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魔王様には蒼いリボンをつけて  作者: なっつ
Episode 10:勇者様は暴走中
203/626

23 【半醒半睡・5】


※本文中に挿絵があります。



著作者:なっつ

Copyright © 2014 なっつ All Rights Reserved.

掲載元URL:http://syosetu.com/

無断転載禁止。(小説家になろう、taskey、novelist、アルファポリス、著作者個人サイト”月の鳥籠”以外は全て【無断転載】です)


这项工作的版权属于我《なっつ》。

The copyright of this work belongs to me《NattU》。Do not reprint without my permission!



挿絵(By みてみん)




 廊下に出ると、目的の後ろ姿は既に遥か彼方にあった。追いかけてばかりだ、と自嘲するとグラウスは足早に彼を追う。

 簡単に追いつきはしたものの、しかし、追いついたところで青藍は足を(ゆる)めようとはしない。


「青藍様?」


 声をかけても返ってくるのは沈黙ばかり。ただずっと速足(はやあし)のまま、まるで尾行されているのを()くかのように何度も廊下を曲がり続け……必然的にグラウスも同じように続くことになる。

 どうにも定めた目的地に向かっているようには見えない。執務室から遠ざかっているのは確かなのだが。


「……どちらへ?」


 答えないだろうと思いつつ聞いてみるも、やはり返事は(なし)(つぶて)

 まぁいい。地獄の底にだって付いて行くつもりなんだから城の廊下くらい、いくらでもお付き合いしますとも。


 そんな思いで付き従うこと十数分の後。



「グラウス」


 青藍は足を緩めないまま、唐突に自分を呼んだ。


「はい」

「お前、るぅのことどう思う?」

「…………………………またその話ですか」


 何を言われるのだろうと期待していた気持ちがあったことは否めない。だからこそ、その中身がルチナリスのことだと知れは失望も半端ない。意図せずとも嘆息もしようというものだ。


 前にも同じことを聞かれた。

 定職に就いていて身分がそれなりで信用もある自分は義妹の嫁入り先に最適らしい。最適かもしれないが、当人の気持ちと言うものをおもんばかってもらいたい。

 眠り病の上にあの高飛車女の襲来で、さすがに危機感を覚えたのだろうか。ルチナリスばかりで自分(グラウス)のことは全く気にかけてくれないその態度が悲しいが、彼にしてみれば料理もできず、ひとり暮らしの経験もなく、世間知らずな義妹(いもうと)の行く末のほうが心配だろう。

 しかしだ。


「だから私は、」

「いや、そうじゃなくて」


 もう1度言い聞かせないといけないかと思っていたのだが、言った本人があっさりと否定してきた。どうやら嫁としてどう思うか、ではなかったらしい。


「……るぅ、ちょっと変だと思わない?」


 少し小声。

 密談は歩きながらするものだ、とは誰の言だっただろう。よく言ったものだ。


「少しおとなしくなった、とは思いますが。勝手に海に行ったことを本人も気にしているのでは?」


 いつものキャンキャン吠えるような子供っぽさがなくなって良かったじゃないか。甘えられないところに義兄(あに)の体調悪化が加わったせいで、それなりに自立する気にでもなったのだろう。「もう大人」なんだし、とばかり思っていたけれど。

 会えたのが久しぶりすぎたからか、よそよそしさが転じて奇行に走りつつあるようだけれども、彼女の心情を思えば大目に見られる。ルチナリスにとって青藍は、生まれて初めてできた唯一の肉親のようなものなのだから。

 そんなことを思うあたり、自分もこの兄妹に(ほだ)されてしまったのかもしれない。


「そう?」


 どう見ても納得していない顔のまま、青藍はまた黙り込む。


 挿絵(By みてみん)


 足音が絨毯の毛足に消えていく。

 いつもならそこら中で感じる気配も全く感じられないのは、ガーゴイルの数が半数以下に減ってしまったせいだろう。

 時間が時間だけに、頭上にある明かり取りの窓から差し込む陽射しも弱々しい。廊下に敷かれた赤い絨毯も、(ひど)くその色を()せさせている。

 静まり返った城内に「まるで物語に出てくる魔王の城のようだ」などと思い……グラウスはその矛盾に苦笑した。

 おかしなものだ。だったら今までのこの城は何だと言うのか。




 そしてさらに歩くこと数分、とある階段の踊り場で青藍はやっと足を止めた。


「俺、あれがるぅだとは思えないんだけど」

「そうは(おっしゃ)いますが、姿を似せただけではこの城には入れませんよ」


 何を言い出すのかと思ったら。

 そりゃあいつもの彼女に比べれば嘘臭(うそくさ)すぎるほどの違和感は感じた。だが声も匂いも彼女のものだ。狼の嗅覚をもってしても、それは間違いない。

 それにこの城の造り自体が、彼女に化けただけの他人が易々と入り込めるようにはなっていない。

 これでも一応は魔族の城。居住区域に張り巡らせた結界が城の住人以外を排除することになっている。

 昨夜の勇者や今日の町長などは招き入れたから入って来られるのであって、そうでない者――通常の勇者やあの高飛車女のような――は玄関ホールより先に入って来ることはできない。



「また妙な入れ知恵でも付けられたんじゃないですか? 前もいきなりよそよそしくなったりしたでしょう?」


 そうでなくても年頃の娘なんて気まぐれだ。何を考えているかわからない。

 あの媚びた態度も彼女なりの「大人」のイメージなのだろう。なんせ身近にいる大人の女性と言えばマーシャ(厨房のおばさん)か小間物屋の女店主だ。こういっては申し訳ないが、若い娘が理想とするセクシーな女性像からは縁遠い。

 ここは「るぅがおかしい」と悩むよりも、ガーゴイルを1匹捕まえて締め上げたほうが早いだろうに。


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