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魔王様には蒼いリボンをつけて  作者: なっつ
Episode 3:星に願いを、月に祈りを
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14 【観察者は隣に潜む・3】

※過去話です。

※挿絵があります。

著作者:なっつ

Copyright © 2014 なっつ All Rights Reserved.

掲載元URL:http://syosetu.com/

無断転載禁止。(小説家になろう、taskey、novelist、アルファポリス、著作者個人サイト”月の鳥籠”以外は全て【無断転載】です)


这项工作的版权属于我《なっつ》。

The copyright of this work belongs to me《NattU》。Do not reprint without my permission!


挿絵(By みてみん)




 挿絵(By みてみん)


 からりと晴れたある日、その来客は突然やって来た。

 ガン! ガン! と叩きつけられる大音響に眉をひそめた青藍が席を立つ。

 その場で待つように、と言われ、ルチナリスはひとりで取り残された。


 新しい人がやっと来たのだろうか。

 おそるおそる廊下を覗いたが、そこは小さいながらも城の悲しさ、来客がいるらしい玄関が見えるはずもない。


 あの音はきっとドアノッカーの音だろう。玄関扉にあった重そうな金具をルチナリスは思い浮かべる。

 重そうだったが古そうでもあった。あんなに力任せに叩いたら壊れてしまうのではないだろうか。


「大丈夫っすよ。勇者が叩きつけても壊れないのが自慢っす」

「だれ!?」


 背後で声らしきものが聞こえて、ルチナリスは飛び上がった。

 振り返るが、そこには誰もいない。



 なんだ今のは。

 空耳? にしては随分明瞭に聞こえたけれど。


 誰もいない室内に目を凝らす。

 窓は閉まっている。白いレースカーテンから差し込む光が、絨毯を四角く切り取っている。


 ……そう言えば、あのカーテンは誰が開け閉めしているのだろう。

(あるじ)である彼か? いや、普通に考えればそれは召使いである自分の仕事。

 それだけじゃない。待てと言われてそのまま待ってしまっているが、来客の応対も本来なら自分の仕事のはず。

 あたしは。

 役に立たないといけないのに。



「誰だかわかんねー客に、()っさい子を応対には出しませんって」

「ここは思ってるよりずっと怖いところっすよ?」

「ひっ!」


 また。

 この部屋には誰かいる。自分以外の誰かが。

 その「誰か」が、ここは「怖いところ」だと言う。


 ルチナリスは後ずさった。

 先程青藍が出て行った扉が背に当たる。そのノブを後ろ手のままそっと握る。



 怖い、と言われて思い浮かべるのは悪魔のこと。

 しかしこの城にいるのは主である青藍と、そして自分。悪魔はいない。

 怪しいのはむしろ誰だかわからないこの「声」の主。


 大丈夫。いざとなれば、あの人は助けてくれる。玄関に行ったのはわかっているのだから、そっちへ向かって走ればいい。

 あたしには全然関心がないみたいだけれど、きっと……。


 窓辺にぶら下げられた真鍮製のモビールが、ゆらり、ゆらり、と動いている。

 周囲を回る星と、左上で揺れる月。真ん中に太陽。

 その太陽のパーツがくるりと動く。

 三日月のような口で笑うその顔が、ルチナリスのほうを向いて……



 ルチナリスの体はいきなり後ろに引っ張られた。

 今まで視界にあった笑い顔の太陽が真っ逆さまに沈む。続いて天井が通り過ぎ、後ろにあったはずの扉が口を開く。その先に出迎えているのは廊下の窓。

 扉が開いたせいで掴んでいたドアノブごと引っ張られたのだ、ということに気が付いたのは、ひっくり返った体を抱きとめられてから。


 知ってる。この手。この温もり。


「せ、」

 見上げると青藍の顔があった。

 顔は逆光でよく見えなかったが、その背後から光がこぼれているように見えた。






「おや、領主様のお子さんですかな?」


 青藍の後ろにいた恰幅(かっぷく)のいい中年男性がそう言って笑う。

 さらにその後ろに眼鏡をかけてひょろりとした白髪混じりの人と、紙袋をひとつ下げた中背(ちゅうぜい)の人が立っているのが見える。

 先ほどのドアノッカーの音は彼らだったのだろうか。

 簡単な名乗りによると彼らは城下にある町の町長とその部下の人たちであるらしい、のだが。



 ……領主、様?


 ルチナリスは青藍に半分抱えられたままの状態で彼らを見比べた。

 どう見ても客である面々のほうが何倍も年上だし偉そうだ。そんな人たちがまだ20代そこそこにしか見えない主に頭を下げている様は、何処(どこ)か奇妙に見える。




             挿絵(By みてみん)    




 執務室の端にある応接セットから笑い声が聞こえる。

 と言っても、笑っているのも喋っているのも町長と名乗った中年男性ひとり。

 お茶を出すルチナリスに彼は目を細め、「うちにも似たような歳の女の子がふたりいましてね」と、懐から似顔絵まで取り出す始末。

 町長の家族構成になど興味がないのであろう。主は笑みを浮かべてはいるが右から左に聞き流しているようだ。



「噂では聞いておりましたが、これはまたかわいらしい親子ですな。ええ、ちょうど領主様がたの馬車を見たという者がおりまして。いやはや、ご挨拶が遅くなって。え? 気にしていない? そうでしょう、引越しというものは荷造りも荷ほどきも手間がかかりますから、来客など邪魔なだけでしょうし。ましてやこんなお城、うちの何倍……ああ、領主様は貴族様なんでしたな。庶民と比べては不敬罪に問われてしまいますか。ああ、それも気にしていない? それは良かった」


 体型だけ見れば腹から生まれて来たようにしか見えないのだが、きっと生まれたのは口からだろう。町長の口は止まることを知らない。

 連れのふたりも馴れているのか、目を伏せたまま何も言わない。寝ているのかもしれない。


「いや、放っておくと若者はどんどん都会に流れていくもんですから後に残されるのは老人ばかりで。うちはまだ列車の線が通ってますが、周辺は厳しいものがあるようですわ。そこにこんな若い方が越して来るとは。そんな風で若いもんが少ない町ですから働き手は引く手数多(あまた)で……あ、いや、領主様なんでしたな」


 こんなに一方的に喋られたのでは、他人に関心を持つことがなさそうな主が聞き流してしまっても仕方がないだろう。聞いている顔を作っているだけでも善処していると言っていい。

 あの不愛想な受け答えをこの町長にしたらどうなるのだろうと思わなくもなかったが、口を挟む余地がないのはかえって良かったのかもしれない。



 やっぱり貴族様だったのか。しかも領主様だとか。

 ルチナリスはトレイを胸に抱えたまま、青藍の横顔を窺う。

 古ぼけているとは言え城に住めるのだから庶民ではないと思ったが。






『なにトロトロ歩いてんだよ、クソ餓鬼(ガキ)ゃあ!』



 その貴族様がどうしてあんな場所にいたのだろう。

 どうやってあの化け物を追い払ったのだろう。


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