とある、梅雨の、1日。
ド―――――――――!!!
うおお、なんかものすごい雨が降ってきたぞ。
梅雨真っただ中、梅雨前線の活発化により信じられない勢いの雨が降り注いで…これは降るというレベルじゃない!落ちとるがな!!!空からバケツの水落ちてキター!
この状況で、娘は帰ってこられるのか。
そもそも電車は止まってたりしやしないのか。
くそう、心配で仕事が進まん!!!
とりあえず交通情報を見てみる…電車は止まっていないようだ。
駅に着いたら電話するかな?
とりあえず連絡来るまでで待つか。
いつでも出られるように先にご飯作っておこう。
私は買い込んでおいた冷蔵庫の材料を取り出して…げえ!!!
「卵が全部なくなってる!!誰だ勝手に食った奴!!!」
かくしてキッシュを作る予定は却下され、ポテトサラダとベーコンホウレンソウ炒めがメニューに追加されることとなった。
鶏肉を照り焼きタレに漬け込んでもみもみしていると、なんか玄関で音がしたような?
ヤバイ、玄関のLEDライトが豪雨で倒れたのかも。
そう思って見に行くと。
「やー!すごい雨だね、あはは!!!」
全身ずぶ濡れの娘!!娘がー!!!
慌ててバスタオルを取りに行く。
「ちょ!!なんで電話しないんだ!!迎えいくって言ったのに!!」
「なんか充電きれちゃったからまあいっかと思って!」
玄関で恥ずかしげもなく服を脱ぎ捨てていく娘。
ちょ!今誰か来たらあんたどうするつもりなんだ!!
「ちょ!!あんた隠すとかしなよ!!」
「だいじょーぶだいじょーぶ!!!あはは!!!」
すっぽんぽんの娘にバスタオルを差し出すと、足だけ拭いてお風呂場に行っちゃったよ!!
なぜ…恥じらいを持たない!!!
年頃の娘だというのに…育て方を間違えてしまったとしか!
お風呂から上がった娘とキャベツを刻んでいると、玄関が騒がしい。
…息子が帰ってきたようだ。
「ちょっと、このキャベツ水にさらしといて!!」
「へいへい。」
玄関にはずぶ濡れの息子が落ち込んで立っていた。
「ごめん…ぬれちゃった。」
「いいよ!!拭くから全部脱ぎな?」
おずおずとランドセルを下ろして、服を脱ぎ…はじめない息子。
「だれか来たらはずかしい。」
「来ないから!!てゆーか、来てもいいじゃん…。」
「やだ。」
何だこの乙女は。
結局息子は足だけ拭いて、バスタオルに身を包んでお風呂場に行った。
恥じらい過ぎなんじゃないの…。
いや、普通か。うん、これが普通だ。
娘の異常さが、息子の正常な行動をおかしく見せているにすぎない。
お風呂から上がった息子と娘とキッチンで夕食の準備をしていると、何やら玄関が騒がしい。
「おーい、タオルタオル!!!」
玄関で旦那がなんか言ってるぞ。
うちは車庫が玄関からちょっと離れてて、車止めた後雨に濡れちゃうんだよね。
急いでバスタオルを持っていくと。
「ひゃー!すごい雨だよ!!いやーこれはひどいわ!!」
玄関で恥ずかしげもなく服を脱ぎ捨てていく旦那。
ちょ!今誰か来たらあんたどうするつもりなんだ!!
「傘さして来ればよかったのに!」
「めんどくさかったからさ!!あはは!!!」
すっぽんぽんの旦那にバスタオルを差し出すと、足だけ拭いてお風呂場に行っちゃったよ!!
なぜ…恥じらいを持たない!!!
「ぎゃー!!すっぽんぽんじゃん!!!」
「あんたが言うんかい!!!」
さっきおんなじことしてた娘が騒がしい。
息子は何も言わずにただ黙々と鶏の照り焼きにたれをかけている。
娘と旦那に血のつながりを感じるけどさ!!
息子はなんだか違うな!
落ち着いてるし、常識があるし、仕事が丁寧で…私そっくりだな!!うん!!!
「ふひー!めしめしー!!」
お風呂から上がった旦那がウキウキでテーブルにやってきた。
…なぜ上半身裸で椅子に座る!!!
…なぜ取り皿を気にしないで照り焼きをつまんで食うんだ!!!
「ちょっと!!!取り皿使いなよ!!!」
「わかったわかった!!!がつがつ!!!うめー!!!」
全然人の話聞きゃあしねぇ―!!!
「わーいいただきまーす!はふはふ!!」
「いただきます、もぐもぐ。」
娘と息子はきちんと取り皿に照り焼きを取って食べ始めたぞ!
そうそう、こうやってきちんとマナー良く食べるところはね、私と似て…。
「ごはんちょーだい!!」
「ごはんほしい。」
「めしくれー!!」
食欲魔人どもがー!!!
ご飯をよそってさしだして。
目の前でどんどん食らいつくされていく、鶏の照り焼きに、ポテトサラダに、ホウレンソウ炒めに…。
あかん!!あっけにとられてると、自分の分がなくなる!!!
急いで自分の取り皿に照り焼きを取って、食欲魔人たちの皿を見ると。
三人とも、鶏の皮先に取って食べてる!!!
かじり方が一緒だ!!!
こんなところで血のつながりを感じようとは。
ベーコンホウレンソウ炒めのブロックベーコンが抜き取られて!!
三人の皿に盛られている!!
こんなところで血のつながりを感じようとは。
なぜ…ホウレンソウを一緒にとらない!!!
「お母さんはほうれん草好きだから取っといたよ!」
「いつも怒るからさあ!!取っといてやったわ!!!」
「僕食べてもいい?」
「そんな気遣い、いらんわっ!!!」
いっせいに三人が箸を伸ばす。
はやっ!!
「わーい!いただきー!!」
「ちょっとお父さん取り過ぎだってば!!」
「僕のがない…。」
「もうちょっと落ち着いて食えやぁあああ!!!」
おかしい、おかしいぞ!
私の叫び声がまるで三人に届いていない!!
外の豪雨はとっくに止んでいるというのに!!
テーブルの上のご馳走は、あっという間にすっからかんになった。
明日は卵買って野菜買って牛乳買って…。
私はすっからかんになった冷蔵庫を見ながら、明日の買い物メモを書く。
「明日の買い物は大変だな…。」
呟いた私の後ろから、麦茶に伸びる手が!
…麦茶まですっからかんだよ!
「じゃあ一緒に行くよ!!」
「いっぱい買ってもらおう!!」
「アイス買いたい。」
全員連れて行くと危険だ!!
財布までもが…すっからかんになるにちがいない!!!
私は明日の買い物は多少大変だったとしても!
絶対に!
一人で行くことを、決めた。