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魔王様には蒼いリボンをつけて  作者: なっつ
Episode 10:勇者様は暴走中
240/626

59 【終わりよければ全て……?・4】

著作者:なっつ

Copyright © 2014 なっつ All Rights Reserved.

掲載元URL:http://syosetu.com/

無断転載禁止。(小説家になろう、taskey、novelist、アルファポリス、著作者個人サイト”月の鳥籠”以外は全て【無断転載】です)


这项工作的版权属于我《なっつ》。

The copyright of this work belongs to me《NattU》。Do not reprint without my permission!


 挿絵(By みてみん)




 振り返るまでもない。この茫洋と間の抜けた声は……。


「僕、魔王ってただ単に物語のラスボスで、倒せば終わりだと思っていたんだよ。でも魔王側には魔王側の物語がある。ただの敵ではなく、そこには同じように愛憎があり日常ドラマがあるんだ。これでこそ物語は重厚さを増すっていうものさ。昔は戦闘メインの(ストーリー)じゃ登場人物に親近感が沸きにくいってことで、お風呂シーンか食事シーンが挿入されたって聞くけれど、食事シーンはくっそショボい食事だけど一応あったから、あとはお風呂シーンだね! これでこそ面白くなるって、」

「誰のお風呂シーンよ!」


 ルチナリスは振り返りざまに人形を持つ手を振り下ろした。

 相手はフルアーマーだ。しかし先ほど妹に話しかけていた時に兜を脱いでいたことは確認している。蹴りではボディに入るだけだから痛くも(かゆ)くもないが、()き出しの顔面なら話は別だ!


 グォギッ!

 と、どう聞いても何かマズいことになっていそうな音を立てて人形が勇者の顔面にめり込んだ。丸く突き出した手がいい具合に頬を(えぐ)った。

 勇者が仰向けに昏倒する。

 攻撃はいい具合に決まったが……ルチナリスは執事を振り返った。

 硬い表情をしている。ルチナリス自身も肌が総毛立つのを感じた。


 知られたのだろうか。

 あたしたちが、と言うか義兄が魔王だと言うことを。


 ソロネに視線を向けると、「何も言っていないわよ」といいたげに首を振る。

 彼女がバラしていないとしても実際に義兄の炎に巻かれたわけだし、執事が戦っているところも見られたかもしれない。そうでなくてもあれだけ近くにいたのだ。ただの人間ではない、と察するところがなかった、とは言えない。



「やあ酷いなぁ。ツンデレは愛情表現の裏返しと言うけれど……僕に惚れたら火傷(やけど)するぜ☆彡」


 そしていくら決まったとしても非力なメイドの攻撃など大したダメージは与えられない。

 ルチナリスが考えている間に起き上がった勇者は満面の笑顔で再び背後に立ち、ルチナリスの肩を叩いた。


「ひぃっ!」


 ゾンビのような復活のしかた自体も怖いが、それ以上に台詞(セリフ)が寒い。

 誰が誰に愛情表現だって!? いくら口説かれない歴16年のあたしでも、相手を選ぶ権利はあるわ!


 しかし勇者はそんな乙女心には全く気が付かないまま言葉を続ける。


「いきなりお風呂シーンの話題を出すべきじゃなかったね。でも安心して! 誰ひとりとしてルチナリスさんの貧相な裸になんか期待していないからさ! 無論、僕も!」

「失礼な!!!!」


 もう1度人形を振り上げる。

 貴様は何が言いたいのだ!

 しかしさすがに目の前で攻撃モーションに入れば、どれだけボンクラでも避けられる。ルチナリスの攻撃をかわした勇者はしたり顔で人差し指を振った。


「僕わかったんだよ! ほら、領主様が病気なのって聖女様がいないからなんでしょ?」



 目が輝いているのは気のせいだろうか。

 自分たちがたった今まで共闘していた相手と敵対するかもしれない未来に心を痛めている時に「わーい魔王見っけー!!」みたいなことをぬかしやがったら、口封じの意味も含めて心おきなくとどめが刺せる。

 それ以前に、あたしの裸に興味がないと面と向かって言った時点であたしにはこいつを()る権利がある。聖女様だってきっと笑って許してくれる!



「……それが何だと言うんです」


 声は勇者に向けて発しながら、執事がソロネに目くばせしている。

 相方なんだから何とかしろと言っているのだろうが、ソロネとて自分たちの正体を黙っていることまでは約束していない。彼女は決して味方ではないのだ。


 勇者は人差し指を振りながら左右に歩き、そして止まった。

 振っていた指を執事に、いや、その背後に庇われている義兄に突きつける。


「ズバリ! 呪われているんじゃありませんか!?」


 ピシッ! と空気が凍りつく音が聞こえた。






 待て勇者。

 いくらなんでも知り合ってまだ24時間も()たない相手に「呪われていますね」なんて、思ったとしても言わないものよ? それを言っちゃうのは高い壺を売りつけに来る宗教の人くらいよ!?

 そうでなくてもあなたは執事のウケが悪いんだから、変に荒立てたら生きてこの町を出られないわよ!!


 つい今しがたとどめが刺せると思ったばかりの相手が本当に目の前でとどめをさされそうな展開に、ルチナリスはハラハラしながら勇者と執事とを見比べる。



「ノイシュタイン城は別名、悪魔の城と呼ばれている。実際、魔王も配下の悪魔も出るらしいし、討伐に行った者はボロ雑巾みたいになって追い出される」


 勇者は容疑者を一堂に集めた部屋で推理を披露する探偵さながらに、ルチナリスたちを見回した。


 いきなり何だ? 爺さんの名にかけた推理でも始めるつもりか?

 ボンクラだから、と油断したのがマズかったかもしれない。何処かでボロを出しただろうか? 何を言うつもりかは知らないが、どうやって(くつがえ)そう。

 ルチナリスたちが顔を強張(こわば)らせる中、勇者だけが清々(すがすが)しいまでに楽しげだ。



「しかぁし! そんな物騒な城にこの地方の領主様が普通に住んでいる! 僕が潜入調査した限りでは他には執事さんとルチナリスさんしかいない! ……普通に考えれば生きていられるはずがないのに、今まであなた方は無事だった。その意味は!」



 宿屋に断られたって落ち込んでいたから泊めてあげたんでしょうが。何時(いつ)から潜入捜査になった?

 そうツッコみたくはあるけれど。

 ただのボンクラだと思っていたが、本当にただのボンクラだったらソロネほどの強者が相手になどするはずがない。これは……脳ある鷹が爪を隠しまくっていた、ってやつ?


 さりげなく執事を見上げるが、彼はルチナリスのアイコンタクトなど完全に無視して勇者を睨みつけている。



「それはつまり、あなた方(城の住人)が魔王であり悪魔であるからなんだ!」



 黙って警戒を増していく執事の手がかすかに動く。

 勇者から隠すように握った手の中に、鋭く尖った何かが見えた。




「美女と野獣って話を知ってる?」


 唐突な話題変換のようにこ聞こえるが、まだ推理は終わっていないらしい。


 あの話は確か、村の人々が手に手に武器を持って野獣のいる城に襲い掛かる描写があった。まさか城下町の人々を扇動するつもりなの!?

 ルチナリスの脳裏に、小間物屋の女店主や宿屋のおかみさんが鬼の形相(ぎょうそう)で掴みかかって来る絵が浮かんだ。

 特に宿屋のおかみさんは息子を海の魔女に殺された。ソロネは犯人をメグだと公表するつもりはないと言っていたし、だとすれば「海の魔女」=「悪魔の一種」という認識がされるのだろう。彼女にとって自分たちは「息子を殺した敵」になる。実際には違っていても、それを嘘だと証明する(すべ)はない。



「あの中で醜い野獣に姿を変えられているのは王子。そして城の住人も呪いによって家具や調度品にされている。それと同じことがノイシュタイン城で起きないとどうして言えよう! 昼間は呪いによって変わり果てた姿に、そして夜になると人間に戻るということが!」



 だが。

 勇者の推理は想像とはまるで違った。


 ……それじゃあ今朝、義兄(あに)に会ったのはどう説明するつもりなんだよ! それに自分(ルチナリス)とも海までは一緒にいたでしょう? 自分の周囲にMy日付変更線でも持っているのか?

 安心と拍子抜けの相乗効果で、ルチナリスの心の中ではツッコミの嵐が吹き荒れる。

 しかし訂正はしない。「呪いのせいで姿を変えられている」という設定のほうが「実はみんな魔族でした」よりはずっとましだ。



「ふっふっふ。僕のあまりに的を射た推理にぐうの()も出せないようだね! 領主様は悪魔の呪いで魔王にされ、その過剰な負荷は日常生活ができないほどに体を(むしば)んでいる! 執事さんは巨大化した上に性格がねじ曲がり、城のマスコットでもある変な人形は人間の姿になって動き回り、」

「あたしは元々人間よ!!」


 何だそれは!

 思わず叫んだルチナリスに、当の勇者は歪んだ笑みを浮かべ、さもわかってます、とばかりに肩を叩いた。


 わかっていない。何もわかっていないわよ、あなた。

 呪いで人形にされるのならまだしも、人形が人間になるのは呪いって言わないでしょ!?

 それにあたしは朝も昼も夜も人間だったわよ! 一緒にいたでしょうが! 何? あたしに「なる」のは呪いと同等の不幸だとでも言いたいわけ!?


 この辻褄(つじつま)の合わなさを追求してやりたい。

 追及したいが、そのせいで別の推理を始めても困る。



「でも領主様がこのまま魔王を続けていけば、ついうっかり通りすがりの勇者に殺されてしまうかもしれない。だから」

「魔王でもなければついうっかり殺されることもありませんから、勇者様は心置きなくダンジョン巡りにでも行ってください」


 呪いのせいで性格がねじ曲がったと言われた執事は呆れたように眉間を押さえている。

 あまりに酷い推理に、殺意も彼方へ飛んで行ってしまったようだ。


「まぁ最後まで聞いてよ。だからね、そんなことにならないように僕も魔王一味の新たな戦力として、」

「「ぬぁぁぁぁぁぁぁぁにぃぃぃぃぃぃぃいいいいい!!!!」」


 ルチナリスと執事の叫びがハモった。


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◆◇◆

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『魔王様には蒼いリボンをつけて』設定資料集
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