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お前何ポジ?…お父さんですが何か?

作者: 明鯉尾


唐突だが俺の幼なじみの話をしようと思う。


名前は璃々。

めでたくも今年高校生となった。いや、本当にめでたい。


璃々はとてもかわいい。

贔屓目なしに見てもかわいい。贔屓をしていいのなら目に入れても痛くはないどころかどこにいれても痛くはないだろう。

髪は薄い茶色、肌は雪のように白く、瞳の色はブルーグレー。クォーターなので全体的に色素が薄い。

手足は細く、目は大きいが、顔自体、いや全体的に小さめで、学校でも背の順で並んだら前から数えた方が早いと言っていた。


そして見た目だけでなく、性格もいい。

天は彼女に二物も三物も与えた。いや彼女自身、もしかしたら神の遣いなのかもしれない。

まず優しい。

困っている人がいたら誰でも助けてしまう。バスで妊婦さんやお婆さんに席を譲ることはしょっちゅうで、お礼を言われると恥ずかしそうにはにかむ。

おっとりとしていて、学校でも不敬な輩につけ込まれないか心配だったが、そこは彼女の友人がカバーしているようだ。


璃々は今どき珍しいくらいのとても良い子だ。


しかし顔も良く性格もいいのに璃々には今まで彼氏が出来たことがない。


なぜならそれは。




──彼女がとてもダサいからである。




俺は凜々がまだ生まれて間もないころからの付き合いだ。

親同士が仲がいいこと、家が近かったのがその理由である。

この点に関しては親を手放しで褒め称えたいと思う。


そして璃々は子どものころからそれはもう可愛かった。


街を歩くだけで誘拐されかけたことは何度もある。

彼女の性格が良すぎるのも災いしたが、彼女は悪くない。薄汚い心で近づく大人が悪い。

俺は璃々が誰かについて行ってしまわないか心配で堪らず、常に一緒にいた。


彼女の家は母子家庭で、彼女は独りになりがちだったから。

きっと寂しかっただろうに、彼女は1度も駄々を捏ねたことはなかった。母親がいなくなると途端に泣きそうな顔をしたことは何度もあったが、それでも泣かずにいつも見送っていた。しかも心配させないように笑顔で。俺が代わりに泣いた。


そんなもはや人間ではなく天使なのでは?と思うくらい尊い存在の璃々は、保育園時代からモテた。

同級生ならまだ可愛いものだが、年上からもモテた。

手紙に始まり、呼び出されての告白、聴衆がいる中での告白、一目惚れ、バレンタイン、誕生日、卒園式…

何かのイベントがあってもなくても「好きです」の嵐。

それを断る度に罪悪感に溢れた顔をする璃々。

そのうち人と会うこと自体が辛そうに見えた。

俺は思った。



──このままではまずい、と。



人は見た目が8割。

璃々の性格を変えようとは思わない。優しい璃々のままでいい。

璃々の見た目を変えよう、と。


でも璃々の見た目を隠すのはよくない。寧ろ隠されることによって魅力がさらに増すだろう。見えないものにこそ、人は惹かれてしまう。まるでサモトラケのニケのように。

そのとき10歳だった俺が、幼いながらも悩んで、そして辿り着いた答え。


それが服装をダサくすることだった。




その日から、璃々の服は俺が選んだ。


とは言っても璃々が俺に選んでほしいと言ってくる訳じゃない。

ただ積極的にアドバイスをした。


「璃々にはこっちの方が似合ってるとおもう」

「こっちのほうがかわいい」


まだ幼かった璃々はひとりで服を選んでいたが、どれがいいのか悩むことも多かったようでアドバイスは喜ばれた。

向けられる純粋な笑顔に心はとても傷んだが、それでもやめることはなかった。




そして璃々も高校生になった。




「ごめん…!おまたせ、璃々」



「お疲れさま、翔」



高校の門の前で璃々が待っていた。


俺と璃々は別の学校である。とても残念だが仕方がない。璃々の夢のためだから。


入学式帰りだからなのか、璃々の胸には花のコサージュが着いていた。


そして璃々の姿全体を眺めて、俺は小さく呟いた。




「………だめだ」



璃々が可愛すぎる。


俺は敗北感でその場にしゃがみ込んだ。


重めの前髪長めパッツンがいけないのか?

スカートだって膝下で、制服だって少し大きめで着られている感が出るはずなのに。

キラキラが見える。女神降臨である。



「…翔?」


「翔先輩、とりあえず私にお礼は?」



璃々が心配そうな声をあげた。

だめだ、璃々を煩わせる訳にはいかない。

そう思い心を立て直す。

もう1人は璃々の小学校からの友人だ。そういえば彼女にも、ここまで璃々を送ってくれたお礼を言っておかなければ。



「大丈夫、ちょっと立ちくらみがあっただけ。

……亜由、ここまで送ってくれてありがとう」



そう言えば璃々は途端に心配そうな顔になり、亜由は満足げに頷いたが。



「そうそう先輩、璃々、やっぱり告白されてましたよ」



その一言でどうにか持ち直した俺の心が沈んだ。




「あゆちゃん、それは今はいいから…

翔、早く家に帰ろう?顔色がよくないよ」




そう言い募る璃々の声も右から左に通り過ぎていく。



「亜由、相手は?」



「4人、かなー?でもこれから更に増えるとは思うけど。やっぱり見た目が良すぎるよ。

…一目惚れは先輩的にはなし?」



「なし、というか一目惚れしてその場で即言うのは完全にナシだ」



普通そうかーと言いながら亜由が去っていった。

そんなこといいから!と璃々にしては強めの声をあげつつ、俺は璃々とふたりで帰った。



***



春が過ぎ、夏が過ぎ。


当然のように璃々の告白される回数も増えていく。

見た目もよくて性格もいいのだから、当然だ。



「中学は私服だったからな…」



「なに、またお前の彼女の話?」



昼飯を食いつつ対策を考えていると、どうやら声に出ていたらしい。


一緒に食っていた友人に呆れたような視線を向けられた。



「お前本当にそればっかりだなぁ…

そうやって他の男に盗られないようにしてるといつか逃げられるぞ」



脅すように茶化されたが、俺は屈しない。


そもそも。



「俺は璃々と付き合ってない」



「はぁ!?」



「璃々とはただの幼なじみだ」



「え、じゃあお前の片思いってこと?それでそんなに束縛してるの?ひくわ」



がたがたと椅子が遠ざけられたが、俺はため息をついた。



「おい飯食ってるときはやめろ、埃がたつだろ。

そもそも俺は璃々と付き合いとか思ったことはない」



「でもお前は他の男を近寄らせたくなくて、そんな格好をさせてるわけだろ?」



傍から見たらそう思われるのかもしれない。亜由にも昔同じようなことを言われたことを思い出した。


「そうじゃない。俺が璃々にダサい格好をさせているのは、璃々の見た目だけで告って来ないようにするためだ。

見た目だけじゃなくて、璃々の内面も理解して、それでも好きならダサくても言ってくるやつじゃないと、俺は認めない」



「お前何なの?何ポジなの…?」




心底不思議そうな友人のその問に、俺は初めて悩んだ。



璃々と付き合うとか恋愛的な意味で好きだとかそういう思いを持ったことは無い。これは本当だ。

なぜなら璃々が尊すぎる。俺程度の人間がその隣に立つのに相応しくはない。これは確信を持って言える。




だから俺の彼女に対するポジションは。




「父親だな」




友人の盛大なため息が教室内に響いた。




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