魔獣の壺 - 番外編 - 後日談
この話は、魔獣王討伐後の後日談です。
ジェイルは魔獣王討伐記念館に展示する作品の一つである
ドラゴンの絵画を眺めていた。
これは魔獣王との戦いの当日に複数人の絵師が
空に浮かぶドラゴンのようなものを絵画にした物であった。
ジェイル:「しかし、不思議だ。
同じドラゴンを描いた絵なのに何故ちがう。
偽りの絵なのか?」
集められた絵は10点ほどあったが、
ドラゴンの形が全く異なるのだ。
大きく分けて3つに分類できた。
一つは、大きく、羽根の生えたドラゴン、目前の黒い玉に向けて
大きく口を開き、舌か炎のような物をだしている。
一つは、一枚目より細身で、小さい羽根を持つ。
その口は目前にある黒い玉をかみ砕こうと開いている。
最後の一つは、蛇の様に細長い胴体をしており、
顔の近くに黒い玉が浮かんでいた。
その時、レミューズが現れた。
ジェイル:「師匠!!
丁度良いところに、、、。」
レミューズ:「んっ、どうした?」
ジェイルは疑問点をレミューズに説明した。
レミューズ:「なるほど。
絵の詳細な情報をみせてくれないか?」
ジェイル:「あっ、はい。
これです。」
ジェイルから提示された情報には、絵画の作者、作成日、
目撃した場所等が書かれていた。
レミューズ:「なるほどな。
どうやら目撃場所によって違うようだな。」
ジェイル:「目撃場所?」
レミューズ:「胴体が最も太く描かれているのがルシード王国。
少し細く描かれているのがクライム王国。
蛇の様に細く描かれているのがカルラド王国。
このようになっているみたいだ。」
ジェイル:「つまり見る場所によって
見え方が違ったという訳ですか。」
レミューズ:「そういうことだな。」
ジェイル:「なるほど。
そういうことならば、
全ての絵を展示する事にしましょう。」
その時二人の元に一人の若者が現れた。
???:「ジェイル王、カイン王について報告があります。」
ジェイルの顔が歪む。
ジェイル:「デヘッ、デヘヘヘヘ。」
ジェイルが顔を上げると目の前にはニコが立っていた。
ニコ:「どうされました?」
ジェイル:「あっ、あぁ、すまない。
聞いていなかった。
もう一度言ってくれないか?」
ニコ:「カイン王について報告があります。」
ジェイル:「いや、そうじゃない。
最初から頼む。」
ニコ:「えっ???。
あぁ。
ジェイル王。」
ニコは、苦笑いをしたあとで、一旦区切り、
少し間をおいてから続けた。
ニコ:「カイン王について報告があります。」
ジェイル:「デヘッ、デヘヘヘヘ。」
レミューズ:「おい、ジェイル。
何をにやけている。
お前はカイン王の言葉を忘れたのか?」
ジェイル:「・・・」
レミューズ:「カイン王は言っていたはずだ。
王などという呼び名は、だだの肩書にすぎない。
国民の代表として、いかに行動するかが全てだ。
その行動の全ては国民が注目しているし、
行動を評価するのは後世の国民だ。
優秀な王になれとは言わない。
無能な王と蔑まれない行動をとること。
そう、国民に自信をもって報告できる
行動をとることが、最も重要なことだ。
わかっているか?」
ジェイル:「すみませんでした。」
ジェイルは明らかにすまなそうな顔をした。
レミューズ:「私に謝るのは筋違いだ。
謝るならば国民に対してだ。
次から気を付ければいい。」
ジェイル:「分かりました。」
レミューズ:「さて、ニコ殿。
カイン王がどうしたのかな?」
ニコ:「あっ、そうでした。
カルラド王国で、カイン王の目撃情報がありました。」
レミューズ:「・・・」
ジェイル:「なに!?
それで?」
ニコ:「カイン王は、カルラド王国を通り
南下したとの報告です。」
レミューズ:「・・・」
ジェイル:「南下?
カルラド王国の南は海のはずだが?」
レミューズ:「ジェイル」
ジェイル:「なんでしょう?」
レミューズ:「2人だけで話がしたい。
そうだな。
軍議室ではどうかな。」
ジェイル:「わかりました。」
2人は、軍議室へと向かった。
レミューズ:「まず聞きたい。
何故カイン王の足取りを追っている?」
ジェイル:「魔獣王の撃退は成功しましたが、
まだヴァニッシュは残っています。
カイン王とバーバラさんを守る必要があると考え、
足取りを追っています。」
レミューズ:「なるほど。
だがな、カイン王とバーバラだぞ。
例えば100人程度の傭兵で2人を襲ったとしよう。
カイン王とバーバラに勝てると思うか?」
ジェイル:(2人ならすぐに気が付くだろうし、
バーバラさんの範囲魔法攻撃で全滅か。)
ジェイル:「無理でしょうね。」
レミューズ:「奇襲魔法攻撃ならばどうだ?」
ジェイル:「んー。
どうだろう?」
レミューズ:「バーバラは感知の魔法*1も唱えられるし、
感知の魔法陣も作れる。
さらに2人とも、感知の指輪をつけている。」
ジェイル:「だとしたら、無理ですね。」
レミューズ:「ならば、少人数の暗殺部隊で攻めたとしよう。
勝てると思うか?」
ジェイル:(接近戦か。
カイン王なら負ける事はないだろうな。
バーバラさんの掩護があれば圧勝というところか。)
ジェイル:「無理ですね。」
レミューズ:「では、2人より弱い者が護衛に入ったらどうだ?」
ジェイル:「相手の弱点を攻めるのが戦いの鉄則だから、
まず、護衛を倒す。
そうか。
カイン王やバーバラさんなら、護衛を守る。
つまり、足手まといにしかならないですね。」
レミューズ:「そうだ。
同程度以上の者が護衛するなら意味がある。
しかし、弱者では足手まといになるだけだ。
カイン王が非情になれるならば、
盾ぐらいにはなれるだろうが、
カイン王がそれを選択するとは思えない。」
レミューズは、小声で言った。
レミューズ:「まあ、バーバラならやりかねないがな。」
ジェイル:「えっ。」
レミューズ:「いや、なんでもない。」
ジェイル:「カイン王とバーバラさんに匹敵する者か、、、。
何人かは思い浮かびますが、
護衛に専念させるのは、、、。」
レミューズ:「だろうな。
心配なのはわかるが、2人にはもう関わるな。
彼等にもやるべきことがある。」
ジェイル:「やるべきこと?
何か知っているんですか?」
レミューズ:「ここからが本題だ。
2人は、カルラドの南にある島に向かっている。」
ジェイル:「島ですか。
どうして?」
レミューズ:「魔獣王が現れる直前に、
その島で未探索の遺跡が発見された。
発見したのは魔導士だ。
魔道士は傭兵を雇い、遺跡の探索に向かった。
しかし、探索は失敗に終った。
魔導士もその探索で死んだらしい。
その後魔獣王が現れ、
遺跡の探索は中断されたままとなっている。
遺跡の存在を知っている者もほとんどいない。
魔獣王が倒された今、
次の戦いまでに遺跡の探索が必要というわけだ。」
ジェイル:「なるほど。
ところで、魔導士とは誰なのですか?」
レミューズ:「・・・。
私の叔父だ。」
ジェイル:「師匠の叔父ですか。」
レミューズ:「あぁ、叔父は魔導に生涯をかけていた。
その遺跡に新たな魔法を求めたのだろう。」
ジェイル:「そうでしたか。
すみません。」
レミューズ:「いや、いい。
2人には、私が話したんだ。
もし新たな魔法が発見されれば、
次の戦いに使えるからな。
まあ、そういう訳だ。
この話は内密にしてくれ。
ヴァニッシュに嗅ぎ付けられたくないからな。」
ジェイル:「わかりました。」
レミューズ:「話は変わるが、
この国をどう発展させていくか、
お前の考えを聞きたい。」
ジェイル:「はい。
この国の主な利益は傭兵協会への依頼、設備の使用、
傭兵学校の学費、各国からの支援でした。
魔獣王が去ったことから、
すぐにでも支援は打ち切られるでしょう。
傭兵の需要も大幅に減少するのは必然。
そこで今検討しているのが魔獣王討伐記念館です。」
レミューズ:「なるほど。
観光を母体にするのか。」
ジェイル:「そうです。
しかし、それはあくまでも一つでしかありません。
傭兵学校の魔法学科と魔法陣研究所の一部を
統合して魔法学校を設立します。」
レミューズ:「なるほど。
しかし、魔法学校はルシードにもあるが、
どのように差別化するのかな?」
ジェイル:「はい。
ルシードの魔法学校は、魔法の基本しか教えません。
新しい魔法の開発は結局のところ魔導士が個人で
研究しているにすぎないのです。
研究には資金と弟子が必要です。
そこで、研究者を魔法学校で雇い、
研究資金を提供します。
魔法学校の学生を弟子の代わりとして使います。
学生は勉強になり、講師は資金と弟子を得る。
完成した魔法は、魔法学校で使用する権利を得る。
どうでしょう?」
レミューズ:「なるほど、さすがだな。
カイン王が推挙するだけある。」
ジェイル:「まだ、色々とありますが。」
レミューズ:「いや、もういい。
私は、方針に従おう。」
ジェイル:「師匠には、私の補佐とドレアルさんの
魔法書執筆の補佐をお願いしたいのですが。」
レミューズ:「なるほど。
了解した。」
*1:感知の魔法
一定の時間詠唱者に対して攻撃魔法を唱えようとしている者の
距離、方向、詠唱魔法を知る事ができる。
指輪も同様の能力をもっているが、魔法に比べて感知範囲が
狭くなる。
----- ドラゴンの絵画について -----
同じドラゴンと呼ばれるのに、西洋のドラゴンと
東洋のドラゴンでは形状が異なるのか?
違う場所で描かれたのだから違うのは当たり前。
後世の人が単純に同じ名前に紐づけただけ。
と言ってしまえばそれまでですが、
そう言うのも味気ないのでこじつけてみました。