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魔王様には蒼いリボンをつけて  作者: なっつ
Episode 10:勇者様は暴走中
207/626

27 【天に在らば比翼の鳥、地に在らば連理の枝・2】

※本文内に挿絵があります。

著作者:なっつ

Copyright © 2014 なっつ All Rights Reserved.

掲載元URL:http://syosetu.com/

無断転載禁止。(小説家になろう、taskey、novelist、アルファポリス、著作者個人サイト”月の鳥籠”以外は全て【無断転載】です)


这项工作的版权属于我《なっつ》。

The copyright of this work belongs to me《NattU》。Do not reprint without my permission!


 挿絵(By みてみん)




 執務室を飛び出しかけたグラウスの視界の端で、何かが鈍く光った。

 執務机の、整然と積み上げられた書類の山の上に、それは文鎮の(ごと)く鎮座している。


 挿絵(By みてみん)


 ……懐中時計。

 蓋に鳥の紋章が彫り込まれたそれは、間違いなく青藍のものだ。

 精霊(スノウ=ベル)を宿すその時計は青藍の上着、もしくはベストのポケットを定位置にしている。よく行方不明になる彼を探すのに、その時計が居場所を知らせてくれたことは数多い。スノウ=ベルが姉妹であるもうひとり――アドレイと呼応するからだ。


 だが。

 何故、これが此処(ここ)に。


 これは。



『俺に何かあったら――』



 耳の奥で声が蘇る。

 城内にいるのなら、置いて出たところで支障はそんなにもきたさない。それなのに、城内にはもういないのではないかという考えが頭の中から離れない。

 この失踪は彼の意思なのか? 時計を置いて行く必要のある場所に行ったのか?

 もしそうなら。

 そうだとしても。



「スノウ=ベル!」


 怒鳴りつけるようにその名を呼ぶと、時計は慌てたように小刻みに揺れ、次いでポン! と煙を上げた。

 煙が引いた後に現れたのは蒼い帽子と衣装をまとった精霊――スノウ=ベルだ。


「……何ですかぁ、急に」

「青藍様は何処(どこ)です!?」

「青藍様ぁ?」


 寝ていたのだろうか。語尾がだらしない。

 全く、主人が行方をくらましているというのに悠長な。


 スノウ=ベルは寝ぼけ(まなこ)のまま周囲を見回し、


「あ、そう言えばいませんねぇ」


 などと気の抜けた口調で呟いた。


 思わず壁に向かって投げ付けそうになって、慌てて掴み直す。

 スノウ=ベルの本来の仕事は通信端末としてのもの。城内で置いていかれたからと言って彼女を責める道理は何処にもないし、彼女とて()(すべ)もない。八つ当たりしては後で何を言われるかわかったものでは、


「いきなり呼び出しておいて、ひっどぉい!」


 ああ。最後まで考えきることすらできなかった。

 口から先に生まれた娘は自分の顔のまわりをグルグル飛び回りながら、弾丸のようにまくしたてる。


「暴力反対ー! 我々はー! 職場環境の改善を要求するー! つまり! もっとあたしを、うーやーまー」

「ご存じないのならいいです!!」


 だがしかし。(かしま)し娘の話し相手をしている暇はない。

 グラウスは蚊を叩く要領で眼前に来たスノウ=ベルを両手で挟み、そのまま書類の山の上に置き捨てた。

 そしてすぐさま(きびす)を返す。


「ちょ、ちょちょちょ、青藍様がどうしたんですー?」

「気にしないで寝ていて下さい」

「叩き起こしたのグラウ」


 自分が蒔いた種ではあるが、飛んでくる文句はピシャリと扉で遮って。

 そしてグラウスは左右を見回し、当てもなく駆け出した。




「……なんで、何も言わないっ!!」


 腹からせり上がって来るのは怒りか、それとも失望か。

 そんなにも私は信ずるに値しないのか? 子供扱いするから頼りたくないのか? そのくせ義妹(いもうと)は押しつけようとするくせに。私の気持ちなど何も考えないで、揺さぶるだけ揺さぶって、翻弄して、近寄って、突き放して!

 いつもそうだ。いつも、私は置いていかれる。


 大きく息を吐き、よろけるようにまた足を動かす。


 何処(どこ)へ行った。よく考えろ。

 心臓の音が耳の中で響く。

 葉擦れの音、鳥の声、時計が針を刻む音。いつもは全く気にならないそれらの音が、今は思考の邪魔をする。


 わからない。

 どうしたらいい。

 ああ、此処(ここ)にいても仕方がない。探そう。とにかく探そう。外を探せばいいのか? しかし何処(どこ)に。城下町に行ったのか、裏山に行ったのか、汽車に乗ったのか。いや、門を出て右に行ったのか、それとも左に行ったのか。それこそ東西南北多岐にわたる。選択を誤ったら終わりだ。


 足早に進むうちに、その身は白銀の狼に姿を変える。



 何処だ?

 何処へ行った?

 こんなにも、



 耳を澄ましても足音は聞こえない。

 ならば(にお)いは?

 住人が入れ替わり続けた城には通り過ぎて行った人々の臭いが染み付いている。その雑多な中からただひとつを探す。獲物を狙う獣のように、静かに、その軌跡を追う。

 


 こんなにも、



 廊下を進み、いくつかの扉を開ける。ただ真っ直ぐに追い続ける。


 どうして。

 ルチナリスではないかもしれないあの女がが連れ出したのだろうか。いつ昏睡状態に陥るかもしれない青藍が、ひとりで出て行ったとは思いたくない。

 途中で眠り込んでしまったから、死を覚悟するような目に()ったのに。

 海の魔女のことだって解決していない。もし魔女に遭遇すれば、その標的に成り得ることをよもや忘れたわけではないだろうに。

 それなのに、何故(なぜ)



 コンナニモ、



 軌跡はついに門を通り抜けた。さらにその先へ続いている。


 胸騒ぎがする。

 人の多い町に出られたら、臭いも声も掻き消されてしまう。ダイレクトに居場所を教えてくれる頼みの綱まで置いて行かれた今、そうなったらお手上げだ。

 城の外で時計を持っていけない場所と言ったら何処(どこ)だろうか。

 スノウ=ベルに知らされたくないから置いて行ったとも考えられるが、わざわざ「自分に何かあったら」と言い残して消えたのだから探されたくないわけではないだろう。


 町の中……でそんな場所はあっただろうか。

 町の外、では?

 あぁ、でもそんなに範囲を広げては時間がかかりすぎる。

 どうしたら。



 ――コンナニモ。

   慈シンデイル ノハ 私 ナノ、ニ。



 こんな時自分は何の役にも立たない。

 たったひとりを見つけ出すこともできない。


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