6.フリアの過去 前編
私はケルノ村で生まれた。
父も母も獣人で、自分を人間と偽って隠れながら過ごしていたが、幸せを感じることが出来ていた。私達が獣人であることがバレてしまうあの日までは。
それは、とある昼の出来事。
私達が隠れ家にいた時に突然、扉から大きな音が聞こえてきた。
その音を聞いた父と母は人間にこの隠れ家に獣人が住んでいるということがバレてしまったということにすぐに気づき、私の手を引っ張って裏口に向かう。
扉から音がして10秒程経った時にドタドタと足音を立てて、人間達が隠れ家に入り込んできて、私達の方に向かってくる。
そして、人間達は私達に叫んだ。
「獣人!今の内に大人しく出てくるなら命だけは助けてやる!」
私は大声に驚き、思わず振り返ってしまう。
そこで見た隠れ家に入ってきた人間達は普段見ることのない武装をしていて、強い恐怖を抱き、頭が真っ白になってしまった。
母が手を引っ張ることで我に返り、逃げることだけを考え、裏口に走る。
そして、裏口の出口が見えた。
あと少しと思い、ペースを上げて走ると、後ろから何かを斬る音と父の声だと思われる悲鳴が響く。
「ゴファア!」
人間は言う。
「大人しく出てきていたら命は助かったのに、残念だな」
その声を聞くと、虫酸が走る。
人間達はとても酷い存在だ。
私達は何もしていないのに、獣人であるというだけで簡単に命を奪ったり、捕まえたりする。
許せない、許せない、私に力があるのならこいつらを殴ってやりたい。
だが、今は逃げることしかできない。
そんなことを考えていると、母が魔法を発動する。
「アイ アエ オオ!」
母が魔法を放つと眩しい光がその場を覆い、人間達の視界を奪う。
「くっそ、見えない」
「獣人を逃すな」
私も眩しい光の影響で母がどこにいるか分からなかった。
そこで人間は叫んだ。
「捕まえたぞ!」
私が触れられた感覚はない。ということは、捕まったのは母だ。一体どうしたら……。
どうすればいいのか分からず、何もすることが出来ずにいると、母は私に叫んだ。
「早く逃げなさい!」
その声を聞いて、私はすぐに裏口の出口に向かい、人のいない高原に出た。
私は近くの山へ向かい、とにかく無我夢中で走る。
後ろから襲ってきた人間と思われる声が聞こえる。
「いたぞ」
その声を聞いても止まることなく、走る。
とにかく逃げ切ることだけを考え、音も聞こえないぐらい必死に走る。
★
そして、逃げて、逃げて、逃げて、もう追いかけられなくなった時に少し落ち着き、とある洞窟を見つけると、そこからとある声が聞こえてきた。
「こっちだ!」
その声が聞こえてくる方に見ると獣人の持つ、特徴的な耳が見え、この人なら信用できると覚悟を決め、声が聞こえた方に向かった。
洞窟に入ると、はっきりと洞窟にいた獣人の体が見え、洞窟から聞こえた声の主は170cmぐらいの女性であることが分かった。
「付いてきて」
信用できるかは分からないが、今はとにかく信じよう。
「分かりました」
付いていくと、迷路のような入り組んだ道があり、この人に付いていかなければ迷ってしまいそうだ。
そして、付いていっている時に色んなことを質問された。
「私はスオリ、貴方の名前は?」
「フリアです」
「獣人の知り合いや家族はいるか?」
私は父と母のさっきの出来事を思い出し、少し悲しくなりながらも答える。
「父は……人間に殺され、母は今どこにいるかは分からず、それ以外に獣人の知り合いや家族はいません」
「この場所について知っていることは?」
「何もありません」
「なるほど。なら少しこの場所について教えよう」
「ここは獣人のみが集まり、人間から身を守り、協力しあって過ごす場所だ」
そうして付いていっていると開けた場所に出た。
40人ほどの獣人がいて、お互いが協力しあって生きているようだ。
これはかなり信用できそうだ。こんなに獣人がいて、これが獣人をおびき寄せる囮とは考えにくい。
そう考えていると、獣人の家の人に声をかけられた。
「お、新入りさん?僕はシュウ。人をここに転移させる魔法を使えるよ。君の名前は?」
見たところ、私と同じぐらいの年齢の男子のようだ。
「フリアです」
「フリアちゃんね。覚えておくよ」
そう言うと、シュウはその場を去り、スオリさんが話しかけてきた。
「新しく入ったということでここにいる人達に自己紹介してもらっていいか?」
特にこれと言って自己紹介をしたくない理由はない。
「はい。大丈夫です」
「皆、新しくここに入る獣人が来たぞ!」
スオリさんがそう伝えると、私に注目が集まる。
「フリアです。これからよろしくお願いします」
「よろしく」
「よろしく」
ここにいる皆は私を歓迎してくれるみたいだ。
その後、私は色んな獣人と話をし、大体の人と話を終えると、私はまだここについて知っていることが少ないと思い、スオリさんに少し質問してみることにした。
「スオリさんちょっといいですか?」
「ああ、大丈夫だ」
「そういえばこの場所、何という名前なんですか?」
「獣人の家という名前だ。獣人が家のように思って過ごしてほしいという願いを込めて名付けられたそうだ」
獣人の家、そういえば昔母が言っていた気がする。
「そうだ、耳を隠すための帽子をあげよう」
スオリさんがそういうと、少しその場を去り、帽子を持ってきた。見たところ緑の帽子のようだ。
「ありがとうございます」
帽子を早速被ろうとした時、帽子の内側に何か描いていることに気付き、何なのか気になり、尋ねてみる。
「あの、この帽子の内側に描かれているのは何ですか?」
「ああ、私達獣人を生み出したと言われているメルノ様だ」
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