24 【忌まわしき記憶・2】
※過去話です。
※挿絵があります。
著作者:なっつ
Copyright © 2014 なっつ All Rights Reserved.
掲載元URL:http://syosetu.com/
無断転載禁止。(小説家になろう、taskey、novelist、アルファポリス、著作者個人サイト”月の鳥籠”以外は全て【無断転載】です)
这项工作的版权属于我《なっつ》。
The copyright of this work belongs to me《NattU》。Do not reprint without my permission!
「い、いやぁ。ただの通りすがりっすからー」
ルチナリスの態度に声が怯む。
「顔が見えないのって怖いんですけど!」
「見えても怖いと思、」
間髪入れずにボコッ! と殴打する音がした。
空中に薄く人影が見えた気がしたが、目を凝らしたところで、やはり見えはしない。
「声だけで姿を見せないのは卑怯です!」
でも知っているもの。
このおばけは口ばっかりで、あたしに悪いことはしてこない。だから、大丈夫。
「るぅチャン難しい言葉知ってるなぁ……」
声はそれだけ言うと黙り込んだ。
相談しあっているような囁きが聞こえるが、聞き取ることはできない。
何だろう。やっぱり食べちゃおうとかそんなことを言っていたらどうしよう。
でも逃げるわけにはいかない。クマに遭っても背中を向けてはいけないって言うし。おばけに背中を向けたらどうなるかわからない。
「顔見せなさいよ!」
クマだったらずっと目をそらさないまま後ずさるんだって、そう聞いた。
攻撃的な態度を取ってクマを刺激しないように。そーっと、そーっと、クマの視界からいなくなるんだって。
それから考えたら大声を出すのは間違っているけれど。
「いや、それは」
「青藍様に言いつけるわよ!!」
でもクマじゃないし。
現に怒鳴りつけるのは効いているみたいだし。
長い沈黙。
「……どうする?」
声のひとつがそんな言葉を吐いた。
「出て来るな、って言ったのは坊だぞ」
「でも言いつけるって、」
「ちょっかい出してたのバレちまうっすね」
全部同じ声なのに話し合っているのって変。お話を読んでいるみたい。
ルチナリスはミバ村にいた頃を思い出す。
昔と言ってもまだ1年も経っていない、それなのに遥か遠くなってしまった過去。
「でもさ、全然見たことないわけじゃないんだし」
あれは春だったかな。旅の一座が村に立ち寄った時のことだった。
村はずれの空地に赤と青のストライプが眩しいテントが張られて、ピエロがビラを撒いて。
その一座のお姉さんが、村の子供たちを集めて朗読会を開いてくれた。
ミバ村のあたりでは珍しい淡い金髪に白い肌。オーロラを思わせる薄衣の衣装がとっても綺麗だったっけ。
「だよな。俺ら、あっちこっちにいるもんな」
大きい子たちが「踊り子だ」って囁いていた。
朗読を終えたお姉さんは「そのお話をやるから見に来てね」って言っていた。
行った子もたくさんいたけれど、あたしは行けなかった。孤児なんだからそれが普通だと思っていた。
「来た時だって並んで出迎えてるのを見てるわけだしさぁ。耐性あるんじゃね?」
たった1日だけの興行で、次の日の朝にはテントも荷馬車もなくなっていた。
まるで一夜限りの夢。元に戻っただけのはずの空き地が酷く荒れ果てて見えた。
客が期待できない小さな村だからな、って誰かが言っていた。
お姉さん、綺麗な声してたな。間違ってもこんなダミ声じゃない。
……って、今は昔の思い出に浸っている場合ではない。ルチナリスは、はた、と我に返った。
目の前なのか横なのか後ろなのかはわからないが、とにかく自分の近くではダミ声が相談し続けている。
「だよなだよな。俺らこう見えて結構他の奴らよりキュートだもんな。目もデカいし」
そんな声がして。
相談が終わったのか、いきなり全ての音が消えた。
声も、気配も。
でもそれは、嵐の前の静けさにも似て――。
観念したかのようにパッ! と出て来た化け物の姿に、ルチナリスは目の前が真っ白になった。
目の大きい、羽根の生えた、真っ黒い影が……3つ。
「い……やあぁぁぁぁぁぁぁぁぁあっ!!」
絶叫が城中に響いた。
化け物。
悪魔。
村を襲った異形の影。
燃える家。
逃げ惑う人。
あたしに向かって伸びる禍々しい手。
魔女が煮立てる大釜から紫がかった何かが吹きこぼれるように。鍵までかけて封じた記憶が噴き出してくる。
『逃げなさい』
そう言って集落の方へ走っていった神父の後ろ姿が。
『かわいこチャン見~っけ』
そう言って笑った化け物の牙の隙間から見えた紅が。
自分に向かって伸ばされた爪が。
ああ、その顔は。
どう見ても人間のものではなくて。
……それが今、目の前に……!!
ぐるぐるぐると視界が回る。
踏みしめているはずの床がぐにゃりと歪む。
後ずさろうにも足はどうにも動かず。
視界は黒だか赤だか、チカチカと明滅を繰り返す。
天使の梯子は痕跡すら消え失せ――
「るぅチャン」
だから、目の前のこれは。
これは。
天使、じゃ、ない。
「ルゥ、チャン」
「来ないでぇぇぇっ!」
助けて。
助けて。
青藍様――――――!!





