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ツンデレ治療師は軽やかに弟子に担がれる(タイトル詐欺)  作者:


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ルドによる温かな一夜

 ルドから離れようとしたクリスは強い力で腕を掴まれた。


「こんなに綺麗なのに隠すなんてもったいない!」


「は?」


 クリスは幻聴が聞こえたのかと思ったが、ルドは真剣にもう一度言った。


「月の精霊か妖精かと思いました! とても綺麗です! いや、光の化身か黄金の……」


「いい! それ以上言うな!」


 クリスは顔を真っ赤にしながら無理やりルドの言葉を切ると、サイドテーブルに置いてあったホットミルクを一気に半分飲んだ。ハチミツが入っていて程よく甘いが今のクリスに味わう余裕はない。

 クリスは自分自身に言い聞かすようにひたすら呟いた。


「落ち着け、落ち着け、落ち着け……」


 思わぬ言葉の連呼にクリスの頭はパニック寸前になっている。顔を真っ赤にして俯いるクリスの前で、どうしたらいいのか分からないルドはおどおどしている。


「あの、師匠? どうされましたか? 気分が悪いのですか?」


「誰のせいだ!?」


「えっ!?」


 胸を押さえて顔を上げたクリスの頬はほんのりと赤くなっていた。金粉のように輝く髪に濡れた深緑の瞳。普段とは違う姿にルドは思わず唾を飲みこむ。


 言葉が出ないルドの腹をクリスが殴った。


「何か言え!」


 ルドが自分の腹を押さえながら呟く。


「……意外と痛いです」


「そうじゃない!」


「そう言われましても……」


 顔を上げてクリスを見ると、そのままクリスの姿に釘付けになった。そこに再びクリスが殴る。


「だから、何か言え!」


「いや、でも、その姿を見ると何も言えなく……」


 クリスの顔が曇る。


「やはり呪われた姿は醜いか……」


「いや、その逆で! なんでそうなるんですか!?」


「別に無理することはないぞ」


 悲しそうに深緑の瞳を伏せるクリスの姿にルドは思わず本音を叫んでいた。


「違います! 綺麗すぎて言葉が出なくなるんです!」


「なっなっなななな……」


 頭から噴火しそうなほどクリスの顔が真っ赤になる。ルドはホットミルクが入ったカップをクリスに押し付けた。


「とにかく! もう少し飲んで落ち着いて下さい」


「あ、あぁ……」


 クリスがカップを口につける。ルドは大きく息を吐いて確認した。


「少し情報を整理しましょう。師匠は“神に棄てられた一族”で本当の髪は金色ですが、普段はカリストの魔法で茶色に変えているんですよね?」


「そうだ」


「何故そのようなことを?」


 心底不思議そうに訊ねるルドにクリスが自嘲気味に笑った。


「隠さなければ人と話すこともできないからだ。みな金髪、緑目と分かった瞬間離れる。それで終わりだ。下手に関われば呪われるからな」


「でも、それだと生活できないですよね? 食料とか衣類とか、必要なものが手に入らないのではないですか? それに実際に金髪と緑目の人を見たのは初めてです」


 クリスは一息吐いた。


「そうだろうな。そもそも私たちの一族が地上に降りたのが百年ぐらい前だったらしいし、領地から出る者は滅多にいない」


「地上に……? 降りた?」


「そうだ」


 クリスがルドから視線を外すようにホットミルクを飲む。ルドの反応にどことなくほっとしたのか、気が抜けて頭がフワンとしてきた。


「それは、どういうこ……師匠?」


 ルドを見上げるクリスの瞳がとろんと蕩け、頬が軽く紅潮している。そのまま、こてんと首を傾げて頭をルドの胸に預けてきた。


「ありぇ? 犬が、かしゅんで?」


 しかも呂律が回らなくなってきている。ルドはなんとなく原因を察してクリスからカップを取った。


「師匠、ちょっと失礼します」


 ルドがホットミルクを匂いを嗅いで一口飲んだ。


「かってに、のみゅなぁ」


「やっぱり……」


 甘さに隠れて酒が入っていることにルドは気が付いた。しかも、そこそこアルコールが強い。

 カルラはホットミルクを全て飲ませてから寝かせろと言っていた。つまり全部飲めば酔いつぶれて寝るということだったのだろう。ホットミルクはほとんどなくなっており、酔いがまわってくる頃になる。


 ルドは困ったように頭をかいた。重要なことを話しかけたが、はたして明日、起きた時に覚えているか……いや、そもそも素面(しらふ)になった時にこの状況を思い出したら、どういう反応をするか……


 ……殺される! たぶんクリスだけでなく多方向から殺される!


 青ざめているルドにクリスが縋りついてきた。


「かえせぇ……」


 カップに手を伸ばしてくるクリスをルドが制する。


「とりあえず、今日は寝ましょう」


「ぜんぶ、のんでかりゃ……」


「残していいですから、寝ましょう」


「ダメだぁ。もったいにゃい……」


 クリスは緩慢な動作でルドからカップを取るとホットミルクを全部飲んだ。そのまま満足そうに目を閉じる。


「し、師匠! そのまま寝ないで下さい!」


 クリスがルドの胸にグリグリと頭をこすりつける。


「いぬは温かいにゃぁ……」


「ぐっ」


 クリスの姿にルドは動くことなく悶えた。


 にゃぁ、ってなんだ!? 幻聴か!?

 普段の素っ気ない言葉はどこに旅立った!?

 いつ帰って来る!? 

 いや、もう永遠に帰ってこなくても……ってそうじゃない!

 これは! この状況は! どうすればいいんだ!?


 ルドは苦悩しながら顔を下に向けた。そこには安心した子どものようにスヤスヤと眠るクリスがいる。しかも右手はルドの服をしっかりと握りしめており、軽く手を引っ張ったが外れそうにない。


「……仕方ない」


 せっかく気持ち良さそうに寝ているのに邪魔はしたくない。

 ルドは翌日、自分の命がなくなることを覚悟してクリスとともにベッドに入った。





 最近の朝は冷えるのにクリスは温もりを感じながら目を覚ました。だが、あまりの寝心地よさにウトウトと二度寝に入る。そこで昨夜のことをぼんやりと思い出した。


 確か犬と何かを話していたような……そのまま記憶がない……


 クリスが寝ぼけながら、もう一度目を開ける。すると、眼前には見慣れない服があった。


「!?」


 人は本当に驚くと声が出ないということをクリスは身をもって知った。クリスが声も出せず、動くことも出来ないでいると、頭上から寝ぼけたような声が降ってきた。


「おはようございます」


 そう言いながらもルドは欠伸をしており相当眠そうだ。


「な……な、な、なななん」


 言葉が出ないクリスに代わってルドがぼんやりと答える。


「師匠が放してくれなくて……」


 結局、ルドは一緒にベッドに入ったものの、自分の胸の中で無防備に眠るクリスの姿に緊張して眠れなかった。


 この状況は騎士団での訓練も役に立たなかった。必死に寝ようとするのだが、どうしても寝ることができなかった。

 そして、いつもなら太陽が昇り始めた頃に活動を開始するのだが、クリスが服を掴んでいるため起きることも、動くこともできず、いつの間にか寝ていたのだ。


 普段と違う生活リズムに頭が覚醒しないのか、ルドは寝ぼけているようだった。硬直しているクリスをギュッと抱きしめる。


「寒くないですか? ゆっくり寝て下さい……」


 そう言いながら、幼子をあやすようにクリスの背中をトントンと軽く叩く。そして、そのまま眠った。


 そんなルドの行動にクリスは顔を真っ赤にしたまま口を開きかけて黙った。


 普段は使わない魔力の使い方を練習をして疲れもたまっているのだろう。今日ぐらいは好きなだけ寝かせて休ませてやるか。


 そう考えたクリスは再び目を閉じた。


 犬の腕の中は意外と寝心地がいいんだな……


 すぐに心地よい微睡(まどろみ)が訪れ、クリスも眠っていた。


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