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現代知識こそが最も有能!   作者: 蘇我栄一郎
他国の侵略や魔物のスタンピードを恐れて、ムーティッヒ国を強化!
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16/31

十五話ですぜ、旦那!

 不老長寿となってしまった。これは嘘偽りの無い事実で、私は本当に不老長寿となったのだ。とんでもない事になったと痛感せざるを得ない。

 別に不老長寿というのも一長一短で悪い事ばかりではなく、良い事も沢山あるので嬉しく思う気持ちもあるにはある。しかし、目立ち過ぎたが故に妬まれている可能性が急浮上し、今の私は常に落ち着かない生活を送っている。

 何故なら、私が陛下との謁見で不老長寿の薬を下賜された事実が、今では平民の噂話として浸透していて、しかもその結果すらも真実そのままに全て誰もが知っているからだ。

 吟遊詩人が憎い。吟遊詩人という商売さえ存在しなければ、きっとここまで話が浸透する事は無かっただろうと思う。そう思えばこそ、吟遊詩人が心底憎いのである。

 もうあの謁見から一ヶ月が過ぎており、今の私の生活スタイルは館に閉じ籠ってブランデーを浴びる程に飲むというものだった。それもこれも、身に重すぎる褒美を受け取らねばならなかったからに過ぎない。

 公爵という爵位はまだ良いし、中身の時が数十倍もの早さで過ぎるマジックバックというのも良い。だが、不老長寿の薬は身に重すぎるだろう。ムーティッヒ国には数本しか現存しない秘宝だぞ。

 そんな代物を受け取ってしまったばかりに、私は地位ある者からの妬みで殺されないかと不安で不安で仕方ないのだ。


「うぅ……憂鬱だ。こんなに味が良い蒸留酒が出来たというのに、気分は最悪だよ」


 下賜されたマジックバックのお陰で出来たブランデーの味は、現在の私の腕では最高の出来であると自負している。日本に居た頃に飲んでいた物と比べれば失笑ものだが、それでもこの世界で飲めていると思えば上等の部類だと言えるだろう。

 しかしそんな酒も、落ち込んでいる私にとっては余り旨いとは思えない。いや、舌は確かに旨いと判断しているのだが、どうも心は昂らないのである。

 気分転換に別の蒸留酒でも作ってみるか? 或いは、喉越しスッキリなビールを作ってみるべきか?

 今の季節は丁度良い事に麦刈りの時期であるし、ビールを作ってそれに成功したらウイスキーに挑戦するのも良いな。蒸留酒と違ってビールを作る知識に疎いものの、それに近い物は作れるだろうし、チャレンジするのも悪くないと思える。


 そう自室で現実逃避をしつつ、ブランデーを浴びるように飲みながら目を通すのは錬金術と魔法に関する書物の数々。それらの本に目を通している理由は、勿論兵器製造の為である。

 私は色々と兵器について思案していたのだが、鉄砲や大砲は流石に技術面という意味で断念せざるを得なかった。私個人だけで言えば、その技術を駆使するのも苦にならないが、流石にこの世界に存在しない概念の技術満載では、他の者がついてこれないと判断しなければならず、それ故に鉄砲と大砲については自身の中で禁止している。

 だがそうなると、現存する技術で飛躍し過ぎない武器をと考えれば、ボウガンや投石器と言った兵器になるだろう。しかしそれも、ボウガンであればそもそも威力に疑問があるし、もしボウガンが敵の手に渡ればバリスタのヒントに繋がるし、かと言って投石器は運用そのものが大変で苦労するだろうから現実的に先ず使用出来ない。

 そこで考えたのが、この世界特有の魔法という力だった。その力を私の知識と合わせて使用する事は出来ないかと、そう考えたからこそ錬金術や魔法の勉強をしている。因みに、これらに関する書物は全てムーティッヒ国の所有する物であり、私個人の所有物ではない。その為、目を通したら直ぐに返還せねばならない貴重な代物である。

 そんな本を読んで、ある程度は魔法や錬金術について知る事が出来た。とは言え、まだ基本のレベルであるがね。


「魔法の威力がこれ程とは思わなかったな。まさか手榴弾と同等の威力とは……」


 優れた術者は、手榴弾と同程度の威力の魔法を、実に三度は放たれるらしい。勿論、威力を抑えればそれ以上にも打てるそうだ。

 そして魔法を具現化するのに必要な魔力という源泉が多い者は、手榴弾の威力と同程度の魔法を実に六発も放てるらしく、宮廷魔術師と呼ばれる者は更に三発以上も打てるそうだ。つまり、合計九発は打てるらしい。

 恐ろしい事この上ないな。しかしそれよりも恐ろしいのは、そんな魔法使い達が束になっても勝てない魔物が存在する事である。

 そんな存在の一つが、ギルバートさん達が倒したディアブロだ。改めて彼らの凄さが実感出来たと言えるだろう。

 それは兎も角として、この世界で強力な魔法を使うにはその力の源泉たる魔力を有していなければならないというネックが存在し、しかもその魔力があったとしても必ずしも魔法使いになれるという訳でもないのが大きな問題である。

 何故ならば、魔力を有していようと、その魔力を体外に放てる才能を持っていなければ魔法使いになれないのだ。いや、才能という曖昧なもので論じるよりは、体内から体外へと魔力を放つ器官が存在する者と存在しない者に分かれると言った方が正しいだろう。

 魔力を持って生まれる者の数は全体の半分らしく、そこから魔法使いになれる為の体内器官を持つ者が一割から二割なのだそうで、魔力を持っていながら魔法使いになれないのがその他の割合になるらしい。

 そしてその事実を知った私が魔法に興味を持って執事に尋ねると、どうやら私は魔力を有しているばかりか常に魔力を体外に放っているらしく、それはつまり魔法使いになれる資質を持って生まれていた事を示唆していた。

 因みに、それが分かる執事も魔法使いであるらしい。がしかし、二代前の執事の当主が何やら悪事を働いたとかでお家断絶された結果、貴族位を失ってこうして執事として働いているのが現状だそうで、元々は貴族出身らしい。まぁ、人には色々と過去があるものだから、それについて余り深入りはしないものの、少し同情する生い立ちである。

 ともあれ、私が魔法を使えるという事実は実に喜ばしい事だ。何も魔法を使ってみたいから喜んでいるのではなく、錬金術師には魔法が使えなければなれないので、それで喜んでいた訳だ。

 私が錬金術を学び十全に理解出来れば、きっと地球の知識と魔法の知識を融合させた兵器が造れる筈だ。そう思えばこそ、こうして現実逃避気味にしつつも真面目に書物に目を通しているのである。

 だが如何せん、どうにもままならない事態に陥った。それと言うのも、錬金術や魔法はそれぞれの貴族家が独自に技術を発展させて来た歴史があり、そのせいで知識を広く教えている者が存在しないのである。

 書物として存在するのは、あくまでも基礎であり、それ以上は自分の家で学びなさいというのが魔法や錬金術の常識になっているようだ。

 これでは私としてはどうしようもなく、基礎以上に知識を増す方法が無い。


「駄目元で執事さんに聞いてみるか? 宰相様にお願いするのは、流石に使用人をこれでもかと紹介して貰っておいて面の皮が厚すぎるというものだし、他に思い当たる人物も存在しないのだから執事さんに聞くしかないかなぁ」


 私の知人の少なさを舐めるなよ。この国に来てから三年は経つが、その殆どを城と館の中で過ごしていた私に魔法使いの知人なんて出来る筈も無いのだ。

 たった三年だ。そう、私にとってはたった三年なのである。

 普通の人からしたら、三年もあれば友達百人は余裕だぜ、などと言う者も居るだろうが、私からしたら無理な話だ。臆病で慎重な性格というのは自分でも認識しているが、それで痛い思いをせずに済んでいるのでこの性格を変えるつもりはない。

 いやいや、何を自身の性格について思考しているのだ。そうではなく、今大事なのは錬金術についてである。


 そう思い直し、私は執事さんを呼ぶと駄目で元々と考えつつ尋ねた。錬金術を知っているなら教えて貰えないかと。

 だが無情にも、魔法についてなら教えられるが、錬金術については門外漢であると言われてしまい、私は再び頭を抱える事になる。

 これは偏に私が悪かったのだ。魔法を使える=錬金術師であるといつの間にか認識していたが、そもそも錬金術師とは魔法使いとして大成する程に才能が無いと考えた者が錬金術師の道を進み、それが代々受け継がれているのが現状なのだ。

 それ故に、魔法使いと錬金術は似て非なるものであると考えなければならなかったのである。


「あの、旦那様?」


「……いえ、何でもないのでお気になさらず」


 ガックリと落ち込んだ私に向かって、執事さんは何やら申し訳なさそうに見詰めて来るが、それで余計に心にくるものがあり、それ故に少しソッとしていおいて欲しいというのが実情。

 しかし幸運の神は私を見捨てていなかったのか、執事さんから驚くべき提案が飛び出した。それは、通常それぞれの貴族家が所有して独占している技術を記した錬金術の書物を、国が密かに調査して保有しているのだそうで、それを執事さんの特殊な伝で一時的に入手出来るかもしれないと言われたのだ。

 一時的にというのは、その書物の存在を国が貴族家にも黙って保有しているのが原因で、城の宝物庫から妄りに出せないからだそうだ。

 然もありなん。多くの貴族家に黙って盗み出した技術を纏めた書物になるのだから、それが明るみになれば王家は批難ごうごうになるだろう。

 だからこそ、秘密裏に一時的に、だという事だ。

 しかし、そんな秘密の本の事をどうして執事さんが知っているのだろうか? あまつさえ、その本を一時的にでも入手出来る伝って、どんな人物との伝なのだろうか?

 考えられるとすれば、執事さんを始めとした使用人達を紹介してくれた宰相様、他にはこれまで執事さんが執事として仕えた嘗ての貴族達になるのだろう。まぁ、そうは言っても過去に仕えた貴族の人達なんて尋ねた事が無いので、どんな人達に仕えていたのか全く想像出来ないが。


「ま、まぁ、私にとっては非常に有り難い事には違いありませんね」


「何か?」


「あ、い、いえいえ。何でもありませんよ。

 それじゃあ、その伝とやらで錬金術の本を一時的に貸して貰って来て下さい。勿論、無理はしなくて構いません。無理そうでしたら、他の方法を考えますので」


「いえ、恐らく心配無いでしょう。旦那様に貸すのなら、人柄も問題無いと判断されるでしょうし。

 ただし、くれぐれもこの事はご内密にお願い致します」


「も、勿論ですよ。誰にも言いません」


 執事さんから何処と無く怪しい雰囲気が滲み出ているが、私はそれに気付かぬ振りで断言した。

 すると安心したのか、それでは行って参りますと爽やかに言いのけ、執事さんは私の自室から颯爽と退出した。

 それから一日が過ぎての早朝、執事さんが大量の本を持って帰って来た。しかも、本だけの護衛として謎の人物達を十人も引き連れてである。

 その謎の人物達は、どうやら執事さんの伝とやらの御仁が貸してくれた護衛であり、表沙汰になったら困る本の監視役としてどうしても必要だったので連れて来たそうだ。……と言うよりは、護衛兼監視役を付けねば貸してくれないからしょうがなかったとも言えるだろう。

 複雑な事情が絡み合う本だが、それは兎も角としてこれで本格的な錬金術の勉強が出来るという事は間違いない。なればこそ、暗殺に怯える私は以前にも増して引き籠りながら、錬金術を学ぶ為に日夜本へと目を通し続けた。

 その日々は使用人達から心配されてしまうくらいだったが(本の監視役の人達からすらも心配された)、私としては存外楽しく過ごせた日々であり、理科の実験のように実際に試しては興奮し、失敗しても興奮し、それはもう暗殺に怯える私には安息を与えてくれる錬金術は心の薬ともなっていたと言えるだろう。

 だからこそなのだろうが、全く飽きもせずに毎日を錬金術修得の為に時間を全て費やす事が出来た。そしてそんな日々が三年を過ぎた頃、錬金術修得に励む私が様々な兵器とは無関係な代物を造り出した工房で更なる複雑な代物をと励んでいると、執事さんが少し暗い表情で錬金術専門の工房へと私を呼びに来た。

 普段から冷静沈着でポーカーフェイスの執事さんが、少しとは言えその表情を曇らせているのに怪訝に思った私は、当然その疑問を払拭するべく尋ねる。


「どうかしましたか?」


「お忙しい中、申し訳ありません。少しお耳に入れておきたい話がありまして」


「話、ですか。公爵として何かしらの式典に出自しろ、って感じでは無さそうですね」


「はい。そのようなお話でしたら、いつものように高い御身分の旦那様なら断れるので問題無いのですが、そう言った類いの話では御座いませんで………」


「分かりました。取り敢えず、その話とやらを聞かせて下さい」


 話していてだんだんと分かったのは、最初は暗いと思っていた執事さんの表情が、暗いと言うよりは剣呑なものであると言う事。それ故、これはただ事ではないと判断し、私は話の先を促した。

 そうして執事さんが語った事で分かったのは、ムーティッヒ国の周辺に存在する数ヵ国の穀物の値段が倍近く高騰しているそうで、何やら周辺が互いに色々と使者を出し合って密通しているという話であった。

 その事から陛下や高位貴族達は、戦争の準備をしているのではと危機感を抱いているらしい。


「となると、その戦争準備の矛先はムーティッヒ国と考えるのが妥当でしょうね」


「上のお歴々もそのように考えていらっしゃるようです」


「でしょうね。バリスタという兵器の名前は兎も角、新兵器をムーティッヒ国が急ピッチで揃えているのは流石に知っているのでしょうが、その威力を知らないのですから周辺国が力を合わせて侵略しようと画策するのは頷けます。

 それもこれも、恐らくは石鹸と香水を狙っての侵略でしょう。この三年で、周辺国から石鹸と香水で稼いだ金貨は莫大です。その富とその富の源泉たる石鹸や香水の製造法を狙って、周辺国が手を取り合ったと考えても不思議では無いですしね」


「まさにその通りかと。しかし、旦那様は一つお忘れになっています」


「他に何かありましたか?」


「旦那様ご自身です」


「私自身、ですか?」


「はい。どうやら今回の周辺国の動きは、ビルジア国から動き始めたようで、旦那様の亡命先がこの国であると突き止めたからこその様子。それで最初は、厚顔無恥にも旦那様を取り戻そうと画策してビルジア国が周辺国へと使者を出したようなのですが、その時には香水や石鹸が輸出され始めており、周辺国はその二つを生み出した人物と鋼の秘術を解き明かした人物が同じであると突き止めたそうなのです。

 つまり、そこでビルジア国から始まる情報の全てが合致した周辺国は、ビルジア国が訴える“自国の国民を返還しろ”という失笑ものの正当性を持ってムーティッヒ国へと喧嘩を売るつもりのようです」


「はぁ………? 殴る、脅迫する、徴発する、という平民からしたら正当性の糞も無い行為をしたビルジア国が、私を返還しろと本気で言っているのですか?」


「いえ、まだ何も周辺国から宣言の一つも出ておりません。しかし、ムーティッヒ国の抱える忍が入手した情報では、ビルジアの訴える言葉を侵略行為の正当性にするつもりのようで、それは間違いないかと」


 一人の人間を拉致した(実際には拉致ではなく亡命だが)だけで戦争というのは早計とも言えなくないが、事実を知らない国からしたら正当性があると言えばある。それ故に、その謳い文句で侵略を開始しようと画策するのは頷ける。

 だがしかし、その謳い文句にされた張本人からすると、「馬鹿かお前?」と直接言いたい。私は不当な扱いを嫌ってムーティッヒ国へと亡命したのだから、私としてはその謳い文句に正当性など微塵も無いと断言出来る。

 しかしそれは、あくまでも個人の言い分で、その事実を知らない国々からしたら客観的に正当性がどちらにあるかなど言うまでもない。勿論、戦争を画策する周辺国の更に周辺国へと真実を訴えれば良いのだが、そうすると水掛け論になるのは明らかであろうし、結局は戦争になってしまうのだろう。

 ムーティッヒ国が真実を訴えても、戦争を考える周辺国が嘘を言うなと反論するだろうし、当然ビルジア国も証拠として私の戸籍を前面に出して文句を言い募るだろう。鬱陶しい事この上ないな。


「少々面倒な事になって来ましたね」


「はい。それ故、上のお歴々はその不名誉な理由に憤慨しておるご様子」


「それはそうでしょう。実際は私が亡命して来たのに、その事実を曲解して拉致した事にしているんですから、憤慨しない筈がない。

 ……戦争になるのは間違いないとして、それがいつ頃かは予想出来ますか?」


「一年後、でしょうか。戦争を画策して手を組んだ周辺国は全て中堅国家に届かぬ国ばかりで、それぞれの戦力は約五千人。それらを合計して考えると、約一万五千人でしょう。そこに傭兵を雇った場合も想定すると、それぞれの国の資金から考えても約二万から二万五千人が限界かと。

 そうなると、それ程の戦力を移動させるのにそこそこの日数が掛かりますので、ムーティッヒ国内へと入って来るまでに最低でも一年は時間を要する筈です。傭兵の募集はまだ確認出来ていませんので、今から募集するとなればやはり一年という想定は間違いないかと思われます」


 戦争を仕掛けようと手を組んだ国々の名は、ドゥーマ、セイカーン、クゥーラ、ビルジアの四ヵ国。ビルジアは弱小国で戦力も二百程度であるが、それ以外の国はそこそこの規模の戦力を有する国である。

 ビルジア国の事は考えなくても良い。問題はドゥーマ、セイカーン、クゥーラの三ヵ国だ。

 ドゥーマとセイカーンは傭兵を多用する事で有名で、そのせいか傭兵の運用に慣れており、その戦術は通常の国より多様化していると聞く。そしてクゥーラは傭兵を多用する事はないが、重歩兵が有名で非常に強力なのだとか。

 この三ヵ国は、要注意せねばならない。まぁ、重歩兵と言ってもバリスタからすれば容易く貫けるのだが。

 しかし、此方側の歩兵がクゥーラの重歩兵と相対すれば、かなり苦戦するだろう事は明らかだ。ドゥーマとセイカーンの多様な戦術にも気を付けなければ、容易く蹂躙されかねない。

 いざ戦争となれば、中堅国家であるムーティッヒ国と言えども油断していれば食い殺されるかもしれないのだ。油断大敵である。

 となると、私がこの状況でやれる事は簡単だ。少し早いが新兵器の着手に取り掛かろう思う。

 少し早いというのは、錬金術において必須の魔術言語を日常会話のように容易く使用出来るレベルには達していないからである。そうである以上、術式が無駄に長くなって兵器そのものが巨大になりかねないという不利益が発生してしまう可能性が大きくなる。

 だが、これも慣れるより慣れよの精神でやるしかないだろう。実際、新兵器を造っている間にも魔術言語の修得具合は習熟していくだろうし、今の私は日本に住んで五年経つ外国人と言って表現しても妥当なレベルで魔術言語を修得しているので、それ程には難しくない筈だ。

 もう新兵器も何が良いかは考えている。一つは大砲、もう一つは大砲の小型版。両方共に当初は否定していた代物だが、これら二つを火薬の使用を前提とした物とは全く変え、この世界独自の力を使用した技術で造るのならこの世界の技術者でも飛躍し過ぎた技術ではなかろうと考えたからだ。

 小型版の大砲は、魔法使いが多用する最大威力の火炎魔法を模した手榴弾と同等の威力を誇る魔法を再現しようと考えている。標的に着弾と同時に爆発する火炎魔法であり、対生物には強力な代物となるだろう。

 その一方、大砲はと言えば、此方は実際に鉄球を打ち出す仕組みにするつもりなので、物理的な攻撃も加味して威力は小型版の数十倍となるだろう。

 どうしてそれ程に威力が違うかと説明すれば、あくまでも小型版の大砲は魔法を模した物であるからして、質量を伴っていないからである。火炎の魔法が標的に向けて放たれたとしても、その着弾前に別の物体に接触してしまえばそこで爆発してしまい、標的までは届かない。しかし大砲の方は実際に鉄球が打ち出されるので、例え標的の前に人などが居たとしてもそれ自体を吹き飛ばしながら標的に着弾するので、やはりその威力そのものが違うし、それにより発生する被害は連鎖的に大きくなるのだ。

 対物、対生物、その両方に強いのが大砲となり、対生物にのみ効果的なのが小型版の特徴となる。まぁ、対物、対生物の両方に強力な大砲が素晴らしい物に思えるが、それとて運ぶのが大変なので、使い勝手で言えば小型版の方が使い易くはあるのだろうがね。

 何せ、小型版は槍のような見た目の物にするつもりで、柄の先端に三十センチ程の小さな大砲を想定しているのだ。どう考えても運び易いし、それ故に運用面で言えば優れている。

 だが、射程、威力などを鑑みれば、攻城戦兵器としては格段に高い性能を有するので、やはり防衛面と攻撃面の両方で最も活躍するのは大砲だろうと私は考えている。


「一年ならばまだ時間がありますね」


「何をお考えなのですか?」


「戦争になるならその対策を、と」


「確かに戦力差で言えば、此方が最大で一万人程度であるのを考えれば負けています。しかし、今回の戦争は防衛がメイン。既に王都だけでなく中規模の町には全てバリスタが配備されている状況で、此方側が負ける要素は無いと思われます。防衛する側が圧倒的に有利ですからね。

 それなのに、対策が必要であると?」


「防衛に関しては執事さんの仰る通りですよ。先ず間違いなく負けません。此方側に裏切り者でも存在するなら話は変わりますが」


「それなら問題ありませんな。現在の宰相様がその任に就かれてからと言うもの、それはもう堕落した貴族の多くがお家断絶されましたので、裏切り者など存在致しません」


 自信満々に笑みさえ浮かべながら言う執事さんを見て、私としても嬉しくなってしまい笑みを浮かべた。それなら憂いは無いと思えたのだ。

 しかし、私が対策を考えているのは防衛面ではないので、その事の説明を始める。


「ならば益々もって防衛面は問題無いですね。

 ですが、私の考えている対策というのは防衛した後の事になります」


「防衛後、ですか?」


「はい。防衛後、ムーティッヒ国はどうするのでしょうか? ただ抗議の使者を出すだけ? それとも、抗議と共に賠償金でも請求しますか?」


「そう、ですね。恐らく、後者でしょうか?」


「なるほど、抗議と賠償金で手打ちにすると。確かに、国としては資金や物資を無駄に消費したくはない筈なので、それも選択肢の一つであると言えば賢い選択なのかもしれません。

 しかしその場合ですと、防衛面ではバリスタという兵器があるからムーティッヒ国は強いが、攻撃面では弱いから抗議と賠償金の請求で済ませたのだと、そんな風に世界中の国々から思われませんか?」


「それは……そう、かもしれません」


「そうですよね? ですから、私としては徹底抗戦するべきだと考えます。此方には優れた武器である剣や槍がありますし、これから直ぐに私が新兵器製造に着手しますからね。勿論、その新兵器は攻撃面を考えての代物ですので、攻城戦兵器が主となります」


「攻城戦兵器とは?」


「普通なら城がある町を包囲した場合、その攻略にどれだけ時を要しますか?」


「敵がどれだけの兵糧を所有しているかによって変わりますが……まぁ、二ヶ月や三ヶ月と言ったところでしょうか」


「でしょうね。大国ともなれば城も大きいので食糧庫も大きいと考えられるので、もしかしたら半年はもつかもしれませんね。

 ですが、これから私が造る兵器が完成すれば、そしてその兵器を使用して攻めれば、籠城戦も一夜にして終わるでしょう」


「何と!?」


 これまで私が造り献上した品々という実績からか、執事さんは一切疑い無く信じてくれたようで、目が零れ落ちんが如く驚きを露にした。

 私は脚色無しで本当にそう考えているからこそ、堂々とした素振りで更に言葉を続ける。


「半年以内に二つの新兵器を用意しますので、魔法を使えないが魔力を有する者達を選抜して部隊を用意しておいてくれと、そう宰相様に伝えて貰えますか?」


「か、畏まりました。では、今から早速行って参ります」


「お願いします。私は兵器製造に取り掛かります」


 深々と一礼して退出する執事さんの背を見送りながら、私は直ぐに新兵器製造に着手し始めた。

 魔物から取れる魔石、魔力を含む鉱物、必要な物は全てある。高い鍛冶技術も、高次元な魔術式も、何かも全てが手中にあるのだ。

 これで想像していた新兵器が形にならず失敗するというのは絶対にあり得ないだろう。そう断言出来る程には、私の錬金術師としての知識と力量は高くなっていた。

 さぁ、世界中に見せつけてやる時が来たのだ。ムーティッヒ国に楯突けば、容赦なく断罪されるのだと。

 そんな風に容易く蹂躙する為にも、そして力を見せ付ける為にも、ここで私が踏ん張らねばならない。自身の安寧の為、友人の為、気に入った人達の為、私は敵に容赦しないと誓ったのだから。

執事「ここ三年、旦那様が引き籠ってばかりで心配です。以前は………あれ?以前からそうであったような気が………」

メイド「旦那様はこの国に亡命されてからずっとそうですよ。それにしても、あのブランデーって美味しいですよね」

執事「え、ええ。あちこちの貴族家への贈答品として旦那様の指示で送っているのですが、その全てで何処で入手したのかと煩いくらいに聞かれる程ですからね」

メイド「あれは献上しないのかしら?」

執事「するそうですよ。ただし、もう少し味を改善し、他にも作っているお酒の味が良くなったら一緒に献上するつもりのようです」

メイド「後世で、最も多くの献上をした偉人って感じで歴史に残りそう」

執事「そうなるのでは? 事実、既に献上品の多さで他国から何者なのだと探られておるくらいですから」

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― 新着の感想 ―
[一言] 帝国の影が見えないのが気になるが、 まずは前哨戦ですね。 とはいえ一気に4つの国を落とすと統治が 大変そうだが、宰相様が何とかしてくれるさ。
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