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現代知識こそが最も有能!   作者: 蘇我栄一郎
異世界に適応するまで
3/31

三話ですぜ、旦那!

ニシン来たかとカモメに問えばぁ〜〜!

ハァーー、ワッショイワッショイ└(゜∀゜└) (┘゜∀゜)┘


(o’∀`)♪ーー└(゜∀゜└) (┘゜∀゜)┘

 ドキャッ、とも、バキャッ、とも聞こえる音が、ギルバードさんが振り下ろした斧から発生した。

 私が本気で振り下ろしたとしても、決して出ないであろう音なのは間違いない。

 そして、そうして振り下ろされた斧によって、丸太は二分割されていた。

 この結果も、私では決して成し得ないものであるのは間違いない。

 二度、三度と斧を振り下ろせば私でも出来るだろうが、一度振り下ろしただけで三十センチの太さの丸太を両断するなど不可能である。

 それを成し得たギルバードさんは、その結果に対して別段思う事も無いのか当然だと言いたげな表情を浮かべる。

 それは他の面々も同じで、彼らからすると当たり前の光景らしい。


「いつも通りだな」


「あぁ。アイツは馬鹿だが、パワーだけは勝てる気がしない」


「気は利かないが、パワーだけはな」


「………馬鹿だし気は利かないが、確かにパワーだけは俺も同意件だ」


「うるせぇっつうの!」


 やいのやいのと言い合う面々だが、その言い合いが終わると胡散臭げな表情を再び浮かべて私へと視線を向ける。

 彼らが言いたいのは勿論、これで何が分かるのかと、そういう事なのだろう。

 それ故、私は新たな丸太を用意し、同じように地面に設置する。

 そして、もう一度どうぞと、笑みと共にそう告げた。

 するとギルバードさんは、大きく溜め息を吐きながら、私に武器の値段を見直すべきだと言いたげな視線を向けて来る。

 しかし、私はその視線に屈する事も無く、堂々とした素振りで腕を組み、笑みを浮かべたまま黙して待つ。


「はぁぁ。分かったよ。それじゃあ、もう一回やってやるよ」


 私が一向に自信満々な態度を崩さないので、ギルバードさんは諦めた様子で丸太に向き直る。

 そして、一度めと同じく、斧を大きく振り上げたかと思えば一気に振り下ろす。

 その結果は、これも一度目と同じく二分割にされて終わりだった。

 しかし、一度目とは大きく違うのが彼らの反応である。

 従来の斧であるならば、一度目で刃が潰れて二度目は満足な効果を期待出来なかっただろう。

 だが、私の武器はそうそう刃が潰れる事など無いし、刃こぼれする事も無い。

 それ故に、一度目と同じ結果を出した斧に、彼らは驚愕したのだ。


「おいおいおいおい! 何でまだ斬れる?!

 いや、それより、これを見ろよ!」


 ギョッとした表情で沈黙する面々に向かって、ギルバードさんは自分が持つ斧の刃部分を指差しながら詰め寄った。

 そして、彼らは全員が生唾を飲み込み、夢幻の類いでは無く、これが現実なのを確かめるかのように何度も目を擦る。

 私はその反応を見て、鼻高々であった。

 私が鍛造という概念を発見した訳では無いのだが、それでもギルバードさんが手に持つ武器を造ったのはあくまでも私なのだから、少々天狗になっても良い筈だ。

 何せ、一年と三ヶ月を要して、漸くこれだけの武器を造れるようになったのだ。

 その努力は私個人の成果なのだから、一体全体誰が私を責められよう。


「刃が全然潰れてないぞ! 刃こぼれもしてない!」


「「「「………二度も振るったのに」」」」


 私から言わせれば、二度()、ではなく、まだ二度だけ(●●)、である。

 たかが一度振るっただけで刃が潰れるこの世界の武器が、そもそも武器としてショボいとしか言えないのだ。

 まぁ、鋳造品と鍛造品を比べるのが烏滸がましいと言えばそうなのであるが、それでも焼き入れぐらいしていればまだ違うのに、それすらされていないのがこの世界の武器の現状なのである。

 それらの武器と比べれば、如何に私の武器が異質に見えたかは彼らの反応で明らかだ。


「こ、コーター。………あのよ、他の武器も同じ感じか?」


 ギルバードさんにコーターと呼ばれ、私は誰を呼んでいるのか少し分からず困惑するが、それが私の名であるのを思い出し、慌てて頷いた。

 自己紹介された時、私は自身の名を康太であると告げたのだが、彼らはコーターだと勘違いしたらしく、私はその勘違いを敢えてスルーしたのだ。

 何故なら、少し考えれば分かる事なのだが、日本語が通じるとは言っても名前は西洋風なのがこの世界の通常であるようなので、そもそも康太という名が異質なのである。

 それ故、私は彼らの勘違いを訂正する事なく、敢えてそれを受け入れていた。


 ともあれ、私がギルバードさんの問いに肯定の頷きを返すと、彼らは全員が武器店へと駆け足で戻った。

 そして、それぞれが手に持つ武器と同じ物を手に取り、棚の側に置いておいたお試し用の丸太を片手に店外へと出る。

 それからは勿論、そのお試し用の丸太に向かって武器を振り下ろしたり突いたり、それはもう満足するまで満面の笑みでもって武器を振るう面々。

 その光景は、ある種の見てはいけない者達のようで、私としてはドン引きである。

 キチガイの類いにしか見えず、余りに不気味過ぎたのだ。


 そうして暫くすると、彼らは武器の性能に満足したのか、全員が武器を売ってくれと言い出した。

 まぁ、結果に至るまでは少し想定外の光景が目の前で繰り広げられてしまったが、やはり私の思惑に間違いは無かった。

 当初の予定通り、私の武器は誰もが欲しがる一品となるだろう。

 しかし、そんな私の思惑とは少し違う事もあった。

 それは、彼らが私の武器の値段に対して、これでは安過ぎると断言した事である。

 その評価は、武器を製作した私としては非常に嬉しい気持ちで一杯なのだが、余りに高いと売れなくなってしまうという懸念もあるので、正直言えば有り難迷惑であると言えなくもない。

 だが、彼らの話をよくよく聞けば、その根拠も一応理解出来た。

 世間一般の者が一月に必要な金額は、金貨一枚。

 その世間一般の者が、もし病気になった場合に薬師の所で買う薬が一つ最低でも金貨一枚。

 その事実を加味すると、私の武器はとんでもない金額となるのだが、冒険者や傭兵であれば、そのとんでもない金額でもポンと出せるくらいには稼ぐ者もそこそこ居るらしい。

 そんな稼げる者達からすると、今まで使用していた武器とは一線を画する武器となるので、誰もが挙って買うのは間違いなく、私の武器の性能であれば、今まで以上に稼げるのが予想出来るので余計に安く感じてしまうのだそうだ。

 そう言われてみれば、確かにそうかもしれないと思える部分も存在する。

 それは冒険者の活動内容を彼らに聞けば、門外漢の私でも良く理解出来た。


 従来のナマクラ武器を手に狩りへと出発し、標的を見付けて襲い掛かる。

 その一回の襲撃で仕留められれば良いが、殆どの場合は逃げられてしまうそうで、中途半端に戦闘した結果、刃が潰れてしまっているので、砥石で研いで刃を鋭くする時間が必須になり、標的に完全に逃げられてしまう。

 その逃げられてしまう結果を生む時間が、私の武器では存在し無い。

 だからこそ、冒険者ならば今までよりも効率良く狩りが行える。

 すると稼ぎが上がり、上がれば当然、私の武器の値段が安く感じるだろうと、そう断言されたのだ。


 物凄く納得したし、そんなに冒険者や傭兵が稼いでいるのかと少しビックリもした。

 何せ、私が町で情報収集していた際には、厳つい冒険者は勿論の事、ギラギラした目付きの傭兵には絶対に声を掛けないようにしていたので、彼らの稼ぎなど全く知らなかったのだ。

 今ならば、目の前のギルバードさん達と話していて気の良い人達なのだと理解しているので、冒険者だけにならば質問する事くらいは出来るだろう。

 だけど傭兵は、はっきり言って無理だ。

 冒険者は危険生物を相手にする職業なのだが、傭兵が相手にするのは人間なのである。

 それは戦争で雇われたりするのが主になる傭兵の生業を考えれば、当然と言えば当然の事。

 ともすれば、彼ら傭兵は幾人も人を殺しているという事になる。

 そんな傭兵達は、目を見れば明らかに人を殺しているのが丸分かりなのだ。

 常にギラギラとした目をしており、とても安易に話し掛けるのは得策ではないと思わせられる。

 はっきり言って、怖いのだ。

 冒険者以上に怖いのである。

 だからこそ私は、冒険者と傭兵には声を掛けていないし、それ故に彼らの情報は何も無い。


 ギルバードさん達から聞く話の内容は、今まで分からなかった部分を埋める貴重な情報となった。

 そのお陰で、武器の値段に一考の余地があるのを知れた。

 因みに、ギルバードさん達が言う稼げる者達というのは、中級冒険者や中級傭兵の事で、その中でも上位に位置する者達の事である。

 それ以外の者達であれば、金貨三十枚というのは非常に高い額となるが、そういう者達には初心者用として扱い易い武器を造り、重量を半分以下にした物であるとかの工夫をして売れば問題無く買えるだろう。

 本当に有り難い情報だったとしか言えない。


 そう言う訳で、彼らには金貨三十枚の値段のまま売却する事に決めた。

 そしてそれを告げると、彼らは少しだけ嬉しそうにしつつ、しかし本当に良いのだろうかと言いたげな表情を浮かべ、複雑そうな視線を自身が持つ武器へと向けていた。

 私としては、本当に有り難く貴重な意見だったので文句は無い。

 それに、彼らを広告塔として使えるという打算もあるのだし、やはり文句など一つも無いと言えるだろう。


 まぁ、その後はなんやかんやと会話をして、彼らギルバードさんが率いる冒険者チームは、予定通りに魔の森へと旅立った。

 当初の予定では、一週間。

 もし延びたとしても、二週間。

 それ故、帰還の途中に再度村へと立ち寄り、その時に武器の使用感を伝えて貰う事になっている。

 冒険者の生の感想は、きっと私の武器を更に向上させる切っ掛けとなるだろう。

 まだ彼らが旅立ってから一時間も経過していないのだが、もうワクワクしている自分が居る。

 ただし、そんな訳で町へと行くのは暫く見送るとしよう。

 報告を聞いてからの方が、色々な意味で良いと思えるからだ。


 そうして私は、一週間を延々と柄の加工に費やし、その後は斧やハンマーを造り続けた。

 槍は使用者の数が少ないので、新たに造る事はしなかった。

 斧やハンマーと比べると、しっかりとした流派が槍にはあるらしいので、どうやら敷居が高いという印象があり、その結果、槍の使用者が少ないのだそうだ。

 私から言わせれば、ただ間合いが広いという事実だけでも最高の武器だと言えるので、素人でもガンガン使用するべきだと思うのだが、先入観が生まれてしまっているのでどうしようもない。


 ともあれ、そうして二週間が経過した頃、約束通りに彼らが立ち寄ってくれた。

 しかも、狩りの標的だったらしい緑色をした皮と、一メートル五十センチを越える大きな骨などを持っての帰還であった。

 余りにも巨大な骨に、私は茫然としてしまった。

 そんな私の反応を見た彼らは、盛大に笑いながら皮や骨の持ち主であった魔物の事を教えてくれた。

 その話によると、どうやらサイに似た魔物のようで、しかしサイよりも倍以上の体躯を誇る魔物であるらしい。

 話を聞く前に驚愕していたが、話を聞いた後にも更に驚愕するとは思わなかった。

 やはり冒険者というのは、非常に危険な仕事なのだと改めて認識させられたとしか言えない。

 私だったら死ぬ未来しか見えないし、彼らの仕事をやりたいとは嘘でも言えないし思わない。


 ともあれ、そんな魔物の素材であるが、その活用方法を聞いて思わず反射的に買い取った代物がある。

 それは、皮でもなく角でもなく、長く太い骨である。

 何故その骨を買い取ったかと言うと、槍の柄に最適であると教えて貰ったからだ。

 私の製作する槍が、今よりも更に性能が上がるという事になる訳で、このチャンスを逃したら、今度はいつ手に入れる機会が巡って来るのか分からないと考え、即座に買い取りを希望したのである。

 因みに、私の武器に使用している柄の素材の名前は、ミクミ木というらしい。

 そこそこ高級な木材らしく、鍛冶師には人気なのだそうだ。

 それを聞いて、マジックバックの中に山程入っていた理由に合点がいった。


 まぁ、それは兎も角として、彼らは快く骨を売ってくれ、その後は町へと戻って行った。

 コーターの武器を宣伝してきてやる、との言葉を残して。

 この提案は予想外だったが、もし宣伝で興味を持った者が来てくれるというのなら、私がわざわざ町へと足を運ぶ必要が無くなるので、これは非常に有り難い。

 まぁ、そこまで上手く事が運ぶかは疑問だが、上手くいけば町へと苦労して歩く必要が無くなるのは実に嬉しい。

 何せ、この廃村から町まで歩いて移動すると、約二週間はかかるのだ。

 はっきり言って、その移動は非常に辛いし、危険もそれなりにあるので、出来れば敬遠したいと言えばそれが本音でもあるのだ。


 だからこそ、取り敢えず私は待つと決めた。

 とは言え、ただ待っている訳ではなく、勿論鍛冶仕事をやりながら待つという事だ。

 そう言う訳で、私は希望の未来を思い描きながら、黙々と武器を量産し続けた。

 それこそ大量に製作し続け、造りおきを保管する場所に困ってマジックバックに入れる程には造り続けたのである。

 そうして二ヶ月半もの時間が経過した頃、冒険者が続々とこの廃村へとやって来たのだ。

 そして勿論、彼らの目的は私の武器を購入する事であり、私は斧とハンマーを金貨四十枚で、槍を金貨五十枚で売った。

 槍の値段が高いのは、サイに似た魔物の素材を使用しているからであるが、斧もハンマーも槍も、主武器に限らずサブウェポンも飛ぶように売れた。

 無一文だった私は、一気に金貨二千枚近くも稼げたのだ。

 しかも、私にとって幸運だった事が他にもある。

 それは、私の拠点として勝手に住み着いていた村に、私の武器を目当てにした商人が来るようになった事だ。

 それによって、調味料や肉などの食材が買えるようになったし、商人が来るようになった事が切っ掛けで、私が拠点としているこの村に住み着き始めた者が現れたのである。

 すると連鎖的に、魔の森に近いという利便性も相まって、冒険者を標的とした宿屋が出来たり、この村で使用する為の木材を伐って来る樵なども住み着き、どんどん村としての機能を取り戻していったのだ。

 最早、私の心は有頂天であったと断言しても良いだろう。

 冒険者が訪れるようになってから、僅か半年でこの変わりようなのだ。

 これで驚かないなど嘘であるし、こんなにも都合良く事が運ぶなど埒外であった私としては、本当に夢のような日々である。

 最初にこの世界へと来た時は絶望でしかなかったのだが、こうして苦労しつつも生活する術を掴み取った自分を素直に称賛したいと思う。

 必死に苦労した思い出ばかりが脳裏に浮かぶが、それが全て無駄ではなかったのだと思える今は、最高の瞬間だと言えるだろう。

 それに、今の私は大金持ちなのだ。

 いや、それは少々言い過ぎかもしれないが、少なくとも中級の商人レベルの資産は持っていると断言出来る。

 このまま稼ぎ続けても良いし、弟子でも受け入れて育てても良いし、十年後には早期リタイアしてノビノビと過ごすのも良いだろう。

 私の未来は、最高に明るいと言える。

 それも眩しい程にはと、そう思えて仕方なかった。


 そんな風に有頂天で日々を過ごす私の下に、少し変わった客が訪れた。

 いや、正確に言えば客ではない。

 廃村だった村が復興したので、その調査に役人が来たのだ。

 役人と聞くと、先ず最初に貴族かと思ったのだが、実はそうではないそうで、国に仕える優秀な一般人らしい。

 ただし、あくまでも国に仕える役人なので、そこは普通の一般人よりも強い権力を持っているのは間違いなく、それ故に私は丁寧に接客する事にした。

 そして、そんな役人と会話をしている内に分かったのは、この村を取り巻く少し複雑な事情だった。

 それと言うのも、この村が魔物のスタンピードで滅んだ事は以前にも話したと思うが、そのスタンピード以前にはこの村もしっかりと貴族の領主によって統治されていたそうで、しかし村が滅んだ時には領主も一緒に滅んでしまったらしく、それ以来この土地は放置されたままだったのだそうだ。

 そして現在、誰も管理者が居ないのはそのままであり、しかし独自に復興した村という事で貴族連中が扱いに困っているらしい。

 ただし、以前に統治していた貴族家が滅んだ事もあって、その時に一応は王家の直轄地扱いになっているので、無理矢理貴族が奪うという事も無いのだそうだ。


 ここまで話を聞く限り、特に複雑な事情があるようには思えない。

 だが、ここからが問題だった。

 一応は王家の直轄地になっているが、それでも管理者が居ないのは不味いという事である。

 王家の直轄地となると、代理となる役人が管理するのが通例らしく、その調査に私が接客している役人が来たらしい。

 そして、その役人が調査していると、どうやら戸籍を所有していない人物が居るらしいという事実を突き止めた。

 そう、これが問題であるのだ。

 勿論、この事態を問題だと受け止めているのは私だけであり、役人からしたら村の方が問題なのだろうがね。


 ともあれ、既に多くの人にはカヴァストーリーを話してしまっているし、その話は役人も既に知っているのでそのまま嘘を貫かなければならない。

 もしも、信用出来ないから出て行けとか言われたらどうしようかと、そんな疑問や心配が心を支配する。

 何せ、冒険者や商人界隈では私の武器が有名になっているようだが、まだ貴族までは話が浸透していないようなのだ。

 それ故、多分目の前の役人には私の武器の利点などは分からないだろうし、優遇もしてくれないだろう。


 そう思って不安がっていると、意外にも役人から戸籍取得に関しての話が浮上し、簡単に手続きして終了となった。

 私としてはホッと胸を撫で下ろす事になったのだが、余りにもアッサリ解決したので、正直に言えば半信半疑である。

 だが、役人との会話を続ける内に、その疑問も氷解した。

 それと言うのも、私の境遇に近い事例が幾つかあったらしく、決して珍しい事ではないからなのだそうだ。

 だからこそ目の前の役人は、村の中で私の噂話を聞いても疑問には思わなかったらしい。

 寧ろ、大変だったでしょうと、そう優しい言葉を掛けてくれる程だったのだ。

 まぁ、全部嘘の話なので心苦しくも思えるのだが、これで戸籍も取得出来て幸運だったのは言うまでもないだろう。

 誰が統治者として送られる事になるのか、それは分からないが目の前の役人には是非とも頑張って貰いたい。


 そうして役人との少し緊張する出来事があった後も、村はどんどん発展していく。

 その大きな要因となったのが、冒険者ギルドが村に設立された事である。

 それによって細々と来ていた商人の数が、それはもう飛躍的に増した。

 その結果、住人も増えるし商店も出来るし、それこそ既に当初の廃村という面影が無くなったと言える程には発展したのだ。

 村を眺めて見れば一目瞭然で、建物の数がかなり増えている。

 勿論、廃屋ばかりだったその面影は無く、今やそれなりの家々が建ち並んでいる。

 しかも、農家と思わしき者達も移住して来ており、少しではあるが確かに畑が耕されているのも目に出来るのだ。

 私が一人孤独に過ごしていた時とは大違いで、正体不明の獣が近くを彷徨く事も無くなっており、安全面においても非常に喜ばしい。

 これにはおそらく、冒険者達の存在が大きいのだろうと思っている。

 彼らが周辺の生物を狩るので、それによって危険な肉食獣が近寄らなくなっているのだろう。


 ともあれ、こうやって話していると、何もかも順調に事が運んでいると思われるだろうが、実はそうでもなかったりする。

 これはある意味当然なのだが、色々な人が村へと足を運ぶようになれば、そこそこの問題も発生するのだ。

 その最たる例が、粗暴の悪い者達である。

 まぁ、それは冒険者達が多くいるこの村であるからして、そこは彼らが解決してくれるので大きな問題にまではなった事がないが……。

 しかし、やはり色々な人が村にやって来るのは間違いなく、役人が王都へと帰還した三ヶ月後に、今度こそは自分の身を心底心配する出来事がやって来た。

 お客としては絶対に来て欲しく無かった者達が、三十人という団体客で来たのだ。

 目をギラギラとさせ、明らかに異常な雰囲気を振り撒く者達。

 そう、傭兵達だ。

 彼らの目的は、冒険者や商人を中心に広がり始めた私の武器の噂を耳にし、私が造る武器を買いに来たのである。

 だが、そんな彼らは、私が剣を造っていない事を知ると物凄く険しい表情を浮かべ、両手剣を造ってくれと頼んできた。

 彼らからしたら、おそらくは普通に頼んでいるつもりなのだろうが、私からしたら脅されているような印象しか感じられない。

 勿論、口調や態度は紳士的なので、やはりそこは見た目の印象から私が恐怖している故なのだろうが、それでも怖いものは怖い。


 傭兵は客として迎えたくないし、迎えるつもりも無かったので、冒険者向けの武器しか造ってこなかったが、私はとうとう傭兵向けの武器を扱う事になりそうだ。

 あのギラギラした目で睨まれて尚、断れる者などそうそう居やしないのだから、恐怖に屈した私を誰が責められようか。

 まぁ、別に犯罪者を相手にした金儲けではないので、私が彼らに武器を売ったとて誰も文句の一つも言わないのだがね。


「えぇと………。剣に対して要望はありますかね?」


 嫌になってしまう程にギラつく目をしながら、それに相反する丁寧な口調で、恐る恐る尋ねた私の質問に返答し始める傭兵の一人。


「ぅん? 貴方が造る武器は、確か装飾を一切されていないと噂で聞きましたが?」


「あ、はい。それはそうなんですけど、私が聞いたのは剣の重心の位置が人それぞれだと思うので、その希望を聞いたつもりだったんですよ」


「重心………?」


 質問の意味を正確に説明すると、傭兵達の全員が首を傾げた。

 その姿がまるで犬のようで、私は彼らに対する恐怖が少し薄れたのを実感する。

 とは言え、まだまだ怖いのは怖いし、彼らの目だけは今もギラギラしたままだ。

 そんな彼らに、剣の重心が如何に大事かを説明すると、半信半疑であるようだが、それでも一応の納得はしくれた様子で、それなら試作の剣を数本造ってくれと言われ頼まれた。

 そう言う訳で、私は三日後にもう一度来てくれと伝え、直ぐ様に剣の製作へと移る。

 重心が先端寄りの剣、重心が中心寄りの剣、重心が柄寄りの剣などと、合計三本の剣を造った。

 この三本はあくまでも試作なので、研磨までしておらず、形だけそれらしくしただけの剣である。

 そして三日後、約束通りに来た傭兵達に剣を試しに振って貰う事で、どのタイプが良いのかを判断して貰った。

 しかし、この時に少し予想外の出来事が発生する。

 何と彼らの一人が、私がまるで剣術に詳しいかのように重心の大事さを語っていたので、試しに試合をしてみたいと言い始めたのだ。

 私は、剣道歴十九年になる。

 小学校三年生から、大学卒業するまで剣道は続けており、中学生の頃には全国優勝、高校生の頃には全国準優勝、大学生の頃には全国ベスト4の成績を納めており、そこそこの腕前であると自負している。

 まぁ、この世界に来てからの約三年間は、剣を振らずにハンマーを振るい続けていたので腕は鈍っているだろうが、栄養状態は良くなっているので体つきは元通りになっているし、十全にとは言わないまでもそこそこは剣を振れる状態なのは間違いない。

 しかし、人を殺している者達を相手に戦いたいかと言うと、絶対に否である。

 安全面を考慮し、防具着用の上で竹刀を使用すると言うのなら考えても良いが、そうでなければ御免被るというのが私の本音。

 だが、試合を提案した者にはそれっぽい理由を言われ、泣く泣く模擬試合をしなければならなくなる。

 私が何を言われたのかと説明すると、”大金を払って武器を造って貰うのだから、納得出来るだけの根拠が一つでもあった方が嬉しい“と言われたのだ。

 こんな風に言われるとは思いもせず、妙に納得してしまった私は、無意識の内に“なるほどな”と思い頷いてしまった。

 別に試合をする事に対して了承の意味での頷きではなかったのだが、傭兵には了承の頷きと誤解され、その結果、何だなんだと興味本位に集まって来た者達も含めた大勢の前で、私は傭兵の一人と相対する事となった。


 どうしてこうなった?


 私の脳裏には、その言葉が幾度も反芻される事になったのは言うまでも無かろう。 

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