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招かれざる神女(旧「5th」)  作者: 雨咲はな
Ⅳ.夢の住人
16/50



 クーはその場に茫然としゃがみ込んだまま固まって、動けなかった。

 ……何が起きたのか、すぐには把握できない。

 目の前では、カイトと見知らぬ男がそれぞれ剣と箒を手に、向かい合っている。剣の白い刃と、箒の柄が、垂直に近い形で重なり、空中でせめぎ合うようにしてわずかに揺れていた。

 剣の柄を握るカイトの手と、箒の柄を握る男の手は、渾身の力が込められているのか、筋が浮き、小刻みに震えているのが見て取れた。両者とも全力で、しかも互いに拮抗しているということだ。

 一方はちゃんとした本物の剣で、一方はただの箒。本来だったらバカバカしすぎるほどのその落差に、クーの混乱はさらに大きくなった。途方もなく、現実感がない光景のように思える。片方は、武器ですらない。

 それなのに。


 ──それなのに、どうしてカイトはあんなにも苦しげに、歯を食いしばっているのだろう?


 突然襲いかかってきた男は、箒を振り下ろした後も攻撃の手を止めなかった。ふいっと力を抜いて引いたかと思うと、間髪入れずに、今度は横手から鋭い強打が飛んでくる。

 カイトはそれを剣で跳ね返した。ガギン!という耳障りな音が鳴る。

 ようやくここに至って、クーは気づいた。

 神殿で、こちらに向かって殴りかかってこようとした衛士の警棒を、カイトはほんの一太刀で、すっぱりと両断していたではないか。木製とはいえ、相当硬い材質であったはず。白刃を剥き出しにした抜き身の剣が、ただの箒を正面からまともに受け止めて、あのように弾き返すはずがない。


 ()()


 先程から聞こえる金属質の音は、一見何の変哲もないあの箒の柄が、木などではなく鉄で出来ていることを示している。

 鉄製の箒。そんな馬鹿げたものが、普通あるわけがない。だとしたら、男は意図的に──他者を攻撃するという明確な意思の許に、わざわざ細工をした箒を手に持って、あの場所にいたということだ。


 誰を狙って?


 クーの考えがそこに到達するまでの間も、カイトと男の戦いは続いていた。

 男はその細い身体からは信じられないほどの、強靭さと敏捷さの持ち主だった。驚くくらい動きが素早く、柔軟に立ち回る。

 次から次へとめまぐるしく連続して向かってくる箒の柄に、カイトは苦戦しているようだった。身体をかわして避けたり、剣で打ち返したりはしているものの、相手の変則的な攻撃に困惑しているように見える。

 男はまるで箒を自分の腕のように自由自在に扱っていた。あらゆる角度から鋭く空気を切って振り抜いてきたかと思えば、いきなり正面から柄の先端で突いてきたり、くるりと回転させて、そこだけはちゃんと普通の箒と同じ無数の枝が取り付けられた穂先を向け、攪乱してきたりする。

 上下の布に挟まれたふたつの目は、相変わらずどこか楽しげに細められていて、クーは背中がひやりとした。


「……カ、カイト」

 自分の口から出た声は、やけに小さく、おまけに少し震えてもいた。


 だって。

 棄民の街で、あっという間に一人で悪党たちを倒してしまったというカイト。先日は、頭に血の昇った衛士をたったの一振りで黙らせてしまっていた。そのカイトが、ここまで厳しい表情をするなんて。

 ──相手の男は、境界警備隊の副隊長を任じられるほどの腕を持つカイトを、さらに上回る強さだということか?


 唸りを上げて勢いよく振り下ろされた一撃を、ギンッ!という音を立てて、カイトが剣で受ける。

 そのまま向かってくる力をあちら側へと押し返しながら、彼の目だけがこちらを向いた。

 重なった剣と柄の間からは、強烈な力と力が軋んで競り合っているかのような、ギギギと嫌な音が鳴っている。


「──クー」

 食いしばった歯の間から、低い声で名を呼ばれた。


「逃げろ。建物の中に入れ」

 額から滲みだした汗が、幾筋も滴るように頬を伝って下へと落ちている。クーに向けられた目には、切実な色があった。

「カイ……」

「早く!」

 叱りつけるように怒鳴られて、クーはビクッと身を竦めた。

 カイトのこんな怒声、はじめて聞く。それほどまでに、彼は本気だということだ。

 ──本気で、現在の状況が、「危険」だと判断している。

 足元から来る震えが、全身に廻った。


「あれ、いいんですか?」

 箒の柄を握った男が、からかうような声を出した。


「その子をあなたから離して、一人にしても、本当に大丈夫ですか? この敷地内には、まだ俺の仲間が複数潜んでいるかもしれないのに。建物の中に入った途端、他のやつがその子を攫ってどこかに連れ去ってしまうかもしれませんよ? それでもいいんですか?」

 その言葉に、カイトの顔色がさっと変わった。

 男に向ける眼に、怒りが宿る。と同時に、目にも止まらない速さで、カイトの右足が閃いた。男が身を捩ってその峻烈な蹴りを避け、後方へと跳び退る。

「あー、今のはちょっと、危なかった」

 男が面白そうに言って、細めた目をカイトに向けた。


「ようやく、防戦一辺倒を止めたかい?」


 その言葉で、クーもやっと腑に落ちた。

 そういえば──そういえば、カイトは最初からずっと、男の攻撃を受けるだけで、自分から向かっていこうという動きをしていなかった。

「……おまえ、何が目的だ」

 ざっ、と靴底で地を擦って、カイトが剣を構えて訊ねた。

 眇めた目を正面から相手に向け、冷たい声を出す彼は、クーが知る「いつものカイト」とは、まるで別人のようだ。


 バカみたいに単純で、心配性のところがあって、ちょっとお節介で、クーと子供のような口喧嘩をしては笑うカイトは、そこにはいなかった。


「神民を無差別に狙っているのか? それとも……」

「さてね」

 低い声で出された問いに、男が軽く答えた。声の調子だけでは笑っているようにも聞こえるが、口元が見えないので、はっきりとは判らない。

 するりと男が動いた。一歩を踏み出したかと思うと、あっという間に双方の間合いが詰まる。ひゅ、と空気を裂いて振り下ろされた箒の柄を、カイトが剣で思いきり薙ぎ払った。

 甲高い音がして、弾かれた柄が大きく浮き上がる。わずかに空いたその隙間を通して、カイトの剣がまっすぐ男めがけて飛び込んでいった。

「っ!」

 男の目がはじめて見開かれた。急いで箒を構え直したが、それよりも一瞬早く、剣先が届く。顔の近くを掠めるようにして風が鳴り、男が動きを止めた。

 それと共に、時間も止まった。しんとした、束の間の静寂が訪れる。

 何がどうなったのか、クーの目では捉えきれなかった。それはあまりにも迅くて、瞬きするほどの間の出来事だった。

 が、カイトの剣は、過たず狙い通りの軌跡を辿ったらしい。


 ……はらりと、男の顔を覆っていた布が断ち切れた。


 その素顔が露わになったのは、ほんの刹那のことだった。布が落ちきる前に、男は再び自分の掌でぱっとそこを覆い隠してしまったからだ。

 それでも、少しは見えた。やはり若い。カイトやキリクと同じくらい……あるいは、もうちょっとだけ下かもしれない。鋭利な刃物のような顔立ちは、もちろん、クーには見覚えのないものだった。

 そんなに大きなものではないが、左の頬に印象的な傷が走っていることを、おそらくカイトも自分の頭に叩き込んだだろう。

「うお……あっぶね」

 断たれた布で顔の下半分を押さえながら、男が呟く。ぼそりと零されたその声は、今までのものとは違って聞こえた。顔を隠すばかりではなく、声音まで作っていたらしい。

 クーは唖然とした。この男は、一体何者なのだ。


「あんた、やっぱり強いなあ」


 感嘆するような喋り方も、ずいぶんとくだけたものになっている。右手に持った箒を、器用にくるくると回転させて、柄の先でがつんと地面を突いた。もう攻撃はしない、という意味なのだろうか。

 カイトは剣の構えを解かず、厳しい表情で男を睨みつけていた。

「やっぱり?」

「でも、まだちょっと甘いよね。今の一撃で、俺を殺すことだって十分可能だったのにさ。まだ、剣筋に少し迷いがある。なんでかな。俺が、神都で働く棄民だから?」

「…………」

 カイトはその問いには答えなかった。

「こちらの質問が先だ。おまえの目的はなんだ」

「それは言えないんだ。まだね」

「まだって……」

 とぼけたような相手の言い分に、カイトは当惑したらしかった。構えは解かないものの、今しがたまで全身から放出されていた闘気が、行き場をなくしてゆらゆら揺らめいているように感じる。

 顔を覆った手の上で、男の目がまた細められた。



「今度は、誰かを庇いながらじゃなく、ちゃんと一対一でやり合いたいな。その時までには、あんたももうちょっと、性根を据えるんだね。中途半端なままフラフラしてると、守りたいものも守れないよ」



 一瞬、カイトが言葉に詰まった。

 男の言葉の何かが、彼の心に刺さったのだろうということは判ったが、それがどういう理由によるものなのか、クーには判らなかった。

「……なに言ってやがる」

「じゃあ俺、帰るから」

「帰──」

 あっさり言われて、カイトは呆気にとられた。それからすぐに、険悪に眉を上げる。

「ふざけんなよ。そうかじゃあなって俺がおまえを帰すと思うか? とっ捕まえて、なんとしても話を聞かせてもらうからな」

「そりゃ無理だ。俺、足も速いしね」

 楽しむような口調だ。

「その子を置いて、俺を追うかい? 言っておくけど、他の仲間が近くにいるっていうのは嘘じゃないぜ。あんたが俺を捕まえた時、その子が変わらずここで待っていてくれる保証はないってことを、よく心に刻んでおくんだね」

「…………」

 咄嗟にカイトはこちらを振り返った。男とクーの間で、迷うように視線が揺れている。


「じゃ、()()()

 くるりと踵を返して、男が駆けだしていく。


 カイトの足がわずかに動いたものの、結局、彼は逃げていく男を追うことはしなかった。

 小さくなっていく背中をただ見送ることしか出来ないことが腹立たしいのか、忌々しそうに持っていた剣を振り、びゅっと空を切るような仕草をする。

 はー、と大きな息をついてから、剣を鞘に納め、クーのほうを振り返った。

「大丈夫か? クー」

「…………」

 膝をついて心配そうに訊ねられたが、それに返す言葉が、クーの喉からは出てこなかった。何かを言わなきゃと思うのに、そこは綿が詰まって塞がってしまったようになっている。

 ずっと同じ場所でしゃがみ込んだままだ、ということも、今になって気がついた。

 カイトが戦っていた間、バカみたいに腰を抜かして、動くことも出来なかったのだ。なんてみっともない。なんて、恥ずかしい。カイトはずっと、クーに少しでも危険が及ばないよう、男を遠ざけながら剣を振るっていたのに。


「すまないな、怖かったか?」

「…………」

「立てるか? そういえば、結構勢いよく突き飛ばしてしまったが、怪我はないか?」

「…………」

「何がなんだか俺にもよく判らないんだが、とにかく早く神殿に戻ったほうがよさそうだ。仲間がいるって話も、本当なのかどうか怪しいもんだと思うんだけどな」

「…………」

「手こずってすまない。おまえの護衛は一人で十分ってキリクにも大口叩いておきながら……いや、待て」

 カイトの声がぎょっとしたように上擦った。

「ちょっと待て……あ、あ、泣くな。泣くなって、クー、俺が悪かったから」

 途端に焦って、おろおろしはじめる。その時になって、クーもはじめて気がついた。


 自分の目から、ぽろぽろと涙の雫がこぼれ落ちている。


 どうして泣いてるんだろう、と不思議に思ってから、未だ自分の身体が震え続けていることを知った。力なく垂れ下がった両手も、ぶるぶると小刻みに揺れている。

 何も出来ずにへたり込んでいるだけだった自分が、情けないから? ただ庇われるだけだった自らの弱々しさが、口惜しいから?

 ……いや、違う。


「──こ、怖か、った」

 なんとか絞り出した声は、ひどく小さく、か細かった。


「うん、だよな。怖かったよな。ごめんな」

 カイトは申し訳なさそうに眉を下げている。

「怖かった」

「うん」

「……カイトが、あいつにやられるんじゃないかと、思ったら」

「…………」

 棄民の街で、暴力的なものは見慣れている。他人を襲って、強盗や強奪を繰り返すようなタチの悪い人間もたくさんいた。そんなものにいちいち怯えていたら、あそこでは暮らしていけない。油断をするやつのほうが悪いんだと、そう思っていた。

 でも、今。


 カイトが大怪我をするのではないか、もしかして死んでしまうのではないかと思ったら、怖くてたまらなかった。


「……うー……」

 目を閉じたら、涙が大量に溢れ出してきた。堰が切れてしまったかのように、一気に放出されて、止まらない。ぼたぼたと大粒の涙が頬を滑り落ちていく。

 その場にぺたんと座り込んだまま、クーは子供のように泣き続けた。身を縮め、顔を下に向けて、嗚咽を漏らす。膝に置いた手で、ぎゅっと強く衣服を握り締めた。

 こんな風に思いきり泣いたのは、いつ以来だっけ、と心の片隅で考えた。


 そうか、本物の「ユウル」が死んだ時以来のことだ。


「泣くなって……参ったな……俺、こんな時にどうしたらいいか、ちっともわかんねえんだからさ」

 甚だ情けないことを言いながら、カイトが弱り切っている。だんだん途中からその反応が面白くなってきて、クーは涙を止める努力を放棄することにした。

 いつものカイトが戻ってきて、そのことに安心したせいもある。


 ──このカイトを失わずに済んで、よかった。


「すみません、もう泣かないでください」

 低姿勢で頼まれた。

「謝るから」

 だからそういう問題ではないと、まだ判らないのだろうか。

「いつまでも泣いてると、目が腫れるぞ」

 いきなり現実的なことを言いだしたな。

「よしよし、何か食い物買ってやるから、な?」

 子供か。

「ここにキリクがいりゃあなあ」

 こんな時でもキリク頼りかよ。

 カイトの言い方のほうが泣き言じみてきたところで、我慢できなくなって噴き出してしまった。

 泣きながら笑う。こいつはやっぱりバカだ。



 ──涙を拭くとか、頭を撫でるとか、抱きしめるとか、他にやりようはいくらでもあるはずなんだがなあ。



          ***



 クーもカイトも、とてもではないが呑気に散策をしたり食事をしたりするような気分にはなれなかったので、そのままクリスタルパレスにまっすぐ帰還した。

 神殿で「やあ、お母さんはどうだった?」とにこやかに出迎えたキリクを、二人がかりで部屋に引っ張っていく。

 テーブルを囲み三人で座ってから、病院で起きたことの一部始終を伝えた。


「…………」

 キリクは難しい表情で顎に手をやり、無言で考え込んだ。


「どう思う? キリク」

 カイトの問いかけに、口を曲げて首を捻る。

「どうと言われても……それだけじゃ、なんとも判断のしようがない、というのが正直なところだよ」

 いつもは何が起きてもゆったり構えて微笑んでいることの多いキリクの顔にも、緊張の色が浮かんでいた。すぐに口を噤んで、宙に据える目は、何かを懸念しているようにも見える。

「俺たちが神民だと思って襲いかかって来たのか……あるいは、俺たちのことを知っていたのか」

「君たちのこと、というと」

「クーが水晶に選ばれた神女……候補だってことをさ」

 カイトの言葉に、キリクはますます眉を寄せた。

「まだ、その件については何の発表もしていないのに?」

「でも、知っている人間はいる。宮殿にも、この神殿にも」

「……カイトは誰かを疑っているの?」

 キリクに窺うように顔を覗き込まれて、カイトは一瞬、躊躇するようにちらっとクーを見た。

「いや、別に……」

 と、曖昧に言葉を濁す。

「だけど、その男は、水晶のことも神女のことも、口には出さなかったんだろう?」

「まあ……そうだけど。でも、『何か』は知っているような口ぶりだった」

「何かっていうと」

「それは……」

 キリクに突っ込まれて、カイトは困ったようにもごもごと口を動かした。男は何ひとつはっきりとしたことは言わなかったので、そこを追及されるとなんとも説明しにくい、というのは判る。

「少なくとも、俺のことは知っていたみたいだったぞ」

「君のこと? どこまでだろう? 神殿の衛士として神女候補に仕える身になった、ということかな。それとも、それ以前の、境界警備隊にいた頃のことかな」

「…………」

 カイトが腕を組み、首を傾げる。


 男が口にしたのは、「やっぱり強い」という言葉。


「だとしたら、君がそこで副隊長をしていたことを知っている人間かもしれない。わりと、有名な話だし。無謀な若者が、剣一本でのし上がった君に対して、腕試しに勝負を挑んできた、なんていうのはありそうなことだと思うけどね」

「クーは無関係だと?」

「断定は出来ないけど」

 キリクはクーを見て、少し唇を上げた。


「男はクーを指して、『その子』と言っていたんだろう? 『その女の子』と言ったわけではない。今日のクーは男物の洋服を身に着けていたわけだしね。しかも、この国では、神女は普通、神民の令嬢のみだという通説がまかり通っている。こう言っては悪いけど、この外見で彼女を神女候補だと判断できる人間は、なかなかいないと思うな」


 まあ、そうだろうなあ、と自分でも思うので、クーもキリクのその意見に反論はしなかった。

「……神女の件とはまったく別だってことか……?」

 カイトは今ひとつ、納得できないように呟いた。

「もう一度言うけど、断定は出来ない。だからこの件は、一応上に報告しておくよ。変な騒ぎになっては困るし、要らぬ反感を買うかもしれないから、カイトとクーは、このことを口外しないでいてくれるかい?」

「でも、キリク」

「カイトも、これ以上、クーの立場を悪くしたくはないだろう?」

 そう言われて、カイトが黙り込む。

 本当は、もっとちゃんとあの男のことを調べたいのだろう。しかし、微妙な立ち位置のカイトからはそれを言い出すことは出来ない、ということなのかなとクーは推測した。


「──ということで、とりあえず、この話はもういいかい?」

 キリクはそう言って、椅子から立ち上がった。


 腕を組んだままのカイトに、微笑みかける。

「そんなに眉間に皴を寄せないで、カイト。クーも君も無事で、なによりだったよ。ちゃんと病院のほうにも、怪しい人物に警戒するように伝えておく。君も知っていると思うけど、あそこも建物の中にはそう簡単には入れないようになっているから、クーのお母さんは安全だと思う。次の面会時には、もちろん僕も同行しよう。万が一なんらかの情報が漏れているとしたって、パレス内にいる限りは、危険なんてない。もしあったとしても、クーを守るために、君がいて、僕がいる。それ以上のことについて頭を悩ませるのは、時間の無駄だと思うけどね」

「……まあ、そうだな」

 渋々という感じだったが、カイトも頷いた。

 キリクがにっこり笑って、クーのほうを向く。

「じゃあ、食事を運ばせようか。クーもお腹が空いただろう? 疲れているだろうし、怖かったことは忘れて、よく食べてよくお休み」

「うん……」

 クーは返事をしながら、部屋を出て行くキリクを目で追った。

 なんとなく、だけど。



 ……キリクは、この話をあまりしたくないんじゃないのかな。





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