7.フリアの過去 中編
「メルノ様ですか」
「メルノ様は私達に光の力を与えってくださったんだ。さっきのシュウっていう獣人はその光の力を使った魔法で転移させることができる。これは獣人にしかできないんだ」
そうなんだ。神様がいるなら何て酷く不平等に作ったんだと思っていたけど、獣人にもちゃんと力を与えてくれていたんだ。
私はそのことを知ると少し嬉しくなった。
「そうなんですか。その光の力は私でも使うことができるのでしょうか?」
もし使えるなら使いたい。人間達から逃げるためにも使えそうだ。
「才能次第だから分からないが、多分使える。もしよかったら教えようか?」
これで、もし光の力が使えるようになったら人間達から逃げることに役が立つだろう。今度は光の力を使って助けれるようにしたい。
「はい!教えてくれるとありがたいです!」
「よし、そうなれば早速、光の力の練習をしよう」
「まず手と手を引っ付ける」
スオリさんの言うとおりに手と手を引っ付ける。
「そして、自分の中の光をイメージするんだ」
私の光はなんだろう。灯り、月、太陽どれもしっくりこない。
「あの、参考にスオリさんの光のイメージを聞きたいのですが」
「私の光のイメージはメルノ様だ。一番しっくりくるものを選ぶといい」
そうか、人でもいいのか。
それなら、私は両親だ。
私は目を閉じ、両親の想像をした。
両親の姿から、楽しかった思い出、そうして両親のことを想像していると手に温もりを感じた。
私は目を開けると、手と手の隙間から光が出ていた。
「まずまず成功といったところだな」
良かった成功だ。
「光は大きければ大きい程、多ければ多い程強くなるんだ」
「これからの人生で光となるものを見つけるともっと光の力は強くなる」
これからの人生で光となるものは何だろう。まだ、分からない。
「まあ、人生はまだまだある。ゆっくりと見つけるといい」
そうだ。私はまだまだ先がある。だけど、もしかしたら人間に捕まったりするかもしれない。早く見つけた方がいいだろう。
「ありがとうございます」
「いいさ、これぐらいのこと。光の力は少し使うだけで疲れる。今日はこのくらいにしよう」
やりすぎて体壊してしまうかもしれないことを考えると、今日はこのくらいにして、明日またやる方がいいだろう。
そこで、まだスオリさんに聞いていなかったことがふと、頭をよぎり、それについて尋ねてみた。
「ところで、スオリさんは人間達のことをどう思っていますか?」
「難しい質問だけど、共存したいと思っている。そして、人間と獣人の共存は私の夢でもある」
スオリさんの回答に驚く。
驚いてしまうのも仕方ないだろう。今まで人間達は私達を差別し、奴隷にしたり、殺したりしてきた。
そんな人間と共存何てできる筈がない。
「どうしてですか?人間達のことを恨んでいないのですか?」
「そりゃあ生活しづらいし、少しは恨んでいるけど、恨んだところで、もし、獣人と人間の立場が入れ替わって、人間を差別したところでまた繰り返すだけ。だから、私は共存を目指す」
言っていることは正しいのだろうが、私は許せそうにない。
「正直、私は人間達のことを許せそうにないです」
「はは、そうだな。だけど、きっといつか私達を認めてくれる人間が現れる。それに、少し離れた魔法の町メルカでは獣人に寛容な人間がいるという噂も聞いたことある。だから、そう信じてる」
そんな人間がいる?全く考えられない。
だけど、私は遠くの人間を見たことがない。
もしかしたら本当なのかもしれない。
けれども、やっぱり信じられない。
「そんな人間、想像できません」
「確かに、想像できないかもしれない。だけど、そんな人が現れたら光になるんじゃないか?」
そんな人間がいるなら獣人の私にとっての光になるかもしれない。
「まあ、確かに私達は人間達に受けてきた扱いを考えると光になるかもしれないですが」
「それに、私が昔読んだ小説にはメルノ様が勇者を呼んでくると書いてあった。まあ、小説だからフィクションなんだろうけど、そもそも私達は既にこの生活を変えられそうにない。だから、この生活を変えるためにも信じてみる価値はあると思う」
信じてみる価値……。確かに信じることなく、行動しなければ私達獣人は今のような生活を送り続けなければならないだろう。
なら確かに信じてみる価値はあるのかもしれない。
「私達は力はあまり強くない。だけど、精神は誰よりも強くなれると思っている。だから、恨みを人間にぶつけないでほしい」
「そして、人間との共存のためにやってほしいと思っていることがある」
それは何だろうか。
「困っている人がいたら、バレないようにできるだけ助けてほしい」
「もちろん、シュウが近くにいる時ぐらいでいい、だけど、助けてほしい」
正直、私はまだそのようなことができそうにない。
けど、もし何かきっかけが有れば、それこそ光となる人が現れたりしたらできるかもしれない。
「正直、まだできそうにないです」
「まあ、言ってみただけだ。だけど、もし何か助けても良いかもしれないと思ったら気をつけながら助けてほしい。もちろん、他の人より自分の方が大事だ。自分を一番大事に思って助けてほしい」
それなら、いつか助けることができるかもしれない。
だけど、私はまだ人間を信じることができない。
もし、助けることがあったとしてもそれはかなり先のことになりそうだ。
「分かりました。私はあまりできそうにないですが、もし安全にできそうで、人間のことを信じれるようになったらやります」
私の返事を聞くと少し微笑み、言う。
「ありがとう」
優しい声だった。
「それじゃあ、もう寝る時間になった。睡眠の準備をしないといけない。また明日」
スオリさんはそう言うと、睡眠の準備に取り掛かる。
今日はとても情報の多い一日だった。
これから私は人間を信じることはまだできないが、光の力が十分に使えるようになり、その時に人間が信じれそうだったら助けてみようと考えた。
読んでいただけただけで嬉しいですが、ブックマーク、評価、感想、レビューしていただけたらもっと喜びます!