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ツンデレ治療師は軽やかに弟子に担がれる(タイトル詐欺)  作者:


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忠犬による切実なお願い

 ルドが浮きかけていた腰を下ろした。


「あ、いえ。これ以上、自分が出来ることはありませんので」


 クリスが小声で呟く。


「旧知の仲ということか」


「何か言いましたか?」


「なんでもない。で、今日は何か用事があったのではないのか?」


「そうです! 借りていた本をお返しして、新しい本をお借りしたいと思いまして!」


 と、ルドが立ち上がったところで盛大に腹がなった。


「あ、す、すみません」


 クリスが思い出したように言った。


「つい話し込んでしまったが、もう昼だな。カルラ」


 サロンの入り口で控えていたカルラが顔を出す。


「はい」


「昼食の準備は?」


「申し訳ございません。今朝、水場が壊れてしまいまして。修復はしたのですが昼食が出来るまで、もう少し時間がかかります」


「そうか」


 どうするか思案するクリスにカルラが提案する。


「気分転換もかねて外で食事をされてはいかがでしょうか? お二人(・・・)で」


 カルラは二人というところを強調したがクリスは特に気にすることなく頷いた。


「たまにはいいか。馬車は出せるか?」


「はい! 表に回すように伝えてきます」


 カルラが嬉しそうに小走りで駆けていく。


「本はそこに置いておけ。この前の店は開いているか?」


「開いていると思います」


「では、そこに行こう」


 馬車に乗り込んだ二人は、満足そうな笑みを浮かべるカルラに見送られて出発した。





 馬車が走り出したところでルドがクリスに質問をした。


「先ほど飲んだお茶はどういうお茶なのですか? 魔法を解除できるお茶など聞いたことないのですが」


「薬草と言われる薬になる葉や実を調合して煮出したものだ。そこにカリストが魔法を解除する魔法を仕込んだ」


「飲み物に魔法を!?」


「あいつがいた国ではそういう魔法もあるそうだ。飲み物や食べ物に魔法をかけて暗殺したり、されたりして、なかなか大変な国だったようだな」


「そんな国が……」


「この国の王族は比較的仲が良いからな。そういう話は聞かないが、他国では珍しくない」


 そこでクリスがふと思い出したように言った。


「そういえば、これを返さないといけなかったな」


「返す?」


 思い当たることがないルドが考えていると、クリスは首元に手を入れて、そのまま何かを引っ張り出した。

 繊細な作りのシルバーチェーンの先に銀糸で草花の模様に編まれた球体があり、その中にルドのピアスが入っている。


 球体を開けてピアスを取り出そうとするクリスをルドが止めた。


「それは師匠にあげたものです。返さなくていいです」


 ルドの訴えをクリスがバッサリと斬る。


「もらった記憶はない」


 ルドが慌てて説明をする。


「悪魔を倒した後、持っていて下さいと言ったら、そうか、って受け取ってくれたじゃないですか」


「記憶にない」


 頑ななクリスの態度に対し、ルドも負けずに開き直る。


「なら、もう一度言います。持っていて下さい」


「嫌だ」


「どうしてですか!?」


 断られ続けたルドが半泣きになる。ないはずの犬耳が伏せられ、尻尾が垂れ下がっている幻覚まで見えた。

 クリスがため息を吐きながらピアスをルドに見せる。


「おまえ、これがどういうものか分かっているのか?」


「自分の魔力を宿した魔宝石(・・・)です」


 魔宝石とは、魔力を貯めたり、放出したりすることが出来る石のことだ。ただ、それだけなら似た名前の魔法石(・・・)でも出来るのだが、貯められる魔力量が桁違いに多い。

 そして魔宝石には属性があり、相性が良い簡単な魔法式なら組み込んで発動することも出来る。つまり魔力がない人でも魔宝石を利用すれば、魔法が使えるのだ。

 しかも魔宝石は希少なため高額で取り引きがされており、石の大きさや性質によっては家一件が軽く買える値段になる。


 そんな魔宝石を高貴な家柄では、ピアスやネックレスという形にして生まれた子に贈る風習がある。そして常に身に付けていた魔宝石は持ち主の魔力を宿し、いざという時には物理的にも経済的にも持ち主を守る手段となる。


「それを渡す意味を分かっているのか?」


 クリスの質問にルドが頷きながら当然のように言った。


「大切な人ができたら渡しなさいと言われました」


「それだ! 私ではなく、将来の大切な人に渡すべきだろ!」


 ルドはクリスに指さされたが目を伏せて軽く頭を振った。


「いいえ。将来ほど不確かなものはありません。だからこそ今を大切にしたいんです。自分は師匠に渡したいと思いました」


 そう言って顔を上げた琥珀の瞳は真剣そのものだ。一歩も譲りそうにないルドに、面倒になったクリスが折れた。


「わかった。では、これは預かるということにしよう。おまえが言う不確かな将来に私より大切な人が現れるまで、私がこれを預かろう」


「預けるつもりはありません」


「なら捨てるぞ」


 クリスがこめかみをひきつらせる。その姿にルドはグッと言葉を飲み込んだ。

 クリスが譲歩したので、自分も譲歩しなければならない。そのことを理解はしているが不満が残る。だが、これ以上、意見の言い合いをしていたら、ピアスを投げ捨てられる可能性がある。それだけは避けたい。


「……わかりました。それでいいです。でも、もし師匠より大切な人が現れなかったら、どうしますか?」


 クリスは不服そうに腕を組むと、顔を外に向けてヤケ気味に言った。


「私が死ぬまで預かっていてやる」


 その言葉に満足そうにルドが笑った。


「ありがとうございます」


 クリスは答えないが耳が微かに赤くなっていた。





 馬車が入れない細路地の前で停車する。クリスは馬車から降りると左腕がない御者に言った。


「屋敷に帰っていろ。迎えが必要なら連絡する」


「はい」


 左腕がない御者が馬車を走らせて帰っていく。


「行きましょう」


 どこかご機嫌なルドが先を歩く。クリスは後ろを歩きながらピアスがないルドの左耳を見て視線を地面に落とした。無意識に手がネックレスに伸びる。


「師匠?」


 声をかけられてクリスが顔を上げると、いつの間にか店の前まで来ていた。


「あぁ、もう着いたのか」


「はい。ただ閉まっているみたいで……」


「そうなのか?」


「開いていたら、そこの窓に花が飾られているのですが今日はないので休みかもしれません」


「そうか。残念だが他の店を……」


 クリスが話していると店のドアが開いた。


「あら、いらっしゃい」


 ウエイトレスの女性が笑顔で迎える。


「今日は休みですか?」


 ルドの質問にウエイトレスの女性が困った顔になる。


「そうなのよ。今まで使っていた水が手に入らなくなってシェフが思うような料理が作れないから、しばらく休みにしているの。それにシェフの奥さんは体調を崩して……あ、そうだ! 入って」


 ウエイトレスが何かを思いついたように二人を店内に招く。


「シェフ! ルドが来たわよ!」


 店の奥からシェフの声が響く。


「あぁ、ちょっと待ってくれ」


 前回来た時に比べてシェフの声には覇気がない。少しすると疲れた顔をしたシェフが出てきた。


「やあ、坊。せっかく来てくれたところ悪いが、出せるような料理が作れないんだ」


「水が手に入らないのですか?」


「あぁ。代わりの水で料理を作っているんだが、前のようにはいかなくてな」


 落ち込むシェフにウエイトレスが提案をする。


「シェフ、ルドたちに料理を食べてもらって感想を聞いてみたら?」


「いや、あれは客に出せる料理ではない」


「だから客じゃなくて、お馴染みさんとして試食してもらうのよ。お代はもちろんいらないわ。ルドもいいでしょ?」


 ウエイトレスの提案にルドが頷く。


「自分でよければ。師匠も良いですか?」


「あぁ」


「いや、だが……」


 シェフが悩んでいるとルドの腹が鳴った。その音にシェフが苦笑いをする。


「空腹のヤツを追い出すわけにはいかないな。席に座って、ちょっと待っていてくれ」


「ありがとう。こっちに座って」


 ウエイトレスが二人を席に案内した。


 二人が席に座るとウエイトレスがグラスに炭酸水を注いだ。


「アルコールは駄目なのよね?」


「はい」


「あぁ」


「じゃあ料理も持ってくるわ。感想は食べた時でも、終わりにまとめてでもいいから教えて」


「わかりました」


 ウエイトレスが料理を運ぶためにキッチンへと下がっていった。


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