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魔王様には蒼いリボンをつけて  作者: なっつ
Episode 3:星に願いを、月に祈りを
53/626

25 【忌まわしき記憶・3】

※過去話です。

※挿絵があります。

著作者:なっつ

Copyright © 2014 なっつ All Rights Reserved.

掲載元URL:http://syosetu.com/

無断転載禁止。(小説家になろう、taskey、novelist、アルファポリス、著作者個人サイト”月の鳥籠”以外は全て【無断転載】です)


这项工作的版权属于我《なっつ》。

The copyright of this work belongs to me《NattU》。Do not reprint without my permission!


 挿絵(By みてみん)




「るぅ!!」


 大声で呼ばれてルチナリスは目を開けた。心配そうな顔が見えた。

 自分の身を抱きかかえているのはずっと助けを求め続けたあの人。ふわりと香ったのは、以前、馬車の中でかけられていた上着と同じ匂い。


「悲鳴なんかあげて」

「青藍様! 悪魔が! 悪魔が出たの!! 悪魔が、」

「落ち着いて」


 青藍はルチナリスを抱き寄せたまま、背中をとんとん、と優しく叩く。ルチナリスはその腕をぎゅっと掴む。


「怖くない。怖いことないから、大丈夫」


 あやすように繰り返される彼の声を聞きながら、その腕越しにあたりを見回す。

 いない。

 さっき見たはずの異形の化け物など、何処(どこ)にも。






 日が傾いたのだろう。窓の外は闇色に塗りたくられている。

 階段も廊下も暗い。が、そこに何かが潜んでいるようには感じない。


 でも。


 怖い。

 このお城には悪魔がいたのよ? あたしの村を襲ったのと同じ顔をした悪魔が。

 ずっと話しかけていたのはその悪魔なの。あたしのそばに、ずっと悪魔がいるの。

 どうしよう。

 あたし、食べられちゃう。



 青藍は黙ったままルチナリスを(かか)えていたが、しばらくしてぽつりと呟いた。


「……もしかしたらお前が見たのは悪い奴じゃないのかもしれない、とは思わない?」

「青藍、様?」


 何を、言っているの?


「何も怖がることなんてないんだ。お前が何を見たんだとしても……此処にはお前を怖がらせる奴も、お前を食べる奴もいない」


 それじゃ、さっき見たのは悪くない悪魔なの?

 そんなのっているの?


「大丈夫、だから」


 ああ、でも。

 もしかしたら顔が怖いだけなのかもしれない。ほら、よく家のことを手伝ってくれるっていうホブゴブリンだって、リアルに書かれた本の挿絵は結構怖かったじゃない。それに古いお城には精霊が居着いているって、その本に書いてあったっけ。

 見た目はあたしの村に来た悪魔と似ているけれど、全然違うのかもしれない。


「……怖く、ない?」


 そう言えば、彼らはこの人のことも小さい頃から知っているって言っていた。

 でも、この人は生きている。

 食べられもしないで、ずっと今まで。大人になるまで。


 町長さんが来た時にいろいろ教えてくれたのも、この人を探すあたしに居場所を知らせてくれたのもあの声だった。

 さっきも手を伸ばせば簡単に捕まえられる距離にいたのに、彼らは手を出しては来なかった。

 見た目はあんなだけれども、その声の主を、この人は悪い奴ではない、と言う。


 それなら。

 あれは、本当は……怖くない、の、かも。


「怖くない?」

「怖くない」


 彼はそう言うと、口を(つぐ)んだ。

 ただ、蒼い目の中で1度だけ紅っぽい色が見えた。


 何だろう。

 夕陽の色でも反射したのだろうか。

 なんだか、とっても……


「……おやすみ」


 どうして? あたし、眠くな、い……よ……?



 それを最後に、ルチナリスはガクリ、と意識を手放した。

 小さく漏れる寝息を確認してその体を抱え上げた青藍に、こそりと背後から声がかけられる。


(ぼん)、」

他人(ひと)の話が聞けないのか? 出て来るなって言っただろう。これは特に悪魔を恐れているんだから」

「だけどさぁ、」

「俺は、出、て、来、る、な、と言ったよな?」


 かなり遠くで小さくなっている3匹のガーゴイルのほうなど向きもしないで、青藍はただ冷たく言い放つ。


「必要以上に怖がらせる権利などお前らにはない。俺たちはこれとは違うものだと……怖がらせるだけでしかないということを忘れるな」

「へい」

「親切心からだろうと無闇に声をかけるのも禁止だ」

「……へぃ」


 不承不承(ふしょうぶしょう)返事をするガーゴイルたちに、青藍はやっと目を向けた。


「明日起きた時にはこれも夢だと思うだろう。……この城で俺たちといたことは全て、いつかは夢でしかなくなるのだから」

(ぼん)、」


 酷い悪夢を見たと言ってまた泣きついてくるだろうか。

 それでも、先ほど見たことを真実として憶えていられるよりはいい。



               挿絵(By みてみん)



「……すっかりパパの顔っすね」


 それからかなりの間を空けて、ガーゴイルの1匹が遠慮がちに呟いた。


「そういやさっき、るぅ、って呼んでたっすよね? いいでしょ? アレだのコレだのって言うより」

「ひょっとしてこっそり呼んでました?」


 遠慮というものを知らないのか、ただ単に学習能力が欠如しているのか。

 つい今しがた怒られたばかりだと言うのに、1匹が口火を切ったことからガーゴイルたちはてんでに口を開き始める。


「すっかり信頼されちゃってるみたいだし、自分好みに育てる準備は万全ってやつっすね」

「俺らが脅したおかげで坊の株が上がったようなもんっすよねー」

「感謝して欲、」


 ガーゴイルは、その(あるじ)の目に言いかけた言葉を飲み込んだ。

 その色は真紅。魔王の色。



「……俺がいつまでも甘いと思ったら大間違いだからな」


 ざわついていた風が、しん、と静まり返った。


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