52 【草の根勇者たちの奮闘~Canzone di battaglia~・2】
著作者:なっつ
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そしてエリックと道を違えたレギュラー陣は、と言うと。
「俺が言うことじゃねぇけどなぁ、やっぱこれ以上減らねぇほうがよくねぇか?」
気まずい空気ばかりが流れていた。
「あいつも一応は嬢ちゃんのこと心配して此処まで来てるんだよ。それはわかってやってくれ。な」
師匠も執事も口に出しては言わないが、「何で今此処であいつを切り捨てるんだよ、馬鹿じゃねーの?」みたいな心の声ははっきりと聞こえる。
すごいわ! 聖女の力じゃなくて精神感応が使えるようになったのね! じゃなくて。
そう言う師匠も、少し前には彼から敵認定されて剣を向けられていたはずだ。なのに何故そこまで寛容なことが言えるのだろう。
険悪とは言わないまでもギクシャクした空気はあった。
この城に来てから何度も離れ離れになったし、偽物も現れたらしい。今でこそ上っ面は協力しているように見えるけれど、何処かで「これは偽物ではないか」「背を向けたら刺されるんじゃないか」「騙されて違う場所に誘導されるのではないか」なんて猜疑心はずっと付きまとっている。
ルチナリスのそんな気持ちを察したのか、師匠は続ける。
「まぁ、どうしていいかわかんねぇんだよ。今まで人間だと思ってた奴らがどいつもこいつも悪魔だって知って、それであっさり順応してた今までのエリックのほうが気持ち悪いと思わねぇ? あいつだって一歩間違えば家族を人間狩りで失ってたってのによ。
それにあいつも紅竜をどうにかすればいいってことはわかってんだ。だから、」
違う。そうじゃない。
勇者は少し前からおかしかった。まるで人が変わったような……メグと同じように闇に染まってしまったのではないかという、そんな恐怖を感じた。
偽物とすり替わっているよりたちが悪い。背中を預けていたら何時の間にか蔓になっているかもしれないのだ。
闇は誰の心の中にもある。あたしの中にもある。ミルは向き合うことは悪いことではないと肯定していたけれど、執事が何時の間にか闇に入り込まれて義兄を襲ったように、気付かないまま変わってしまうこともある。
勇者も海の魔女の一件以降、何度も闇に遭遇しているから、自分で気が付かないまま闇に入り込まれていないとは言えない。だから……いや、それも違う。
勇者が義兄の犠牲もやむを得ない、と、そんなスタンスを取ったから。
だから。
あたしは義兄を取り戻すために戦力が欲しかっただけ。
取り戻すのに邪魔になるならいらないと、そう思っただけだ。
「しかし今から追いかけるのは得策とは言えませんね」
執事も迷ったように口を挟む。
義兄を犠牲にするのもやむなし、というスタンスには多分あたしと一緒に対立してくれるであろう執事ですら、でも今戦力を減らすのはどうよ? という気持ちに傾いているのが見受けられる。
見受けられるが、この先に義兄がいて、その命が危険に晒されている可能性があると聞かされれば、これ以上迂回する気にはなれないようだ。今こうして話をしている時間すら惜しいのに立ち止まらせて、と……別の意味で「余計なことしやがって」感を感じる。
ああ、何だかんだと言ってもやっぱりあたしが全部ひとりで悪いんじゃないか。それを「あの扉が怪しーい!」なんて誤魔化して。
考えすぎるのはあたしの悪い癖だけど、考えなしに動いたら余計に悪くなることばっかりじゃないの。ちょっとは自重しなさいよ過去のあたしーー!!
「ごめんなさい! あたしが連れ戻してくる!」
「待て待て」
居ても立ってもいられなくなって身を翻しかけたルチナリスの腕をアンリが掴む。
「だーかーらー。俺言ったよな、これ以上減るなって」
「でも」
確かに言ったがあたしは戦力外だ。聖女の力も大地の加護も扱えないばかりか、義兄に持っていかれてしまった。
今握っているドアノブの向こうに義兄と紅竜がいたとしても、何の役にも立てないことは確定だし、それどころか捕まって人質にされる未来が見える。2度あることは3度ある。
「先に青藍だ。エリックには聖剣もガーゴイルも付いてるし、運だけは異様にいい。敵陣のど真ん中だが、兵士も客もほとんど倒してっから新たに遭遇することもねぇだろう。
まぁ考えてみりゃあ、あいつぁ人間界に戻ったほうがいいことは確かだな。メグもいるし、勇者ってのは人間を守るもんだ」
「でも」
「これからのことは俺たちだけの問題だ。部外者を巻き込むのは気が引ける。嬢ちゃんだってそう思ってたはずだろう? そうなっただけだ。気にすんな」
「でも、」
「さぁて。青藍は嬢ちゃんの呼びかけで起きたんだろう? なら声はまだ届く。あいつをこっちに引っ張れるのは嬢ちゃんだけだ。今度は張り切って行けよ? トトを起こす時以上にな!」
そうだろうか。
あたしの声が義兄に届いたせいで闇が抜けるなんて、そんな劇的なイベントががモブの人生に起きるはずがない。現にトトの時だってあたしは何の役にも立たなかった。
紅竜も義兄を目覚めさせるために呼ぶことを強いてきたけれど、実際に義兄が目を覚ましたのはミルの剣のおかげだった。あたしではない。
「あなたはご自分を過小評価しすぎです。才もないくせに大口を叩かれるのも不快ですが」
こちらはこちらで並んだ扉を開ける手を全く止めず、執事までもが口を挟む。
「あなたは何をやらせてもからっきしですが想いの強さがある。メンバーの中で……まぁ私には劣りますが青藍様の幸福を願っている。その力を信じるべきです。
それに今は確かに相手方の動きがおかしい。この人が何をしたのかは知りませんが、今、機を逃すのはただの馬鹿ですよ」
そうだ。先ほど合流した際、アンリは「闇がこれ以上出て来るのは阻止できた」と言った。「後は紅竜が抱えている分をどうにかすれば」とも。何をしたかは不明だが、折角師匠が作ってくれたチャンスを無駄にはできない。
何百年も前の人々が命がけで封印した闇だ。阻止できたと言ってもきっと一過性のもの。あの短時間で完全に動きを止められるはずがない。
執事が言うように、今このチャンスを私情で流すのはただの馬鹿だ。
だ、けれど。
「ってことだ。エリックのほうはやることやってから探しに行け。あいつはそう簡単にくたばったりはしねぇからよ」
「でもあたし、」
無理だ。あたしには何の力もない。呼びかけたところで義兄には届かない。
現にロンダヴェルグで義兄はあたしの目の前で司教を害し、あたしにまで手を上げようとした。渡り廊下で、義兄はあたしを見ようともしなかった。
聖なる乙女の祈りだか何だか知らないけれど、あたしに皆が期待しているような力はない。想いの強さなんて何の役にも立たない。
師匠や執事がこうしていろいろ言ってくれているのも、あたしを気遣ってくれているだけで――。
その時だった。あたしと師匠が話している間も勝手に扉を開け続けていた執事が正解を当てたのは。
開けた途端に悪意と、それを打ち消すほどの光が飛び出した。扉の前に立っていた執事が一瞬、見えなくなったほどだ。
何? と聞くまでもなく執事が飛び込んでいく。
わかる。義兄がいたのだろう。
でもこの光は? 執事の祖母が持ち直す原因になったとされるあの白い光にも似た、それよりも強くて狂暴な光。まるで何もかもを消してしまうような。
ああ、あたしはこの光を知っている。
海の魔女事件の時に義兄が放った火柱に似ている。メグの中の闇を消し去ったあの炎に。
闇を消した光と同じならいいじゃない、と思う一方で……早くしないと間に合わなくなると焦りたくなるこの胸騒ぎは何だろう。
るぅちゃんの「人質にされる未来が見える。2度あることは3度ある」の2度とは、海の魔女事件の時にメグに捕まった時と、ここより少し前に紅竜に捕まった時のことを指しています。





