表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔王様には蒼いリボンをつけて  作者: なっつ
Episode 10:勇者様は暴走中
183/626

3 【春(?)眠暁を覚えず・3】

著作者:なっつ

Copyright © 2014 なっつ All Rights Reserved.

掲載元URL:http://syosetu.com/

無断転載禁止。(小説家になろう、taskey、novelist、アルファポリス、著作者個人サイト”月の鳥籠”以外は全て【無断転載】です)


这项工作的版权属于我《なっつ》。

The copyright of this work belongs to me《NattU》。Do not reprint without my permission!


挿絵(By みてみん)




「るぅチャン、グラウス様の代役は終わりっすか?」


 執務室の外に出るとガーゴイルが待ち構えていた。

 彼らはルチナリスを取り囲むと一斉に口を開く。


「町長も暇な人っすねぇ」

「この忙しいのに雑談だけに来られたんじゃたまんねーよ」

(ぼん)、あのオッサンのお気に入りだから」

「なんでだか昔っから男にモテるんすよねぇ。あれで(いま)だに道を踏み外してないのが奇跡だわ」


 1、2、3、4、……8匹。

 どう贔屓目(ひいきめ)に見ても人外としか言いようがない外見を持つ彼らがこれだけの数で集まると、昼間とは言えかなり怖い。

 そして(うるさ)い。10年経つが全く慣れない。


 人間と何処(どこ)が違うのかわからないくらい、とまでは言わない。だがせめて人型を取ってくれれば多少は見られるのに、と思うのは人間側のエゴでしかないのだろう。

 魔族側に「人間と同じ姿が(とうと)い」なんて概念はないし、ガーゴイルたちだって自分たちの姿が醜いとは微塵も思っていない。やもすると角も羽根も牙もないから人間は劣っている、とすら考えているかもしれない。


 だからと言うわけではないのだが、義兄(あに)や執事が本当に人間に見えてしまって困る。

 これもきっと「そうだったらいいな」という願望のフィルターがかかっているせい……なんだろうけれど。




「今日、多くないですか?」

「しばらくは城内警備の人数は倍で、って言われてるんすよ」

(ぼん)も本調子じゃないし、グラウス様も完治してないんじゃ仕方ないっすけどねぇ」



 先月、ふたりは大怪我をして帰って来た。

 それ以来ずっと義兄は体調を崩していて、勇者が来ても2回に1回くらいしか相手をしない。それ以外は執事とガーゴイルが人海戦術で(しの)いでいる。その結果が先の「最近魔狼が出る」という町長の話に(つな)がる。

 だが、怪我をしているのは執事も同じ。しかもこちらは骨を折っている。

 獣化することで正体が知られる恐れは皆無だが、ただでさえ魔王に挑戦しに来る勇者は猛者(もさ)揃い。戦闘に特化しているわけでもない執事が相手をするのはキツいだろう。

 右腕の治りも、無理をしているせいで(かんば)しくない。



「ま、俺らはさ、石像のまま勇者待ってるよりは動けたほうが飯も食えるし万々歳!」

「なのにさぁ、あのクソ犬といたら、」

「怪我してようが嫌味だけは減らねぇ!」


 ガーゴイルが執事のことをボロッカスに言えるのは、ある意味「仲間」だからなのだろう。

 力を合わせて勇者を撃退する「仲間」。

 この城を、自分たちの日常を(まも)る「仲間」。


 彼らはあたし(ルチナリス)のことは悪く言わない。

 女だから、子供だから、魔王の義妹(いもうと)だから。

 だから遠慮している、と言えばそうかもしれないけれど、根本のところに「仲間になりきれていない」部分があるようにも思う。


 あたしも戦えれば、彼らの「仲間」になれるだろうか。

 ルチナリスは(こぶし)を握ってみる。

 だがしかし、(こころざし)がどれだけ立派でも非力なメイドは邪魔にしかならない。


 だから。


「……ガーゴイルさんたち、グラウス様をよろしくね」


 あたしの分まで執事を守ってほしい。

 魔王の代役中に怪我したり死んだりしたらきっと義兄は悲しむし、そうさせてしまった自分を悔やんでしまう。

 奴の嫌味や理論武装には正直ムカつくことも多いけれど、でも――。



「お? (ぼん)からグラウス様に鞍替えっすか?」

「グラウス様は(ぼん)より落とすの難しいっすよ!?」

「あの人、女に興味ないから」

「え、やっぱホ、」

(ぼん)に執着してる時点で怪しいと思ってたっすよー」

「……待てぃ」


 気分は「薄幸の美少女が仲間を思う感動シーン」だったのに台無しにするんじゃないわよ!


 第一、執事は忠誠を誓っているだけで、それはただ、命を助けられた恩義に応えようとしているからで。

 それに加えて天然すっとぼけの義兄に対して「この人が自分が世話をしないと駄目になる」なんて思い込んでしまっているから必要以上に距離が近くなるわけでっっ!


「でもグラウス様って女必要ないよな」

「るぅチャンよか家事得意だし」

「いや、るぅチャンが出来ねぇだけ」

「うん、悲しいくらい出来ない」

「どさくさに(まぎ)れてあたしまで(けな)してんじゃないわよ!」


 今「十分仲間(貶されてる)じゃない」というツッコミが聞こえた気がするけれどそうじゃない。あたしに投げられる言葉はまだまだ(ゆる)い。

 とにかく執事は小うるさい人だが長年の付き合いだし、仕事の上では義兄より顔を合わせる機会が多いし。

 そんな執事が自分の怪我を後回しにして主人の代役を務めてるのよ? あたしができないことをしてるのよ? 「あたし(ルチナリス)お兄ちゃん( 義兄 )」のために。

 気にかけるなって言うほうが無理ってもんじゃないの! それなのにっ!


 ルチナリスは地団駄を踏む。


 本音を言えば抱えているティーポット(中身入り)を投げつけてやりたいくらいだけれど……これは執事のお気に入り。後で大目玉を喰らうのは間違いない。

 いや、(執事)の場合、「あなたにもポットの痛みを感じてもらいましょう」なんて言って四肢(しし)をバラバラに引き裂いた挙句、裏山に埋めるくらいのことはやりかねない。もちろん犯行の証拠は残さずに。

 (やつ)は家事以外もデキる男だ。



「ま、俺らがいればグラウス様なんていなくても安心っすけどね」

「そうそう、大船に乗った気でいればいいっすよ」

「大船っつーてもマストの先端だったりして」

「縄でグルグル巻きに縛り付けてぇ?」


 そしてルチナリスがそんな怖い想像をしている目の前で、ガーゴイルたちはと言えば、好き勝手なことを言ってはゲラゲラと笑っている。


 すぐそこの扉の向こうには本人がいて、しかも来客中で。

 ガーゴイルの姿は町長には見えないことになっているけれど、声まで聞こえていないとは聞いてない。なのに、こんな大声で笑っていたら絶対聞こえる。怒られる。

 ルチナリスはハラハラしながら何時(いつ)開くともしれない扉を(うかが)い見る。



 巻き添えを食う前に逃げたほうがいいだろうか。

 あたしの声とガーゴイルの声を間違えることはないだろうけれど、(執事)のことだ。「見過ごした時点で同罪」なんて言いかねない。

 


              挿絵(By みてみん)



 そして。


「念のために聞いておきますが、あなたがたの誰かではないですよね」


 案の定、執事の雷が落ちた。

 町長が城を去って1時間。あたし(ルチナリス)たちは執務室前の廊下に正座させられている。


 町長はきっと馬鹿笑いしていたのはあたしひとりだと思っただろう。


『若い娘さんは元気が良いですなぁ』


 という置き台詞(ゼリフ)からしても。


 これでも一応はお年頃。恋愛対象外の中年親父にだとしても、馬鹿笑いイメージが定着された、なんて冗談ではない。

 いやそれより、義兄にまでそう思われたのではないだろうか。

 町長が帰る時は義兄は玄関まで見送るのが(つね)。しかし今日に限って執事しか出てこないという事実が、懸念(けねん)如実(にょじつ)に物語る。

 義妹(いもうと)の声を間違えたりはしないと思いたいけれど、「領主の妹だというのに馬鹿笑いをして恥ずかしい。そんな品のない娘の顔など見たくない」なんてことになっていたら……!

 ルチナリスは(すが)る思いで閉じたままの扉を見上げる。




「俺ら、男に興味はないっす!」


 そしてひとり思い悩むルチナリスの隣では、痺れてきた足をもぞもぞと動かしながら、諸悪の根源(ガーゴイルたち)がてんでに無罪を主張している。


 ああ。元はと言えばこいつらが。

 あたしは巻き添えを喰らっただけだ。馬鹿笑いもしていないし、執事の悪口も言っていない。紅茶を淹れ、議事録をつけ、粛々(しゅくしゅく)と退出した。礼儀作法としても及第点は取れているだろうし、執事の代役も立派に果たしている。

 なのに、何故(なぜ)この仕打ち!

 同じように足を動かしながら、ルチナリスは圧倒的威圧感を漂わせて見下ろしてくる執事を(にら)みつける。


 まぁ一応は使用人の中でトップだし、城においては義兄に次いで名実共にNo.2の位置にいる人なんだから低レベルの悪魔や一介のメイドが口ごたえできるはずもないが、でもだからと言って理不尽な仕打ちに涙を呑んでいいのか? これはパワハラだ! ……と、ものすごく言いたい。言いたいけれど後が怖い。



「だいたいこんな善良な俺らを捕まえて犯人呼ばわりはないんじゃねぇですかい?」

「そうそう。俺らより(ぼん)に声かけて来たのをグラウス様が処分してるってほうがずっと自然じゃないすか」

「グラウス様は外に出られるしさぁ」


 いや、口ごたえする奴もいた。

 正座という苦行を黙って受け入れるはずもない皆さんが一斉にあるあると(うなず)く。



 処分って。

 ご主人様命のこの人のことだ。あり得ないとは言いきれない。



(ぼん)って外面(そとづら)いいもんな。あれで気があると思って寄ってくる奴って捨てるほどいるんじゃね?」

「身に覚えありありでしょ? グラウス様」

「ありません」


 待って。元は石像よね、あなたがた。

 何時間も何日も座ってるくらい楽勝でしょ? なんでそんなに(あお)るの? ここは黙って嵐が通り過ぎるのを待つほうが得策じゃないの!?

 そう思っているのはルチナリスただひとり。


「わかるぜぇ、目の前で他の男とイチャつかれたら()りたくなるってなもんよ!」

「身に覚えありありでしょお?」


 お願い。これ以上火に油を注がないで。

 だがいつもどおり、心の叫びは伝わらない。



「……ないと言っているのが、聞・こ・え・ま・せ・ん・で・し・た・か?」


 が。

 地の底から響くような執事の声に、抗議はピタリと止んだ。

 一瞬で静まり返った廊下に思わず左右を見回せば、メデューサに石化された人のように中途半端に口を開けた格好のままガーゴイルたちが固まっている。元から石像でしょ、なんてツッコミが入れられないくらい恐怖に顔を強張(こわば)らせて。

 そして前に顔を向ければ……メデューサならぬ執事様が目から冷凍ビームでも発しそうな顔で自分たちを見据えている。


 怒ってますか?

 怒ってますよね? 執事さん。

 お願いします、あたしたちまで処分する気にはならないでください。若い身空(みそら)で狼に喰い殺されるってかなり(イヤ)。若くなくても嫌。

 ああ、さっきはパワハラだとか理不尽だとか思ってすみませんでした。あれはちょっと口が、いや、心が滑っただけなんです。口ごたえなんて一生しません。だから! だから命ばかりはお助けをっっ!


 心の中で必死に命乞い。

 と……あろうことか執事はくすり、と笑った。しかしそれは祈りが通じたわけでも、あたしが無罪だとわかってくれたわけでもない。

 目が、全く笑ってない。



「あなた方が考えているほど私と青藍様の絆は浅いものではありませんから、どれだけ営業スマイルを振りまかれたところで相手をどうこうしようという気にはなりません。それにあなた方はひとつ勘違いしています」


 石化していないのがルチナリスだけだからか、「あなた方」と言いつつも執事の目はルチナリスを直視している。そしてどさくさに(まぎ)れてノロけられたような気がしなくもないけれど、そんなところをツッコんでいる場合ではない。


「……私が手を下すなら、身元など判らないくらいに潰してから捨ててやりますよ」


 本気(マジ)四肢(しし)をバラバラに引き裂いて裏山に埋めそうなこと言って来た――!!


 敵と認識すれば情け容赦ない、下手したら魔王様よりずっと怖い人の黒い笑みの前にルチナリスも凍りついた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。


image.jpg

小説家になろう 勝手にランキング
に参加しています。

◆◇◆

お読み下さいましてありがとうございます。
『魔王様には蒼いリボンをつけて』設定資料集
も、あわせてどうぞ。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ