見ずに答えた。


「いない。いたら連休どっかに行ってる」


「……ですよねー」


 ばっさりと打ち切られた会話を気にする風でもなく、那奈ちゃんは缶ビールを煽る。まるでやけ酒だ。


「御門森ぃ。須藤はどうしたのよー」


「女のとこ。泊まり」


「アイツ、ちょっと遊び過ぎじゃないの?」


「個人の自由。と玉様は言ってた」


「そんなんで稀人様が務まるのかねー」


「あ、まれびとさまってなんなの?」


 そう言えば希来里もまれびとさまがどうのって言ってたよな。

 会話に紛れ込んだオレを二人は一瞥してスルーした。

 うん。何か田舎特有の疎外感。もう慣れた。


「那奈ちゃんはお仕事何してるのー?」


「事務」


「あ、そう」


「……会話が広がらないなら話し掛けんな。あーもう。せっかく出会いがあると思って気合入れてきたのに」


「いいじゃん。オレと出会ったじゃん。ここから輪が広がるかもじゃん」


 オレが言えば那奈ちゃんは喰い気味に身を乗り出したけど、彼女が出会いたいジャンルの男を聞けば理想が高すぎてオレの周りにはそんな金持ちやイケメンや優しすぎる王子様はいなかった。

 いや、いないだろ、普通に。

 玉様や須藤が身近に居るから感覚がズレてるんだろうか。

 世の中は世知辛いぞ。

 田舎から飛び出して外の世界を見た方が良いと思う。

 そうしたら理想と現実のギャップを思い知るはずだ。

 そしてオレがその中で普通だと思ってくれるはずだ。


「類友で玉様の周りにいないかなー」


「いないだろ。玉様の周りは確かに男ばっかだけど、鰉の気にいる奴はいないぞ。さてガキたちを送るか。お前ら、後片付け始めろよー」


 話を切り上げた御門森は川で遊ぶ子供たちを二つに分けて車で家まで送る。

 オレ達はその間に後片付けを始めた。

 送りの二陣で子供と那奈ちゃん亜由美ちゃんを乗せた車を見送り、川べりにはオレと比和子ちゃんと 竜輝が残された。  


 あらかた片付けが終わり、三人で水面みなもに映る夕陽に変わりつつあった太陽の光を無心で眺めていると、明らかに川の流れとは違う何かが水流を歪めた。

 最初は小石が投げ込まれたと思った。

 でも隣の竜輝や比和子ちゃんを見ても特におかしな動きはしていない。

 二人は水面ではなく、川の向こうの林を指差して鳥が飛び立ったなどと話している。


 オレは目を逸らせずずっと水面を見ていた。

 何となく、予感はしていたんだ。たぶんあれで終わりじゃないだろうって。

 オレは小さい頃から変な出来事に巻き込まれることが多かった。

 所謂怪奇現象ってやつだ。


 婆ちゃんは子供は敏感だから大人になれば収まるって言ってて、両親にいたっては自分たちの子供には虚言癖があると思っていた。

 オレ以外に見える友達も居なかったから信じてもらえなくて、でも大学生になってからピタリと治まったから、婆ちゃんの言う通り大人になったから見えなくなったものだとばかり思っていた。

 けれどこの村に来てから童心に戻ってしまったのか何となく目の端々に見えてはいけないもの、というか感じたくないものの気配があったように思うんだ。

 玉様の家ではそんなことは無かったけど、一歩外に出れば妙な圧迫感があった。


 水面からずっしりと重そうな昆布が盛り上がる。

 うん。例えてみたけど昆布ではない。

 もう分かりきっているが、アレは半魚人の濡れた髪である。

 川は膝の高さくらいの浅瀬なので、アイツは一体水中でどんな格好であんな頭から出るような事態になっているのか想像すると笑えた。


 そう、笑えた。

 笑えるというのは大事なポイントだ。

 これはオレが学んだこと。

 お化けを見て恐れるのはもう疲れたのだ。

 それに奴らはこっちがビビるとここぞとばかりに脅しを畳みかけてくる。



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