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魔王様には蒼いリボンをつけて  作者: なっつ
Episode 21:千日紅をきみの墓標に
521/626

51 【黒。またの名を、絶望・2】

著作者:なっつ

Copyright © 2014 なっつ All Rights Reserved.

掲載元URL:http://syosetu.com/

無断転載禁止。(小説家になろう、novelist、アルファポリス、セルバンテス、著作者個人サイト”月の鳥籠”以外は全て【無断転載】です)


这项工作的版权属于我《なっつ》。

The copyright of this work belongs to me《NattUinkumarin》。Do not reprint without my permission!


挿絵(By みてみん)




 そうして勇者(エリック)が話をしている間にも、執事(グラウス)師匠(アンリ)は先に進んでいる。階段を下りていく。

 別の(フロア)になってしまったら、ミルの元に戻ることは、物理的にも精神的にも難しい。

 此処(ここ)はもう、彼らが言うように、彼女が後から追いつくことを期待して先に進むべきなのだろう。




「警備の人もいるだろうから騒ぎが起きれば駆けつけるよね? 関わっているのが招待したお客さんなら尚更」


 そうして執事(グラウス)師匠(アンリ)の背を追って歩く間も、勇者(エリック)の話は続く。

 声が薄暗い廊下に広がって、溶けるように消える。

 


 この城の当主である紅竜という人物は、邪魔に思う人々を何人も消して来たと言う。

 時の権力者の実力を誇張するために大袈裟に言った噂ではあるが、火のないところに煙は立たない。招待客の中には極秘裏(ごくひり)に暗殺するつもりで呼んだ者だっているかもしれないが、よもや全員ではあるまい。

 招待客が誰ひとり帰って来ませんでした、なんて、いくら権力者であろうとただでは済まない。客の立場でありながら此処(ここ)の兵士の代わりに侵入者を倒そうという気概(きがい)(あふ)れていても、紅竜のカリスマに妄信していたとしても、見て見ぬふりができる範囲を超えるだろう。

 ひとりなら声を上げないかもしれないが、誰かが上げれば追随(ついずい)する。そうして失脚に追い込まれ、歴史から消えた権力者は大勢いる。



「いや。貴族様がたは極力手は出さねぇ。だからああして襲って来るのはおかしい」


 前を行く師匠(アンリ)が、背を向けたまま口を挟む。

 その声に、 


「だよねぇ。イチゴちゃんとも話してたんだよ、ご婦人やお嬢さんまでもがゾロゾロしたドレスのままで戦闘に参加するはずがない、って」


 と勇者(エリック)も賛同している。


 自分の家ならともかく、他人の、それも招待客としている場所で大立ち回りをするはずがない。むしろ戦闘とは縁遠い、と言うのは「お貴族様」の名称を前にして自分たちが勝手にイメージづけているだけではあるけれど。


 (アンリ)はもう何十年も前に魔界を出ているから今の魔界は知らない。招待客でも敵を見つければこぞって倒しに行くのが今の主流(トレンド)かもしれない。

 ひとり倒すごとにシールが貰えて、100枚集めたら非売品の買い物袋と交換できる……なんて貧乏くさいことは貴族様は無縁だろうけれど、無縁だからこそ面白がって流行(はや)っているとも考えられるし、そもそも買い物袋よりもっとお高いもの――宝石とか新型の馬車とか――でもいい。


 が、いくら考え方が変わったとしても景品目当てに(ぞく)の討伐は無理がありすぎる。

 紅竜に恩を売るつもりで戦っていると言われたほうが余程(よほど)納得できる。



「そうだな。好条件がぶら下がっていれば恩を売ろうと考える連中もいるだろうが、(やつ)らはほとんどハイエナだ。俺たちが城内を引っ()き回してメフィストフェレスの力が弱まることを小躍りするような連中ばかりさ」

「嫌われてるんですか?」

「上に立つ者は意味不明に嫌われるもんさ。特にうちは紅竜の代になってから急に勢力を伸ばしたからな。気に入らない、って連中も多い」


 その筆頭がアイリスの家(ヴァンパイア)なのだそうだ。

 剣と魔法のファンタジーな世界も人間界と変わらない。

 が、それが普通なのだろう。何が凄いのか全然伝わってこない主人公を誰も彼もが肯定して褒め(たた)えたり、何処(どこ)の馬の骨かもわからないヒロインがあっさり后に迎えられることに大臣も国民も誰ひとり反対しないどころか諸手を上げて大喜び……なんていう平和な脳内お花畑'sが許されるのはそれこそファンタジーの中でだけ。幸せの(かげ)に語られないあれこれが詰まっているからこそ、現実(リアル)というものだ。

 招待客の全員がそうだと言い切ることはできないが、大半が師匠(アンリ)が言うように見て見ぬふりをしながら紅竜が失脚するのを待っているのだとしたら、新たな強敵の出現はそれほど心配しなくても済むかもしれない。



 こうして進んでいる間も新たな敵とは遭遇しない。

 紅竜や義兄(あに)に近づいているのだから警備も厚くなっているはずなのに、自分たちの位置はまだ把握されていないということなのだろうか。侵入していることは知られているのだから、何時(いつ)までも水路の入口だの門扉だのを見回っているはずもないのだが。

 メイド、執事、料理人といった非戦闘員な使用人に至っては、夜会開催中~終了後の後片付けという主業務が忙しさMAXで手を貸すどころか借りたいくらいだろう。ひとり、ふたりなら見かけるかもしれないが、集団で現れる可能性は薄い。

 ガーゴイルは……


「呼んだぁん♡」

「(ぎゃあああああああああああっ!!)」


 誰も呼んでないから!

 そんなツッコミを思いつくまま叫ぶほどには自分はヒロインの器ではなかったらしい。ルチナリスは両手で口を押え、悲鳴と叫び声を呑み込む。


「(なんであんたらがっっ!!)」


 襟元に(あか)いリボンを結んだメイド服のガーゴイルは敵属性。ノイシュタイン城にいた連中と記憶を共有しているからあたし(ルチナリス)のこともご近所の口しか出さないオバチャン並に知っているそうだが、紅竜配下であることに間違いはない。


 だがしかし。

 何故(なぜ)こいつらが。気配と姿を消すのは彼らの十八番(おはこ)だから、今までもずっと姿を消したまま(そば)にいたのだろうか。

 確か……確か、そう。前回登場した時は(さい)までやってきた。もしかしたら今回も(さい)が出て来るまでの前座として現れたのかもしれない。だとしたら、とんでもなく面倒なことになりそうだ。



「あなたたちは、」


 ただごとではない空気を察したのか、執事(グラウス)が振り返り、ガーゴイルを見て息を呑む。

 メイドコスの破壊力に屈したのか、自分(ルチナリス)同様、以前に会っているのか。ノイシュタイン城のガーゴイルだと思っているのだとしたら違うと教えなければ、と1歩足を踏み出したルチナリスだったがそれは杞憂(きゆう)に終わった。


「……今度は何の用です」


 探りを含んだ執事(グラウス)の声によって。

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