38.罪の名
「夫のアラン……?」
ということはこの人は……。
「はい。私がサーベントに捕まってしまう前はずっと一緒にいました」
「サーベントに捕まってからも、定期的に会えていたのですが、ずっと顔色が悪くて」
「心配で、色々聞きましたが、『大丈夫』としか答えてくれなくて」
アランは、アイシャのことを心配させない為、そして、アイシャに罪の意識を感じさせないように何も言わなかったのだろう。
「……アランのことを知ってはいる」
俺がそう言った瞬間、アイシャは目を丸くした。
「本当ですか!? 今はどこにいるんですか!?」
アイシャは少し自分を抑えられないでいた。無理もない。
「ちょっと、落ち着いてくれ」
「す、すみません。ちょっと気持ちが昂って……」
俺だけじゃ、説明不足だ。
裁判の手続きはギルドマスターがやっている。彼女に説明を頼もう。
「今のアランについて話す為に、ギルドマスターを呼んでくる」
★
「ちょっといいか?」
そうギルドマスターに問いかける。
「んー? 今ちょっと忙しいんだけど、急用?」
ギルドマスターは作業の手を止めずにそう言った。
「アイシャがアランを探している」
その俺の言葉にギルドマスターは反応すると、作業の手を止めた。何かのスイッチが入ったようだった。
「……今すぐいくよ」
その声から、重さを感じた。
★
そして、俺、ギルドマスター、アイシャの3人で話せる場を用意してもらった。
「これから言うことは、落ち着いて聞いて欲しい」
「はい」
アイシャも、ギルドマスターもそれぞれ少し違った覚悟を決めたようだ。
「……まず、今のアランさんについてですが、眠ってもらっています」
普段の砕けた口調とは異なり、丁寧な言葉遣いだ。
「一体どうして?」
「それを説明する為には、サーベントと彼の関係性から話さないといけません」
「今から言うことは、アランさんから聞いたことが中心で、客観的な事実ではありません」
実際、サーベントの調査は始まったばかりだ。
「でも、少なくても僕は本当だと思っていることを話します」
俺からしても、アランが嘘を言っているとは思わない。
「彼は……貴方を守る為にサーベントに従っていたと言っていました」
「どういうことですか?」
アイシャは少し身を乗り出し、そう、ギルドマスターに問いかけた。
「彼は、サーベントに『命令に背けばアイシャを殺す』と脅されていたそうです」
「私のせいで……?」
アイシャの言葉は震えていて、色々な感情がこもっているような気がする。
「悪いのは、サーベントです。貴方は決して悪くありません」
そうギルドマスターは言ったが、アイシャの反応はなさそうだった。
「……アランさんはこれから、光太郎とフリアへの殺人未遂等の罪で裁判で裁かれることになります」
「通常の殺人未遂なら、実刑は免れません」
「ですが、アランが『命令に背いた場合アイシャを殺す』という脅しにより、殺人未遂へと至ったなら、話は違います」
「しかしながら、光太郎さんとフリアさん、二人への明確な殺意があり、それ以外にもサーベントに命令されて行った様々な容疑があるので、完全に無罪というのは難しいのですが……」
「これから、サーベントの調査が進んでいきます」
「その調査次第では、実刑判決は免れるかもしれません」
沈黙がその場を包む。
そして、アイシャがその沈黙を破った。
「ちょっと……一人にさせてください」
「分かりました。同室の方達には、今日は一人にしてもらえるように頼んでおきます」
今は一人になっても受け入れられないかもしれない。だけど、このギルドマスターの配慮はきっと今のアイシャにとって欲しいものだ。
そして、アイシャが一人でどこかへと行くと、ギルドマスターは少し重苦しい空気を崩し、俺に話しかけた。
「……それと、君とフリアの思いも大切だよ」
「アランを許すかどうか」
行ったことだけで言えば全く許すつもりはない。
だが、理由が理由だ。俺は……。
「……もし、アランが脅されて実行したのなら、俺は許す」
それから、フリアにも思いを聞いたところ、俺と同じようなものだった。
アイシャとアランの今後のためにも、個人的には実刑判決とはなってほしくない。
★
そして、裁判が始まった。
この世界独特の法廷で、日本のものとは所々異なっていたが、そこまで大きな差はなかった。
「判決を言い渡します。主文、被告人を懲役1年執行猶予2年に処する」
裁判長の声が、重々しい空気の中響いた。
時間が欲しい……。




