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魔王様には蒼いリボンをつけて  作者: なっつ
Episode 22:魔王様は蒼いリボンがお好き
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52 【草の根勇者たちの奮闘~Canzone di battaglia~・2】

著作者:なっつ

Copyright © 2014 なっつ All Rights Reserved.

掲載元URL:http://syosetu.com/

無断転載禁止。(小説家になろう、novelist、アルファポリス、セルバンテス、著作者個人サイト”月の鳥籠”以外は全て【無断転載】です)


这项工作的版权属于我《なっつ》。

The copyright of this work belongs to me《NattUinkumarin》。Do not reprint without my permission!


挿絵(By みてみん)




 そしてエリックと道を(たが)えたレギュラー陣は、と言うと。


「俺が言うことじゃねぇけどなぁ、やっぱこれ以上減らねぇほうがよくねぇか?」


 気まずい空気ばかりが流れていた。


「あいつも一応は嬢ちゃんのこと心配して此処(ここ)まで来てるんだよ。それはわかってやってくれ。な」


 師匠(アンリ)執事(グラウス)も口に出しては言わないが、「何で今此処(ここ)であいつを切り捨てるんだよ、馬鹿じゃねーの?」みたいな心の声ははっきりと聞こえる。


 すごいわ! 聖女の力じゃなくて精神感応(テレパシー)が使えるようになったのね! じゃなくて。

 そう言う師匠(アンリ)も、少し前には(エリック)から敵認定されて剣を向けられていたはずだ。なのに何故(なぜ)そこまで寛容なことが言えるのだろう。


 険悪とは言わないまでもギクシャクした空気はあった。

 この城に来てから何度も離れ離れになったし、偽物も現れたらしい。今でこそ上っ面は協力しているように見えるけれど、何処(どこ)かで「これは偽物ではないか」「背を向けたら刺されるんじゃないか」「騙されて違う場所に誘導されるのではないか」なんて猜疑心(さいぎしん)はずっと付きまとっている。


 ルチナリスのそんな気持ちを察したのか、師匠(アンリ)は続ける。

 

「まぁ、どうしていいかわかんねぇんだよ。今まで人間だと思ってた(やつ)らがどいつもこいつも悪魔だって知って、それであっさり順応してた今までのエリックのほうが気持ち悪いと思わねぇ? あいつだって一歩間違えば家族を人間狩りで失ってたってのによ。

 それにあいつも紅竜をどうにかすればいいってことはわかってんだ。だから、」



 違う。そうじゃない。

 勇者(エリック)は少し前からおかしかった。まるで人が変わったような……メグと同じように闇に染まってしまったのではないかという、そんな恐怖を感じた。

 偽物とすり替わっているよりたちが悪い。背中を預けていたら何時(いつ)の間にか蔓になっているかもしれないのだ。 

 闇は誰の心の中にもある。あたしの中にもある。ミルは向き合うことは悪いことではないと肯定していたけれど、執事(グラウス)何時(いつ)の間にか闇に入り込まれて義兄(あに)を襲ったように、気付かないまま変わってしまうこともある。

 勇者(エリック)も海の魔女の一件以降、何度も闇に遭遇しているから、自分で気が付かないまま闇に入り込まれていないとは言えない。だから……いや、それも違う。


 勇者(エリック)義兄(あに)の犠牲もやむを得ない、と、そんなスタンスを取ったから。

 だから。

 あたしは義兄(あに)を取り戻すために戦力が欲しかっただけ。

 取り戻すのに邪魔になるならいらないと、そう思っただけだ。



「しかし今から追いかけるのは得策とは言えませんね」


 執事(グラウス)も迷ったように口を挟む。

 義兄(あに)を犠牲にするのもやむなし、というスタンスには多分あたしと一緒に対立してくれるであろう執事(グラウス)ですら、でも今戦力を減らすのはどうよ? という気持ちに傾いているのが見受けられる。

 見受けられるが、この先に義兄(あに)がいて、その命が危険に(さら)されている可能性があると聞かされれば、これ以上迂回(うかい)する気にはなれないようだ。今こうして話をしている時間すら惜しいのに立ち止まらせて、と……別の意味で「余計なことしやがって」感を感じる。


 ああ、何だかんだと言ってもやっぱりあたしが全部ひとりで悪いんじゃないか。それを「あの扉が怪しーい!」なんて誤魔化(ごまか)して。

 考えすぎるのはあたしの悪い癖だけど、考えなしに動いたら余計に悪くなることばっかりじゃないの。ちょっとは自重しなさいよ過去のあたしーー!!


「ごめんなさい! あたしが連れ戻してくる!」

「待て待て」


 居ても立ってもいられなくなって身を(ひるが)しかけたルチナリスの腕をアンリが(つか)む。


「だーかーらー。俺言ったよな、これ以上減るなって」

「でも」


 確かに言ったがあたしは戦力外だ。聖女の力も大地の加護も扱えないばかりか、義兄(あに)に持っていかれてしまった。

 今握っているドアノブの向こうに義兄(あに)と紅竜がいたとしても、何の役にも立てないことは確定だし、それどころか捕まって人質にされる未来が見える。2度あることは3度ある。



「先に青藍だ。エリックには聖剣もガーゴイルも付いてるし、運だけは異様にいい。敵陣のど真ん中だが、兵士も客もほとんど倒してっから新たに遭遇することもねぇだろう。

 まぁ考えてみりゃあ、あいつぁ人間界に戻ったほうがいいことは確かだな。メグもいるし、勇者ってのは人間を守るもんだ」

「でも」

「これからのことは俺たちだけの問題だ。部外者を巻き込むのは気が引ける。嬢ちゃんだってそう思ってたはずだろう? そうなっただけだ。気にすんな」

「でも、」

「さぁて。青藍は嬢ちゃんの呼びかけで起きたんだろう? なら声はまだ届く。あいつをこっちに引っ張れるのは嬢ちゃんだけだ。今度は張り切って行けよ? トトを起こす時以上にな!」


 そうだろうか。

 あたしの声が義兄(あに)に届いたせいで闇が抜けるなんて、そんな劇的なイベントががモブの人生に起きるはずがない。現にトトの時だってあたしは何の役にも立たなかった。

 紅竜も義兄(あに)を目覚めさせるために呼ぶことを()いてきたけれど、実際に義兄(あに)が目を覚ましたのはミルの剣のおかげだった。あたしではない。



「あなたはご自分を過小評価しすぎです。才もないくせに大口を叩かれるのも不快ですが」


 こちらはこちらで並んだ扉を開ける手を全く止めず、執事(グラウス)までもが口を挟む。


「あなたは何をやらせてもからっきしですが想いの強さがある。メンバーの中で……まぁ私には劣りますが青藍様の幸福を願っている。その力を信じるべきです。

 それに今は確かに相手方の動きがおかしい。この人(アンリ)が何をしたのかは知りませんが、今、機を逃すのはただの馬鹿ですよ」


 

 そうだ。先ほど合流した際、アンリは「闇がこれ以上出て来るのは阻止できた」と言った。「後は紅竜が抱えている分をどうにかすれば」とも。何をしたかは不明だが、折角(せっかく)師匠(アンリ)が作ってくれたチャンスを無駄にはできない。

 何百年も前の人々が命がけで封印した闇だ。阻止できたと言ってもきっと一過性のもの。あの短時間で完全に動きを止められるはずがない。

 執事(グラウス)が言うように、今このチャンスを私情で流すのはただの馬鹿だ。

 だ、けれど。



「ってことだ。エリックのほうはやることやってから探しに行け。あいつはそう簡単にくたばったりはしねぇからよ」

「でもあたし、」


 無理だ。あたしには何の力もない。呼びかけたところで義兄(あに)には届かない。

 現にロンダヴェルグで義兄(あに)はあたしの目の前で司教(ティルファ)を害し、あたしにまで手を上げようとした。渡り廊下で、義兄(あに)はあたしを見ようともしなかった。

 聖なる乙女の祈りだか何だか知らないけれど、あたしに皆が期待しているような力はない。想いの強さなんて何の役にも立たない。

 師匠(アンリ)執事(グラウス)がこうしていろいろ言ってくれているのも、あたしを気遣(きづか)ってくれているだけで――。




 その時だった。あたしと師匠(アンリ)が話している間も勝手に扉を開け続けていた執事(グラウス)が正解を当てたのは。

 開けた途端に悪意と、それを打ち消すほどの光が飛び出した。扉の前に立っていた執事(グラウス)が一瞬、見えなくなったほどだ。


 何? と聞くまでもなく執事(グラウス)が飛び込んでいく。

 わかる。義兄(あに)がいたのだろう。


 でもこの光は? 執事(グラウス)の祖母が持ち直す原因になったとされるあの白い光にも似た、それよりも強くて狂暴な光。まるで何もかもを消してしまうような。




 ああ、あたしはこの光を知っている。

 海の魔女事件の時に義兄(あに)が放った火柱に似ている。メグの中の闇を消し去ったあの炎に。

 闇を消した光と同じならいいじゃない、と思う一方で……早くしないと間に合わなくなると焦りたくなるこの胸騒ぎは何だろう。

るぅちゃんの「人質にされる未来が見える。2度あることは3度ある」の2度とは、海の魔女事件の時にメグに捕まった時と、ここより少し前に紅竜に捕まった時のことを指しています。

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