22.獣人移住作戦
サーベントについて何か知っていないか、そして、俺たちの作戦に協力してくれないか、ギルドマスターに聞いてみることにした。
「最近よく来るね〜。どうしたの?」
「サーベントについて何か知っていないか?」
そう俺が言った瞬間、ギルドマスターの顔が少し曇ったような気がした。
普段は能天気なギルドマスターだが、ブルードラゴンがメルカを襲ったときと同じような真剣な表情だと感じた。
「サーベント……ね。うん、少しは知ってるよ」
「どんな些細なことでも良い。知ってること全部教えてくれ」
「待って。君はそれを知ってどうするの?」
「いや、もしかしたら、今フリアと目指してる夢のために敵対することになるかもしれないと思ったんだ」
「……そうか。うん、話すよ。けど、それを聞いた上で、本当に敵対するか考えて欲しい」
やはり、サーベントはかなり恐ろしい団体なのだろう。
「サーベントは最初、小規模の奴隷市場だった」
「だけど、奴隷の需要が大きくなっていくと、それにつれてサーベントも大きくなっていった」
「最終的には100人ものノルメ騎士団を闇に葬り去るくらいには強い力を手に入れた」
「第3の魔王とも繋がっているって噂もある」
第3の魔王……メルノの話によれば、本気でメキバニアを支配しようとしたら、1週間もかからずに支配できるほどの強さを持っている魔王。
何故、そんなに力があるのにあまり行動しないのだろうという疑問が頭をよぎったが、今はそれを考えるより、ギルドマスターの話を聞こう。
「そんなに恐ろしい団体に今立ち向かった人を知っているけど、その人はどこへ行ったか分からない。行方不明の状態だ」
「もしかしたら、死んでいるかもしれない」
「だから、もし、君達が何の策もなく立ち向かうのなら、僕は全力で止める」
今のままではサーベントを潰すなんて出来そうにない。
でも多分、必ず潰さないといけない団体だ。
「確かに、今のままでは難しい」
「だけど、今後、誰かがサーベントを潰す人が出てくるかもしれない。何かサーベントの重大な秘密を知るかもしれない」
「この夢を追っていたら、いずれは敵対する団体だと思う」
「だから、俺は、俺達は、少しずつ夢を目指しながら、策を練っていく」
その策でサーベントを潰すことが出来るかどうかは分からない。
でも、潰すことが出来る可能性はある。
まあ、どれだけサーベントについて知ったり出来るかは分からないが。
「……そうか。なら、もしかしたら君達が見つけてくれるかもしれない、サーベントに立ち向かった人について話そう」
「僕の昔の親友にシュウっていう獣人がいたんだ」
シュウ……どこかで聞いた名前だ。
「僕が6歳のときに、女なのに一人称が僕であることを馬鹿にされていたとき、シュウが助けてくれて、それから、仲が良く、何度も遊んだりしたんだ」
「そして、シュウが14歳ぐらいのある日、シュウの妹のカミラが行方不明になってしまったんだ」
「シュウや僕は色んな人に聞いたりして、サーベントに連れ去られたってことを突き止めた」
「だけど、それ以外のことは全く分からなかった」
「そして、シュウはサーベントを見つけたと僕に言い残すと、どこかへ行ってしまったんだ」
「僕はカミラが行方不明になったときからサーベントについての情報を集めている」
「だけど、さっき言ったことぐらいの情報しか集まらなかった」
サーベントはどうしてそんなにも正体が分からないのだろうか。
何かの魔法とかだろうか。
どこかで正体を知ることができたら良いのだが……。
「まあ、シュウかカミラを見つけたら僕に教えて」
「ああ、フルネームじゃないと同じ名前の人がいるかもしれないね。シュウはフルネームで……」
そこまでギルドマスターが言ったところでフリアがギルドマスターの声を遮るように言った。
「ひょっとして、そのシュウという人は、シュウ・アーベルですか?」
「え?何で知っているの?」
シュウ・アーベル……思い出した。
ケルノ村の人達から逃げていた俺たちを光の力を使い、獣人の家に移動させてくれた人だ。
「シュウは獣人の家という、私が元々住んでいた場所にいました」
「シュウは生きているの?カミラもいる?元気に暮らしてる?」
「はい。シュウは明るくて、みんな頼りにしています」
「カミラちゃんも元気に暮らしています」
シュウとその妹が獣人の家にいるということは、おそらく、シュウがサーベントから、何とか妹を連れて獣人の家に逃げたのだろう。
シュウは何か、サーベントについて知っているかもしれない。
「そうか……それは良かった」
そうギルドマスターが言い、3秒ほど沈黙が続くと、フリアが口を開いた。
「実は、ギルドマスターに協力してほしいことがあります」
「協力してほしいことって?」
「悪いけど、今のままじゃあ、サーベントと戦ったりはできないよ」
「いえ、違います」
「獣人の家の人は200人ぐらい居て、ケルノ村の人達から隠れて過ごしています」
「私はそんな獣人の家の人を全員このメルカに移住させたいと思っています」
もしかしたら、獣人の家がケルノ村の人とかに見つかるかもしれない。
出来るだけ早くメルカへ移動させた方が良いだろう。
「私の光の力を使って、光となるもの……つまり、光太郎さんの場所に全員を移動させることができます」
「人数が多いので、5分ぐらいはかかると思いますが」
「獣人の家の人が全員ここに来ることを望んでいると思うかい?」
「全員望んでいるかは分かりませんが、ここに来て良かったとみ思わせる自信はあります」
フリアの声からは自信が感じられた。
「……そうか」
「もちろん、協力してくれたら、俺達ができる範囲なら、何でもするつもりだ」
「分かった。協力しよう」
「そして、僕が要求することは、無理はしないこと。それだけだ」
「それだけで良いのか?」
「ブルードラゴンを倒してくれたし、獣人の家の人が住む場所は、冒険者寮が大体、400人分空いている」
「それに、シュウと話したいことが沢山あるしね……」
ギルドマスターが小声で何か言ったが、聞き取れなかった。
「何か言ったか?」
「いや、何でもない。具体的な作戦を立てようか」
「そうだな……ギルドの20人の信用できる冒険者と共に明日の午後1時から、獣人の家へ向かい、フリアさんが光の力を使っている間、フリアさん、そして、獣人の家の人達を冒険者たちに守ってもらう」
「冒険者20人を合わせて全員を移動させるのにどれぐらいかかる?」
「6分以内には移動させることができるかと」
「獣人の家の人達をいきなり、メルカに移動させたら、困惑して、何が起こるか分からない」
「獣人の家の人への事情の説明と、メルカに着いてからのメルカに住むことの説得はフリアさんに頼む」
「分かりました」
「光太郎さんはギルドの冒険者寮の前にいてくれ」
「安全だし、200人ぐらい簡単に入るぐらいのスペースがある」
「分かった」
「今から、僕は出来るだけ、協力者を集めてくる」
「午後8時にもう一度ここに来てくれ」
★
そして、午後8時になり、20人の冒険者と共に、ギルドマスターがやってきて、今回の作戦の説明を始めた。
「事前に説明したが、今回の作戦を再確認する」
「今回、君達にはフリアさんに、案内してもらい、ここから約10km離れているケルノ村の近くの山にある獣人の家に行ってもらう。出発は明日の午後1時だ」
「ケルノ村近くの人は、獣人を見つけると、獣人を捕まえようとする人が多い」
「だから、フリアさんが獣人であることはできるだけバレたくない」
「フリアさんには帽子を被ってもらい、できるだけ獣人であることがバレないようにするが、もしかしたら、ケルノ村の誰かがフリアさんが獣人であることに気付くかもしれない」
「もし、フリアさんが獣人であることがバレたら、魔法で眠らせてくれ」
「そして、獣人の家に着いたら、フリアさんに獣人の家の人に事情を説明してもらい、君達冒険者を含む約220人をメルカに移動させる光の力を使ってもらう」
「その光の力は発動に6分ぐらいかかる」
「その間、君達は獣人の家の人、そして、フリアさんを守ってくれ」
「報酬は金貨2枚だ」
★
そして、夜が明け、午後1時。
フリア達はケルノ村へ歩き始めた。
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