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ツンデレ治療師は軽やかに弟子に担がれる(タイトル詐欺)  作者:


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カリストによる懸命な魔法解除

 セルシティが悪戯をする子どものような表情でルドを見る。


「三か所らしいが、私はクリスティがいた場所しか知らない。他の二か所は教えてもらえなかった」


「師匠の一族はどこにいたんだ!? 地表にはいなかった、ということは地下か?」


 セルシティが苦笑いをする。


「私もそう思ったが、そうではなかった」


「どこなんだ?」


 もったいぶるセルシティにルドが苛立ってくる。そんなルドの気配を感じ取ったセルシティがあっさりと正解を言った。


「空中庭園にいたそうだ。だから奪われなかったらしい」


「空中庭園?」


「簡単に言うと空飛ぶ巨大な島だそうだ。そこに数百人が住んでいたという話だ」 


「数百人が住める空飛ぶ島!?」


 ルドの反応にセルシティが満足そうに笑う。


「それだけのことが出来る技術と文明があったんだ。それを全て神に奪われたと思うと惜しいという言葉では済まないな」


 セルシティが悔しそうに両手を握る。


「クリスティの一族は文明を奪われることを免れた代わりに金髪、緑目の人間しか生まれてこないようにされた。失われた文明の記憶を持つ者として、その存在がどこにいてもすぐに分かるようにするためらしい。そして”神に棄てられた一族“という仰々しい呼び方を付けて、地上の人間には金髪、緑目の人と関われば呪われる、滅ぶ、という迷信と恐怖心を植え付けた。奪った文明のことや、その知識を地上の人間が得ないようにするためにした、神の小細工だろうな」


「だから師匠は髪の色を変えていたのか……」


「あぁ。基本的に空中庭園で生活は出来るから、クリスの一族が地上に降りることは滅多になかったそうだ。だから、地上の人間が金髪緑目の人を見かけることはなかった。百年前までは」


「そういえば師匠も百年ぐらい前に一族が地上に降りたと言っていたな」


「そう。百年ぐらい前に住んでいた空中庭園が故障して墜落したそうだ。それが極寒の地と呼ばれる今のシェトランド領だった」


「よく生き延びたな……」


「しばらくは空中庭園の残骸の中で生活できていたそうだが、徐々に生活が出来なくなっていき、一族は滅びかけたそうだ。そこでカイ殿が実力で墜落した地を自分の領地にすることで、生活の基盤を空中庭園の残骸から領地に移し、そこから王族と裏で交流を始めたんだ。そして失われた文明の知識を元に領地を発展させ、クリスティの一族は絶滅を免れ、現在に至っている」


「……王族とどんな交流をしたんだ?」


 ルドの質問にセルシティが肩をすくめて軽く笑う。


「そこは極秘事項だ。まあ、言うなれば持ちつ持たれつの関係かな。ただ、その重要な一族の代表であり知識の塊であるクリスティに何かあれば、しかもその原因がこちらの王族にあったとなれば、今の良好な関係にヒビが入る。それだけは避けねばならない」


「ベレンを制御できなかった、こちらの落ち度だからな」


「あぁ。ベレンの母親、叔母上は聡明で快活だ。そして先見の目もあり行動力もあった。そのことで、この国も王も何度も助けられた。しかし、子にその力が受け継がれているかというと、そうとは限らない」


 セルシティが大きくため息を吐く。


「そのことに気付かず、ベレンが親の力を自分の力と勘違いした結果だ。今回は今までのことも含めて、それ相応の処罰を親子共々受けてもらうことになるだろう」


「それは、そちらで勝手にやってくれ。それより今は師匠だ」


「そうだな」


 そこに従者が部屋に入ってきた。


「クリスティ様の執事より魔法の解読が終わったと連絡がありました」


「行くぞ」


 セルシティとルドが同時に立ち上がり、部屋から出て行った。





 少し先に出入口となる豪華なドアがある見通しが良い廊下。なんの変哲もない普通の廊下に見えるのだが、ルドはなにかが歪んでいるような感覚がした。


 人払いをしているため、その場にいるのはカリストとセルシティの親衛隊数名だった。そこにセルシティとルドが到着する。


 親衛隊が敬礼して迎えると、セルシティは軽く手をあげた。


「警護ご苦労。もう少し頼むよ」


 セルシティの言葉に親衛隊が手を下ろして姿勢を正す。

 壁や床を探っていたカリストがセルシティとルドの前に小走りで来た。


「ここに魔法のほつれがあります。ここから空間をこじ開ければ元に戻せると思います」


 そう言ってカリストが指さした先に、ぼんやりと銀色に光る物が見えた。ルドが膝をついて手を伸ばしたが掴むことが出来ない。目の前にあるのに、手が届いているのに、触れることが出来ないのだ。


 ルドの様子にカリストが説明をする。


「見えてはいますが、空間を歪めているため、実物はそこにはないのです。ですので、触れることは出来ません。ちなみに、それはクリス様の扇子についていた飾りです」


「師匠の!? では、この先に師匠がいるのですか!?」


 ルドが勢いよく立ち上がって歩き出そうとしたが、カリストが止めた。


「このまま歩いてもクリス様がいる空間とは違うので会えません。この城から出たいのでしたら止めませんが」


「ぐっ……」


 ルドが大人しく下がる。セルシティが微笑みながらカリストに訊ねた。


「この空間を元に戻すことは出来るかい?」


「少々、骨が折れるのと魔力をほぼ使い切りますが出来ます」


 つまりカリストは使い物にならなくなるということだ。


「わかった。あとのことは任せてくれ。絶対にクリスティを助けよう」


 カリストが無言で頭を下げる。そして顔を上げると懐から数本の銀ナイフを取り出した。


「少しおさがり下さい」


 カリストが白い手袋を外して銀ナイフで指を切る。そして血が付いた銀ナイフを地面と天井と左右の壁に投げた。銀ナイフが刺さっている場所からバチバチと火花が飛ぶ。


「いきますよ」


 カリストが五本目のナイフに血をつけようとしたところで火花が消えた。見た目は変わらないのだが違和感が消失する。


「解除したのかい?」


 セルシティの質問にカリストが頭を横に振る。


「いえ。この魔法を施術した人間が解除したようです。ただ、それにしては魔力が……」


 話している途中で何かに気が付いたカリストが走り出した。ルドが急いで追いかける。


 二人は同時に廊下の途中にあるドアを勢いよく開けた。目の前では輝く魔法陣の中で姿が消えかけているクリスがいた。


「師匠!」


「クリス様!」


 二人が部屋に入る。その姿を見たクリスが手を伸ばしてきた。


「師匠!」


 ルドが倒れるように手を伸ばす。精一杯伸ばした指先が触れそうなところでクリスの姿が消えた。


話はもう少し続きます

もう少ししたら山の頂上です

完結まで書いてますので、もしよければポチッとブクマか評価をしてもらえたら嬉しいです|ω・)

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