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宮殿内にいたその人物を見つけて、キリクはゆっくりと近づいていった。
「お父さん」
声をかけると、振り返ったその顔がわずかに煩わしそうにしかめられる。
「キリクか。おまえ、こんなところで何をしている? もう『仕事』は終わったのか」
五人目の神女、クーの命を絶って存在を抹消することを「仕事」という軽い一言で済ませるその顔からは、まったくなんの罪悪感も、それどころか感情の動きすら見て取ることは出来なかった。
彼にとっても教皇にとっても、面倒なのは四人の神女が決定するまでの過程であり、五人目が誰であるか確定されたなら、それより先は剣の一振りで済む、簡単な作業でしかないのだろう。
五人の神女たちがそれぞれどんな娘で、何を思い何を考えていたのかも、露ほども興味を抱かなかったに違いない。
今も、事の成否については問いかけても、キリクの顔や手足にある無数の切り傷は気にも留めない。
リシャル卿は、いつも通り、傲慢で不遜な人間だった。
自分以外の何者にも関心を持たず、人の心や情というものを理解しない。他人というのはすべて自分の言葉によって動く駒だと考えている。
「バーデン司教とは、まだお会いになっていませんか」
キリクは足を動かしながら、穏やかな微笑を浮かべて訊ねた。
リシャル卿の表情はまったく変わらない。
「司教? なぜだ。事の次第を報告するのなら、私ではなく、そのまま教皇の許へ行けばいい」
彼は司教とは別の意味で、この件に積極的に関わろうとはしていなかった。小心だからではない。本当に、真実、「つまらないこと」としか思っていないからだ。
この男の思考はすでに、次の段階に移っている。四人の神女が揃ったということを、これから神都に向けて大々的に発表せねばならない。それを上手にこなしてこそ、これからの「新しい百年」の幕開けを華々しく飾れるというものだ。その途中にあった些細な犠牲のことなど、もう彼の頭の端にも引っかかってはいないのだろう。
「教皇に報告に上がる前に、あなたにご相談申し上げたいことがあるようですよ」
リシャル卿の前まで来たところで、かつんと靴音をさせて足を止める。少し首を傾げながら柔らかい口調で言うと、相手は露骨に鬱陶しそうに眉を寄せた。
「なんだ、また愚痴でも垂れ流そうというのか? それとも、神殿を穢したことの見返りでも要求するつもりか? まったくあの老害、いつまであの地位に醜くしがみついていれば気が済むのか──」
不快そうに動かしていた口がぴたりと止まった。
昆虫のように無感情だった目が、驚愕で大きく見開かれた。
リシャル卿の腹部には、キリクが音も立てずに素早く抜いた剣が、深々と突き刺さっていた。
腹から滲んだ赤い血が、線のように剣を伝って流れ、ぽとりと床に滴り落ちて丸い染みをつくる。
その事実を認識して、冷酷なその男の顔に、はじめて愕然とした表情が浮かんだ。
「──なぜ」
どうして自分がこんなことになっているのか、理解できないでいるらしい。我が身を貫く剣を見て、それからその柄を握っている目の前の「息子」の顔を見る。
呟いた言葉は、皮肉にも、キリクがあの部屋で口から洩らしたものと同じだった。
「こんなところだけ、親子で気が合いますね」
にっこりしてそう言うキリクに、リシャル卿は信じられないものを見るような目を向けた。
自分の予定にはない行動をする駒があるとは思いもしなかった、ということか。狡猾で用心深いわりに、この男は自分を過信しすぎていた。
「バカな……キリク、こんなことをして……おまえの妹は……」
その瞬間、剣を突き立てていた手に、さらに力が入った。
刃がずぶずぶと奥へ沈み、ほとんど柄の根元まで埋まっていく。男の身体がびくんびくんと跳ねるように痙攣し、ごふっという音と共に口から血泡が噴き出した。
リシャル卿の背中からは、血と脂に塗れた長い白刃が飛び出して、異様な輝きを放っている。動きを止めたまま、口から赤い血を流し、顔がどんどん白くなっていく様は、奇怪な翼を生やした不気味なオブジェのようでもあった。
「僕の妹はもういない。大事なものは、すべてこの手の中から零れ落ちた。──そんな人間に、怖いものがあるとでも?」
声は静かなままだが、剣の柄を握るキリクの手は、今もまだ渾身の力が込められて、ぶるぶると小さく震えている。
その顔に浮かんでいるのは、凄絶なまでに人間味のない、美しい微笑だった。
「……いいや、僕はもう、人であることもやめた」
言うや否や、ずしゃっと湿った音をさせて勢いよく剣を引き抜いた。男の口から、ごぼりと大量の血の塊が吐き出される。真っ赤な飛沫が顔に飛んできたが、キリクはまるで頓着しなかった。
剣を抜くと同時に、そのまま振りかぶる。
そこに至ってようやく尋常ならざる声と空気に気づき、警護の宮士が駆けてきたが、キリクはそちらを一瞥することもなかった。
ひゅっと風が鳴り、まっすぐ首を狙った剣が、一瞬もためらうことなく振り下ろされた。
一気に噴出した大量の血液が飛散し、落とされた頭部が床に跳ねて、転がっていく。
あまりにも衝撃的なその光景に、宮士が「ひいっ!」と悲鳴を上げて急停止した。
首から上を切り離された身体は、そのまま後ろ向きに倒れた。頭だけになった床の上のリシャル卿の目は、ちょうどそちらを向いている。その顔はまだ驚いたまま、離れてしまった己の身体部分を、茫然と見つめているようでもあった。
宮士の叫び声を聞きつけたのだろう。他の宮士たちが走るバタバタという慌ただしい音が複数、こちらに向かってきていた。
キリクは持っていた剣をびゅっと振って、血糊を払い落とした。無防備なほどの態勢でその場に立ち、彼らが駆けつけてくるほうを見やる。
虚無そのものの瞳で、薄っすらと微笑んだ。
***
──キリクとニーアは、もともとクリスタルパレスではなく、神都に住んでいた。
神都で生まれ、神都で育った人間の常として、キリクもまた、幼い頃から女神リリアナを純粋に崇拝し信奉していたし、その女神からも見捨てられた存在である棄民を、「人の数には入らない者たち」と見做していた。
他の子供たちのように棄民を虐げたり、半民を苛めたりという行為に加わらなかったのは、別に優しさからではなく、単にそこまでの関心を彼らに向けていなかったからだ。この頃にはもうすでに、キリクの頭にも身体にも、神民としての選民思想が、拭い難く植えつけられていた。
小さい時から大体なんでもそつなくこなすことが出来て、周囲から「この子はなんて利発なのだろう」と称賛されていたキリクでも、当時は少し口と頭が廻るだけの、自分がいかに狭い世界に生きているのかを自覚することもない、他の神民たちと何も変わらない子供でしかなかったのである。
その世界ががらっと様相を一変させたのは、キリクが十五、ニーアが十一になった年のことだ。
その時になってはじめて、キリクとニーアは、自分たちに父親がいる、ということを知らされた。
それまで自分たち兄妹には母親しかいなかったので、父親はもうすでに亡くなっているか、縁を切っているかだとばかり思っていた。しかし、実際のところはそうではなかったらしい。
キリクはこの母親が、あまり好きではなかった。
派手好きで、遊び好きで、位階の上下によって相手に対する態度をがらりと変える。勉強や行儀作法には厳しかったが、自分たちの世話は使用人に任せ、家を数日空けることもよくあった。
彼女は、自分の子供たちに対しては、服や遊び相手に向けるほどの関心も情熱も持たなかった。
母親がいない時、しくしくと泣きだす妹を慰めるのはいつだってキリクの役目だった。素直で愛らしいニーアは、昔からキリクのたったひとつの宝物だ。彼女が熱を出しても、構うことなく使用人に預けてふらふらと外に遊びに行ってしまう母親のことを、好きになれるはずもない。
兄と妹は、いつも身を寄せ合って、互いの寂しさと孤独を共有し、分かち合い、癒し合った。
にいさま、とニーアが甘い声で呼んで、笑う。
彼女と一緒にいる優しい時間が、キリクはなにより好きだった。
そんな時に唐突に降って湧いたように現れたのが、今までいないものとして気にかけることもなかった、父親の存在であったわけだ。
母親はどうやら、今まで一定の生活費養育費を、その父親たる人物から貰っていたらしい。
実家が裕福というわけでもなく、本人が何かの仕事をしている様子もない。一体あの衣装代や遊興費はどこから出るのかと子供心にも不思議だったが、なるほどそこから来ていたのだなとキリクは納得した。
その父親が、キリクとニーアに会いたがっているという。
正直、キリクは戸惑う気持ちのほうが大きかったが、ニーアは「わたしにもとうさまがいるのね、嬉しい」と目を細めて喜んだ。
父親はクリスタルパレスの住人であると母親は言った。それも驚きだ。キリクの母の位階は決して高いものではない。彼女はどういう伝手を辿って、そのような人物と繋がりを持ったのだろう。
「あなたたちのお父様は、とても位階の高い、ご立派な方なのよ。そのお父様がね、一度、成長したあなたたちの顔を見たいと仰るの。クリスタルパレスに行けるのよ。なんて光栄なことでしょう」
母親は、今まであまり聞くことのなかった優しげな声で、二人の子供にそう言った。
クリスタルパレスといえば、神民にとっては憧れの地である。第三位より下の神民は、成人してからでないと入ることが許されない。それだって、審査を必要とするくらいだ。
その場所に、今回は特別に入れてもらうことが出来るという。確かに興味がないと言ったら嘘になるが、それでも、若干の疑念を抱かずにはいられなかった。
……わざわざそんなことをしなくても、自分たちの顔が見たいという理由だけなら、あちらが会いに来ればいいだけの話ではないか。そのほうがずっと簡単で、かける労力も少ない。
特別なことというのなら、その許可をもらうための申請なり費用なりが必要になるはずなのに、そうまでしてあちらに呼びつけようという、その意図は何だろう?
どうにも嫌な予感しかしなかったが、結局、子供が母親の決めたことに逆らえるはずもない。ニーアが目を輝かせたこともあるし、渋々その言いつけに従って、兄妹は父親に会いにクリスタルパレスの門をくぐることになった。
奇妙なことに、浮かれた様子の母親はそれには同行しなかった。父親がそれを望んでいないという。しかしその決定に不満そうにするでもなく、母親はにこにこしてキリクたちを馬車に乗せた。
「あちらでは、ちゃんとお父様の言うことを聞くのですよ。いい子にして、決してご機嫌を損ねないようにね。キリクは頭がいいし、ニーアはとても可愛いのですもの、きっと気に入ってくださるわ」
見送る母親の言葉に違和感を覚えた時にはもう、馬車は走り出していた。窓から後ろを振り返ると、母親が笑いながら手を振っている。
その、はちきれんばかりの期待と喜悦の表情に、心底、ぞっとした。
──そしてその悪い予感は的中し、キリクとニーアは、それきり神都に戻れなくなった。
あとで知ったことだが、母親は大枚の金と位階を引き上げることを条件に、リシャル卿に子供を渡すことを承知したらしい。
位階がひとつ違うだけで、周囲からの目も扱いも格段の差がつくということをよく知っている母親は、その話を迷うことなく受けただろう。彼女は最初から、リシャル卿がいずれそれを必要とした時のために、子供を産んで養育することだけを役目としていた女性だったのだ。
金と位階で、母親はあっさりとキリクとニーアを売り払った。
それが、神民に対する不信感をキリクに抱かせる、最初の機会になった。
***
実際のところ、キリクたちとリシャル卿の間に、血の繋がりがあったかどうかは定かではない。
それでも、キリクとニーアは第三位神民という立場を得て、リシャル卿の子供として、クリスタルパレスに居住することになった。
そこでの日々の生活は、相当な苦痛を伴うものだった。
一方的にパレス内に家を与えられ、使用人という名の見張りをつけられて、毎日毎日ただひたすらに、膨大な知識と教養を詰め込まされる。父親であるはずのリシャル卿はまるで姿を見せず、拒否することも反抗することも許されない。キリクは必死になって押し付けられたものを咀嚼し、呑み込んでいく他になかった。
同じ家にニーアがいる、ということだけが、キリクにとって唯一の救いだった。
とにかく、どういう事情なのかは判らないが、リシャル卿が自身の代わりになって動くような手駒を欲しがっているのは間違いないのだろう。
だったら、こちらだってそれにがむしゃらに食いついていくまでだ。キリクが使えない駒だと思われたら、あの男はきっとすぐにでも自分たちを捨てる。
文字通り「捨てる」のか、母親のところに突っ返すのかは不明だが、キリクはどちらも真っ平だった。
今は辛抱して歯を喰いしばってでもあらゆるものを吸収し、いつかリシャル卿に対抗できるような力を身につけるのだ。
それしかニーアを守り、幸せにしてやる道はない。
ニーアはそんな兄のことをいつも心配していた。自分がキリクの足枷になっているのではないかと、「ごめんなさい、にいさま」と目を伏せて謝ることもあった。
闊達で無邪気で、いつも屈託なく朗らかに笑っていた少女であったのに。
「ニーア、そんな顔をしないで。昔も今も、君は僕のたったひとつの宝物だ。君がいるから、僕もこうして頑張れる。だから君には笑っていて欲しい。大丈夫、大丈夫だよ。親なんていなくても、僕らにはまだ、女神リリアナのご加護がある。君は何も心配しなくていい。……さあニーア、笑って」
そう頼むと、ニーアはようやく笑ってくれる。痛々しいほどに、明るく振舞って。
「にいさまは、ちょっと妹を大事にしすぎではないかしら。そんなことで、いつかちゃんと恋人を見つけられるのか、わたし、とっても心配だわ」
「言ってくれるね、ニーア。僕はこう見えて、パレス内でもけっこう人気があるんだよ」
「みんな、にいさまのその優しげな顔と、くるくる廻る口車に騙されるのね。お気の毒に」
「ひどいなあ」
キリクは笑ったが、おそらくニーアはこの頃から気づいていたのだろう。
母親に捨てられ、パレスに入ってからというもの、キリクが表面的な笑みと上っ面だけの態度で、自分を韜晦するようになったこと。年上の大人たちだけでなく、同じ年頃の少年少女にさえも、決して自分の本音を見せなくなったことを。
彼が素の自分を曝け出すのは、唯一、ニーアの前だけであるということも。
「ねえ、にいさま」
と、ニーアは真面目な顔になって言った。
「にいさまがいつか、本当に大事な友人、本当に大事な女性を見つけたなら、その時は絶対に、何も隠してはダメよ。自分から手を離すような真似をしてはダメよ。困った時には困ったと打ち明けて、素直に助けを求めなければダメよ。……きっといつか、にいさまの大事な人たちは、にいさまのことを救ってくれる。あちらから差し出された手を、ちゃんと掴まなければダメよ」
必ず、必ずよ──と、ニーアは懇願するように繰り返した。
あの時の彼女の目に、未来の何が見えていたのか、キリクは未だに判らない。
***
そうして二年が経ち、キリクは十七歳になった。
この頃にはもう、キリクは穏やかな微笑と柔らかい物言いで、他人を転がすすべをすっかり身につけてしまっていた。社交の場にも顔を出し、その技術で人脈を作り広げていくことも覚えた。
他人は大体、第三位神民という身分と、リシャル卿の息子という肩書だけで、キリクを判断する。彼らが勝手に頭に思い描く像に合わせてやって、そのように振舞ってみせるのは、キリクにとってさほど難しいことではなかった。
リシャル卿は、キリクに宮殿の文官という職を与えた。別に楽しいわけではなかったが、キリクは真面目に仕事をこなし、順調に実績をつくっていった。リシャル卿からの命令は、いつでも従順に肯い、頭を下げた。
第一位神民のリシャル卿は、知れば知るほど好きにはなれない人物だ。
しかし、間違いなく大きな権力を持っているということも、嫌というほど実感した。
ソブラ教皇の側近にまで上り詰めた男は、自分の目的のためには手段を選ばず、容赦もない。今のキリクが抗ったところで、簡単に捻り潰されることは目に見えていた。
まだ、動く時ではないのだ、とキリクは己を自制した。いつか必ず、反撃の機会は来る。その時のために、今はとにかく力を蓄えておかなければ。
その時が来たら、ニーアの手を取って、パレスから出て行こう。
リシャル卿の支配から抜け出して、自由になろう。
いつか必ず。
そうすれば、ニーアもきっと、以前のような笑顔を取り戻すに違いない。
──キリクの望み、キリクにとっての希望の光は、それだけだった。
そうやって機会を窺っていたキリクの許に、珍しくリシャル卿からの呼び出しが来た。
話しておくことがある、という。
内心の動揺を悟られないよう、キリクは大人しく彼の許へ参上した。
「キリク、百年に一度の神女選定のことは知っているな?」
たまにしか会うことはないが、そこにいる男はいつものように、挨拶も前置きもなく、唐突に話を切り出した。きっと彼にとって、キリクはそんなことをしなければならない相手ではないのだろう。いちいち怒っても仕方ないので、キリクは微笑して頷いた。
「もちろんです」
「次回の選定が、五年後だ」
「存じてます」
自分の言い方が投げやりにならないように苦労しながら答える。
百年に一度の神女選定が五年後に迫っていることは、神都では子供でも知らない者はいない、周知の事実である。今さらそんなことを言いだして、一体この男は今度は何を企んでいるのだろう。
「私がどうしておまえを引き取ったか、その理由は判っているか」
その問いには、キリクは訝しげに目を瞬いた。
リシャル卿がキリクとニーアをパレスに連れてきたのは、何かの目的に使うため、何かの手段として利用するためだろうということは、もちろん考えていた。
しかし、その「何か」は、自分が思いもよらなかった方向にあるもののようだ。
「──五年後の神女選定に関係があるということですか」
「そうだ。おまえにもそろそろ、事情を呑み込んでいてもらわねばならんと思ってな」
「水晶が示す神意に、余人が干渉することは不可能だと聞いております」
「ああ、そんなことは当然だ。神意には誰も干渉できん。ソブラ教皇でもだ」
リシャル卿は飛んでいる虫を払うように手を振った。
「おまえが知っている神女選定とはどんなものだ。言ってみろ」
キリクはますます不審そうに眉を寄せた。
「女神リリアナの意を受けて、水晶が四人の神女を選び出す。それからひとつずつ役目が授けられて、彼女たちは正式な神女に──」
「いいや、違うな」
リシャル卿は唇を曲げて嗤った。
「神女は四人ではない。五人だ」
は? とキリクは問い返した。
「しかし、そんなことは──」
「無論、表向きには、神女は四人だ。これまでずっとそうなっていた。代々の神女も四人ずつしか名が残っておらん。なぜか判るか?」
「……つまり」
「毎回、『五人目』だけは存在が明らかになる前に、消されていたからだ。五人目の神女は我々にとって不要なものだからな。あれはこのクリスタルパレスの栄光を脅かす脅威であり、災厄だ。いいか、キリクよ」
リシャル卿は無慈悲に底光りのする目をキリクに据えつけて、冷え冷えとした声で命じた。
「おまえは必ず、その五人目の神女を見つけ出した上、片時も離れず付き従って監視し、確定したと同時にその者を殺さねばならん。重大な使命だ、心せよ」