21.サーベント
フリアは無事なのだろうか。
一瞬、最悪な展開が頭によぎったが、今はフリアが生きていると信じよう。
これからどうしようか。
獣人と人間の共存への道へと進むのはもちろんそうだが、その前に小さな目標が必要だ。
今度、フリアと次は何をするのか考えよう。
あと、メルノと話していて、疑問に思うことがあった。
メルノはメキバニアには直接干渉しないと言っていたが、メキバニアにはメルノについての伝説や銅像がある。
その理由は次、メルノ会ったときに聞こう。
そんなことを考えていると、誰かが扉を開いた。
「光太郎さん、起きたんですね」
扉を開いたのは看護師だった。
「フリアは無事なのか!?」
俺は少し声を荒げて言ってしまう。
それほど、フリアが無事なのか心配だった。
「は、はい。フリアさんがブルードラゴンを倒した後、光太郎さんとフリアさんを町の方々がこの病院まで連れてきて、光太郎さんが目覚める3時間ほど前に目を覚ましました」
「フリアは今どこにいるんだ?」
「今も念の為、病室にて安静にしてもらっています」
「そ、そうか」
その後、検査があったが、俺もフリアも問題がなかったため、無事退院することができた。
しかも、今回の医療費は全てギルドが負担してくれたそうだ。
それだけではなく、ブルードラゴンを倒したことの報酬として、ある程度のお願いをギルドが聞き入れてくれるそうだ。
俺達はこのお願いを後にとっておくことにした。
そして、これからどうしていくかなどをフリアとギルドで話すことに決めた。
★
ギルドに着くと、ふと、メルノが獣人と人間の力のバランスについては話していなかったことが気になったので、フリアに少し聞いてみることにした。
「なあ、フリア、人間と獣人と魔物の力のバランスについてどう思う?」
「そうですね……魔物は正直、あまり知っていないので、判断しかねますが、単に力の大きさを比べるなら、人数差を考慮しないなら獣人と人間はそんなに力の差はないと思います」
「それは何で?」
「獣人の村では半分ぐらいが光の力を使うことができ、ダースさんやタイミさんのような冒険者の獣人がいることを考えると、人間全体の平均の力と、獣人全体の平均の力が同じぐらいだと思ったからです」
俺は今まで、各勢力の力の合計を比べたバランスだと思っていた。
だから、獣人と人間の力のバランスはとれていないと思っていた。
しかし、もし各勢力の平均の力のバランスを比べているとしたら、案外、獣人と人間の力は保てているのかもしれない。
だが、獣人と人間の平均の力があまり変わらないのなら、人口の差がかなりあることになる。
「今の人間と獣人の人口って分かるか?」
「確か、人間の人口が5億人ぐらい、獣人の人口が1000万人ぐらいだったと思います」
大体、50:1といったところか。
「その割には、メルカではあまり獣人を見かけないな」
「多くの獣人は隠れていたり、奴隷となっていたりしているので、あまり見かけないのだと思います」
「そうか」
「じゃあ、次に何をするかを決めよう」
「フリアは何か考えているか?」
「まずは、私の住んでいた獣人の家にいる獣人のメルカへの移住を目指そうと思っています」
「もし、メルカへの移住が成功したら、協力者もできると思います」
確かに、2人で人間と獣人の共存を目指すなんて、難しい。
少しでも多くの協力者が必要だ。
それに、獣人の家の存在がバレてしまったら、獣人の家に住んでいる全員が捕まってしまう。
出来るだけ早く獣人の家に住んでいる人達を助けないといけない。
だが、獣人の家からメルカまで、移動するのはかなり難しいだろう。
「どうやって獣人の家の人達を獣人の家からメルカまで、移動させるんだ?」
「光となるものの近く場所に、移動させる光の力を使って移動させようと思います」
「私達がケルノ村で追いかけられたときに、仲間の獣人が私達を獣人の家に移動させたときに使っていた光の力です」
「そして、私の光となるものは、お母さん、お父さん、スオリさん、そして、光太郎さんです」
「なので、光太郎さんにメルカで待機してもらい、私の光の力で獣人の家のみんなを移動させようと思っています」
なるほど、それなら移動させることができそうだ。
「そして、最終的には獣人の売買の廃止、奴隷となっている獣人の解放を目指します」
そのためには、かなりの協力者などが必要になるだろう。
でも、このフリアとだと何でもできるような安心感がある。
もちろん、今のままだとまだまだ遠い夢であるとは思うし、どれぐらいの時間がかかるかも分からないが、最終的には達成できると思う。
そう思っていると隣の席だったので、フリアの話が聞こえていた冒険者が話しかけてきた。
「やめとけ、命を落とすだけだ」
「それは何故?」
俺はその冒険者に思わず、睨みつける。
「獣人の売買を行っているサーベントっていう団体があるからだ」
「サーベント?」
フリアの過去の話に出てきた獣人を捕まえようとしていた団体だろうか。
「ああ、そのサーベントって団体にいくつかの村が協力していてな」
いくつかの村……ケルノ村の人々はフリアが獣人であることが分かると、すぐに追いかけていた。
そのような村が他にもあるのだろうか。
「ジルノ村、ケルノ村、ロノ村、まとめてジケロと呼ばれている場所に住んでいる人々は、獣人を捕まえて、サーベントに渡すことで金にしている」
「サーベントが扱っている獣人は光の力が使えない者、そして、獣人の死体だ」
「獣人の耳は一部の界隈では人気で、高値で売れるらしい」
「まだ、光の力というものが何なのかあまり分かっていない」
「だから、もし、光の力を使って抵抗するようなら、殺して、死体をサーベントに売っているそうだ」
俺は、メルノから光の力について聞いたり、フリアの光の力を見たりしているから、光の力を身近に感じているが、ほとんどの人にとっては未知の力なのだろう。
「そして、ここからがサーベントに関わらない方が良い理由だ」
「昔、サーベントを潰すために、約100人のノルメ騎士団が動いたことがある」
「ノルメ騎士団は今まで、多くの問題を解決してきた」
「ノルメ騎士団の人は冒険者で言ったらゴールドランク以上の強さがある」
ゴールドランクの冒険者はBランクの魔物を倒すことができる強さだとフリアが言っていた。
だから、ノルメ騎士団の人はダークベアのようなBランクの魔物を倒すことができるということになる。
「しかし、そのノルメ騎士団は誰一人帰ってこなかった」
「しかも、サーベントの規模は大きいのに、アジトの場所すらもよく分からなかった」
「それ以来、サーベントは獣人の売買以外、特に何もしていなかったことから、ノルメ騎士団がこの件に関わることはなかった」
「だから、獣人の売買を止めさせるなんて、命を落とすだけだ」
このサーベントという団体は確かに恐ろしそうだ。
だが、このサーベントさえどうにかすることができれば、獣人の売買を廃止させることはできるかもしれない。
なら、俺達はサーベントと敵対することになるだろう。
そして、サーベントを潰すためにはきっと、多くの協力者が必要だ。
だから、獣人の家の人達をメルカへ移住できるようにして、協力者を増やそう。
住む場所は、ギルドへのお願いを使って、用意してもらおう。
俺はサーベントに恐怖を感じながらも、少しずつ、人間と獣人の共存への道が見えてきたことを確かに実感するのだった。
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