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教皇との対面の日取りが伝えられてから、どこか上擦った雰囲気だった神殿内は、ここに来てますます落ち着かないものになった。
とはいえ、それは先日までの高揚の混じった興奮状態での落ち着きのなさとは違う。
たまに姿を見かける神女候補たちは、どの顔も不安と焦りでピリピリしている。廊下ですれ違ってもお互い目を合わせもせず、そのくせ誰もが何かを訊ねたくてたまらない、というように相手の出方を窺っている感じがした。
クーにももちろん、その理由は判っている。
──モリスがある日唐突に、姿を消したからだ。
もともと神女候補たちは居室にこもってしまえば、いるのかいないのか判らないくらい静かである。それにモリスは、他の候補たちと違ってあまり自己主張をしない性格で、これみよがしに女官と衛士を引き連れ神殿内を歩き回ることも、外に出ていくことも多くなかった。最近顔を見ない、というくらいなら、誰も特に変だとは思わなかっただろう。
しかし、部屋の前で番人のように立っていた衛士二人がいなくなり、出入りをしていた女官もぱったりと姿を見かけなくなった、となれば話は別だ。彼女の居室はいつも不気味なくらいひっそりと静まり返っていて、食事も運ばれていく様子がない。
モリスはこの神殿からいなくなったのだ、という結論に誰もが到達するのは当然のことと言えた。
***
「……モリス嬢付きの衛士は、衛士舎にもいないんだ」
クーにそう教えてくれたのはカイトだった。その顔はどこか心配そうに眉が寄せられ、ここはクーの部屋の中だからそんな必要もないというのに、声を潜めている。
「いないって?」
つられて、クーのほうまで内緒話をするように音量を抑えてしまう。
「ある日いきなり戻ってこなくなった。それっきり、誰も連中を見ていないらしい。いつの間にか荷物も消えていた。奴らの部屋は、今はもうがらんどうの空っぽだ。しかし上のほうはそれをまったく問題視していない。じきに新しい衛士が補充される、とそれだけだ」
「どうしていなくなったか、説明は?」
「まったくない」
首を横に振るカイトの目には、突然消えた同僚を案じる色がある。
決して、「仲間」と呼べるような間柄ではなかったはずだし、どちらかといえばあちらからは白い目で見られていたのだろうに、「こういう時にそんなことは関係ない」ということらしい。クーはそろそろ、カイトのそういうところに腹を立てるのも面倒になってきた。
「司教も神官も、神女候補が一人いなくなったことを気にする様子はないしな……ということは、やっぱり」
クーが口許に手を当て、考えながら呟く。
モリスが正式な神女に決定した、と。
司教からはまだ何も知らせはないが、普通に考えればそういうことなのだろう。
「これから順に、正式な神女になる者が水晶によって示されていく」、「水晶が神女を示したなら、その結果はすぐに本人の元へ知らされる」とのことだったし、モリスは水晶によって最初の神女として選ばれ、神殿を出て行った、と判断するのが妥当だ。
だからこそ、他の神女候補たちも、一様に不安と焦りの表情を浮かべているのだろう。
自分たちの中から正式な神女が決まったとなったら、残る神女の座はあと三つ。しかも、いちばん最初に第八位のモリスが選ばれたということは、神女になる順番に位階の上下はまったく関係ない、ということを示してもいる。
クーの目から見ても、他の三人は、棄民は別格として、「これに負けるはずがない」と、モリスのことを特に軽んじていた。
そのモリスに先を越され、今までの自信が一気にぐらつきはじめても、無理はない。最終的にどうせ神女になるのなら指名の順序なんてどうでもいい気がするが、彼女らにとってはそうではないのだろう。
しかも、今回は「余分な一人」が、候補の中に入っていることが判っているわけだし。
そういう彼女らの心情に配慮して、神殿も宮殿も、騒ぎ立てるのを控えている、ということなのだろうか。
しかし──だからといって。
「なんか……ひっそりとしすぎていないか?」
クーは首を傾げた。
神殿や宮殿のやり方なんて知らないし理解も出来ないクーだが、あまりにも自分が漠然と想像していたものとは違っている。
百年に一度の神女選定、と大仰なまでに打ち立てるわりに、実態はずいぶんと華々しい派手さとはかけ離れていやしないか。
誰にも知られずに、神殿から連れ出されたモリス。
いつの間にか忽然といなくなった衛士と女官。
未だに沈黙を保ったままの、神殿と宮殿。
「まるで、人知れず、罪人を処刑したみたいだ」
「バカ、しっ」
思ったことをそのままぼそりと口にしたクーを、カイトが慌てた顔で人差し指を唇に当てて止めた。
あたりを憚るように、きょろきょろと視線を巡らせる。ここはクーの部屋の中で、いるのはクーとカイトの二人だけだというのに、誰かがこっそり聞き耳を立てて、どこかから覗いてでもいるかのような慎重さだった。
カイトはさらに声を抑えた。
「クー、これからくれぐれも言動には気をつけろ。もしも本当にモリス嬢が正式な神女になったっていうのなら、少しでも不敬なことを言うと、それこそこちらが罰されるかもしれないんだ。『神女候補』と『神女』じゃ、立場がまったく違うんだからな」
「だけどカイトも変だと思うだろ。モリスが正式な神女になったなら、大きな顔で神殿にやって来て、ざまあみろとばかりに威張り散らしてもよさそうなものだって。いかにもそういうことをしそうなタイプだったじゃないか」
いきなり喧嘩腰で突っかかってきた、「おどおど」の顔を思い出しながら、クーは不満げに唇を突き出した。未だに、あの時のことは腹に据えかねているのだ。
……カイトに向かって、あんなに酷いことばかりを一方的に突きつけて。
あんな女でも神女になれるのか、という疑問混じりの腹立ちはあるが、それはまあよしとしよう。そもそもクーを神女候補にするという時点で、水晶というものは信用ならないと思っている。きっと、どこか致命的な欠陥があるか、くじ引きのように適当に選んでいるに違いない。
とはいえ、こんな成り行きに納得できるかといえば、それは断じて否である。水晶によって神女が選ばれる、という訳の判らない理屈を正当化するのなら、せめてもっと誰の目にも明らかであるよう経緯を透明化させ、堂々とやるべきではないのか。
──いや、むしろ。
それが出来ない理由はなんだ?
口を閉じたところでノックの音がしたので、クーのその考えは、ちゃんとした形をとる前に中断されることになった。
そちらに目を向けると、キリクの少し疲れたような顔が扉の向こうから覗いた。「おかえり、キリク」とクーとカイトの声が重なって、いつものことだがキリクがちょっと戸惑ったように足を止める。
「……あのさ、何度も言うけど、その『おかえり』っていうの、変じゃない?」
「いちいち気にするなよ、ただの挨拶だろ」
「でも、状況と場所にそぐっていない」
「キリク、お疲れさん。もうすべて済んだか?」
普段はおおらかなのに、なぜかこの件については気になってしょうがないらしいキリクと、細かいことはまったく気にしない大雑把なクーの二人を宥めるように、カイトが間に入って訊ねる。
キリクは今まで、教皇との対面日の最終的な打ち合わせのため、宮殿に行っていたのだ。
「うん、なんとかね。まったく、宮殿というところは窮屈すぎて、うんざりさせられるよ。歩く速度も立ち止まる場所も、きっちり決められているんだから。息を吸って吐く回数が決められていないのが不思議なくらいだ」
椅子を引き出して、どさりと腰を下ろす。いつも立ち居振る舞いに品のあるキリクが、こんなぞんざいな座り方をするのは珍しい。本当に疲れているのだろう。
あまり眠れていないのか、顔色も冴えない。
カイトもそう思ったらしく、何も言わずに席を立って、部屋の隅の茶道具一式が置いてあるほうへ向かった。
ちなみに、クーは自分でお茶を淹れることを禁じられている。「カップをいつ割るか、生きた心地がしない」とキリクが言うからだ。不本意である。
「キリクがそう言うんじゃ、よっぼどだな。クーは大丈夫かね」
テーブルの上に湯気の立つカップを置きながら、カイトが不安そうに眉を曇らせて、クーを見た。カイトも粗忽さは自分とそう変わらないじゃないか……とクーの僻んだ目はカップのほうに向けられているので、そんな声はろくすっぽ耳に入らない。
クーだって、二人にお茶を出して労わることくらいは出来るのに。
「聞いてるか? クー」
「聞いてるよ。大丈夫だって、他のやつの真似をして動けばいいんだろ」
ものすごく投げやりな言い方と、ひらひら振った手の動きに、カイトはますます顔をしかめた。
「どうしたらそんなに楽天的になれるのか、俺に教えてほしいよ。そもそも、その『真似』からして、おまえに出来るのかってところに問題が」
「言っておくけど、カイトも他人事じゃないからね。君も当日はちゃんと正装して、クーの護衛としてその場に立ち会うんだ。礼の取り方、歩き方、立ち方、捧剣の仕方、もう一度みっちり練習するよ」
クーにくどくどしく説教をしようとしていたカイトは、カップに口をつけたキリクにすげなく言われて、きょとんと目を瞬いた。
「え、俺は警備隊にいた時、一通り……」
「宮殿でのやり方はまた違うんだ。角度とか、タイミングとか。一言に立つと言ったって、その場その状況に応じて、足の開き方も変わる」
「…………」
まだ何もしていないのに、カイトはすでにげっそりした顔になった。ざまみろと舌を出して喜んだクーは、キリクに「クーも山ほど頭と身体に叩き込むから、覚悟して」と厳しい顔を向けられ、同じくげっそりした。
二人して肩をすぼめ、「鬼教官か」「鬼教官だ」とひそひそ悪態をつく。
パン、と平手でテーブルを叩いてそれを黙らせると、キリクは表情を改めた。
「──それで、君たちも気になっているだろうから、伝えておくけど」
その真顔に、クーとカイトも目許を引き締める。
「モリス嬢は、『声の神女』として、これから宮殿で過ごされることになったそうだ」
それについて、じきに大々的な発表がなされるだろう、と続けてキリクは言った。
声の調子にあまり抑揚はなかった。あくまで、聞いたことを伝達するという、淡々とした言い方だ。いつもの柔らかい微笑を浮かべてはいないが、それは口にしている内容を考えれば、当然のことであろうとも思えた。
でも、とクーは思う。
……でも、目の色が少し暗い。
「じゃあ、衛士も一緒に?」
カイトが身を乗り出して問いかける。キリクは首を横に振った。
「あの二人は衛士を辞めた」
「えっ」
驚いた声を上げて、カイトは目を見開いた。
「正確に言うと、辞めさせられた。ついでに言うと、クリスタルパレスからも追放された。声の神女となったモリス嬢の希望でね。今は新しい護衛が彼女についているはずだ」
「辞めさせられた?」
「理由はおおよそ判るだろう? 彼らは神女からの信頼を失った、ということだよ。目の前を泳いでいった綺麗な魚に目を向けたばかりに大きな魚を逃して、本人たちもさぞ無念だろうさ」
肩を竦めるキリクの声は、まったく同情を含んでいない。
「でも、なにも衛士の仕事まで辞めさせなくても……」
「仕方ない、神女の希望は何をおいても優先されるべきものだ。それに、あの二人だって、とても衛士舎になんていられないと思うよ。とんだ恥さらしとして笑われるだけだからね。それに耐えられるような精神力があるとは思えないし」
「…………」
カイトは口を噤んで、目を伏せた。二人の衛士の今後を考えて、やるせない気分になっているらしい。
面倒だったので腹は立てなかったが、クーは呆れた。
そりゃ、衛士をクビになり、パレスを追い出された彼らは、これからいろいろと大変かもしれない。しかし、そこまで考えてやる必要はまったくない、と考えるのは、クーが特別に冷酷だからというわけでもないだろう。生死不明の状態を心配する、というのとはわけが違う。
二人の衛士がモリスから見限られたのは、本人たちに責任がある。今後どうするかは、あの二人だけが考えればいいことなのだ。
第一、相手は、今までさんざんカイトを「半民のくせに」と愚弄してきた連中ではないか。
「カイト」
「ん?」
「おまえ確か、二十二だって言ってたよな?」
「そうだけど……? なんだよ突然」
「いや、ちょっと。そうか、二十二か」
その二十二年の間、カイトにとっては、嬉しいことや喜ばしいことよりも、つらいこと悲しいことのほうが、ずっと多かっただろうに。
こいつは今までの人生のどこに、恨みや憎しみの感情を置き忘れてきたんだ?
少し、判った気がする。
カイトの場合、本来その恨み憎しみが凝り固まっているべき場所に、罪悪感とか自己嫌悪とかの余計なものが積まれてしまっているのだ。それらが邪魔をして、他のものを置くスペースが空いていない、ということなのだろう。
寛大というより、自分を肯定することが出来ないでいる。
だから、どんな目で見られても、モリスのような人間に何を言われても、反論もせずにただ黙って受け止めるしかない。
他人を責める前に、自分を責める。他人は容易に許せても、自分のことはなかなか許さない。
長い時間をかけて、「半民なんて認めない、許さない」と言い続けてきた周囲が、そして神都での環境が、カイト自身にも「半民なんて」と思い込ませるようにしてしまった。
そしてそれは今や、彼の中で、頑固なまでに揺るがない。
「面倒くせぇな」
「は?」
「まあ、人のことは言えないけど」
クーも長い間、自分で自分を殺し続けてきた人間だ。人のことは言えない。
しかし自分の意志でそうしてきたというのと、無理やり頭を押さえつけて「そうさせる」のとは違う。絶対に違う。
良い悪いの問題ではない。クーはそういうのが、ものすごく気に入らないのだ。
「クー、どうしたんだ?」
いきなりむっつりしたクーの顔を、カイトが覗き込む。そちらは無視して、キリクのほうを向いた。
「それで、モリスは今、何をしてるんだ?」
「何って……」
キリクは一瞬、困惑したように口ごもった。
「宮殿の一室を与えられて、発表のその時まで、ゆっくり過ごしていると思うよ」
「教皇との対面の場には出てくるのか?」
「いや、彼女はもう神女候補ではないから……それどころか、『人』でもない扱いになるから、そうそう人前に出てくることはなくなる」
「ふうん」
クーはますます口を曲げた。
「もしかして、神女になるのが嫌になったか?」
カイトに心配そうに問われたが、それには首を横に振った。嫌になったとか、そういうことではない。大体、クーが神女になると決まったわけでもないのだし。というか、自分ではその可能性は極めて低いと思っている。
でも、引き受けたからには、最後までちゃんと見届ける覚悟はある。
しかし、ここで自分が「うん、もう嫌だ」と答えたらどうなるのかな──とは、ふと思った。
もしもオレがすべてを投げ出すことを望んだら、二人はどうする?
口が動きかけたが、自分の中の意志を総動員して、なんとか外には出さずに呑み込んだ。
それを言った時の二人の反応、その顔つき、返ってくる言葉。そのどれもが、クーにはあまり想像出来ない。出来ないから、興味がある。二人はどんな顔をして、何を言う?
けれどひとつだけ、はっきりと判っていることもある。その問いを投げかけたら、二人はきっと困るだろう、ということだ。
そして、「どうして困るのか」という理由の本当のところは、たぶん、彼らの口からは出ない。
だったらその問いに意味はない。二人を困らせることもしたくない……とは、クーだって思っているのだ、一応。
それになにより、カイトとキリクを試すようなそんな真似は、すべきじゃない。
代わりに、別の質問を投げかけることにした。
「カイトとキリクは、オレにどんなことを望むんだ?」
二人は揃ってぽかんとした。
「なんだ、突然」
「君の思考は一体どういう廻り方をして……」
「うるさいな。いいから答えろ。オレを見つけて、ここまで連れてきたのはおまえたち二人だろ。こうなったら、とことんまで付き合ってやるよ。そのオレに、二人が望むことはなんだ? どうせなら最強の神女になってほしいとか、他の候補連中を蹴倒してでも前に出てほしいとか、いっそ教皇よりも偉そうにしてほしいとか、そういう希望くらいはあるんだろ」
クーの言葉に、カイトとキリクは顔を見合わせた。
それから真面目な表情になり、こちらに向き直る。
「そんなことを言ったら、本当に実行しそうで怖い」
「むしろ、そういうことはやめてほしいと思ってるよ、切実に」
懇願するような口調で言われた。不本意である。
「じゃあ何だよ」
「すぐに足を出すのをやめてほしい」
「却下」
「あまり意味不明なことを言いださないでほしい。まさに今」
「却下! もっと壮大な視点でものを言え! オレの今後の指針とか目標とかになるようなことだよ。一応聞くだけは聞いておいてやろうって言ってるんだ、その通りにするとは限らないけどな。だから素直に言え。そしてオレは待たされるのは嫌いだ、さっさと言え」
腕を組み、靴の先でテーブルの脚をガンガンと蹴りつける。ほとんど脅迫じみてきたその要求に、カイトとキリクはもう一度顔を見合わせ、はー、と二人して大きなため息をついた。もっと女の子らしくなってほしいとでも言ったら、問答無用ですぐに蹴ろう。
「そうだな、俺は──」
カイトが少しだけ迷うように視線を宙に据えてから、クーとまっすぐ目を合わせた。
「……たとえどんな立場になっても、クーはクーのままでいてほしい」
「は……?」
クーは鼻の頭に皴を寄せた。
カイトが何を言っているのかよく判らない。クーはクーのままに決まっているではないか。というか、もう他の誰にもなりたくないからこそ、「クー」という自分になることを決めたのでないか。
どういう意味? と聞いても、カイトはちょっと笑っただけで、それには答えなかった。
「……僕は」
キリクは窓の外に目をやってしばらく黙っていたが、やがてそれをこちらに戻し、口を開いた。
「これから何があっても、クーはクーの思うように進んでほしい」
はあ? とまたも間の抜けた声を出したクーに微笑んで、キリクもやっぱりそれ以上は何も言わなかった。
「なんだよ、二人とも、よくわからないことばっかり。さてはそうやって適当なこと言って誤魔化そうとしてるな?」
頬を膨らませてむくれる。せっかく自分なりに、教皇に対面する前の心構えというものを作っておこうと思ったのに。
「そういうわけじゃないんだがな」
「僕らは誠心誠意質問に答えているつもりだよ」
「おまえらの誠心誠意はアテにならない。もういい! キリク、お茶! カイト、あとで馬に会いに行くぞ!」
ふんぞり返って言うと、キリクが笑ってはいはいと立ち上がった。カイトも肩を揺らして笑っている。
「まったく……」
ふくれたまま、クーは呟いた。
組んでいた腕をほどいて、自分の両の掌を出して目線を落とし、短い息を吐く。
カイトの望み。キリクの望み。
……クーの、望みは。
あんな暗い目をしなくてもいいように。
不必要な負い目を持たなくてもいいように。
二人が、彼らを縛る何かから、もう少し自由になってほしい、ということなのだけど。
──それはまだこの小さな手では、叶えられそうにないらしい。