14 【戦え! 勇者ロボ・1】
※今回はまだ前回の復習なので、タイトル詐欺になります。
著作者:なっつ
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ウィーン、ウィーン、と警報音が鳴り続けている。
音に合わせて天井に取り付けられた灯りが紅く明滅する。
床も壁も天井も金属でできている此処は廊下だろうか。大人ひとりが両腕を伸ばして立てば、上下にも左右にもぶつかってしまいそうなほど狭い。窓がないせいか、息苦しさすら感じる。
「何だかとてつもなく危険を煽ってくれそうな場所ね」
アイリスが明滅する灯りを見上げる。言葉の意味に反して楽しげだ。
「いやちょっと待って。此処、何処よ」
逆にルチナリスはモゾモゾと沸き上がる不安が拭えない。
あの後、皆で渦に飛び込んだ。そして気が付いたらこんな場所にいたわけだ。
多分にあれもゲートなのだろう。「建物と建物を繋ぐ」という初期設定からは外れているが、森の中で建物を探すほうが難題だし、先に進めるならそれでいい、と言うことにしておく。
だが。
此処は何処だ。
もし向こうから通路いっぱいの大きさの大玉でも転がって来ようものなら避けることなどできない。窓も通気口もないから、毒ガスを流し込まれたり、逆に空気を抜かれたただけでも一巻の終わりだ。
「これも……魔界?」
義兄や執事の人間界への溶け込みっぷりから察するに、魔界も人間界とそう文明の差はないと思っていたが違うのだろうか。
何このSF感。やはり魔法が使えるだけ独自に進化しているのだろうか。アイリスたちが出てきたゲートにしたって、見た目は思いっきりゴシック調だけれども機能は高度な科学技術だ。あの機能を人間が作ろうと思ったら、人間を微粒子レベルにまで分解して信号に乗せて飛ばす、とかなんとか、そういう近未来な技術が必要であろうことは間違いない。科学に関してはど素人だから「そんなん、できるわけないじゃん。馬っ鹿でー」と言われても困るのだが。
「どうもただの魔界ではないようです」
柘榴が短い前足で腕組みをしたまま一同を見回した。
ウサギだがこのメンバーで唯一の識者枠。勇者のように真面目に聞いて損をした、とガッカリさせられることはないだろう。
「歪んだゲートから入ったせいでしょうか。それとも何らかの力が作用しているのでしょうか。此処は言うまでもありませんが、先ほどの森にしても私の知っている魔界ではありませんでした」
「どう言うこと?」
勇者が、こちらも妙に嬉しそうな顔で金属の壁に手を滑らせながら問いかける。
物語ではこういう場合、触ると罠が作動しました! なんてことが多いのだが、今のところは何も起きない。それでも無闇に触らないほうがいいんじゃないの? と思いつつ……ナチュラルに異世界から戻って来られる男と同じ行動を取っておかないと自分だけ取り残されそうな気がして、ルチナリスもこっそりと同じように壁を擦ったことは誰にも言えない。
「……私が知っている伯父上はもう100年近く行方不明なのです。もう死んでいると言われています。それなのに」
生きていた。
重苦しい口調で柘榴は視線を彷徨わせた。
「伯父上は厳しい方でした。あのように笑えばいいと思ったことは幾度もありますが、笑ったところを見たことはありません。それにアイリス様を知らないはずもないのに1度たりとも目を合わせることはなく、会話も挨拶もせず。あれは本当に伯父上なのでしょうか」
本物か? と問われれば、違うかもしれないとの考えが首をもたげる。
あの森を離れる少し前に見た伯父様の顔は、まるで闇に染まったメグのような化け物の顔だった。他の誰も気付いていなかったから大っぴらには言えなかったけれど。
柘榴によれば、彼の伯父という人は元々アイリスの家に勤めていたらしい。しかもアイリスとその姉を幼少の頃から世話して来たのだとか。
しかし突然、仕事も何もかもを放り投げて失踪してしまった。
方々を探しても見つからないまま数十年。血縁からはもう亡くなったものとして扱われている。
伯父が生きているはずがない。
生きていたとしても、伯父がアイリスを蔑ろに扱うことなどありえない。
だからあれは、伯父の姿をしているが伯父ではないのではないか。
そう、柘榴は言う。
「それにルチナリスさんたちが出会った”椿”というウサギ……。伯父上に似ているそうですが、私の一族にそのような名の者はいませんし」
「でも心当たりがないわけではない。でしょう?」
「……お嬢様」
柘榴の話に口を挟んだものの、アイリスは、さもくだらないと言いたげな顔をしている。
「千日紅はお姉様さえいればよかったのよ」
「そんなこと」
千日紅、とはあの伯父様の名であるらしい。
アイリスが柘榴の伯父をどう思っていたかは知らない。幼かったそうだから恋愛感情などは抱いていないだろう。だが、今のアイリスの気持ちも何となくわかる。
義兄が、何時の日からかあたしよりも執事と行動を共にすることが多くなって来た時、裏切られた気がした。
執事とメイド、もしくは義妹では仕事も立場もまるで違う。義兄は「必要だから」執事を連れているだけ。そう思おうとはしたものの、疎外感は消えなくて。
執事だけいればいいのではないか、と思ったことも1度や2度ではなくて。
「その椿さんの存在が、もしあの方が生きているという意味を示唆しているのなら」
「それなら、消えたと言うのは生きていないという意味を示唆するのかしら」
竹の花が咲く頃に戻ると言って消えたあのウサギは彼らの何なのだろう。
伯父様が「椿がケーキを焼いている」と言った時点で、彼らは「椿」に心当たりがあったのだろうか。
もし自分が率先して様子を見に行くと言わなければ、彼らにも椿に会う機会があった。後を追って来なかったのは「椿」に興味がないわけではなく、何らかの理由で足止めされていたのだとしたら。
既に過去のものになってしまった出来ごとの「もし」をどれだけ量産しようとも、それが実現することはもうない。関係を知らなかったとは言え、その機会を潰した自分の行動は軽率だったのではないか、と、そんな後悔ばかりが湧いてくる。
「そうだ! 椿さん、竹の花が咲く頃に戻って来るって言ってたし、だからきっと生きてるんじゃないかしら」
ルチナリスはわざと明るく手を叩く。
竹の花が咲くのは約100年後。人間の自分はその頃にはもう生きてはいない。だが、魔族は。
「魔族なら大したことないんでしょう? 100年なん、」
「魔族でもないくせに知ったふうな口を利かないで」
しかし遮られた。
自分の非を暗に咎められたような気がして、ルチナリスは声を失う。
そんなルチナリスに目を向けることもなく、アイリスは鬱陶しげに吐き捨てる。
「あれだけ探して見つからなかったのよ。生きているはずがないじゃない」
話すことなど何もない、とばかりにアイリスは口を噤んだ。
柘榴も眉を寄せたまま、もう何も言わなかった。
「で、話を戻すとさ。さっきの森も此処も、本物の魔界ではない、ってことで FA ?」
思い切り部外者面をした勇者が申し訳なさそうに口を挟む。
この男でも空気を読むことができたのか、という事実こそ驚きだが、過ぎたことを何時までも引き摺って険悪な空気でいるよりはスパッ! と話を切り替えてくれたほうが有難い。
「わかりません。あの森は伯父の温室の裏手にあった森に植生がとてもよく似ていますが、それでも違うものです。それは偽物なのか、ただ単に別の場所なのか。森の外を見ることができれば判断もついたのでしょうが」
確かに、あの森だけでは何とも言えない。
その判断を柘榴ひとりに任せるのは酷と言うものだろう。
「とにかくあの場所には鍵がありませんでした。真実はそれだけです」
「思ったけど、結構長旅になりそうだねぇ」
暇なのか、勇者は爪先で床を蹴っている。
余計な振動を与えたら安全装置が地震と間違えて作動するんじゃないだろうか、と、またもや思ったものの、やはりそれも根拠がないので言えない。
「ですが鍵に辿り着く道のひとつではあるはず」
柘榴は毛皮の何処からか懐中時計を取り出すと蓋を開けた。
その時計はグルグルと滅茶苦茶に針を回している。
「時間が、」
「時間の流れが違うのでしょう。これも此処が魔界ではないのではないか、と考えることのひとつです」
「戻ったら1000年後だったりしてね」
真面目に推測する柘榴の横で、アイリスが嫌なことを言う。
超常現象に対する順応力は勇者並み、と言えば聞こえはいいが、彼女も面白ければそれでいいという考え方の持ち主でなければいいのだが。それとも長生きしていると滅多なことでは驚かなくなるのだろうか。
見た目は自分とほとんど変わらないお嬢様に対して、ルチナリスは失礼な感想を抱く。
しかしいくら魔族の寿命が長いと言っても、1000年後に義兄が生きているとは限らない。
長丁場になるとは思っていたが、せいぜい数時間。長くても数日のつもりだったルチナリスにしてみれば、あてが外れたどころではない。
どうしよう。戻れた時にはもう義兄がいなくなっていたら。
執事に襲われているかもしれない、なんて心配のほうがずっと生易しかった。
「でも時間の流れが曖昧ってことは、戻ったら出かける前だった、ってこともあるわけだよ」
「そう言えば異世界から戻った途端に老人になったって話が人間界にはあるそうね。義妹じゃなくってお婆様って呼ばれる可能性も持っておくべきかもしれないわね」
勇者が助け舟のように出した前向きな未来もお嬢様は一笑に付す。
……本当に。嫌なことを言う。魔族は数十年程度で外見が変わることなどないから、他人ごとで済ませられるのだろう。
ルチナリスは気づかれないようにアイリスを睨むと、爪先で床をひとつ蹴った。
※ 「戦え! 勇者ロボOP風」の簡単なPVを作りました。
興味を引かれましたらどうぞ(下はyoutubeのURLです)。
https://youtu.be/Nf3bjhM7RzU





