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ツンデレ治療師は軽やかに弟子に担がれる(タイトル詐欺)  作者:


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使用人たちによる賑やかな午後のひととき

 朝食を食べ終えたルドは書庫にいた。


「今日は帰らないといけないよなぁ」


 呟きながら本を選んでいく。そして机に本を置くとノートとペンを取り出した。


「えっと……血の流れの復習からするか」


 ルドが本を読みながら重要な文章を書き写していく。順調に自主勉強を進めていると、書庫に誰かが入ってきた。ルドが気にせずに勉強をしていると、その人物はルドの前の椅子に座った。

 そこでルドが顔を上げると本を持ったクリスがいた。


「師匠? 休まれるのでは?」


「息抜きに本を読んでいるだけだ。どこで読もうが私の自由だろ?」


 ルドが嬉しそうに笑う。


「はい」


 ルドが嬉しそうにノートに向かう。そのまま勉強を続けていたのだが、途中で手が止まった。それから他の本を広げて読む。だが目的のものが見つからなかったのか他の本へと移る。


「うーん……」


 悩むルドをクリスが横目で見る。


「どうした?」


「あの、心臓? というものの構造で分からないことがありまして……」


「これは側面の図しかないからな。透視魔法で見れば立体的で分かりやすいくなるんだが……で、どこが分からないんだ?」


「この弁というモノなのですが、どのような形をしているのか、よく分かりません」


「あぁ、これはだな……」


 クリスがルドの隣の席に移動すると、ノートに絵を描きだした。


「これが心臓を上から見た断面図だ。丸くて弁が三つに分かれているモノと二つに分かれているものがある。これを開け閉めすることで血流を調節している」


「こうなっていたのですね!」


「そうだ。この弁というものは静脈という血管にもあって、血液が逆流するのを防止している」


 そこまで説明してクリスが何か考えているように黙った。


「師匠?」


「実際に見たほうが早いな」


 クリスがルドの右手を持つ。


「なにをするんで……師匠!?」


 右手をクリスの胸に当てられたルドが慌てる。


「透視魔法で実際に見たほうが分かりやすいだろ」


「いや! ですが、手! 胸に手が!?」


 慌てるルドにクリスが冷ややかな視線を向ける。


「……男の胸ぐらい触ったことあるだろ? なんで騒いでいるんだ?」


「あ、確かに……」


 ルドもなぜ自分がこんなに騒いだのか分からず首を傾げた。クリスがルドの魔力を吸い取る。


「透視魔法で心臓を直接見せるから覚えておけ」


「はい」


 ルドが気を引き締める。


「手の先をしっかり見ていろ」


「はい」


 次の瞬間、それまで見えていた手もクリスの服も消えて心臓が現れた。握り拳ぐらいの大きさで震えるように拡大と縮小を繰り返している。


「これが動いている心臓だ。そして、これが……」


 クリスの声とともに心臓の中が見える。


「心臓の中では、このように血が流れている。で、これが弁だ。心臓の動きと血の流れに合わせて閉じたり開いたりしているだろう?」


「はい!」


「この弁の動きが悪いと心臓に血が溜まり、血が滞って全身に影響が出る。あ、あとこの血管も覚えておけ」


 心臓の表面にある三本の血管が見える。


「これが心臓に栄養を与えている血管だ。この血管が詰まると胸が苦しくなり、最終的には心臓が止まる」


「え!?」


「尋常ではないほど胸を痛がっていたら、この血管も確認しておくことが必要だ」


「わかりました」


 クリスがルドの手を離す。


「邪魔して悪かったな。続きをしろ」


 クリスがルドの向かいの席に戻る。ルドは自分の右手を一通り見ると頷いた。


「はい」


 ルドが忘れないうちに、とノートに心臓の絵とクリスから教わったことを書いていく。

 その様子をクリスが本の隙間から覗き見た。


 心拍数が早くなっていたが気づかれなかったようだな。


 クリスは少し赤くなった顔を隠すようにルドに背を向けて本に視線を落とした。





 クリスは食堂でどこか楽しそうに話ながら夕食を食べていた。


「犬だとは思っていたが、あれは脳筋犬だな」


 午前中は書庫で勉強をするルドに付き合い、昼食を食べたあとは軽く運動をするというルドを眺めていたのだが、それが面白かったらしい。


 始めは単調な筋トレだったが、その回数が半端なかった。何回するのかと数えていたクリスも百回を超えたところで数えるのを止めた。しかも最初から最後まで同じ速度で行うのだ。


 腹筋、片手腕立て伏せ、軒下で懸垂。


 ルドが筋トレをこなしていく光景を見つけた左腕がない御者が途中で参戦したが、最後まで付き合いきれずに断念した。


 そこからは、いつの間にか使用人の男たちが集まり、なぜか腕力比べ大会へと発展していた。

 勝負の方法は簡単で、机を挟んで向かい合うように椅子に座り、お互い右手を出す。肘は机に付けたまま握手をして、あとは審判の掛け声に合わせて力を入れて相手の手を倒すだけだ。

 次々と使用人たちがルドに勝負を挑むが誰も勝てない。


 そこで誰かが叫んだ。


「カリストはどうだ?」


「お! いいな!」


「呼んでくる!」


 屈強な男たちが自分たちより華奢なカリストを探して走り出す。その様子をクリスはセッティングされた椅子に座って優雅に紅茶を飲みながら眺めていた。


 少しして平静を装いながらもどこか嫌そうな顔をしたカリストが使用人に引きずられてきた。


「なぜ私が力比べをしないといけないのですか?」


「いいから、いいから」


「オレたちの仇をとってくれ」


「だから、どうして私が……」


 そう言いながらもルドの反対側に座らされると、カリストは諦めたように手を出した。


「忙しいので、さっさと終わらせますよ」


「え? 本当にするんですか?」


 カリストの細腕とルドでは勝負をする前から勝敗は見えている。困惑するルドにカリストが言った。


「とりあえず手を出して下さい。言い出したら聞かない人たちばかりですから」


「はい」


 ルドがカリストの手を握る。その瞬間、ぞわっとした何かがルドの体中を駆け抜けた。全身に鳥肌がたって驚いているルドを無視して使用人の一人が声をかける。


「勝っても負けても文句なしの一回勝負! 開始!」


 ルドが反射的に力を入れる。今までの相手だとそれだけで腕を倒していたのだが、カリストの腕は少しも動かない。

 予想外の力の強さにルドの口角が上がる。グッと力を入れるルドにカリストが小声で声をかけた。


「その右手……」


 ルドが自分の右手を見る。周囲の人は歓声でカリストの言葉が聞こえていない。


「クリス様の胸を触ったそうですね」


 バターン!


「勝者! カリスト!」


「やった!」


「やっぱりな!」


「さすがだぜ!」


 カリストが立ち上がり平然と服のしわを伸ばす。そんなカリストを見上げながらルドは震える声で訊ねた。


「ど、どうして、それを?」


「さぁ?」


 カリストは意味あり気に微笑むと屋敷のほうへ歩いていった。





「なかなか面白かったな」


 思い出し笑いをしているクリスにカリストが一通の手紙を差し出した。


「夕方、セルシティ第三皇子の従者が持ってまいりました」


 とたんにクリスが不機嫌になる。


「またロクでもないことなんだろう」


 クリスが封を開けて中の手紙を読む。


「明日の夜か。急だな」


「どうされますか?」


「付き合ってやるさ。セルティが遊んでいる間はな」


 クリスが手紙を返そうとしたが、カリストは受け取らなかった。


「よろしいのですか? 正装、と書かれていますが」


「面倒だが仕方ない」


「……宛名は読まれましたか?」


 クリスがもう一度手紙を確認する。


「断る理由を作るか? いや、それだと……」


 沈むクリスにカリストがとどめをさした。


「犬も招待されています」


 その瞬間、クリスは叫んでいた。


「エマを呼べ! 赤子を連れていてもいい! 至急呼べ!」


「クリス様、招待日は明日ですから。まだ準備しなくて大丈夫です」


 クリスがカリストを睨んだ。


「あいつの狙いが分かった! 絶対に私だと分からないように仕上げろ」


「カルラとラミラも一緒になって喜んで仕上げますよ」


「……不服だが仕方ない。犬には明日は来るなと伝えろ」


「わかりました」


 カリストが優雅に頭を下げた。


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