冬を描くつもりで最高の白を探していたら
児童書位で書いたつもりです。
宜しくお願いします。
冬の早朝。ひんやりとした空気。静寂が周囲を支配する。
絵舞は美術の課題である『冬の風景画』を描くため朝日が出たばかりの街を歩いていた。
(さっぶーい)
寒いのはわかっており厚着をして街に出ていたが早朝の寒さは想像以上。
深夜の降った雪は木々に白化粧をさせる。風が吹くとそこから雪の粒子が落ち、朝日に反射される。とても幻想的。絵舞はその風景をスマホで撮影する。
「クァクァクァ」
次に来た場所は凍った池。氷の上に雪がびっしり重なる。その上を白鳥が歩く。白鳥の体からは蒸気が立ち込め躍動的。絵舞は氷の池と白鳥の動きをスマホで撮影する。
冬の写真を撮り終え帰路に着く。
絵舞は自宅に着くなり自室に籠り机に向かう。画用紙とスマホをにらめっこ。どんな冬の風景が良いだろう?
冬の風景。彼女は直感で白と思った。白は題材としては難しい。色々な色の白が在るのだ。白い色を画用紙の白で済ませるのは論外だ。
「ゴン。ゴン。ゴン」
部屋の窓を乱暴に叩く音がする。ここは二階。絵舞は何事かとその場所を見る。そこには先ほど写真を撮った白鳥がくちばしを使いで窓を突っついていた。
「白鳥さん。こんばんは。どうしたの」
彼女は思わず窓を開け白鳥に挨拶をした。
「ボクヲエガケ」
「はい?」
「ボクヲエガケ」
「うふふ」
「ボクヲエガケ」
絵舞は何だか楽しくなって来た。白鳥が言葉を喋りしかも自分のことを描けと要求しているのだ。
「わかりました。白鳥さんのこと描きます」
「ボクヲエガケ」
「慌てない慌てない」
ペンを取りスケッチブックに白鳥を描く。実物がそばにありデッサン仕放題だ。ただ、風景画と違い生きている鳥だ。動きが加わる。難易度がぐーんとあがる。
小一時間、白鳥とにらめっこ。やっと下絵が出来きあがる。絵舞から見てもなかなかの出来映えだった。
「え?」
絵に気を取られていると白鳥の姿はすでになかった。そこにいたのは見知らぬ外国人だ。ブロンドの髪。瞳はブルー。端整な顔立ち。まるで白馬の王子様。
絵舞は思わず椅子から立ち上がり叫ぶ。
「キャャャァーーー変質者!」
「待て待て待て。変質者ではない。私はデネブ王国の王子でジークフリート・デネブだ」
男は手を広げ絵舞を落ち着かせようとする。しかしその行動は逆効果だった。
「イヤーけ、警察」
絵舞はスマホを手にする。
「アイシクル」
ジークフリートがそう発音すると絵舞のスマホに向かいツララが飛んで来た。彼女の手からスマホが消える。スマホは壁にぶつかり使用不可となった。
絵舞は呆然と見知らぬ男を見た。彼に対し恐怖で体が震える。
「危ない目に合わせすまない。話しを聞いて欲しくて魔法を使ってしまった」
ジークフリートはひざまずき絵舞に謝罪する。その姿をみた彼女は冷静さを取り戻すために気持ちを高ぶらせ彼に反撃をする。
「どうしてくれるの!スマホ高かったんだから。弁償してよ」
「わかった。我が国へ戻った際には財宝をプレゼントしよう」
「絶対だからね!あーあ。お母さんに何て言おう」
絵舞は腕を組みいろんなことを考えた。目の前いる謎の男のことについて。悪い人ではなさそうだか自宅に不法侵入してくるのは犯罪だ。身の安全が確保されたわけではない。
チラリと男の方を確認する。こちらの視線に気づき彼が話だした。
「まずは私に掛かっていた呪いを解いてくれてありがとう。感謝する」
「呪い?」
絵舞は嫌な響きに思わず聞きかえす。
「そう呪いだ。私は魔女により呪いを掛けられ白鳥になり異世界へ飛ばされてしまった。もう少し遅ければ自我が無くなり一生白鳥として生を終えるところだった」
「え?じゃあ。あの私が描いた白鳥が貴方なの?」
絵舞は目を丸くして疑問をぶつける。
「そうだ」
ジークフリートは彼女の質問に素直に答えた。
「頭おかしい?」
絵舞の素直な感想。
「事実だ」
ジークフリートは反論する。
絵舞は現状を把握するため深呼吸をする。あらためてジークフリートのことを見る。変態だけど悪い人ではなさそうと結論付け、話を聞くことにした。
「私の名前は狩野絵舞。貴方は?」
「先ほど挨拶したのだがデネブ王国、王子。ジークフリート・デネブだ」
「なんでここにいるの?」
「魔女に呪いをかけられ異世界へ飛ばされてしまった」
「さっき聞いた」
「君が再び聞いたから答えただけだ」
絵舞はジークフリートの言葉に苛立ちを覚えた。
「そうですか。では家から出て行って下さい。不法侵入です」
「待ってくれ。元の世界に戻る方法を探す手伝いをしてくれないか?」
「ハァ?」
「君は私の呪いを解いた者だ。元の世界に行くヒントも持っている可能性がある。頼む!手伝ってくれ」
「お断りします。お帰りはあちらです」
こんな妄想外国人の相手などしてられない。絵舞は部屋のドアあけジークフリートに出て行くよう促す。
「魔女の名はロットバルト。何か心当たりないか?」
「どうぞお引き取り下さい」
男はなかなか引き下がらない。絵舞は冷たくあしらう。
「些細なことで良い。私はあの場所に戻りオデットの助けなくてはならないのだ。そして君はおそらくオデットを助ける力を持つ。頼む!」
ジークフリートは震えながら頭を下げる。その真剣さに絵舞は再び話を聞くことにした。
「解りました。話を聞きます」
「ありがとう。すまない」
ジークフリートと絵舞から緊張が少し消えた。
「オデットさんって大切な方なんですね」
「彼女と一生添い遂げるつもりだ。すまないが私と君が初めて出会った場所に来てくれないか?そこに元の世界に帰る手掛かりがあるはずだ。一緒に探してくれ」
「私と貴方と初めて出会った場所はここでは?」
「私が呪いで白鳥の時に出会った今朝の湖だ」
「あそこですか。解りました。行って見ましょう。何かヒントが有ればいいですね」
「感謝する」
ジークフリートは深々と頭を下げた。
絵舞とジークフリートは二人が初めて出会った池に移動した。彼女はスケッチブックを持参する。
時刻はお昼ちょっと前。冬のだというのに数名のお年寄りや子供達が散策を楽しんでいた。目的は白鳥のエサあげらしい。何名かのカメラマンもシャッターチャンスを伺っていた。
朝の水蒸気などもなく平和な昼前だ。
絵舞は今朝と同じ撮影ポイントに立つ。今朝との違いは背の高いお兄さんが横に立っていることだ。
「私はここからスマホで白鳥の写真を撮っていたの」
「あぁ。私もあの瞬間何故か人間の意識を取り戻し、君のことを見つけた」
「どういう状況で呪いに掛かったの?」
「魔女と戦っている最中だ。もう少しでトドメを刺す寸前で呪われた」
「白鳥にされたのは貴方だけ?」
「あ!いや。あと時は二人。レイモンドという我が国の騎士とアクアという魔導師も白鳥に変えられた」
「そう」
絵舞はスケッチブックを開きペンを取る。
「何をしている?」
「貴方の呪いは私が描いたことで解けたのならここで絵を描いたら呪いが、解ける人が出てこない?少し待ってね」
絵舞は集中して描き始める。真冬の湖だ。手はかじかむ。白鳥の数も50羽は超えていそうだ。彼女は手にあかぎれを作りながら1羽づつ丁寧に描く。描き始めてから1時間ほと立つとジークフリートが騒ぎだす。絵舞は描くことに集中していたため気づかなかい。
「終わった~お腹減った。え!」
時刻は夕刻になっていた。もうじき闇に包まれる。
絵舞がペンを置いた瞬間手を握られる。驚きその手の先を追う。泣き顔のジークフリートの顔がそこにあった。
「ありがとう。ありがとう」
「ちょっ。ちょっと落ち着いて」
ジークフリートの壊れぷっりに絵舞は逆に落ち着いていた。彼の目線を反らすべく周囲を見渡す。彼女の周りには3人の外国人が立っていた。ジークフリートの他に男性が1人女性が2人だ。
(誰?)
絵舞の視線に気づくと3人は跪ずいた。
「女神様。この度のこと感謝致します」
3人の内の一番綺麗な女性が代表で絵舞に挨拶をしてきた。
(女神様?私が?)
絵舞は困惑した。
「状況が飲み込めないんだけど?貴方達は誰?」
「私の名はベガ・オデット。ベガ家の娘でございます」
「貴女がオデットさん」
絵舞はオデットと名乗る女性を改めて見てから自分の手を握る男の手をはねのけた。
「ジークフリートさん。私より彼女の元に行かないと」
「大丈夫だ。彼女とはすでに一時間ほど会話をしている。それに君の手の方が心配だ」
ジークフリートは絵舞の手を再び掴む。予想外の行動に絵舞は顔が赤くなりうつ向く。
「残りの男が騎士団長のレイモンド。女が魔導師長のアクアだ」
ジークフリートに他の2名も紹介する。それぞれが絵舞に対し頭を下げる。挨拶をされ返事をするのが礼儀たが彼女に余裕がなかった。
「ジークフリート様。女神様が困っています。お離れになって下さい」
「そうか?」
絵舞に助け舟をくれたのはオデットだった。ジークフリートは彼女に頭が上がらないらしく、絵舞をすぐに解放してくれた。
「狩野絵舞です」
絵舞は増えた外国人に自己紹介をする。
(本当にこの人達、白鳥だったの?ここに待ち合わせていて時間で集まった外人集団じゃないの?)
どうしても疑うとこから入る癖が絵舞にはあった。
「そろそろ夜になるけど。皆さんはどうする予定なの?」
絵舞はこの怪しい外人集団がどう動くのか気になった。変な動きをするようなら警察へ駆け込むつもりだ。
「絵舞に御礼をしたい。食事はどうだ?絵舞の好きな物を食べるがよい」
意外言葉が返って来た。絵舞は昼食抜きだったため、有難い申し入れだった。あとはこの人達が信用出来るかどうかだ。
『グゥ』
周辺に絵舞のお腹の音が響く。どうやらお腹は限界のようだ。彼女は4人を信用することにした。
「ラーメンを食べようかな」
絵舞は恥ずかしそうに答える。体が冷えきっていた為、何か暖かい物が欲しくなった。暖かい食べ物を想像するとラーメンしか思いつかなかったのだ。
「ラーメンとはなんだ?」
ジークフリートはラーメンを知らないようだ。他の3人も首を横に振る。
「私が案内するよ」
絵舞は意気揚々と先頭に立って歩き出す。他のメンバーもついて来る。ラーメン店に向け歩いていると冬特有の冷たい突風が来た。絵舞は首を縮め寒さをしのぐ。
そのタイミングでジークフリートが絵舞の前に立ちはだかった。他の3人のも絵舞を囲うような位置に立った。絵舞は自分の判断が間違っていたと思った。
(しまった!囲まれた。やっぱりヤバい集団だった。ど、どうしよう?)
「おや、ロットバルト様のお言葉通り呪いが解けているではありませんか。」
ジークフリートの前にピエロの格好をした男?が立っていた。その人は魔女ロットバルトに様をつける。
「道化師!」
ジークフリートが叫ぶ。彼を中心にピエロに対し皆が身構える。
「武具のないあなた方など僕の敵ではないですね。このままこの地で土となれ」
ピエロはジークフリートに剣を持ちながら向かってくる。
「アイシクル」
ジークフリートは魔法で応戦する。数百本のつららが道化師を襲う。道化師はすかさず手から炎を出した。ジークフリートのつららは消えて無くなる。
「さらばらだ。王子」
道化師の剣がジークフリートに届いたように見えた。
「させるかよ!」
道化師の剣はレイモンドにより止められる。真剣白羽取りだ。そのまま道化師を投げ飛ばす。
「行け!ウォーターキャノン」
アクアがすかさず道化師に魔法を打ち込む。道化師は体をひねり魔法を交わした。
絵舞は今起こった出来事に考えが追い付かす。恐怖のあまりに座りこむ。手にしていたペンとスケッチブックも滑り落ちる。
「絵舞様。大丈夫ですか?」
オデットは絵舞に声を掛ける。
「だ、大丈夫です」
絵舞は泣きそうになりながらなんとか返事をする。
「安全な場所へ移動しましょう」
「そ、そうだね。でも私、腰抜けちゃって立てないや」
「大丈夫です。飛びますから。私の手を取って下さい」
「はい」
絵舞は言われるままオデットの手を取る。一瞬で世界が見慣れない光景に変わる。
「首尾はどうだ?」
巨体な大広間にポツンと3人の人がいる。絵舞とオデット。それに白髪のお爺さんだ。何処かのお城の中のようだ。白髪の老人がオデットに話かけていた。
「バッチリよ。ロットバルト様が探していた呪いを解ける人間を連れて来たわ」
「オデットさん?ここは?」
絵舞はオデットに何処に来たのか聞いた。彼女は悪女の笑みを見せる。
「うふふ。ごめんなさいね。ここはロットバルト様の屋敷よ。そして私オデットじゃないわ。私の名はオディール。ロットバルト様のしもべよ」
絵舞は何を言われたか理解出来なかった。
「でも、ジークフリートはオデットって読んでいたよ」
「私とオデットってそっくりなのよ。多分入れ替わってもわからないわ」
絵舞はショックを受ける。どうやら騙され異世界へ拉致されてしまったようだ。
大広間のドアが開く。白髪のお爺さんとオディールは絵舞を力ずくで跪ずかせた。
「いらしゃい。女神様。お名前なんて言うの?」
入って来たのは漆黒のドレスを着た中年ぐらいの女性だった。
「絵舞」
「初めまして絵舞。私の名はロットバルト。では、さようなら」
ロットバルトは絵舞に右手の手のひらを見せると独り言を呟き始める。絵馬はロットバルトの様子を睨み付ける。暫く2人の姿勢は続いた。
「絵馬。私と一緒にディナーを食べましよう。シナガ。準備なさい」
睨み合いを先に止めたのは魔女の方だった。
「はっ」
魔女の言葉に白髪の老人が素早く反応する。絵舞を抑えつけるのを止め解放した。そのまま部屋から退出して行った。
絵舞は解放はされたが周囲を警戒し魔女から視線を外さなかった。
「なんで貴女とご飯を食べる必要があるの?」
「どうも思い違いがあるようですから、食事でもしながらゆっくりお話しましょう。オディール。彼女を食堂へ案内してあげて」
「はい。こっちよ。ついてきなさい」
絵舞は指示に従うことにする。オディールは部屋を出てスタスタと廊下を前に進む。一つのドアの前で立ち止まった。
「ここよ」
『ぎいー』とドアが開く。先ほど見た白髪のお爺さんがテーブルの周りを動き回る。食事の準備をしているようだった。
「あら。少し早かったかしら。ちょっと時間潰ししましょうか。シナガ頑張ってね」
オディールは白髪のお爺さんに声を掛け、絵舞を別室へと案内する。別室にはソファーとテーブルが置いてある。テーブルの上にお茶セットが置かれていた。絵舞はソファーに座りオディールはお茶をセットを手に取る。
「お茶入れるわ。紅茶で良いかしら」
「結構です」
オディールが絵舞にお茶を入れようとしたが彼女は全力で拒否した。
「あら、残念」
オディールは自分の分だけお茶をいれる。彼女もソファーに座り絵舞の姿を正面にいれながらお茶を一口飲む。
「あなた、何故お母様の呪いに掛からないの?」
「はい?」
絵舞には意味不明。
「ロットバルトは私のお母様なの」
「いえ、そこじゃなくてアレは呪いだったの?」
「そうよお母様のとっておきの魔法。呪い。全て受け流がしていたじゃない」
「そんな事はしてないよ」
「あら、無意識なの。流石、女神様」
絵舞はロットバルトとの初対面を思い起こす。手のひらをめい一杯開いて呪文らしき独り言を呟いていた。
(あれが呪い?白鳥になる呪い?私は邪魔な存在。何故食事?)
「あれは呪いなの?」
色々な疑問はあったが、まずは呪いついて聞いて見る。
「そう。呪い。貴女には通じないみたいね。おかげてお母様は策を練り直すぽいわ」
「私をどうするつもりなの?」
「さあ?仲間に引き入れるんじゃない?」
「仲間になるわけないでしょ!」
「そうね。そんな面倒なことしないで切りつければ一瞬で終わるのにね」
オディールがニヤっと笑う。魔性の微笑みだ。絵舞はただ身震いをする。
「冗談だからそんな怖い顔しないの。私はジークフリート様の妻になれればそれで良いんだけどね」
「え?」
絵舞は驚きついつい、オディールの顔を見てしまう。それは恋する乙女の顔だった。
「止め止め。道化師が送られた時点で終了かな」
「ジークフリートを助けてあげれないの?」
「助けてあげたいけどお母様相手だと無理かしら。しっ!」
オディールは強引に話を切る。そのタイミングで『コンコン』とノックの音がした。
「どうぞ」
オディールが返事をすると先ほどの白髪のお爺さんが部屋へ入って来た。
「オディール。食事の準備が出来た。ロットバルト様がお待ちだ」
「わかったわ。さ、行きますよ。女神様」
オディールは絵舞に食堂へ移動するように促す。絵舞は従うしかなかった。
食堂へ到着すると、そこには贅沢な料理が並んでいた。主に肉肉肉。
中央にロットバルトが座りその横にオディール。絵舞は魔女と向かい合い座る。
「始めましょう。絵舞ようこそ。歓迎するわ」
魔女は赤い液体の入ったグラスを顔近くにあげる。オディールもならう。絵舞は自分がその行動をとるのに躊躇した。
「毒など入ってないわ。ただのワインよ。ワインを知らないの?」
「知ってますよ。ただ貴方達に食事をご馳走される謂われがありません」
絵舞はロットバルトを睨み付け反論する。魔女は楽しそうにしながらワインを口に含む。
「あら、貴女と仲良くするための親睦会よ」
「私に利がありません」
「こっちの世界で裕福に生きて行けるわよ」
「私は元の世界に戻りたいです」
「戻れるけどねぇ~。私の気分しだいかな?」
「脅しですか?」
「嫌ねぇ。仲良くしましょうって言っているじゃない。まずは好きな物を食べて」
『ぐう』と絵舞のお腹がなる。テーブル上に美味しそうな肉料理。もう我慢出来なくなり彼女は肉にナイフをいれる。
「絵舞!無事か?」
食堂の扉が突然開く。絵舞を呼ぶ声。そこにはジークフリートの姿があった。
「食事中にうるさいのが来ましたね。貴女閉じてなかったの?」
ロットバルトはオディールへ静かに問い正す。
「は、はい。道化師が戻ると思い開けたままです」
「ホントなの?このアホを呼ぶために開いていたんじゃないの?」
「絵舞。頭を下げろ!アイシクル」
ジークフリートからつららの魔法が発せられる。そのつららはロットバルトの手前で飛び散った。透明な壁が目の前に存在しているらしい。
「絵舞。無事か?」
魔法を放ったあと、ジークフリートは絵舞に駆け寄る。
「はい」
無事を確認しジークフリートは安堵した。
「聖剣まで与えられたのに遅れてすまん。まずはここから脱出しよう」
「え?え?」
絵舞はジークフリートに剣を渡した記憶力などない。だが彼の手には立派な剣が持たれていた。
「逃がすと思うの?」
ロットバルトとが両手を広げジークフリートへ向け呪文を唱え始める。
「おっとその呪いを食らう訳にはいかねえな」
今度はレイモンドが出て盾を構える。その盾はロットバルトの魔法を防いだようだ。
「聖盾!イャー」
ロットバルトが驚き悲鳴をあげる。その瞬間、魔女は一羽の黒鳥の姿に変わった。
ジークフリートの顔つきが変わる。チャンスとばかりに白髪のお爺さんに向け飛び込む。白髪のお爺さんは成す術もなく倒れた。その刃はすぐオディールに飛んだ。
「やめてぇぇ!」
絵舞は叫んだ。その瞬間聖剣がペンへと変化する。ジークフリートの剣は空を斬った。
「絵舞、何故止める。今、コイツを倒さないと危険だ」
「その人は危険な人ではないから」
「そんな事はない。ロットバルトの血を引く悪し者だ」
「ここまで貴方達を連れて来たのは彼女だよ。彼女も被害者だから」
ジークフリートは困っていたが絵舞の決定に従うことにした。
「わかった。捕らえて牢に入ってもらう」
「そうして」
「はぁ?あんたらバカなの?魔女の娘よ。とっとと殺しなさいよ!」
オディールは自分を殺せと主張する。絵舞にはどうしてもそれが良いとは思えなかった。
「絵舞に感謝するんだな」
その日の夜。ジークフリート達の城で1泊することとなった。王子が凱旋すると城は慌ただしく騒ぎになった。しかし今日戦った者は皆が疲れており、城の中で軽い食事を取りその日は眠りについた。
翌日の早朝。絵馬は異世界の湖に立っていた。そこには数十羽の白鳥が羽を休めていた。彼女の側にはジークフリートと衛兵が待機していた。一部の住民も見学にくる有り様だ。
「では始めます」
絵舞は再び白鳥を描く。1羽1羽丁寧に。始めは周りが物々しく集中力に欠けたか30分も立てば集中出来るようなる。
1時間程度立った頃より周辺がざわつき始める。
「王子の話はホントだったのか」
「お、オヤジ!」
どんどん、どんどん、白鳥が人の姿に戻って行く。皆が歓喜に包まれる。
絵舞は全ての白鳥を描き終えペンを置き、背伸びをする。日はまだ空高く異世界を暖かく照らしていた。
「女神様。本日はありがとうございます。感謝の言葉が足りません」
「あれ?ジークフリートさんは?」
絵舞に挨拶したのは騎士のレイモンドだった。
「あぁ。一目惚れだったらしいが、オデット譲にはすでに婚約者がいたらしくて、揉めてる」
「はい?」
「アイツの独りよがりだったってことで」
その日の夜、大きな晩餐が開かれると聞いていたが絵舞は自分の世界へ帰るため、オディールと対面していた。
「貴女なら私を元の世界へ返せるでしょ」
「出来るわよ」
「お願い。元の世界へ返して。そしてオディールさんあっちの世界で暮らさない?あっちなら殺されることはないよ」
絵舞の申し入れにオディールは呆れ顔だ。
「うふふ。バカな子ねぇ。嫌いじゃないわ。でも貴女を元の世界へ送ったら戻ってこちらで処罰を受けるわ。ケジメだもの」
「そう。わかった」
絵舞はオディールを連れ城を抜け出す。魔導師アクアに城への説明を頼み、護衛に騎士レイモンドについてもらう。ジークフリートには話していない。
ロットバルトが住んでいた屋敷へ到着する。オディールは直ぐに魔方陣を書き始める。魔方陣を書き終えるとオディールは呪文を唱え始める。
魔方陣が光、一瞬にして絵舞は自分の世界へ戻って来た。
「バイバイ。絵舞」
オディールの言葉は寂しそうに別れの挨拶をする。死を覚悟した笑顔に見えた。
「では、女神様失礼します。さあ、行け」
「はい。はい」
レイモンドにまくし立てあげられオディールは元の世界へ戻っていった。
「ただいま」
絵舞は元気よく自宅の玄関を開ける。
「絵舞」
絵舞の母が叫び彼女に抱きついて来た。
「本部、対象者保護しました」
「この人誰?お母さん何があったの?」
絵舞が家に帰ると父母、祖父母まで揃い。見知らね男性が数名家にいた。
「あなたが帰って来ないから捜索願いを出したの。怪しい外国人と一緒にいたって目撃情報があって。心配したんだから」
どうやら私は誘拐されたことになっていた。壊されたスマホも家に転がっており、本気で家族が心配したようだ。
絵舞は何処にいたのか説明出来なくて困ってしまう。仕方がなく道に迷いこんだと説明した。
二日後。色んな場所へ状況を説明し謝り終わり、絵舞に普段の生活が戻って来た。やっと美術の課題へ取り組めるようになった。もちろん描く絵は白鳥。
集中して二時間。冬の風景見事に躍動する白鳥の絵が完成しました。
「ドンドンドン」
ドアを叩く音。絵舞はインターホン越し来客者を確認します。その姿をみて直ぐにドアを開ける。
「絵舞、財宝を持って来た。あとラーメンをご馳走しよう」
玄関にはジークフリートとオディールが並んで立っていました。