3 【悪魔たちの宴・2】
著作者:なっつ
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しかしルチナリスが追及するのを諦めたとしても、彼らの中でこの話が終わったわけではなかった。
「ってことで坊のこと好きでしょ?」
「顔だけはいいもんなー」
ベチャベチャになった雑巾を拾い上げようと床に手を付いたその隙に、後ろからガーゴイルがのしかかってくる。
「うぎゃああああああ!」
「あれー? るぅチャンこれ好きでしょ?」
「好きなわけあるかぁぁああ!!」
どうも義兄が抱きついてくる例の挨拶を真似てみたらしい。
しかし相手が違う。
その顔で半径1メートル以内に近づくんじゃない! 食われるかと思うじゃない!!
「ま、それは置いといて。坊のこと好きでしょ?」
人の話を聞けぇぇぇぇぇぇぇえ!!
好き勝手に言いたい放題の化け物を前にしていると、怒りと限りない虚無感が襲いかかってくる。
いや、我慢。相手は人間じゃないんだもの。本能のままに生きている連中なんだもの。
ここはあたしが歩み寄らないといつまで経っても終わらない。
「別に好きってわけじゃ、」
「そんなはずない! あの幼児から中高年まで老若男女問わず落とせる坊に、るぅチャンみたいな芋娘がなびかないわけないっす!」
「るぅチャンは目が腐ってるっす!」
「自分に素直にならなきゃ、幸せは逃げて行くっすよー!」
1言うと10返って来る、ってきっとこんな感じなんだろう。
いや、1じゃないな。0.8くらい。
しかしまぁ、どうしてもあたしに好きと言わせたいんですか? あなたがた。
限りない虚無感の後には感動すら湧いて……と言うかその前に聞き捨てならないことを言った。
が、話を切り上げるためには我慢だ。我慢!
ルチナリスは黙って雑巾を絞る。
そりゃあ、さっきの正装は格好よかったわよ?
でもあれはただ単に物珍しかっただけで。ほら、馬子にも衣装って言うじゃない? それよ、それ。ああいうちゃんとした服装は3割増しで格好良く見えるものなの。
でもだからって、好きとかそういうのとは……。
だが、頬が朱に染まるのを彼らの目が見逃すはずなどない。
「じゃあ話は簡単っす。坊をその気にさせれば」
「ええ!?」
なにを言い出すのだガーゴイル!
「あ、あたしはそう言うの、」
義兄のことは好きだが、彼らの言うように「兄」ではなくひとりの男として好きかと言われるとちょっと考える。
今現在は兄以上恋人未満。まぁそれは相手が頑なに自分のことを義妹としてしか扱わない、と言うことも原因ではあるが。
その義妹ポジションは案外心地いい。
「なに言ってるっす! のんびり待ってたらるぅチャンよぼよぼっすよ!!」
そうなっても義兄の外見は変わっていないのだろうか。
お婆さん相手に兄妹プレイ。……義兄ならやりかねない。
「花の命は短いっす!」
あたしの命なんですが。
「大丈夫! 坊は火がついたら早いっす(多分)!!」
今日のガーゴイルさんたち、なんでこんなに燃えてるんだろう。
ルチナリスは首を傾げた。
義兄と執事が不在だからだろうか。
だが、それはそれ。話が長くなる前に床だけは拭いておかなくっちゃ。
執事に嫌味を言われるのは回避したい。
「坊は炎の魔法を使うでしょ? 魔法ってのは本人の性格に結構影響するもんなんすよ」
「炎は情熱の象徴っす! 恋は燃え上がるものっす!!」
ルチナリスが黙々と雑巾をかけている間もガーゴイルたちの熱弁は続く。
「今までお兄ちゃんだと思ってたのに、まさかの告白! 泥沼の愛憎劇!!」
「実は血がつながってなかった! ……って、あ、あ、お兄ちゃ、ぁん!!」
……ついていけません。なんとかして下さい。
絞り過ぎたのか雑巾がふたつに裂けた。でも暴走している奴らは気づかない。
「坊とるぅチャンは義理の兄妹ってシチュエーションはもうばっちりなんすから、あとは燃え上がる恋のきっかけを作るだけっす!!」
最近勇者様も来ないし、娯楽がなくて暇なのかもしれない。
ルチナリスは目を輝かせてあらぬ世界に行きかかっているガーゴイルたちを、ただ見上げるしかなかった。
「でも、ほらそれならグラウス様でも、」
いい加減弄られるのも嫌なので、ルチナリスは無理矢理話題を振ってみる。
あまり考えたくはないが、義兄と執事の仲はガーゴイルたちの煩悩の標的らしい。
マナー教本が服を着て歩いているような執事が泥沼の愛憎劇に陥るようには思えないけど、あたしで遊ばれるくらいなら代わりに標的になってもらおう。いつもの嫌味のお返しよ。
そのお返しが全く本人に届かないのが残念だけれども!
鼻息も荒く「どうだ」とばかりに見上げると、しかし、そこにあったのは予想外に冷めた顔。
あれ? あのふたりの噂話をでっち上げている時ってもっと楽しそうじゃなかった?
なによ、その顔。
「あ、グラウス様はもういいっす」
……はい?
「あの人はもう十分堪能したっす」
なにその意味深発言!?
堪能ってなに? まさかと思うけど泥沼の愛憎劇なんか繰り広げ済みってこと?
あの執事と? あの義兄で?
うわ――!!
そりゃあ、あの忠誠心が変なベクトル向いたらもの凄いことになりそうだけ……駄目よ駄目ルチナリス!! 今、背景に薔薇が飛んでいそうな光景がちらっと見えたわ!
「だから今度は正統派のるぅチャンで!」
ごめんなさい、その前に意味深発言の中身を教えて下さい。夜眠れなくなりそうです。
「ってことでるぅチャン、まず坊が帰ってきたらぁ」
だが意味深については答える気はさらさらないようだ。
彼らの頭の中は既に計画の実行に向けて動いている。
お願いします、教えて下さい。
あのふたりが帰ってきたら、あたしまともに顔が見られないかもしれない。
しかしガーゴイルに心の声は届かない。
ねぇ!
さっき、あたしの心読んでいたでしょ!?
だったら最後までちゃんと読みなさいよ!
「おかえりなさいのチュウを、」
「嫌です!!」
「なんでぇぇ!」
「だってガーゴイルさんたち見てるんでしょ!? そんなの絶対嫌!」
冗談ではない。何故彼らを楽しませるためにそんなことをしなければいけないのだ。意味深発言も教えてくれないくせに!
教えてくれたら教えてくれたで眠れない事態に陥りそうだが、それでも知らないで悶々としているよりはいい。きっと。
「絶っっっっ対に嫌!!」
ルチナリスが怒りもあらわに宣言すると、ガーゴイルたちはいかにもがっかりした様子で肩を落とした。
「……こんなことならグラウス様とくっつけとけばよかったっす」
ちょっと待て!
やっぱりそれか? そっち方面なのか!?
執事はどうでもいいがお兄ちゃんまで変な道に突き落とすな!!
「や、やればいいんでしょ!! でも見るのはなし!!」
ルチナリスの妥協案にガーゴイルたちは不満そうに鼻を鳴らす。
見るなとは言ったもののこいつらは絶対どこかで見ているだろう。姿を消すことだってできるのだから。
それを思うと頭が痛い。
まんまと彼らの暇つぶしのおもちゃにされてしまった。
悔しいが仕方がない。お兄ちゃんを毒牙から守るためにも、ここは義妹のあたしが一肌脱がなければ!
歓喜する彼らとは裏腹に、ルチナリスの心にはどろどろと暗雲が広がっていく。
部下のしつけが全然なっていない。あとで義兄に文句を言おう。