表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔王様には蒼いリボンをつけて  作者: なっつ
Episode 1:魔王様には蒼いリボンをつけて
5/626

2 【そして勇者は頂点を目指す・2】

※挿絵があります。

著作者:なっつ

Copyright © 2014 なっつ All Rights Reserved.

掲載元URL:http://syosetu.com/

無断転載禁止。(小説家になろう、taskey、novelist、アルファポリス、著作者個人サイト”月の鳥籠”以外は全て【無断転載】です)


这项工作的版权属于我《なっつ》。

The copyright of this work belongs to me《NattU》。Do not reprint without my permission!


 挿絵(By みてみん)



「うっそ、イケメン!」


 カリンが小さく叫んだ。

 ああ、カリン。きみはこんな悪魔がいいというのか。俺様というものがありながら……とよくよく見れば、黒いフードの下にあるのは端正な顔立ちの美丈夫。白い肌と切れ長の(あか)い瞳は女と偽っても通用するだろう。

 うん。薄暗い酒場でお酌してくれたら、有り金全部胸元にねじ込んでしまいそうだ。


 これが、魔王?

 何処(どこ)ぞのホストクラブにでもいそうな顔じゃないか。こいつが熊王カイザーベアーや紅蓮の聖剣士ウィンドショットを再起不能にした、と、そう言うのか!?



「……恥ずかしい名前っすね」


 あの異形の失笑が聞こえる。


 ああ、そうだとも。俺だって厨二(ちゅうに)病全開の恥ずかしい異名だと思ったさ。

 でも名前はともかく奴らが群を抜いて強かったのも事実。そして彼らがこのマスターランク「悪魔の城」の攻略に失敗してプライドをずたずたに引き裂かれ、剣を置き、田舎に引き(こも)ってしまったことも事実。

 奴らをそうさせるなど魔王というのはどれ程のものかと思ったら、まさかまさかの「綺麗なお()さん」。はっきり言おう。出会ったのが此処(ここ)でなければ大好きだ。



 いや。


 この顔、何処(どこ)かで見なかったか? 何処(どこ)か、つい最近。

 ノイシュタインという此処(ここ)の近くにある田舎町に到着し、女どもを引き連れて町に入って。人々にそれとなく悪魔の城の情報を聞いて回って。

 それで……。



「忘れろ。お前たちは何も見なかった。ただ、負けた。それだけだ」


 魔王の双眸(そうぼう)が紅く光る。

 駄目だ。この目は見てはいけない。俺様(勇者)は必死に目を閉じる。視界が暗闇に閉ざされる。


 そうだ。この顔は――



 暗闇の中で、何処(どこ)からともなく音が近づいてくる。

 砂が流れるような、いや、これは波の音だ。

 そう言えばあの町は海が近かった。そのせい……違う。此処(ここ)は悪魔の城。海どころか山の中腹にある城。津波が来たって、この城まで波が寄せることはない。


 それじゃ。

 それじゃ、この音は。




 暗闇の中を近づいてくる音は、あっという間に勇者を呑み込んだ。






 挿絵(By みてみん)


「おや、悪魔の城の攻略に失敗なさったんだね」


 声が聞こえる。

 勇者が薄目を開くと、木漏れ日の中で自分を見下ろしている中年男が視界に入った。肩から(たきぎ)が無造作に詰められた(かご)背負(せお)っている。木こりだろう。

 きっと此処(ここ)で敗退した冒険者に話しかける役割を担っているに違いない。



 身を起こすと、同じようにぼんやりとあたりを見回しているカリンの姿があった。

 が、他の仲間は誰もいない。


「あれ? みんなは……」

「他のおネェちゃんたちなら10分くらい前に町に下りて行ったよ。俺のものとか何時(いつ)の間にそうなったんだよ。テメェの脳内超キメェ、って言ってたなぁ」


 なんと言うことだ。

 女たちはあっさりと俺を見限ったのか!? 長い付き合いだったのに薄情すぎないか!?



「ま、次は頑張んな」


 木こりはそう言ってバシバシと俺様の肩を叩く。

 怪力だ。この力、熊王カイザーベアーに匹敵する。彼が仲間だったなら、もしかしたら勝てたかもしれない。

 そうだ。次はもっと強い防具を買って、回復薬も大量に持って。仲間もおネェちゃんじゃなくって剣士や魔法使いのような定番を揃えて。武器も、


「そうだ! 武器は! 俺の聖剣ジーザスフリードは!?」

「……此処(ここ)


 カリンがのろのろと剣を拾い上げる。彼女のMAP帳も無事らしい。



『そんな心配しなくたって、後でちゃあんと返してあげるっすから』



 耳の奥でそんなガサガサしたダミ声がよみがえった。


 そうだ。俺たちは負けたのだ。

 悪魔の城に。

 魔王に。

 そして命も取られないまま武器も揃えて返されて。


 それって。






「ねぇ、これからどうするの?」

「そ、そうだな。これからは」


 ざっくりと魔王を倒して王から褒美を貰って、そんな俺にカリンが惚れ直すという人生設計だったのに。

 いや、リドをはじめとする他の女たちが去っても彼女だけは残っていた、ということは少しは脈があると思っていいんじゃないのか!? この長旅で俺様に対する恋心が芽生えても何らおかしくはない。

 そうだ。他の女とは違う。

 カリンは俺の幼馴染みだったわけで。

 幼馴染みとゴールインするカップルは結構な確率でいるわけで。



「カリ、」

「やあ、そこのお嬢さん。良かったら僕たちと冒険の旅に出ないかい?」


 何てタイミングだろう。

 こんな人気(ひとけ)のないド田舎の山道を、光り輝く鎧に身を包んだ冒険者の一行が通りかかるなど、どう考えたってあり得ない!

  しかもその冒険者は、よくよく見れば平凡な顔をしているにもかかわらずパッと見、イケメンに見える。

 これはオーラのせいだろうか。

 それとも何故(なぜ)か乗っている白馬のせいだろうか。


 話しかけて来た先頭の剣士を見れば、襟元を飾っているのはマエストロランクの認定バッヂ。それも8個。この地方だけではなく、世界中に散らばる冒険者組合に登録して、それぞれからマエストロランクと認められた証だ。

 ちなみにマエストロランクとはマスターランクのすぐ下。俺様も1個だけはバッヂを持っている。



「ちょうど召喚されたばかりでこの世界には(うと)いんだ。そのMAP帳からするにマッパー(地図作成士)だね? 優秀なマッパー(地図作成士)がいてくれると助かるんだが」

「そんなァ、優秀だなんてェ」


 冒険者の声に、カリンは俺の前では1度も見せたことのないようなくねくねした動きを見せる。声も裏返っている。

 どうした? 腹でも壊したのか?

 悪魔の城でトイレだけ借りることはできるのだろうか。


「カ、」

「じゃ、あたしも行くわ。じゃあねー!」


 腹痛を心配されているとは露知らず、彼女は剣士の馬にひらりと乗ると、笑い声と共に走り去って行ってしまった。




              挿絵(By みてみん)




「カリ、ン……?」


 後に残されたのはかつて勇者と呼ばれたこともある男ただひとり。

 と、木こり。



「あれって今流行(はや)りのニートだったんだけど云々(うんぬん)っていう勇者だよな。やっぱ意味不明に女にモテるって噂は本当だったんだな」


 で、ニートってなんだ? と木こりのオッサンに聞かれたが俺様だって知らない。

 そういう職業じゃないのか?

 もしかしてそのニートとやらになってから勇者を目指さなかったから負けたのか?

 ニートじゃなかったからカリンも女たちも去ってしまったのか?



「ま、気ぃ落とすな。女は他にもいるからよ」

「はあ」


 木こりはまたしても肩を力任せに叩いてくる。

 いい加減、肩が脱臼(だっきゅう)しそうだ。このまま叩かれ続けていれば剣士生命どころか村に帰って(くわ)を持つのも(あや)うい。


「で、魔王ってどんなだったんだ? やっぱデケェのか? なーんか誰に聞いても覚えてねぇって、」


 木こりのオッサンは興味津々に聞いてくる。

 そうやって尋ねるのも台詞(セリフ)のうちなのか、単にオッサンの個人的興味なのかは知らない。




 俺様は魔王を見た。

 見た。けれど。



 ザザ。


 波の音がする。


「……思い……だせねぇ……」

「兄ちゃんもかよ!」


 あの波に全て流されてしまった。この城に入ってから、出るまでの記憶を。




 勇者はそびえ立つ城を見上げた。


「負けた、んだよな」


 負けた。

 だが城の中がどうなっていた、とか敵の数は、とか、まして魔王の顔なんて全く記憶に残っていない。

 ただ、これだけは言える。どうしてだかはわからないけれど心が叫べと言っている。

 

「俺、イケメンは嫌いだ!」


 山道に、ただ勇者の叫びだけがいつまでもこだました。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。


image.jpg

小説家になろう 勝手にランキング
に参加しています。

◆◇◆

お読み下さいましてありがとうございます。
『魔王様には蒼いリボンをつけて』設定資料集
も、あわせてどうぞ。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ